腹心の友6
1945年昭和20年・・・花が
赤毛のアンの翻訳を執筆している。
「アンは涙ながらに言った。
ああ、ダイアナ汝の若かりし頃の友を
忘れないと固く約束してくださる?
しますとも、ダイアナはすすり泣いた。
それにまたと腹心の友を持たないわ。
どんな人だってあんたを愛したように
は愛せないもの」
★花にとって腹心の友、蓮子さんとの
思い出は
楽しいものだけではなく
つらいものもあったので
ございます。
一晩安東家に泊まった蓮子は
翌朝、「おてつだいをさせてください」と
申し出るが、蓮子に手伝ってもらえるような
仕事はない。
「無理しないで」と花は重たい水汲みを
終えて帰ってきた。
しかし、どうしてもという蓮子の念願で
花と蓮子は釣りをすることになった。
釣りをしながら蓮子は言った。
「この時間が永遠に続けばいいのに・・・」
花は、どういう意味だろうと
おかしな顔をして、「何を言っているのですか。
永遠に何もつれなくてもいいの?」
と聞く。
蓮子は花とこうしていられることがうれしいという。
幼くして政略結婚させられて子供を産んで
実家に帰された蓮子は、青春などないものと
思っていたという。
花と出会って失われた時間を取り戻せたという。
「半年間とてもうれしかった。
このキラキラとした時間を私は決して忘れない。
遠く離れても・・・」
「遠く離れても?
今日の廉様はどこかおかしい」
「いくら腹心の友でも
おばあさんになってもずっとくっついて
いるわけないでしょ。」
「そりゃそうだけど。」
「何があっても、今日のことは絶対忘れない
花ちゃんも忘れないで。」
「じゃ、私も忘れない、釣りに来たのに
一匹も釣れないで
お尻が痛くなったこと。」
「私もさっきから痛くて」
その時、朝市と吉太郎が来た。
朝市は蓮子と挨拶を交わしたが
いつも花の手紙を読んで蓮子のことは
よく知っていた。
一匹も釣れない花と蓮子の様子を見て
吉太郎は手伝うことにした。
「兄やんは釣りの名人なのです」と
花が言うと、蓮子は「へー」と感心した。
吉太郎は照れて顔をそむけた。
朝市と花、蓮子と吉太郎が釣りをしている。
朝市は師範を出て先生になりたいという
夢をかなえようとしている。
花はまだ進路がきまっていない。
自分だけ好きなことをするのは吉太郎や
かよに悪い気がして決めれないでいる。
そのうえ家族に迷惑をかけて期待に
答えられなかったらどうしようと思って
いる。
朝市だって先生になれるかどうかわからない
という。
「一生懸命やって勝つこと
の次は一生懸命やってまけることだ。」
と朝市はいう。
すると蓮子の糸が引いた。
「ひっぱっているよ」
というが、蓮子は「どうしたらいいのでしょう?」
という。
吉太郎が蓮子の釣竿をひっぱって
朝市と花はがんばれがんばれと
叫んだ。
すると大きな魚がかかった。
「すごい」、とみんな歓声を上げた。
「こんなでっけいのおらだって釣ったことがない。」
と吉太郎が言う。
「ホントに?」
「蓮様すごい~~~」
みんな大笑いをした。
★蓮子にとってこれが青春の最後の一頁に
なりました。
そのころ福岡の嘉納鉱業では
社長の伝助が帰ってきたのを
社員が迎え出た。
「東京はいかがでしたか」とのといに
「別に・・・」といって帽子を脱いで
渡した。「変わったことはなかった」といった。
そのとき「久保山専務から電話がかかって
います」と、社員が言う。
久保山専務とは葉山の叔父にあたる久保山で
ある。
電話を取った伝助は挨拶をいった。そして見合いの話
を受けると連絡があったと久保山が言う。
「あの娘が・・・なんかの間違いやなかと・・」
と驚く伝助だった。
「本当だ、蓮子さんご自身がぜひお受けしたいと
言ってきた」と久保山は言った。
週末を甲府ですごして花と蓮子は
寄宿舎に帰ってきた。
「ああ、楽しかった・・」
と笑いながら階段を上ろうとした。
すると白鳥が花を呼んだ。
花が留守の間にあの珍入者が
これを預けていきましたという。
花が驚いていると
