銀座のカフェーで会いましょう1


花は夢を追いかける決心をして東京へ出て
きた。
★花はまた新しい曲がり角を曲がろうと
していました。夢をかなえるために東京の
出版社で働くことにしたのです

花はかよのハガキをもって働き先の住所を
さがした。
そこは、銀座のカフェーだった。
「て!ここけ!」

店に入ると
「いらっしゃいませ。」
とかよが言った。

花は驚いた。
★なんと、かよはカフェーの女給に
なっていました。
花はかよに聞いた。
「カフェーの女給とはどういうことな
の?」
「話は仕事が終わってから。」とそっ
といってブラジル珈琲でよろしいで
すか。」と営業の言い方をした。

「ブラジル?」
「ここのお客さんはみんなそれを
飲みに来るだよ」とかよ。
「じゃそれを」と花はいった。
お店の一角で学生らしき一団が
文学の話をしている。
また演劇の話かもしれない。
「シェークスピアはどうだろう」
「それこそ貴族の話だ。」

その当時こういうカフェーが
オープンしていました。

花はコーヒーを飲んだ。

「にがい・・・・」

「よしわかった、
チェーホフをやらないか?」
「カモメか
桜の園・・・」

すると中心の男が言った。
宮本龍一という。

「次の芝居はオリジナルにしたい」
という。
「女性の叫びを芝居にしたい。」
などと、いいだした。

そして、かよを呼びここにくるまで
なにをしていたのかと聞いた。
「えっと洋服店の縫いこや
製糸工場の女工をしていました。」

「大変だったね。」

「はい、つらかったです」

かよは、その場からさった。
彼らは、ここにも特権階級に
搾取されたひとがいる。
ロシアでも革命がおこった。
われわれは演劇で革命をおこそう
ではないか・・・などと熱血に語っていた。
「かよ、大丈夫なの?」
「大丈夫。あの学生さんたちいつも
あんな話ばかりしているだよ。まるで
おとうみたいだ。」
と、かよ。
仕事が終わって
かよのアパートに向かった。

「ここがいまおらが住んでいるお城だ。」

「なぜ洋服店をやめたのか」と
聞いた。
かよは前からきれいな着物を着た女給さんに
あこがれていたからだという。
特に才能もないのでお金をかせいで
家に仕送りをしようと思ったら、カフェーで
女給をしたら、チップをもらえるので
収入はいいという。

花は、あの店は大丈夫なのかと聞くと
かよはあの店はそんないかがわしい店
ではないし、女性の客も多いという。
そんなこんなで花は納得した。
あの店には醍醐さんも来るとかよはいった。
とにかく男には気を付けることだと
結論を出して二人は休んだ。

翌日、花は出勤初日となった。
銀座になる梶原の出版社だった。

「ごきげんよう」

と、声をかけると

醍醐、梶原がよく来ましたねと
迎えてくれた。

そして社員さんたちにも紹介して
くれた。

梶原は赤い鳥を
だしていった。

「我々の目標とする赤い鳥には
芥川龍之介、有島武雄、泉鏡花といった
なだたる作家がいる。
うちも有名な作家を動員していこう。
また、うちの顔になるような新しい児童
雑誌をつくるんだ」と梶原。

早速編集会議である。

「安東君、君も小学校の教員をしていた
実績から意見を出してくれ。」
「はい。」
醍醐は「物語だけではなくて子供たちが
わくわくするような雑誌を作りたいです。」
「たとえば?」と梶原。
「毎号、御帽子やおりぼんの記事を入れ
たいですね」という。
「雑誌を手に取る読者がリボンの記事なんか
喜びますかね?」と編集者A。
「あ・・・」と醍醐

「あの、子供たちの作文を投稿してもらったらどう
ですかね?」と花。
「間違ってもらったら困る」、と編集A。
「児童雑誌と言っても大人が読むに堪える記事を
載せるべきだと私は思いますね。
雑誌の必要なのはあくまで芸術性です。」
「僕も三田君には賛成だ」と編集者Bはいった。
Aは三田君らしい。
「まず宇田川先生と交渉を継続しましょう。」
「交渉は醍醐君ですかね。」

