その恋、忘れられますか?5
「蓮子さんがそうおっしゃったのですか?」
「今日、こん店で、はなちゃんと あうち・・・。」
花は伝助に言われて驚いた。
そんな話は初めて聞いた。

★なんとその頃蓮子は龍一(宮本)とあって
いたのです。

それも屋台の飲み屋で・・・。

そんなことよりカフェのほうである。
花は緊張した。
やっと声が出た

「ああ、そういえば、今日だったわ
明日と勘違いしていたけど
金曜日の夜だから今日です、今日!」

「蓮子はどうなっているのか」と伝助は
聞くと、花は「きっと本屋さんです」という。
「蓮子さんは本がお好きだから、きっと本屋
さんで、時間を忘れて本を見ていると
思います。」
★花は心臓がバクバクしました。
こんなごまかしが通るのでしょうか。
何しろ相手は石炭王の嘉納伝助です。

花はさっきから伝助がグラスにサイダーの瓶を
かたむけて、ついで
ぐびぐびと飲んでいたので、つい聞いた。
「サイダーはお好きなんですか?」
「サイダーは夢の飲み物たい。
初めて飲んだ時、世の中にはこんな
うまいものがあるのかと腰を抜かし
そうになった。あははははは」
「私もそうです・・ふふ」
「勘定をしてくれ。」
花は「もうお帰りになるのですか」と聞く。
「わしはあいつを本の話はできない、相手を
してやってくれ」、といって店を出て行こうとした。
「あ、あの、これは・・・」
花はお土産と言ってくれたつつみを
指さしたが、「よかよか」といって
帰ってしまった。
「あ、ありがとうございました。」と花。
女給たちも一斉に「ありがとうございました」と
いった。

一方、なれない屋台での蓮子。
宮本は、蓮子を屋台に連れて行って
よかったのかと、聞くが
蓮子は宮本に行きつけの店に連れて
行ってほしいといったから
これでいいのですという。
「おかわり、いただけますか?」
蓮子がお酒のおかわりを注文した。
おやじは、宮本に顔をしかめて合図を
した。
宮本は笑いながら「いただけますか?
という客はここにはいませんよ」という。

「じゃなんというのですか?」
「おやじ、ひや!!」
「はいよ!!!」
ということである。
「世の中には私の知らないこと
がたくさんあるのね。」
蓮子はつぶやいた。

宮本は、ふっと笑った。
そして原稿を広げた。

蓮子は一週間で書き上げたのだった。
宮本は蓮子の気持ちがひしひしと伝わって
くる話だといった。「だが、後半は変える
べきですね。
いいですけど、最高ではない。
いまのままだと主人公が
道ならぬ恋で心中するという使い古しの
ネタで終わってしまう」といった。
蓮子は「推敲はしない主義だ」という。
宮本は書き直したほうが白蓮の最高傑作
になるという。
「そんな主義は捨ててください。」
蓮子は、冷酒をぐびぐびと飲みほした。
そして、「親父!!ひや」といった。
「はいよ!!!」
親父はグラスに酒を注いでくれた。

蓮子は喜んだ。
「ほら、私にも注文できたわ!!」

「じゃ、その調子で推敲にも挑戦
してください。」
「強情な人」
「そっちこそ」
二人は笑った。
それをじっと物陰から吉太郎が見ていた。

夜遅く、花は伝助の土産物を前に
考え込んでいた。
その時、誰かが来た。
「ごめんください。」
その声は・・もしかしたら蓮子さんと
花は思った。
戸を開けると
確かに蓮子だった。
「蓮様」。
「花ちゃん、ごきげんよう」
「ごきげんよう、どうぞ」

「突然来てびっくりさせようと思ったけど」
びっくりしない花に蓮子は
不思議に思った。
ちゃぶ台に、伝助が持ってきたものらしい
ものが、山のように乗っている。
「花ちゃん、主人が来たの?」
と蓮子が聞くと花は「ええ」と答えた。
「心配したわ・・どこにいたの。」
「友だちと会っていたの」
「友だち???」

そこへ、戸が開いた。

吉太郎が来た。
蓮子は久しぶりに吉太郎に会ったので
喜んだ。
でも、吉太郎は蓮子にあの男とあっては
いけないという。
花はなにがなんやら?
蓮子は、「どういうことか」と聞く。
「住む世界が違う。」
「吉太郎さんは宮本さんをよくご存じ
なのですか?」
「とにかく、住む世界が違う
失礼!」といって吉太郎は
去って行った。
花は「あにやん」というが、もういない。
「どうして・・・・???」
花はわけがわからない。
蓮子と二人で話をした。
「蓮様、私に会うとご主人に嘘を
いってそのひとにあっていたの?」