「重たいから早く」、というので
花はあわてて小包を受け取った。
それは、
英英辞典であった。「これは
私が一番欲しかった辞書だわ。」
「安東花さま
先日の翻訳のお礼です。
英語の勉強、こぴっと頑張ってください。
村岡」
とあった。
そうだ、あの村岡だと思い出した。
書棚が高いところにあった英英辞典。
手が届かず飛び上がっていたとき
その英英辞典をとって
くれた・・・。
白鳥は蓮子に手紙を渡した。
それは、伯爵からだった。
「蓮様、私こんな高価なもの
いただいていいのかしら」と花は言った。
「その送り主さんも花ちゃんの翻訳の
才能を認めたのね。」
蓮子は花にきっぱりといった。
「やっぱり花ちゃんは高等科へ行って
翻訳の才能を磨くべきだわ。」
「蓮様はどうするの?」
「もちろん行くわ・・・」
「良かった、私やっと心が決まったわ。」
花はすっきりとした顔をした。
部屋に戻った蓮子は兄からの手紙を
読んだ。
それには、12月に結納、挙式、嘉納家嫁入りとある。
来月である。
蓮子は厳しい顔をした。
花は校長室へ行って茂木、
富山、校長のいる前で高等科への進学を
することを申し出た。
翻訳の勉強がしたいという。
茂木は並大抵の努力ではかないませんよ。
という。
「覚悟しています。」
校長は「頑張りなさい」と激励してくれた。
富山はいった。
「あなたならきっとできるでしょう。」
「富山先生?」
「安東さんの唯一いいところは
根拠のない自信があるところです。
ま、無謀な自信ともいえますが
それだけは認めます。」
花はうれしくてつい
「ありがとうございます」と大声で
お礼を言った。
「褒めていません!!」
富山が返した。
茂木は笑った。
花は一生懸命頑張りますと言って
礼をして部屋を出た。
ところが、お嬢様ばかりの学校なのに
どたばたと廊下を走る音がした。
畠山、大倉、そして醍醐だッた。
「大変よ、これを見て!」
と醍醐が差し出した新聞には
驚くことに
「筑豊の石炭王
嘉納伝助と葉山蓮子、結婚」の記事が
乗っていた。
「25歳も年が上の方よ・・・どうしてそんな
年配の方と?」と醍醐。
花は驚いた。
一方蓮子は呉服屋をよび伯爵夫人とともに
着物を選んでいた。
「お色直しはなんどやってもいいそうよ。」
「はい、そのように仰せつかっています。」
蓮子の足元にはたくさんの着物の
反物がころがっていた。
蓮子は無表情だった。
「蓮様、どうして・・・」
花は新聞を見ながらつぶやいた。
★これほどの裏切りはあるでしょうか。
腹心の友と思っていた蓮子は花に
結婚のことを一言も打ち明けてくれなかった
のです。
ごきげんよう
さようなら・・・
*******************
腹心の友だから
言えないこともあるのでしょうね。
言いにくいこともあるのでしょうね。
蓮子の思惑はどういうものだったのか
それはわかりませんが、
やはり、蓮子から直接言ってもらいたかった
と花は思ったことでしょう。
でもね、・・・・もし・・・・・
蓮子が結婚するといったら
状況がちがって、大騒ぎとなるはずでしょうね。
そのうえ、甲府へいって花の実家で
あのひと時をすごすこともなかったでしょう。
つまり、蓮子は静かに、自分の青春時代を
自然のままに終わらせようとしたのかも
しれません・・・。
甲府での蓮子のセリフの数々は
お別れと感謝の心で満ちています。
だれにも言わないで、そっと去って行こうと
したのかもしれません。
花に高等科への進学を決意させて
自分も行くからといったのは、決意させたかった
から・・・花が高等科へ進学する決意をしやすくする
要素を花の周りに敷き詰めておきたかったのかも
しれません。
水臭いと思いますが、それが精いっぱいの蓮子さんの
気持ちだったのだと花は気づくことが
できるでしょうか・・・。
1945年昭和20年・・・花が
赤毛のアンの翻訳を執筆している。
「アンは涙ながらに言った。
ああ、ダイアナ汝の若かりし頃の友を
忘れないと固く約束してくださる?
