さらば修和女学校3
★葉山蓮子は嘉納伝助との東京での
結婚式の後、炭鉱のある福岡にやって
きました。

そこで宴会で飲んで踊る日々。
よっぱらいたちは口々に蓮子を見て
いう。

「博多人形みたいだ」
「きれいだな」
「冥土の土産にもっと見ておこう・・」

「着物もきれいだからもっと見せてほしい・・」

みんなが様々なことを言って蓮子に興味を
もつ。

金屏風の前に座っていた伝助と蓮子。

伝助は立ち上がって「蓮子・・・しゃん。」
というと

そこにいた人たちは大笑いをした。

「自分の嫁ごにしゃんをつけるとは、おかしかろう
な???」

「あはははは・・・」

「伝助は大きな声でみんながお前の着物を見たが
っちょうけん、たってみてくれんね?」
という。

蓮子は表情も変えずに何を言っているのかと
不思議がる。

伝助は小さな声で「立ってくれ」と蓮子に耳打ちをして
自分もたって「さぁ~~~~立って立って・・」と
いいながら三味線に合わせて踊りだした。

やんや、やんやと喝采がわいた

蓮子が立つと「わぁ~~~」とよろこぶ。
「後ろの帯もみせてほしい」というので
「回ってくれ」と伝助が言う。

「回れ。回れ」と手拍子がわく
蓮子はくるりと回ったので

また喝采がやんやとわいた。

また、飲めや歌えやの
時間となった。

そこへ小さな女の子がやってきて
伝助のお膳のものを手を使って
食べた。

蓮子は「そのかわいらしい方は?」
と聞く。10歳ぐらいである。

娘の冬子だといった。
蓮子はびっくりした。
伝助は冬子に「あたらしいおっかさんだ。
あいさつせんか」という。
冬子は黙って蓮子を見た。
そして、「こげなお姫様、おっかさんと
よべんばい!」といって去って行った。

やがてお開きになった後、伝助と二人で
居間にいた。
「疲れたか?
疲れて、口もきけんとね?」
と伝助はきづかう。

黙っている蓮子だったが
「何べんもくるくる回らせて
すまんかったね?」と伝助は言う。

蓮子は自分は騙されたという。
伝助はどういうことだと聞いた。

「亡くなった奥様との間には子供は
いなかったと聞いているのに・・」
冬子がいたのだ。

すると伝助は「妻との間にはいなかった。
あの子は、外でできた子だ」という。
そういって伝助はあははは…と笑った。

★なぜこの人はここで笑えるの?
頭が真っ白になる蓮子でした。

だから伝助は騙してはいないといった。

そこへ女中がやってきた。
「旦那様博多の人がたくさん来ています」

伝助はでかけようと、して「今日はゆっくり休んで
くれ」と蓮子に言った。

「あの・・博多の人とはどなたですの?
私もご挨拶をしたほうがよろしいですか?」

と蓮子は女中に言った。

女中は「奥様挨拶は、いらんとですよ。
迎えに来たというのはなじみの芸者衆じゃきに」

と、いった。


「芸者?」


「旦那様今夜は帰ってきんしゃりんですばい。」

女中はそう言ってふすまを閉めた。


★どうやら嘉納伝助との結婚生活は
蓮子の想像を絶するものになりそうです。

★時は流れ、年号が明治から大正に代わり
花は高等科の最上級生になりました。

1931年大正2年1月・・
花は小さいひとたちのクラスの英語の授業を
指導している。

それをじっと見ている富山だった。

ふじからのはがきが来た。

『はな、あと二か月で卒業ですね。
花の帰りを楽しみに待っています・・・。』

そのはがきはおかあよりと書いてあった。

ふじはそのはがきを書くとき
朝市に字が間違っているかどうか
確かめた後、そばにあった
お茶をこぼしてしまった。

「また今度かくさ~~
朝市勉強忙しいのに
悪かったね」という。

朝市は、「また来ます」と言って出て
いった。

そして、独り言を言った。

「はな・・本当に帰ってくるのか?」

するとももが「え?」とそばに来て聞く。

「なんでもね~」といってまたねと帰ろうとした。

「朝市さん、もうすぐ学校の先生ずら?
こぴっとがんばるだよ」

とももがいう。

朝市は「ありがとう」といった。

★朝市は念願がかなって師範学校にはいっていました。
一方小さかった末っ子のももはすっかり娘らしくなりました。

修和女学校では廊下を歩きながら
富山が花に話をした。

ここで英語の教師をしないかと。
「あなたは給費生にもかかわらず、何度も問題をおこして
校長先生や他の先生方を悩まして、おまけに私の授業も
散々邪魔してきました。」
「すみません・・」

