腹心の友3
葉山伯爵の話とは、九州の石炭王
のお見合いの件だった。
「頼む。助けてくれ
この縁談を受けて
葉山の家を救ってくれ。」
頭を下げる伯爵の姿に
驚く蓮子だった。
★蓮子の運命が音を立てて回り始めて
いることにまだつゆほども気が付かない
花でした。
「父上がなくなってから何もかもうまくいかなくなった。
投資していた貿易会社が倒産してどうにもならない。
このままでは家屋敷をうらねばならない」という。
「蓮子頼む、このとおりだ
見合いだけでもしてくれ。
先方は九州の石炭王だ。
この見合いがまとまりさえすれば・・」
「莫大な結納金でも入るのですか?」と蓮子は聞く。
返答できない伯爵だった。
「お兄様は私をお金で売るおつもりですか。」
伯爵は再度頭を下げた。
★蓮子に励まされた花はこぴっと張り切っておりました。
出社する花。
会社のドアの前で
「こぴっとがんばろう!」と
つぶやいてやる気満々の花。
そこへたくさんの荷物を胸からあごのところまで
両手で抱えたひとがやってきて
花にぶつかった。
「ああ、すみません~~小さくて見えなかった。」
「大きい壁かと思いましたよ。」
村岡だった。
花はドアを開けて村岡を通して
自分も入った。
村岡は荷物を机の上に置いた。
「あ!!!」
「なにか???」
「最初にここであなたを見たときから
どうしても初めて会った気がしなかったのです。」
そのいいかた、意味深では?
「いまやっとわかった。
似ていますね。」
「え?誰に?」
「なまけものに・・・・」
花はどういうことなのかと
少し気分が悪くなった。
「あの、なまけものとは南アメリカと
中央アメリカの熱帯林に生息していて
一生のほとんどを木にぶら下がってすごす
珍獣です。」
村岡は本を探して見つけた。
花は「珍獣?」とまた気分が悪くなった。
「その姿から怠け者と言われていますが
実は、泳ぐとすごく早いという意外な一面も
持っています。」
ばらばらと本をめくる村岡。
「あなたも一見のんびりしているように見えて
翻訳をしている集中力は別人のようだ。」
村岡は意中のページを見つけたのか
はなにそれを見せながら
「ほら・・・
よく見ると、外見もちょっと・・・」
花は先ほどから村岡の話にかちんかちんと
来ていたので、「もう結構です」といって
席を立った。
「何が珍獣よ。失礼な人・・」
そういいながら、お茶わんをかたづけた。
村岡は、意に反して花が怒るので
意味が分からず・・・
「そうかな・・・こんなにかわいいのに・・・。」
とつぶやく。
その本の挿絵は・・・丸い顔の生き物が
なだらかな山を二つ並べたような目をして
わらっているような・・・・絵だったが。
花が怒るのももっともだと思う。
やがて、契約の一か月がすぎ、最後の出社日となった。
社員の一人がここの翻訳あっているか確認
してほしいと花に原稿を持ってきた。
それをやっているとき、
ふと、なにか焦げている匂いがした。
その社員が席を立ったが、灰皿に置いたままの
火のついたタバコが灰皿から原稿の上に
おちて、なんと、火がついたのだった。
花は、おかしい、何か匂うときょろきょろしたら
その机の上から火が出ているではないですか。
「大変!燃えてますよ!!!」
と社員さんにいうと
みんなが火を消そうと
必死になった。
結局、原稿が燃えただけだったが
その原稿・・・
今日入稿の翻訳原稿だった。
「編集長がいないし、どうしよう?」
と村岡が言うが
花は、「英語の原本はありますか?」
という。自分で翻訳してみようというのだ。
村岡は「ここから、ここまでです」という。
「はい」、と花は翻訳をやろうとした。
「安東君、今日までだよ、大丈夫かい」と
社員さんが言うが、「やってみます」と
花は引き受けた。
「あの、辞書はありますか?」
と、聞くと、村岡は辞書をさがしたが
須藤さんが持って出たという。
「うちの会社の辞書を取ってきます」と
村岡が言うと
花が「それなら学校のほうが近いです。
修和女学校の図書室ならヘボンの
英和辞典がありますから」といった。
村岡はわかりましたといって
女学校へ急いだ。
花ははっとして、「そうだ、うちは男子禁制だった」
とあわてた。
さにあらずや、白鳥に不審者として一本投げを
されて、ぼろぼろになった村岡。
そこへ校長がやってきて何事ですというが
あわてた村岡は、こちらの生徒さんに