しますとも、ダイアナはすすり泣いた。
それにまたと腹心の友を持たないわ。
どんな人だってあんたを愛したように
は愛せないもの」
★花にとって腹心の友、蓮子さんとの
思い出は
楽しいものだけではなく
つらいものもあったので
ございます。
一晩安東家に泊まった蓮子は
翌朝、「おてつだいをさせてください」と
申し出るが、蓮子に手伝ってもらえるような
仕事はない。
「無理しないで」と花は重たい水汲みを
終えて帰ってきた。
しかし、どうしてもという蓮子の念願で
花と蓮子は釣りをすることになった。
釣りをしながら蓮子は言った。
「この時間が永遠に続けばいいのに・・・」
花は、どういう意味だろうと
おかしな顔をして、「何を言っているのですか。
永遠に何もつれなくてもいいの?」
と聞く。
蓮子は花とこうしていられることがうれしいという。
幼くして政略結婚させられて子供を産んで
実家に帰された蓮子は、青春などないものと
思っていたという。
花と出会って失われた時間を取り戻せたという。
「半年間とてもうれしかった。
このキラキラとした時間を私は決して忘れない。
遠く離れても・・・」
「遠く離れても?
今日の廉様はどこかおかしい」
「いくら腹心の友でも
おばあさんになってもずっとくっついて
いるわけないでしょ。」
「そりゃそうだけど。」
「何があっても、今日のことは絶対忘れない
花ちゃんも忘れないで。」
「じゃ、私も忘れない、釣りに来たのに
一匹も釣れないで
お尻が痛くなったこと。」
「私もさっきから痛くて」
その時、朝市と吉太郎が来た。
朝市は蓮子と挨拶を交わしたが
いつも花の手紙を読んで蓮子のことは
よく知っていた。
一匹も釣れない花と蓮子の様子を見て
吉太郎は手伝うことにした。
「兄やんは釣りの名人なのです」と
花が言うと、蓮子は「へー」と感心した。
吉太郎は照れて顔をそむけた。
朝市と花、蓮子と吉太郎が釣りをしている。
朝市は師範を出て先生になりたいという
夢をかなえようとしている。
花はまだ進路がきまっていない。
自分だけ好きなことをするのは吉太郎や
かよに悪い気がして決めれないでいる。
そのうえ家族に迷惑をかけて期待に
答えられなかったらどうしようと思って
いる。
朝市だって先生になれるかどうかわからない
という。
「一生懸命やって勝つこと
の次は一生懸命やってまけることだ。」
と朝市はいう。
すると蓮子の糸が引いた。
「ひっぱっているよ」
というが、蓮子は「どうしたらいいのでしょう?」
という。
吉太郎が蓮子の釣竿をひっぱって
朝市と花はがんばれがんばれと
叫んだ。
すると大きな魚がかかった。
「すごい」、とみんな歓声を上げた。
「こんなでっけいのおらだって釣ったことがない。」
と吉太郎が言う。
「ホントに?」
「蓮様すごい~~~」
みんな大笑いをした。
★蓮子にとってこれが青春の最後の一頁に
なりました。
そのころ福岡の嘉納鉱業では
社長の伝助が帰ってきたのを
社員が迎え出た。
「東京はいかがでしたか」とのといに
「別に・・・」といって帽子を脱いで
渡した。「変わったことはなかった」といった。
そのとき「久保山専務から電話がかかって
います」と、社員が言う。
久保山専務とは葉山の叔父にあたる久保山で
ある。
電話を取った伝助は挨拶をいった。そして見合いの話
を受けると連絡があったと久保山が言う。
「あの娘が・・・なんかの間違いやなかと・・」
と驚く伝助だった。
「本当だ、蓮子さんご自身がぜひお受けしたいと
言ってきた」と久保山は言った。
週末を甲府ですごして花と蓮子は
寄宿舎に帰ってきた。
「ああ、楽しかった・・」
と笑いながら階段を上ろうとした。
すると白鳥が花を呼んだ。
花が留守の間にあの珍入者が
これを預けていきましたという。
花が驚いていると