★結局花は一言しか発言できずそれもあっさり
却下されてしまいました。

花は思ったようにいかない様子にあっけに
とられていた。
その夜、カフェードミンゴでは
花の歓迎会をした。
お酒が出たので花はトラウマで
ことわったものの、作家先生には
「お酒のみが多いので多少は飲めなければね。」
「花さん、ワインじゃないから大丈夫よ」
とか、「編集者は飲むのも仕事の内」などと
勝手にいわれて、花はその気になって
飲むことにした。
「では新しい仲間を歓迎して
乾杯!!」
「乾杯!!!」

かよは、心配したが、なんの。
花はワインとは違うからとウイスキーを飲んだ。
「うめ~~~~!!!!」
花は、酒飲みなのかもしれない。
しかし、弱い!!
ぐびぐびと飲んでおいしい~~~と
いいながら、もう一杯という。

「西洋の焼酎もう一杯ください!!!」
すっかり出来上がっている。
「もうそのくらいにしたら」と梶原が
いうが、「編集長まだ3杯ですよ
3杯!!」と、うだうだと笑いながら
いう花。
「まだまだ、夜はこれからじゃね~~
先輩!!」と三田に言った。
三田は、「先輩???」と
おどろいた。職場では先輩と呼ぶことは
ありえないだろうということだろうか。

かよは、「姉のために歓迎会ありがとう
ございました!!」
といって、花を引っ張って「お先に」
といって店を出た。
しかし、ぐでんぐでんになっている花は
そこいらで大騒ぎをする。
「ああ、星~~~
チンクルチンくるリトルスタ―~~」
と歌いがらふらふらと
千鳥足の花。

そこへ、どすんと壁にぶつかった。
「あ、すみません」と壁が言う。
でよく見ると
「ああ、村岡印刷さん。」
村岡英治だった。
「歓迎会によんでいただいたのに
遅れてしまってスミマセン」という。

「だいぶよってますね」

「村岡印刷さん、ご無沙汰しています
ごきげんよう~~~」
というが、倒れてしまった。
村岡は花をかついでかよのアパートへ
連れて帰った。

「ありがとうございます」とかよは
いった。

「じゃ僕はこれで」と帰ろうとしたら
息を吹き返した花が
「逃げるのか?」という。

「にげませんよ。また明日会社で会いましょう。
じゃ・・・」と頭を下げた。

ふと見ると、あの時の英語の辞書が
漬物のふたの上に載っていた。
「どうして、英語の辞書が漬物の上に?」
かよは、「ちょうどいいからです」という。
花は「あなたがくれた辞書、なかなかやくに
たちますね。全然使ってなかったので
ちょうどよかった」と笑いながら言った。

「花子さんは英語の勉強をやめたの
ですか?」

花は驚いて照れて花子って呼ばれたと
喜んだ。
そして「花子って呼ばれたら酔いがさめて
しまった」という。

村岡は真剣に言った。
「英語の翻訳は続けてなかったのですか?」
花は「あはははは、あはははは・・・」と笑って
ごまかすしかない。
★花にとっては痛い言葉でした。
かよもその様子をじっと見た。

村岡は笑ってごまかす花の様子をじっと
見ていた。

ごきげんよう

さようなら・・・。

******************
東京ではひとつひとつがうまくいかない。
カフェーで飲んだブラジル珈琲は
苦かった。
得体のしれない学生集団が摩訶不思
議な話をしている。
編集会議では手にとどかない話を
されるし・・・
歓迎会でウイスキーをぐびぐびと
飲んでグデングデンになるし。

なにひとつ、花にとって気持ちの
いいことはない。

そのとどのつまりが村岡だった。
村岡は、花が英語の勉強をや
めたことを指摘した。
もはや、修和女学校で学んだ
英語は霧となって消えた。
甲府では英語禁止で、英語を
使う必要もなく六年間とふじが
いったけど六年間も英語から
離れていたのだ。

村岡はそんな花を見て
何を感じたんだろう???

この時代は大正8年1919年というが
ごちそうさんで、めいこと悠太郎が
あったのは、大正11年。
銀座のカフェーである。

男がなんだぁ~~とパフェを食べる
スプーンを振り回したら
そこにいた悠太郎の学生服に
かたにクリームがとんでいって
べっとりとついてしまい、ひどいこと
を言われるめいこでしたが。
そうなるまで三年の差があります。
二人があった銀座のカフェーは
ドミンゴではなかったですよね(笑)