その恋、忘れられますか?4
その日、吉太郎がドミンゴに表れた。
花とかよは嬉しそうに近寄ったが
吉太郎は
「しっ!勤務中だ。知らないふりを
してくりょ」という。
★なんと、5年ぶりの兄弟の再会で
したが、吉太郎の様子が変です。

店の一角で宮本達が話をしていた。
「あんなブルジョワに脚本を頼むなんて」
「俺たちの敵だろう」などと宮本は
言われている。
宮本は反論した。
「もっともな意見だ。
俺もそう思っていた。
しかしあの人に会いに行って
気持ちが変わった。
あの人はまるで籠の中の鳥だ。
本当の自由を知らない。
あの人こそ俺たちが救うべき人だ。」
「おまえ、あの女の色香にあてられた
だけではないのか?」
「確かに美人だ。」と揶揄される。

「おれは彼女の文学的才能に
はるかにひかれる
不思議な人だ、強さと弱さが共存
している。その落差によってあの文学
が生まれるんだ。
彼女は脚本を書くと約束してくれた。
それを読めばきっとわかる。」
宮本はそう意見を言った。
吉太郎はじっと聞いていた。

翌朝のことだった。
いつものように朝餉の時間の
花とかよ。
「兄やんの仕事ってなんだろうね。」
「なんだか怖かった、兄やんがおらの知らない
ひとみたいで」
そこにどんどんと戸が鳴った。
だれだろうとあけると
吉太郎が、憲兵の制服を着て立っていた。
驚く花とかよ。
「昨夜はゆっくり話もできなかった
から」と、吉太郎は言う。
いつもの吉太郎にふたりは、「会いたかった
よ、」という。
「昨日もあったジャン。」
そういう吉太郎に二人は上がってといった。
朝ごはんは食べてきたという。
「昨夜は驚いたよ」と花が言うと「おらのほうが
驚いた。偶然入ったカフェにおまんらがいる
から・・・」という。
吉太郎は「あそこは夜は酒も出す店だから
危なくないのか」とかよに聞く。
かよは、「大丈夫だ」という。
花も「かよはまじめだ」という。
「お店に来たのは仕事なの?」と聞くと
「いや、珈琲を飲みにはいっただけだ、
仕事中にカフェに入ったというと
かっこ悪いから、だまってくりょと
いっただけだ」という。
ふたりとも「なんだぁ」と安心した。
ところが、吉太郎が客について聞いた。
宮本のことだった。
「あの人たちはどういう人か」と
かよに聞く。
「不平等な世の中を変えなければと
おとうみたいなことを言っているよ。」
「親しいのか?」
「世間話くらいだよ。」
「兄やんあの人たちがどうかしたの?」
と花は気になった。
吉太郎は、「かよにちょっかいを出して
いないかと気になっただけだ」とごまかした。
花は、腑に落ちなかったが
吉太郎に当分東京にいるのかと聞いた。
吉太郎は当分いるという。
「困ったことがあったら相談しろよ」といった。
花もかよも女所帯なので
吉太郎はそういってくれるとうれしかった。
「今度はゆっくりご飯食べよう」と約束した。
「あにやん、また着てくりょ」といって
見送った。

その日の夕方、村岡印刷では英治が花の
原稿の割り付けをみていた。

『花さんの翻訳する言葉は美しい。
それが伝わるような紙面にします
から・・』

あの時、そういったので、英治は
気合を入れて花の翻訳のページを作った。
イラストも
いれた・・・。

その仕事は一晩かかったらしく翌日
郁弥が会社に来て出来上がった
それをみた。
「イラストまで入れたとなると
ずいぶんと力が入っているね」と
郁弥がいう。
「児童雑誌で初めての翻訳物だから」と
英治は言う。郁弥は、「本当に好き
だよなぁ。」といった。
「何が?」
「安東さんの翻訳が・・・!」
英治はほっとした。
英治は郁弥に聡文堂の担当を
変わってくれという。
父親も郁弥が早く一人前になって
ほしいだろうし・・
創刊まで俺も手伝うしというので
郁弥は、納得した。

聡文堂ではそろそろ村岡印刷
がくるというので、醍醐は
「大変」と言って鏡を見て
メークを治した。

でも、郁弥がやってきた。
そして、王子と乞食の
わりつけの原稿を
梶原に見せたのだった。

梶原は、花を呼んだ。
花はその割り付けを見て
「なんて素敵な挿絵でしょう。」と
大変喜んだ。

★その挿絵が英治が書いたものとは
知らず心を惹かれる花でした。

夕方、かよが会社に飛んできた。
「怖い顔をした髭の叔父さんが
きてお姉やんのこと呼べって・・」

「え??」

「チップもほら・・スゴイたくさん・・」
「だれよ、おっかないおじさんって」
「とにかく来て・・・。」
花はお先に失礼しますと言って
会社を出た。
急いでドミンゴへいくと