「重たいから早く」、というので
花はあわてて小包を受け取った。
それは、
英英辞典であった。「これは
私が一番欲しかった辞書だわ。」
「安東花さま
先日の翻訳のお礼です。
英語の勉強、こぴっと頑張ってください。
村岡」
とあった。
そうだ、あの村岡だと思い出した。
書棚が高いところにあった英英辞典。
手が届かず飛び上がっていたとき
その英英辞典をとって
くれた・・・。
白鳥は蓮子に手紙を渡した。
それは、伯爵からだった。
「蓮様、私こんな高価なもの
いただいていいのかしら」と花は言った。
「その送り主さんも花ちゃんの翻訳の
才能を認めたのね。」
蓮子は花にきっぱりといった。
「やっぱり花ちゃんは高等科へ行って
翻訳の才能を磨くべきだわ。」
「蓮様はどうするの?」
「もちろん行くわ・・・」
「良かった、私やっと心が決まったわ。」
花はすっきりとした顔をした。
部屋に戻った蓮子は兄からの手紙を
読んだ。
それには、12月に結納、挙式、嘉納家嫁入りとある。
来月である。
蓮子は厳しい顔をした。
花は校長室へ行って茂木、
富山、校長のいる前で高等科への進学を
することを申し出た。
翻訳の勉強がしたいという。
茂木は並大抵の努力ではかないませんよ。
という。
「覚悟しています。」
校長は「頑張りなさい」と激励してくれた。
富山はいった。
「あなたならきっとできるでしょう。」
「富山先生?」
「安東さんの唯一いいところは
根拠のない自信があるところです。
ま、無謀な自信ともいえますが
それだけは認めます。」
花はうれしくてつい
「ありがとうございます」と大声で
お礼を言った。
「褒めていません!!」
富山が返した。
茂木は笑った。
花は一生懸命頑張りますと言って
礼をして部屋を出た。
ところが、お嬢様ばかりの学校なのに
どたばたと廊下を走る音がした。
畠山、大倉、そして醍醐だッた。
「大変よ、これを見て!」
と醍醐が差し出した新聞には
驚くことに
「筑豊の石炭王
嘉納伝助と葉山蓮子、結婚」の記事が
乗っていた。
「25歳も年が上の方よ・・・どうしてそんな
年配の方と?」と醍醐。
花は驚いた。
一方蓮子は呉服屋をよび伯爵夫人とともに
着物を選んでいた。
「お色直しはなんどやってもいいそうよ。」
「はい、そのように仰せつかっています。」
蓮子の足元にはたくさんの着物の
反物がころがっていた。
蓮子は無表情だった。
「蓮様、どうして・・・」
花は新聞を見ながらつぶやいた。
★これほどの裏切りはあるでしょうか。
腹心の友と思っていた蓮子は花に
結婚のことを一言も打ち明けてくれなかった
のです。
ごきげんよう
さようなら・・・
*******************
腹心の友だから
言えないこともあるのでしょうね。
言いにくいこともあるのでしょうね。
蓮子の思惑はどういうものだったのか
それはわかりませんが、
やはり、蓮子から直接言ってもらいたかった
と花は思ったことでしょう。
でもね、・・・・もし・・・・・
蓮子が結婚するといったら
状況がちがって、大騒ぎとなるはずでしょうね。
そのうえ、甲府へいって花の実家で
あのひと時をすごすこともなかったでしょう。
つまり、蓮子は静かに、自分の青春時代を
自然のままに終わらせようとしたのかも
しれません・・・。
甲府での蓮子のセリフの数々は
お別れと感謝の心で満ちています。
だれにも言わないで、そっと去って行こうと
したのかもしれません。
花に高等科への進学を決意させて
自分も行くからといったのは、決意させたかった
から・・・花が高等科へ進学する決意をしやすくする
要素を花の周りに敷き詰めておきたかったのかも
しれません。
水臭いと思いますが、それが精いっぱいの蓮子さんの
気持ちだったのだと花は気づくことが
できるでしょうか・・・。