辞書をもってきてほしいと頼まれてという
内容を英語でいおうとしたが、どうもうまく通じない。
白鳥は警察を呼びましょうかと
いう。
そこへ花が走ってきた。
この人は会社の関係者で、今翻訳をしているのだけど
辞書がなくて、図書室の辞書を借りに来てもらったと
校長に言った。
校長は事情は分かりましたといった。
村岡は花が英語が話せることにも驚いた。
「これでよろしいのですね」と白鳥が辞書を持ってきた。
「お騒がせしました」と辞書を受け取った花。
「行きましょう」と村岡をせかした。
白鳥は「また侵入したら本当に警察に
引き渡しますから。そのおつもりで」という。
村岡は「本当にご迷惑をおかけしました」
といって、挨拶をしていこうとした。
すると白鳥は二人が並んで歩くので
「もっと離れて!!」という。
ふたりは、びっくりして離れて歩いた。
「男女七歳にして席を同じくせず!!!」
大騒ぎの一方で深刻なのはこちら。
編集長が出かけた先は富山との
逢引。
実はプロポーズだったのだけどね。
「いい加減な気持ちであなたに会っている
わけではないです。僕たちは若くないのだから
これ以上時間の無駄をしたくない
今度こそ、あなたを幸せにします
僕の妻になってください。」
そのころ、会社では花が翻訳をして
できあがった。
そこに編集長が帰ってきて
事の次第を知った。
花の翻訳を見て、了解をした。
村岡はほっとして、よろこび
「このお礼はまた改めて
じゃ・・・」といって印刷に持って帰った。
梶原は花に「今日までだったね」といった。
「ご苦労様」
といってお給料をくれた。
「ありがとうございます」
「初めてのお給料?」
「はい、友達にきんつばを買って帰ります。」
花は梶原が沈んでいるのでなにかあったのですかと
聞いた。
どうやら、求婚したが、断られたという。
学校へ帰ったら、廊下で富山に会った。
花は、「出版社の仕事は今日まででした」といった。
「ご苦労様」
「梶原編集長は元気なかったです。
あの、これでいいのですか?」
「つかみ損ねた幸せは取り戻せないのです。
教職という仕事が今の私の幸せです。」
富山はきっぱりと言って去って行った。
花はじっとその後姿を見ていた。
一方こちらはホテルでお見合いとなった蓮子だった。
振袖を着ているが、顔は青ざめている。
葉山伯爵夫人は遅いわねという。
先方は時間に遅れているらしい。
蓮子は、「やはりわたくしは・・」といって帰ろうとしたが
「お見えになったわ」と夫人が言う。
葉山の叔父が石炭王と一緒に来たのだ。
「叔父様、今日はよろしくお願いします」と
夫人は言った。
そして「義理の妹の蓮子です」と紹介した。
叔父は「噂通りの美しさだ」とほめた。
蓮子はあまたを下げた。
「あ。こちら嘉納さんだ。」
★九州の石炭王嘉納伝助です。
嘉納は一歩一歩と蓮子に近づいて
いった。
爺さんである。
伯爵はそれをじっとみた。
夫人は口元に笑みを含んでいた。
伝助は蓮子に顔を近づけた。
不快感を感じる蓮子だった。
★蓮子が親子ほどの年の違う人と
お見合いをしているとは知らず
帰りを待っている花でした。
蓮子の部屋で待つ花。
「きんつば、買ってきたのになぁ・・・」
ごきげんよう、さようなら
******************
村岡は人を褒めることが下手なのかも
しれない。
バカでもわかる翻訳と花の翻訳を昨日はそう言った。
バカでもわかる?花は驚いた。
つまり誰もでわかるという、褒め言葉だったけど
その言葉の使い方が違うような気がする。
今日は今日で、怠けものに似ているという。
本人はかわいいと思っているらしいが
怠け者ということばと珍獣という言葉に
花はかちんとくる。
褒めてないのである。
が、村岡は褒めているのだ。
このちぐはぐなやり取りが面白い。
一方富山と梶原は
運命であった。つかみ損ねた幸せに
こだわる富山は、りんとした女性だと
思う。
男に頼らずに生きていく人とは・・・と
花は思ったと思う。
一方、男に頼らざるを得ない運命の
蓮子だが。
絶対、いやだよ、この爺さん。
顔も悪いし・・・・年も兄よりも上だし。
好きになれない。蓮子は大恋愛をしたいのだ・・。
けど、この爺さんじゃ、恋愛はできそうにない。
つまり、金で買われた身となるか・・・
思い通りにいかない蓮子だった。
この腹心の友のピンチに花はどう
彼女を助けるのだろう???
