さらば修和女学校5

★製糸工場を逃げてきたかよのおかげで
花は思いがけず親子水入らずで
一夜を過ごすこととなりました・・・。

花は寝る時間になっても机の電気を
つけて勉強をしていた。

ふじはそれをみて花は熱心だと思った。
「明るくてねむれなねーけ?」
「おとうが言っていた通りだ。
おまえは家族の希望の光だ・・。」

花はおとうからのハガキを
みせた。

「はな、グッドモーニング
勉強頑張れっし。
コピット精進するだよ」

その文面には名前はなかったが
文字は吉平だった。

かよは「勉強のことばかりだ、
おねえやんはおとうに
似ただね。」という。

花は「工場をぬけだしてくるなんて
無謀なことをするかよも
おとうに似ている」という。

ふじは「花もかよもおとうの娘だね。
甲府に連れて帰ろうなんて無茶な話だ。
お前たちも甲府では見られないものを
みて、いつかおらにはなしをしてくりょ」、といった。

「おかあ。」

「おかあ・・・」

「花、かよのことたのむね。
お前に任せたよ。

かよも東京で頑張って・・・」

ふじは、娘たちが自由に自分の考えで
世の中に出て行こうとすることを
止めることなどできないと知った。

翌日、茂木に連れられて
花が英語の授業をしている
様子を見るふじ。

茂木は花が入学した当初
英語が嫌いで、西洋人の先生を見ては
逃げていたことを話した。
ある時から英語にがんばるようになったこと。

しかし今花はりっぱに英語の授業をしている。

ふじは、そんな娘が誇らしかった。
★ふじは、自分の娘とは信じられないほど花が
輝いて見えました。

ふじは授業をしている花の声を意識に残そうと
意識した。

★ふじは自分の本当の胸の内を花に言わずに
一人で甲府に帰って行きました。

実家では朝市がそれを知ってがっかりしていた。

「花は東京で働くのか・・・」

ももは「おかあ、ほんとうにそれでいいのけ?」
とふじに聞く。
ふじは、頷いた。

「おかあの気持ち、おねえやんはわかっていない。」

ももはあの日、ふじがお茶をこぼして
濡れてしまったハガキを見ていった。

そのはがきは花が卒業したら
帰ってくることを喜んで待っているという
文面だった。

学校では

★茂木先生の御好意でかよはとりあえず学校の
仕事を手伝うことになりました。

廊下を吹き掃除するかよだった。
生徒たちが通るたびに

「おはようごいっす」という。

生徒たちは、「ごきげんよう」といった。

そのころ、梶原から学校に電話が入った。

受けたのは富山だった。
「御用件をどうぞ」というが
梶原は富山先生だとわかった。
それでも富山は御用件をという。

梶原は安東花さんのことでといった。

面接をしてくれるとのことだった。

喜ぶ花と畠山と醍醐の3人は
お茶の時間に談話室に行くと
みんながじっとある1点を見ている。

それは、かよが、あのスコット先生
といっしょにクッキーを食べているのだった。

「どうぞ・・」とスコット先生が言うと

「サンキューです」と言うかよ。

そこへ手紙が来た。

あの出しそこないのハガキを
ももが出したのだった。

「花、あと2か月で卒業ですね。
花の帰りを楽しみに待っています。」

それを見て初めて花はふじの
思いを知った。

小さな文字でモモが書いていた。

「このはがき、おかあは出さなかったけど
おらが代わりに送ります。もも」

かよもそれをみて実はふじは
花が卒業したら帰ってくるものだと
思い込んでいたといった。

「それでもおらはおねえやんに
東京にいて貰いてぇ」

とかよはいう。

醍醐は花は東京で夢を追いかけるべきだという。
畠山も面接頑張ってという。

迷う花にかよはそうだといわんばかりに
うなづく。

「ありがとう、面接頑張るわ」

と花は言った。

茂木はその様子をじっと見ていた。

その面接は梶原以外にも
