乙女よ、大志を抱け5

「心に思っていることを伝えないのは
思ってないのと同じことだよ」と花。
思い切って告白するもも。
「朝市さんが好きだ
朝市さんはおねーやんがすきずら?」

「うん、好きだ」

「ちゃんといってくれてありがとう。
これで安心して北海道へいけれる・・」
家に帰ったももはふじに抱きついて
泣いた。
「おかぁーやん・・・え、えええ・・」

「泣かなくていいよもも、よかったじゃんね、
もも・・・。」

ふじの胸の中で泣くもも。
その様子をカゲから見た花は
・・・・。
★花はももの初恋を実らなかったことをその時
知ったのでした。

ももが北海道に旅立つ朝がやってまいり
ました。

花はあったかい着物をももに渡す。
北海道は甲府より寒いからと。
周造も、わらで作ったぞうりや
小物を渡す。
「おじいやん、ありがとう、大事に使うよ。」

そこへふじとりんがやってきた。

ふじはお守りを
りんは、「それにしても北海道まで
いかなくてもこの辺に何ぼでも男は
・・・・・」
「いる」と言う前にふじは
「りんさんがお餞別だって」とさえぎった。

「腹壊さんようにおらのお古の
腹巻だ。これが一番いいんだよ。
ももちゃん、元気でね。」

「朝市に家族水入らずの邪魔をするなと
いわれたのでおらはこれで」といって
りんは帰って行った。

「さ、荷物まとめるっし・・」と
ふじがいう。

大きな風呂敷包みに
荷物がまとまった。

おとうが「そろそろいこうか」と
いうが
ももは「ちょっとまって。」
そういって、
「おじいやん、
おとう
おかあ
おねーやん
いままで、どうもありがとう
ごいっした。」

「あらたまんでも」とふじが言うが

「こういうのはこぴっとやらな
あかんずら・・。」ともも。

家族は全員座りなおした。

ももは周造に
「わらじをありがとう。
畑仕事と藁仕事を教えてくれて
ありがとうごいっした。」
と頭を下げた

「たっしゃでな
体にはくれぐれも気を付けるだ。
もも、がまんしたらいけんぞ。
婿のことなど、尻に敷くのがちょうど
いいのだからな。」
ふじは笑った。
ももは「はい」と元気に返事した。

「おとう・・・。
おらのために縁談見つけてくれて
ありがとうごいっす。
くしも、うれしかったさ
一生大切にします。」
「またいつでも買ってやるから」

「おかあ、」

「もも、旦那さん支えてこぴっと
やるだよ。」
ももは、「おかあのホウトウの味は
最高だ、一生忘れない。」という。
「いつもでこさえてやるさ、ももの
帰る家はいつでもここにあるだよ。」

「おら、おかあみたいな強くて優しい
おかあになるだよ
おかあ、おらのこと生んでくれて
ありがとうごいっす」
「もも、しあわせになりっし」

「おねーやん、
おねーやんの書いたみみずの話は
あっちでみんなに読んでやるだよ。」
ももは、花を自慢だという。
そして、「おねーやんのしてくれる話は
突拍子もなくて、おもしろかったな。
また、おねーやんの書いた話を楽しみに
しているから。
書いたら送ってね。」

吉平はそろそろ汽車の時間だという。

「おらのこと今日まで育てて下さって
ありがとうごした。」

ももは頭を下げた。
家族も、頭を下げた。
ももは顔を上げて笑った。

そして

泣いた。

花はそんなももをじっと見ていた。
ふじも
周造も・・・

ももは吉平とともに
歩いて行く。

ふりかえり
子どもの頃から
育んでくれたふるさとに
別れを告げた

故郷の山々に
一礼をするももを
吉平はやさしくみていた。

★もも、ガールズビーアンビシャス!
お幸せに。

その日の夕餉。
周造は、「いっちまったな」という
「ももは明るくて働き者だから
きっとみんなに好かれて、しあわせに
やっていくだね・・・」
とふじがいう。
花は、「なんだかこの家ひろくなったね」という。

「なにをいうか家が急に広くなったり
狭くなったりするわけないさ」とふじはいう。
周造は「そうさな」、と言って笑った。

花は、いま・・想像の翼をひろげたのだった。
家が広くなった・・・と。

花の心の中にはももの言葉が残った。
「おねーやんの新しい物語、楽しみにして
いる・・・。
書いたらおくってくりょ。」

花は、教会の図書室の
机の前に座った。
原稿用紙・・・に向かう花。
「よし、平凡な私にしかかけない
普通の話を書くじゃん。」
花はエンピツを走らせた。
「百合子はひとりっこでしたから、
お友達が遊びに来ないときはさみしく
てたまりませんでした。
だれか遊びに来ないかな・・・
といいながらお庭の木戸からうらの原っぱ
にでていきました
わたしね、おとうさん、たんぽぽは
子供に似ているとおもうの
チョウチョやハチと一日中元気に
踊っているようじゃありませんか。
お日様が沈むとタンポポも目をふさ
ぎますのよ。
・・・・・・
・・・・・・・
おとうさんもこれからは、タンポポ
を邪魔だなんていわないように
しようね。
おとうさんはやさしく百合子の
あたまをなでました。」

花の原稿の横には蓮子から送られた
短歌集があった。
花は扉のページの真ん中に
題名を書いた。
「たんぽぽの目」
そして
安東 花子・・・・・

と書いた。

花はその原稿をもって
あの出版社をおとづれた。

花は出版社に原稿を持ち込んで
直談判をすることにしたのです。

編集室の前にたった
「よしっ
こぴっと売り込むだ。」


★気合だけは十分です。
では、

ごきげんよう

さようなら・・・。

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明るくて働き者のもも。
ももがいなくなった安東家は
なんだか静かで
さみしくなったようです。

あれほどにぎやかだった
安東家が
静かになりました。
ひとり、ひとりと
子どもたちが
出て行くからです。
それは、今も昔も同じではあります。

そんなとき、ももへの思いと
同時に花の想像のツバサが
ばさばさと
羽を広げた音を聞いた
気がしました。

もものために、書きたい・・と。
物語を書きたいという気持ちが
日常の中で埋没していた
花ですが、こういうことって
きっかけが必要なのですね。

家の経済のために先生になって
働いてきたけど
本当は、小説家になりたかった
のだと花の人生は
目的を、見据えることができたと
思いました。

普通の物語・・・

読みやすくて夢中になれて

「普通」という要素は大事だと思います。