花、お見合いをする6
お見合いの結果、花は断られたわけだ。
ご縁のなかったものと思いますとのこと。
その話はご存知木場リンによって
村中が知るところとなり・・しかも
徳丸がかんかんに怒っているとのことだった。
「だけど、断られたのはおねえやんのほうじゃん」
ともも。
「断られたのは花がさっさと返事をしなかったからだと
決めつけているよ」とリンが言う。
花は「地主さんとこへ行ってくる」という。
吉太郎は「自分が行って謝ってくる」という。
「いやいや」、と周造が「自分はいつ死んでもいい年
だから行く」という。
ふじは「なにをいうだか!」と周造を止める。
「ココは父親の出番じゃ。コピット話をつけて
くるから心配するんじゃない。」
と、吉平が徳丸の家へいった。
「このうちで一等しんぺーなのは
婿殿じゃ・・・・」とリン。
家族一同、不安そうに吉平の後姿を
見送った。

その心配は的中した。
「わしの顔に泥をぬりよって。
こんないい話をぐずぐずと返事もせずに
のばしているから、断られたのだ。」
と徳丸はいう。
吉平は「大事な娘の縁談を断るような
男はこっちから願い下げじゃ!!」
と、謝るどころではない。

両者角を突き合わせている。

「望月さんはお前のところの借金も
払って入れると言っておられたのだぞ。」

「借金ぐらい、俺が全国を回って
かせいで全額はらってやるわい!!」

「うちの品物がなかったら商売もできんやろ。」
「とにかく、縁談断られたのは花のせいじゃない。
借金は俺がけーす。ええな!!!」

といって吉平は去って行こうとした。
「まて!!!」
徳丸は武が持っていた商品をゆびさして
「これ、持って行け。」
という。
「商売して金を稼いでふじちゃんを楽させて
やれっし。」
吉平は武のもっていた商品を受け取り
「それじゃ~~ごきげんよう」とうれしそうに
いって、帰って行った。
しょうがないなといわんばかりの徳丸だった。

★そして、季節は廻りいよいよ吉太郎の
入営の日がやってきました。
着物を着ている吉太郎。
周造が袴のひもをしっかりと結んでやっている。
それをじっとみつめるふじと花、ももだった。
「あにやん、行ってしまうのけ?」
とももがいう。
ふじは吉平が出かける様子をしって
吉平に言う。
「見送ってやらないのか」と。
吉平は「吉太郎は俺なんかにみおくって
ほしいと思ってない」と答えた。
吉平は草履のひもを結んでいる。
「あの子は昔からおとうに認めて
ほしかったのに」とふじがいうが。
「あんた・・・」
吉平はだまって去って行った。
「おとう・・・」花は悲しそうに見送った。

やがて、吉太郎の出発に時間になった。
「行ってまいります。」
吉太郎が家族の前で言った。
「体に気を付けるんだよ。」とふじ。
吉太郎はうなずいた。
「花、おじいやんとおかあの事、頼む。」
「はい。」
吉太郎は深々と頭を下げた。
そして、くるりと振り向いて去って行った。
ばんざい!!!
ばんざい!!!!!

ばんざい・・・
徳丸、周造は特に大きな声で見送った。
ふじは涙が出た。

吉太郎は故郷の懐かしい風景を見ながら
歩いていくと
ふと、吉平が見送っていることに
気が付いた。
「おとう・・・」

吉平はじっとみていた。
「吉太郎、がんばってくるだぞ。」

吉太郎は頭を下げた。
そして、吉平に見送られて去って行った。

福岡では蓮子が連日自宅でサロンを開催
していた。
『たれか似る なけよ歌えとあやされる 緋房のかごの
うつくしき 鳥・・・』
蓮子は短歌を書いた短冊をあの新聞記者の黒沢に
「どう?」と見せた。
「ご感想は?」
「あなたはご自分のことしか愛さない人だと
いうことがよくわかりました。」
笑顔が真顔になりまた笑顔になった
蓮子は「ええ、私かわいそうな自分が大好きなの」
といった。
そこへ伝助が帰ってきた。
「どうなさったの?こんな時間に・・」
「わるいか!」
客はそそくさと帰って行った。
黒沢は「取材をいつ受けてくださいますか」と
聞く。
「そのうちにな。」
「受けて下さるまで何度でも通います」
といった。そして礼をして
帰って行った。