「あの人だよ・・・」とかよがいう。

「知っているひとけ?」
花は、覚えがない。

その男性は豪快にお酒を飲んでいる。

花はささっとその人の前に行って
「あの・・私が安東花です」という。
男性は、お酒のグラスを置いて
「あんたが・・・花ちゃん・・・か?」

と聞く。

「はい、私が・・・はなちゃんです。」

男性は「なんでも好きなものを食べんシャイ。」
といって手をたたいて、かよを呼んだ。
(手をたたいてって・・お座敷じゃねーぞ。)
花は「同じものを」と言ったが
「遠慮せんでもよか、酒でも飯でも
好きなものを注文せよ」という。
花は、「見ず知らずの方にごちそうになるわけ
には・・・」

「嘉納伝助だ。この間はうちのが泊めてもらって
お世話になったね。これはその時の
お礼バイ。」

そういうと、風呂敷包みを召使に
あけさせた。
「蓮様の御主人・・・」花は驚いた。

風呂敷鼓の中はなんだったのか・・・
よく見えない・・・。

「こんなにいただけません・・」花は断った。
「伝助は、蓮子が花の所に泊まった時は
すごく楽しかったといっていた」という。
それで、その分のお礼も兼ねているらしい。
「あのような機嫌のいい蓮子はめずらしい」と
伝助はいう。

「それに、どうせ今日もまた世話になるから
ね・・・。」

花は「・・・今日・・???」
と、顔をこわばらせて聞いた。

「いや、今日あんたと会うと聞いて
こっちにくるついでがあったので
迎えに来たとばい・・・。」

花は、これは何事・・何が起こっているのか
と考えを張り巡らせた。
「蓮子さんがそうおっしゃったのですか?」

「今日、こんみせで花ちゃんと会うち・・・」

「あ・・・・」

★花は頭の中が真っ白になってしまいました。
蓮子はご主人になぜそんな嘘をついたのでしょう。

固まる花。

その頃、蓮子は・・・
宮本と会っていた。
ある屋台でお酒をグラスについで
乾杯をする蓮子と宮本。
笑い声や、にぎやかな話声の真っ只中
のツーショット。宮本とたいそう
うれしそうにお酒を飲んでいる。
それを影からじっと見ている吉太郎。

★何やら危険な香りがいたします。
ごきげんよう
さようなら
****************
とにかく
花は英治を忘れた!!ってことにしますね。
吉太郎の出現は、新しい展開を
予想します。

が、大変、恐ろしい時代の
恐ろしいお仕事をされている様子です。
吉太郎はもともと、家のために学校へも
いかないで農業をやってきた子で
花のように好きな勉強に打ち込むと
いうことがなく、
これだと思ったのが軍隊への志願だった
のです。
そしていまや、憲兵として
怪しい人物を特定してその様子を探って
いるようです。
つまり、国家の犬です。

だけど、行動を探っていた宮本の
行く先に蓮子がいたってことは・・・
吉太郎は、どうなのよ。

その恋、忘れられますか?
このお題は彼にも当てはまるようです。
その初恋を忘れることができるのだ
ろうか???
蓮子にたとえばですよ
宮本と吉太郎を比べてどっちを選ぶかと
聞けば・・どっちを選ぶでしょうか。
そりゃ、宮本です。
彼は賢いし、(あはは--スマン・・・吉)
蓮子の文学を評価しているし・・・
蓮子の運命を同情しているし・・・
吉太郎はこれほどまで蓮子を理解することは
できないはずです。
美しいからという理由で蓮子を好きになる
男性は蓮子にとってはあたりまえのふつうの
現象なのでしょう。
宮本は、蓮子の心の中の強さと弱さを理解して
います。お金はあっても教養はさっぱりない
伝助と大違いです。
その中に吉が入ってもなんら変わることなく
蓮子は宮本を選ぶでしょう。
蓮子の長年の夢は激しい恋がしたい
・・でした。

蓮子が何を思っているのか?
今夜花に会うなどと
なぜ、伝助にうそをついたのか?

このことに花は・・・
どうこたえるのでしょうか。

その恋、忘れられますか?
再び花に問いかけますが。
花はおそらく、あの物語の割り付け
をしたのは英治だと聞かされます。
そして、「すてき」といった
あの挿絵をかいたのも
英治だとしります。
花は、やっぱり英治が
忘れられなくなりますね。