葉山伯爵の話とは、九州の石炭王
のお見合いの件だった。
「頼む。助けてくれ
この縁談を受けて
葉山の家を救ってくれ。」
頭を下げる伯爵の姿に
驚く蓮子だった。
★蓮子の運命が音を立てて回り始めて
いることにまだつゆほども気が付かない
花でした。
「父上がなくなってから何もかもうまくいかなくなった。
投資していた貿易会社が倒産してどうにもならない。
このままでは家屋敷をうらねばならない」という。
「蓮子頼む、このとおりだ
見合いだけでもしてくれ。
先方は九州の石炭王だ。
この見合いがまとまりさえすれば・・」
「莫大な結納金でも入るのですか?」と蓮子は聞く。
返答できない伯爵だった。
「お兄様は私をお金で売るおつもりですか。」
伯爵は再度頭を下げた。
★蓮子に励まされた花はこぴっと張り切っておりました。
出社する花。
会社のドアの前で
「こぴっとがんばろう!」と
つぶやいてやる気満々の花。
そこへたくさんの荷物を胸からあごのところまで
両手で抱えたひとがやってきて
花にぶつかった。
「ああ、すみません~~小さくて見えなかった。」
「大きい壁かと思いましたよ。」
村岡だった。
花はドアを開けて村岡を通して
自分も入った。
村岡は荷物を机の上に置いた。
「あ!!!」
「なにか???」
「最初にここであなたを見たときから
どうしても初めて会った気がしなかったのです。」
そのいいかた、意味深では?
「いまやっとわかった。
似ていますね。」
「え?誰に?」
「なまけものに・・・・」
花はどういうことなのかと
少し気分が悪くなった。
「あの、なまけものとは南アメリカと
中央アメリカの熱帯林に生息していて
一生のほとんどを木にぶら下がってすごす
珍獣です。」
村岡は本を探して見つけた。
花は「珍獣?」とまた気分が悪くなった。
「その姿から怠け者と言われていますが
実は、泳ぐとすごく早いという意外な一面も
持っています。」
ばらばらと本をめくる村岡。
「あなたも一見のんびりしているように見えて
翻訳をしている集中力は別人のようだ。」
村岡は意中のページを見つけたのか
はなにそれを見せながら
「ほら・・・
よく見ると、外見もちょっと・・・」
花は先ほどから村岡の話にかちんかちんと
来ていたので、「もう結構です」といって
席を立った。
「何が珍獣よ。失礼な人・・」
そういいながら、お茶わんをかたづけた。
村岡は、意に反して花が怒るので
意味が分からず・・・
「そうかな・・・こんなにかわいいのに・・・。」
とつぶやく。
その本の挿絵は・・・丸い顔の生き物が
なだらかな山を二つ並べたような目をして
わらっているような・・・・絵だったが。
花が怒るのももっともだと思う。
やがて、契約の一か月がすぎ、最後の出社日となった。
社員の一人がここの翻訳あっているか確認
してほしいと花に原稿を持ってきた。
それをやっているとき、
ふと、なにか焦げている匂いがした。
その社員が席を立ったが、灰皿に置いたままの
火のついたタバコが灰皿から原稿の上に
おちて、なんと、火がついたのだった。
花は、おかしい、何か匂うときょろきょろしたら
その机の上から火が出ているではないですか。
「大変!燃えてますよ!!!」
と社員さんにいうと
みんなが火を消そうと
必死になった。
結局、原稿が燃えただけだったが
その原稿・・・
今日入稿の翻訳原稿だった。
「編集長がいないし、どうしよう?」
と村岡が言うが
花は、「英語の原本はありますか?」
という。自分で翻訳してみようというのだ。
村岡は「ここから、ここまでです」という。
「はい」、と花は翻訳をやろうとした。
「安東君、今日までだよ、大丈夫かい」と
社員さんが言うが、「やってみます」と
花は引き受けた。
「あの、辞書はありますか?」
と、聞くと、村岡は辞書をさがしたが
須藤さんが持って出たという。
「うちの会社の辞書を取ってきます」と
村岡が言うと
花が「それなら学校のほうが近いです。
修和女学校の図書室ならヘボンの
英和辞典がありますから」といった。
村岡はわかりましたといって
女学校へ急いだ。
花ははっとして、「そうだ、うちは男子禁制だった」
とあわてた。
さにあらずや、白鳥に不審者として一本投げを
されて、ぼろぼろになった村岡。
そこへ校長がやってきて何事ですというが
あわてた村岡は、こちらの生徒さんに