偉い人が二人いた。

「君はこの会社に入ったらどんな本を作りたいの?」
と梶原が言った。

「大人からも子供からも読まれて
読んだ人がみんな想像の翼を広げられる
ようなそんな素敵な本を作りたいです。」

「親御さんはあなたが働くことに賛成ですか?」

「・・・はい。」

「安東花さん、卒業したらこの編集部で
働いてください。」

梶原はよかったと喜んだ。

これからの時代は女性の意見も大切だ
と梶原は訴えたという。

「親御さんもよろこばれるでしょう。」
「おうちは山梨の甲府ですか。」

「ええ。」

「どんなところなの?」
「ぶどう畑と田んぼしかないですが
富士山が見えます。

盆地なので夏は暑くて冬は空っ風で
寒くて・・・

母の手はいつもあかぎれだらけです。

母はいつも私たちの心配ばかりしています。

風邪ひいてねーか
はらすかせてねーか
こぴっとやってるか??
って・・。

母は字が書けなかったのに私が知らない間に
勉強してハガキを書いてくれました。」

「・・・・・・・花のかえりを楽しみにまっています・・」

花はモモが送ったふじのハガキを
思い出して言葉が詰まった。

「安東君どうかしましたか?」
梶原が聞いた。

花は泣き出した

「ごめんなさい。

うそなんです・・・

両親が賛成してくれているなんて

嘘なんです。

この10年間母は私の帰りを
ずっとまっていたのです。

ほんとうは心のどこかでわかっていた
はずですが

自分の都合のいいように
解釈していました・・・。

ごめんなさい・・・。」

花は立ち上がっておじきをした。

「本当はここで働けません。
甲府に帰ります。」

「なんだって?」

「君・・・ぃ。」

梶原も驚いた。
なんにしても推薦したのは梶原だ。

「ほんとうに申し訳ありません。」

花はふかぶかとお詫びをして
部屋を出た。

★花はどうするつもりでしょう。
甲府に帰ったところで仕事の当てもないのに。

花は会社の廊下をとぼとぼと歩いていた。

そこへ村岡がとおりかかり

花を見たが、花は気が付かなかった。

「安東花さん!」

村岡が声をかけた。

花はふりかえった。
「あ、村岡印刷さん・・・」

「どうかしたのですか?
まるで木から落ちた怠け者のような
顔をしていますよ。」

「落ちたんです」

「え?」

「今日面接をしていただいたんですけど・・・。」

「そうでしたか・・・
御気の毒でしたね・・」

「いつぞやは英英辞典をありがとうございました。

あれをもって甲府に帰ります。」

「帰ってしまうのですね」

「じゃ・・」

「怠け者は木にぶら下がりながら
夢を見ていると思います。
だから、あなたも夢を忘れないでください。」

★つくづくトンチンカンな人だと
花は思いました。

★でも、どういうわけか少しだけ花の心は
明るくなりました。

にこっと笑う村岡に
花はつられて笑顔になった。

「ごきげよう

さようなら・・・」

頭を下げた花。

去っていく花に村岡は
笑顔で見送った。

ごきげんよう

さようなら

********************
意味もなく・・・

ももがむかつきます。

なにかしら、ずっと気になって
いましたが、ももはどんな女性に
なったのかと思います。

ふじの気持ちが大事だと思うのは
かってですが
では、花の気持ちはどうなんでしょうか?

花の気持ちなど考えなくてもいいと
いうのでしょうか?

親の元に帰るべしだと思って
いるのでしょうか???

私が学生の頃、やはり母は帰ってくるものだと
思っていました。

そんなこと一言も言ってないのにですよ。

しかし、就職活動が県外になるのでなかなか
できませんでした。

事情を言って納得してもらいました。
帰ってくると思っていたのだから
つらかったことでしょう。

そのことを思い出しました。