腹心の友1

★大文学会をきっかけに
生まれも育ちも全く違う
蓮子と腹心の友になった花。

★それから半年がたちました。
1909年11月。

相変わらず先生の知らないところで
廊下を走り
先を急ぐ花だった。

急ぐ先は校庭のベンチに座っている
蓮子だった。

「蓮さま・・・」

「花ちゃん・・・」

と呼び合う仲。

花は蓮子が読みたがっていた
デニスンの詩集を翻訳した。

「もうできたの?」

と蓮子はびっくりした。

花は蓮子のおかげでますます英語の
勉強に張り合いを持つことが
できたという。

★級友たちはそろそろ卒業後のことを
考え始めておりました。


「あと半年もしないうちに
本科もおしまいですわね。」

生徒たちはそのような話をしていた。
卒業したらどうする?というのが
もっぱらの話題である。

醍醐は寄宿舎を出て実家に帰り
週末はお見合い三昧だという。

卒業までに結婚相手を決めたい
というのだ。

ふと醍醐亜矢子は花と蓮子をみた。

亜矢子の目線の先の二人は
仲良く話をしている・・・ようだった。

「花ちゃんは本科を出たらどうするの?」
蓮子が聞いた。

花の悩みだった。
「まだ、勉強は続けたいけど
兄も妹も家のために働いているのに
自分だけ好きなことをするわけにいかない」
と・・・

大変重たい悩みであった。

そんな時、校長から呼び出された。
放課後、出版社でバイトをしませんかという
話である。

事務員がやめたので大募集をしている
というのだ。特に学校とご縁のある
出版社だったし、英語のできる方という
要望だった。

花は、すぐに引き受けた。
★・・というわけで花は学生アルバイトとして
働くことになりました。

花は言われた会社を訪ねて行った。

部屋のドア上に編集部とプレートがある。
「ここだ・・・」
花はドアを開けて中に入った。
だれも花を見ない。
花は「ごきげんよう」といった。

・・・会社でごきげんようといっても
だれも反応しないでしょうね・・・。


「コホン・・・」と咳払いをして花はもう一度
大きな声で「ごきげんよう」といった。

社員さんたちがこちらをみた。

「あの、修和女学校からまいりました
安東ともうします。」

「ああ・・・・きみか・・・」

奥の席からつかつかと花にちかづいて
来た男性は・・・みたことある・・・

梶原総一郎という。

「編集長の梶原です」といって頭を下げた。

花も頭を下げた。

「あれ?きみ・・・小間使いではないかな?」

編集長はロミオとジュリエットの中で
花が演じた小間使いのことを話した。

大文学会に来てロミオとジュリエットを
みたという。
あの演目はよかったと梶原は言う。

「紹介しとこう」、といって梶原は
社員さんたち方にむいた。

パンパンと手をたたいた。

「今日から一か月臨時で働いてもらうことになった
小間使いさんだ。」

「はじめまして、安東花子と申します。
花子と呼んでください。」

すると・・・あちこちから声がかかった

「よろしく」

「よろしく小間使いさん」

「小間使いさん、よろしくね」

「小間使いさん・・・よろしく」


「・・・お願いします。」


すると梶原が「小間使い君、とりあえず
お茶を入れてくれる?」

という。


「はい!」

コンロに火をつけた。

そこへ電話が鳴った。

「小間使い君電話に出て!」

「どう・・どうやってでるのですか?」

「早く、切れちゃうよ」

「はい・・・」

花は電話はどうするのかわからない。
あわててどうにかしていると
受話器がはずれた。

そして、もしもしと、相手の声が聞こえる。

こちらは○○です・・もしもし・・・

「ご、ごきげんよう。
なんか言ってますよ~~?」

どうすればいいのかわからない花。

★何しろ電話に出るのも生れて始めたなので
お許しくださいませ。

梶原が受話器を取った。
そして話をしている。
花はそれを見て、受話器をもって・・
こう、こう・・・と覚えようとした。


「そうですか、ありがとうございます。
すぐ伺います。」

そういって梶原は受話器を置いた。

「ようし、中村教授の翻訳が
できあがったぞ。」

「はい。」

そういって男性ばかりの社員さんたちは
でかけていった。

梶原は「小間使い君、留守番頼む。」

という。

「はい、あの・・・ほかに何かやっておくことは
ありますか?」

「今は何もできないだろう、そのあたりの本を
読んでいなさい」

そういったので花はうれしくなった。

「はい。いってらっしゃいませ。

いってらっしゃいませ・・・」

花はずらっと並んだ戸棚をみた。

英英辞典があった。
「こんなの学校の図書室にもないわ。」

うれしくなったが、なにしろ高いところにある。
なかなか取れない。

必死で飛び上がるが・・・とれない。

そんな時、誰かが入ってきたのだが
気が付かない。
そのひとは花が取ろうとしている本を
楽々とってくれた。

花が振り向くとそのひとは、「はい」といって
本を渡してくれた。

「て!!」

「え??」

びっくりする花だったが、「どうもありがとう
ございます」といった。

「いえ」、男性はすたすたと机のほうへ行ったが
ふと振り向いて本に夢中になっている花を見た。

花もきがついて、男性を見て
「なにか?」と聞いた。

「あ、いや・・・じゃ!!」

といって去って行った。

花は会釈をしたが・・・・・

来た人に名前と用件を聞くのを忘れているのでは?