「また、短歌ちゅうやつか。」
伝助は短冊に書かれた文字をみて
いった。
「こんな物作っても金など儲からない。」
蓮子は「本にして出版すればいいのです。」
という。「それは売れるのか?
腹の足しにもならないことに金を
使うやつの気がしれない」と伝助は言う。
「もし私の歌集が売れに売れたらどうなさいます?」
と蓮子は聞く。
伝助は「すっぽんぽんになって福岡の街を
逆立ちして歩いてやる」といって「あはははは」
と笑った。
蓮子は「どこまで下品なひとなの。」と責め口調でいう。
伝助は蓮子が作る本だからさぞかし上品ぶった
ものだろうと、ワインをぐびぐびと飲みながら言う。
蓮子は、「本を作るからお金出してくれますね」と
聞く。伝助は「この嘉納伝助の嫁が作るのだから
いくらかかってもいい、とびっきり豪勢なものを
作ってやれ」といって「あははは」と笑った。
「ええ、もちろん、当然です・・・」
蓮子はにっこりと笑った。

やがて、三月になり、花の受け持ちの六年生は
卒業をむかえた。
子どもたちと記念写真を撮って、教室に
もどった。
途中校長から、「一年たってやっと花は
教師らしくなった。子供たちに
おまえらしい言葉を贈ってやれっし。」
といわれた。
「はい・・・。」
「みなさん、ご卒業おめでとう。
五月にお引越しした小山たえさんから
今日お手紙が届きました。」
教室はざわっとした。
「読みます。
花先生、六年生のみなさん
お元気ずらか?
みんなはもうすぐ卒業ですね。
おらは今学校へ行ってねーけんど
ときどき、そこの教室に遊びに
いきます。想像の翼を広げて
みんなといっしょに、笑ったり
勉強したり、お弁当を食べたりします。」
生徒たちはたえがいた席を見た。
「この間、おとうが一冊の本を買って
届けてくれました。
そこに花先生のみみずの女王が載っていて
ドキドキしながら読みました。
読むと笑えて心の底にぽっとあかりがついて
元気になるだよ。おら元気で頑張っているから
みんなもがんばれっし。アイラブユー
サンキュー
たえ。

おしまい・・・」


拍手があった。

「たえさんはここにいないけど
こうしてみんなが卒業できたのは
家族の応援があったから。
遠くの町に奉公へ行く子。
おうちの仕事の手伝いをする子
上の学校へ行く子
これからいっぺーつらいことがあると
思うけんど、みんながどこへ行っても
家族が見守ってくれていることを
わすれんように。」
こどもたちはじっと花の話を聞いていた。
「・・・・
・・・はい、ではみなさん・・・
お元気で・・・
ごきげんよう

さようなら・・・」
花は頭を下げた。
こどもたちは一斉に立ち上がり
「ごきんげよう
さようなら」

と声をそろえていった。
そしてがたがたと机といすを
動かす音を立てて
荷物をもって出て行った。

花は「あんがいあっさりしたもんじゃん」
といいながら「卒業おめでとう」と書いた
黒板の文字を消した。
すると、


「花先生!!!!」

子どもたちの声がした

振り返ると教卓の回りに
子どもたちがいた。

「て!!!」

花は驚いた。
手に花を持った子供たちはそれを差出
しながら、声をそろえて言った。
「先生、ありがとうございました。
サンキュー
アイラブユー!!!!」
そして手に持った花を花に渡そうと
手を差し出した。

「花先生」

「花先生・・」

「花先生」
花を受け取る花。(ん・・・ややこしいが仕方ない)
子どもたちは口々にいろいろいう。
花はうれしかった。

★アイラブユー
ごきげんよう

さようなら。
********************
今週もこれで終わりです。

花が嫁なんかにいったら
なんのために、女学校で
学んだのかわからない。
自分のために女学校へ行き
家族の希望の星になったけど
就職も代用教員で田舎に帰り
それも家族のために・・・

で、また家族のために地主の息子と
結婚をするなど・・ありえない
でしょ???

この時代、そうだったのかもしれない。
自分の好きな人と結婚など・・・
その前に好きな人に好きと言える環境
だったかどうか・・・。

恋愛経験が少ないうちに嫁に行くのが女の子
の常だったから、恋愛に恋愛することはあっ
たかもしれない。花の恋愛はあの東京帝国大学の
ええとこの坊ちゃんだけ・・ということだ。

吉平は多少、父親らしくなったようである。
吉太郎の入兵を嫌がっていたが最後は息子を
見送った。なぜ万歳というのか、いろんな
意味があるのだろうけど、

万歳と他人が喜ばないと家族は悲しくて
悲しくていたたまれないからということと
本人も悲しむ家族をおいて思い切って行くことが
できなくなるからかもしれない。

万歳といわれて、元気をもらって
家族も当人もこれでいいんだと自分に
言い聞かせることができるから…
万歳なんだろう。