辞書をもってきてほしいと頼まれてという
内容を英語でいおうとしたが、どうもうまく通じない。
白鳥は警察を呼びましょうかと
いう。
そこへ花が走ってきた。
この人は会社の関係者で、今翻訳をしているのだけど
辞書がなくて、図書室の辞書を借りに来てもらったと
校長に言った。
校長は事情は分かりましたといった。
村岡は花が英語が話せることにも驚いた。
「これでよろしいのですね」と白鳥が辞書を持ってきた。
「お騒がせしました」と辞書を受け取った花。
「行きましょう」と村岡をせかした。
白鳥は「また侵入したら本当に警察に
引き渡しますから。そのおつもりで」という。
村岡は「本当にご迷惑をおかけしました」
といって、挨拶をしていこうとした。
すると白鳥は二人が並んで歩くので
「もっと離れて!!」という。
ふたりは、びっくりして離れて歩いた。
「男女七歳にして席を同じくせず!!!」
大騒ぎの一方で深刻なのはこちら。
編集長が出かけた先は富山との
逢引。
実はプロポーズだったのだけどね。
「いい加減な気持ちであなたに会っている
わけではないです。僕たちは若くないのだから
これ以上時間の無駄をしたくない
今度こそ、あなたを幸せにします
僕の妻になってください。」
そのころ、会社では花が翻訳をして
できあがった。
そこに編集長が帰ってきて
事の次第を知った。
花の翻訳を見て、了解をした。
村岡はほっとして、よろこび
「このお礼はまた改めて
じゃ・・・」といって印刷に持って帰った。
梶原は花に「今日までだったね」といった。
「ご苦労様」
といってお給料をくれた。
「ありがとうございます」
「初めてのお給料?」
「はい、友達にきんつばを買って帰ります。」
花は梶原が沈んでいるのでなにかあったのですかと
聞いた。
どうやら、求婚したが、断られたという。
学校へ帰ったら、廊下で富山に会った。
花は、「出版社の仕事は今日まででした」といった。
「ご苦労様」
「梶原編集長は元気なかったです。
あの、これでいいのですか?」
「つかみ損ねた幸せは取り戻せないのです。
教職という仕事が今の私の幸せです。」
富山はきっぱりと言って去って行った。
花はじっとその後姿を見ていた。
一方こちらはホテルでお見合いとなった蓮子だった。
振袖を着ているが、顔は青ざめている。
葉山伯爵夫人は遅いわねという。
先方は時間に遅れているらしい。
蓮子は、「やはりわたくしは・・」といって帰ろうとしたが
「お見えになったわ」と夫人が言う。
葉山の叔父が石炭王と一緒に来たのだ。
「叔父様、今日はよろしくお願いします」と
夫人は言った。
そして「義理の妹の蓮子です」と紹介した。
叔父は「噂通りの美しさだ」とほめた。
蓮子はあまたを下げた。
「あ。こちら嘉納さんだ。」
★九州の石炭王嘉納伝助です。
嘉納は一歩一歩と蓮子に近づいて
いった。
爺さんである。
伯爵はそれをじっとみた。
夫人は口元に笑みを含んでいた。
伝助は蓮子に顔を近づけた。
不快感を感じる蓮子だった。
★蓮子が親子ほどの年の違う人と
お見合いをしているとは知らず
帰りを待っている花でした。
蓮子の部屋で待つ花。
「きんつば、買ってきたのになぁ・・・」
ごきげんよう、さようなら
******************
村岡は人を褒めることが下手なのかも
しれない。
バカでもわかる翻訳と花の翻訳を昨日はそう言った。
バカでもわかる?花は驚いた。
つまり誰もでわかるという、褒め言葉だったけど
その言葉の使い方が違うような気がする。
今日は今日で、怠けものに似ているという。
本人はかわいいと思っているらしいが
怠け者ということばと珍獣という言葉に
花はかちんとくる。
褒めてないのである。
が、村岡は褒めているのだ。
このちぐはぐなやり取りが面白い。
一方富山と梶原は
運命であった。つかみ損ねた幸せに
こだわる富山は、りんとした女性だと
思う。
男に頼らずに生きていく人とは・・・と
花は思ったと思う。
一方、男に頼らざるを得ない運命の
蓮子だが。
絶対、いやだよ、この爺さん。
顔も悪いし・・・・年も兄よりも上だし。
好きになれない。蓮子は大恋愛をしたいのだ・・。
けど、この爺さんじゃ、恋愛はできそうにない。
つまり、金で買われた身となるか・・・
思い通りにいかない蓮子だった。
この腹心の友のピンチに花はどう
彼女を助けるのだろう???