「いまの・・・誰???」

いまさら、遅い!!

葉山伯爵の家では、葉山が蓮子を
呼びつけていた。

どうやら、お見合いの話らしい。

福岡の石炭王だという。つまり金持ちである。
年齢はかなり上だが蓮子の件は
出戻りでもいいという。

それを聞いて蓮子は断った。
「やっと自分の居場所を見つけて、やっと
学ぶ楽しさも感じるようになれた。
今後は高等科に進み、一人で生きていく
すべを身に着けたい」という。
「そんな身勝手なことが許されると
思っているのか。」
伯爵はそういった。

蓮子は「私はお兄様の操り人形ではありません」
といって、辞した。

伯爵は苦々しく思っているようだった。

寄宿舎へ帰ると花を見つけた。

「花ちゃん、お帰りなさい!」

蓮子は花を呼んだ。


「蓮様もどこかへいらしてたの?」
と花が聞いた。

「ね、出版社のお仕事はどうだった?」

蓮子の部屋で話をする二人。

「小間使い?」

「だれも名前を呼んでくれなくて。」

「花ちゃんの得意の英語は生かされなかったの?」

「ええ、でもひと月小間使いとしてこぴっと
がんばります。」

花は働いたお金で好きなものが買える
ことがうれしかった。

「花ちゃんは一番欲しいものって何?」
蓮子が聞いた。
「英語の辞書」と答えた。
「自分の辞書があればなぁ~~~」と花は
思っているのだ。
いつも、わからない言葉に出会うと
図書室へ走って行っているからだ。

「蓮様のほしいものは?」

「私は物でなくて・・・
燃えるような心が欲しい。

一度でいいからそんな恋愛をして
みたい・・・・
なのに、兄ときたら・・・。」

蓮子はお見合いの話をした。
父親のような年周りの人で
その人と結婚しろと言われたという。
「もちろん断ったわ」と蓮子は言った。
花はむかっときて
「蓮様の人生をなんだと思っているのかしら
ひどいお兄様だわ、信じられない。」

「花ちゃん・・・」

「なに?」


「何でも打ち明けられる相手がいるって
幸せね・・・」
蓮子は微笑みながら言った。

「蓮様・・・・」


蓮子は花に訳してもらった詩集を出して
素敵だという。
「ドラマチックでしょ」と花。
「人の世に背くほど激しく誰かを愛するなんて
どんな気持ちなのかしら・・・」と蓮子。


★二人はこれからどんな男の人に出会い
どんな恋愛をするのでしょうか
それはまだ、神様しかご存じありません。


★そんなある日のことでございました。


バイトの帰り道に公園の中で醍醐と畠山にあった。

橋の上で何かをそっと二人で見ている。

「ごきげんよう」と声をかけた。

「花さん。大変、大変。」

亜矢子が言うには、その大変というものは・・・

あの二人だという。
目線の向こうの橋の上には、
確かに二人いる。

一人は富山先生。もう一人はわからない。

だけど男性なのである。
だから、醍醐たちはそっと見ていたのだった。
亜矢子は言った。

「どう見ても、逢引ですわね。」

富山の表情がわからないが、
隣の男がたちあがって角度を変えたので
顔が見れた。

そのひとは


「て!!!
編集長!!!!」

花は叫んだ。



花にとってはあまりにも衝撃的な
ツーショットでありました。

ごきげんよう

さようなら

******************
いよいよ、社会へでる練習をする花。

でも電話もとったことがないなんて
つらい話ですね。。。、

オーエルなら、電話、お茶は当然です。
お留守番をするなら、来た人の名前と
用件を聞いておかないと・・・。

またまた浮上した蓮子の結婚。

そうそう、経済的には
独り立ちをしたほうがいいですね。
華族様はそれが許されないのでしょうか。

で、花が出会ったこの男性・・・・
村岡君だと思うよ。オープニングで
出演者のなまえがでるけど
村岡ってありましたから。
つまり、花の旦那様ですね。

で、富山先生と会っていた編集長。
大文学会の時
演目が終わってみんなが帰るとき
椅子に座っていた富山を見て
立ち止まったあの人です。

それが編集長だったのですね。
元恋人でしょうか。
もと、ご主人様でしょうか。


なにかありそうですね。
しかし、覗き見はお行儀が悪いですね。