「宮本さんは演劇をやっていて脚本を
書いてほしいと頼まれてあっていた
だけよ。」
「あんなりっぱなご主人がいるのに、なぜ?
石炭王ってどれほど威張っているのかと
思っていたけど気さくでいい人だったわ。」

「花ちゃんがほめるなんて意外だわ。
じゃ、少しはいいところもあるのかしらね。」

「とにかく道ならぬ恋だけはしてはなりません。」
「考えすぎよ、そんなことしないわ。」
「それより花ちゃんこそ村岡さんとの恋は
順調?」
花はいままでのことを話した。
翌日忘れてくださいとのことだったというと
「つまり振られたのよ」、といった。

「どうして?」

「どうして?私が聞きたいわ。
今私の胸にはこんな穴が
あいているのよ・・・。」

花は胸の前で両手を使ってマルをつくって
言った。

翌日のことである。
村岡印刷の英治のもとに来客があった。
蓮子だった。
蓮子と面識のある英治は蓮子としって
驚いた。
郁弥もごきげんようと言われて
はっとした。
社長は、挨拶をされて、恐縮した。
蓮子は、「村岡さん」というと
三人が一斉に「ハイ」と答えた。
そして顔を見合わせた。
「こちらの村岡さんと」、と言って英治をさした。
本「のことでご相談があるのですが
よろしいですか?」と蓮子は社長に聞いた。

郁弥は「白蓮さん、次の出版は弊社におまかせ
下さい」といった。
それで社長は来客は白蓮だとわかり
たちあがった。
「白蓮、あなたが・・・」という。

「父さん見とれてないで」、といって
郁弥は父を連れて事務所の外にでた。

事務所で二人になった蓮子は英治に
「単刀直入にお聞きします」と
いった。
「はい。」
「忘れて下さいんだなんてどうしておっしゃったの?
花ちゃん、胸にこんな大きな穴が開いているのですって。
いいのですか?このままで。花ちゃんを傷つけた
ままで・・・??」

「これ以上傷つけるわけにはいかないのです。」
「あなた・・・
花ちゃんに何か隠していることがあるのでは
ないの?
ちゃんと向き合わないで逃げるなんて卑怯よ。
花ちゃんのためにこぴっと向き合って
上げて!!」

聡文堂では、花は物語の割り付けの
挿絵がすてきなので、うれしそうに
していた。
「この挿絵本当に素敵です」
「これだれが書いたと思います?」と
郁弥が聞いた。

「え?無名の絵描きさんですか?」
「まぁそんなところです。」

そこに電話が鳴った。

「安東君出て」といわれた。

「もしもし」というと
英治だった。

「御用件は?」

「今夜、仕事が終わったら会えませんか?
お話があります。」

「お話なら今伺います。いけませんか?」

「いえ、会ってお話したいのです。
今夜ご都合は悪いのですか?」

「いえ・・・・」

「では六時にカフェで・・」

「わかりました・・・。」

呆然とする花・・・

★ふたたび花の心臓はパルピテーションの
嵐を巻き起こしておりました。

ごきげんよう

さようなら・・・
*****************
それなりに伝助は蓮子が好き。
その直感で
伝助は蓮子が浮気をしているのでは
と思ったのでは
ないだろうか。

だから、わざわざ、花の所へ
きたわけだ。
蓮子に会おうとしたら、花ちゃんのもとに
行けばわかると・・・。

だから伝助はある程度、花が嘘をついている
ことに気が付いたはずだ。
でも、花をなぜか追求することはなく
サイダーの話で文字通りはじけた。

これ以上追及すると自分のメンツも
丸つぶれになるかもしれないという
計算もあったかもしれない。

蓮子と再会して、伝助に隠れて
あっていたのは
宮本という男だったと知った花が
道ならぬ恋をしてはなりませんという
言葉。

これこそ、花自身への戒めになるはずだが
花は自分が道ならぬ恋をしていると
は知らない。

蓮子も知らないものだから、英治に
向き合いなさいという。

さて、英治は素直な人だと思うけど
そう諭されて、花と話をすることに
したわけだ。

実は自分は結婚していると・・・。

この時代の男性は結婚指輪ってして
いなかったのですかね?

持っていてもしない人もいますね。
うちの主人も、していません。
する習慣がなくて・・・。
面倒くさいとのこと
でした・・・。

だから、わたしも結婚指輪を
していません。
何で私だけ??
と思ったからです。

花はまたどきどきします。
英治に会えるから?
不安と期待と
どきどきです。

・・・・・・結論は悲しいことを
告げられるのでしょうが、道ならぬ恋
をしてはなりません・・・。

自分が話したことを
花はどう受け止めるでしょうか?