「ただ、英語の実力だけは確かです
あなたにやる気さえあれば私から
ブラックバーン校長に推薦しましょう。
私の同僚になるのは嫌ですか?」

「そんな、もったいないようなお話です。
けど・・・

十年間東京で勉強させてくれた家族のことが
気になって山梨に帰ろうとかと思っている」と
花は言った。

「山梨に帰ってもあなたがここで身に着けたものを
生かせる仕事はないと思いますよ」

「はぁ・・・」


富山はそういって去って行った。

花が「英語の教師かぁ~~」とつぶやいたとき
だった。

亜矢子が話しかけたのだ。

「それだけはやめたほうがいいわ。
富山先生のように生涯独身を
通すことになってもいいの?」

「醍醐様」

「やっと決まったわ。
醍醐亜矢子、このたびお医者様と
婚約いたしました。」

花は「おめでとう」と言った。

★婚活に命をかけていた醍醐にしては
遅すぎるくらいです。


そして醍醐は最後に楽しい思い出を作りたいと
寄宿舎に帰ってきた。

お部屋は、あの蓮子がいた部屋だった。

花の部屋は小さい人たちと一緒でいっぱいだった。

「ここね・・・」

部屋に入った亜矢子。

花も入る。

★そこは花にとって蓮子との思い出がいっぱい詰まった
部屋でした。

亜矢子は花にあれから蓮子はどうしているのかと
聞くが、花はさぁ?と答えて急いでお掃除をしましょう
といった。

花の部屋では、小さいひとが二人
花に英語を習っていた。

「わからない単語はすぐに辞書を引きましょう。
そうすればどんどん英語がすきになりますから。」
といって、村岡にもらった辞書を出した。

その大きさに小さい人たちはわぁっと
驚きの声を上げた。

その辞書は出版社のお仕事をしていた時に
もらったものと説明をした。

あのとき、原稿が燃えて
そのページだけ花が翻訳をすることに
なり、そのお礼にともらったものだった。

小さい人は「出版社のお仕事は大変でしたか?」
と聞く。

花は「ちっとも。出版社のお仕事は
好きな本を読むのと同じくらいわくわくしたわ」と
いった。
「あんな仕事につけたらなぁ~~」

その時想像の翼がひらいた・・・

「編集長!!!」

自分が編集長になってえらそうに
椅子に座っている。

そこへ梶原が編集長と言ってやってくる。
「次の企画ですが・・・
恋愛特集はいかがですか」と聞く。

「悪くないな、でももっといい案はないか?」

「編集長!!!」

そこへ村岡がやってくる。

「また君か・・・」

「僕は珍獣の本がいいと思います。」
「そうくると思ったぞ、却下します。」

「どうしてですか?
バカが読んでもわかるし
こんなにかわいいのに!!!」
と、怠け者のイラストを見せる。


「わたしはもっと、わくわくするような
素敵な本を作りたいの!!!!


子どもからも大人からも読まれて
読んだ人が思いっきり
想像の翼を広げられるような~~~」


つい・・・
花は小さい人たちの前で
想像のつばさをひろげて

あの世にいったような顔をした。


小さい人たちは

笑っていた。

そばにいた

畠山も

「たまにこうなるのよね・・・」といった。

ひとしきり笑った後、畠山は
「花さん、出版社って女の人がお勤めするには
むつかしいわよね・・・」と真剣に言うので
花も、「そうよね・・」と真剣に答えた。

翌日のこと
女学校の前にまずしい女性がたって
いた。
生徒たちはじろじろと見た。
女性はうつむき、何かをしっかりと持っていた。

そこは亜矢子が「ここのきんつばは
おいしくて、卒業したらもう食べれないから」と
いって、「この際太ってもいいわ」と
花とにぎやかに話をしながら
学校へ戻ってきた。

女性はふらっとして、倒れてしまった。
その時持っていた赤い缶がころころと
ころがった。

すると亜矢子は駆けつけた。
「しっかりなさって、大丈夫ですか?」と
そばによった。

花も一緒に走り寄った。

顔を見ると、かよだった。
花は驚いた。

「かよ・・・!!」

かよは、「おねえやん・・・・」という。
「かよ、どうしたの?」

「さがしたよ、おねえやん・・・
おねえやん・・・・・・」

と、かよは泣いた。

★かよの身にいったい何があったのでしょう?

ごきげんよう


さようなら・・・

*******************
嘉納伝助・・・怖い男かと思ったら
あんがい、蓮子を気に入っているのではと
思う。

だが、自分はたたき上げ。
つまり成金。

蓮子の気高さにはかなわない。
どう、あつかっていいのかもわからない。
ふつう、この時代特に、九州では
妻となれば、主人を立ててとか
名前も呼び捨てとか
あるけど、伝助はいきなり蓮子とは呼べない。

けど、他の人の手前蓮子と呼ばないと
かっこがつかない。

が、蓮子は呼び捨てされる育ち方をしていない。
いくら芸者に産ませた子でも、生まれてすぐに
葉山家に引き取られて乳母に育てられたのだ。

このあたり、伝助も大きな企業を牛耳るやり手の
社長のように威張れないのではと思う。

そして冬子。
この子は蓮子と同じ日陰の身ではあるが
この子を蓮子はどう扱うのだろうか?

花の進路について、花は何をやりたいのだろうか?
英語の教師でもなさそうだ。
しかし、富山の言う通り、山梨に帰っても
花の働く先はない・・・ようである。

朝市も花が帰ってくるとは思えないのだが。

かよの出現は何をいみするのだろうか?

かよは製糸工場の女工になったはずだった。

やっぱり、あの劣悪な環境だと問題視された
女工哀史のようなひどい目にあって帰って
来たのだろうか・・・。