波乱の大文学会6

「あなたと同じ16の時に・・・」

幕が上がってお芝居が始まった。
蓮子は花に自分の過去を話した。
14歳で兄の決めた人と結婚させられて
16歳で子供を産んで、子どもをとりあげ
られて、家に帰されたこと。

「花さんとは住む世界が違うの。
友達になんかなれっこないでしょ。
これ以上、わたくしに近づかないで」

そういう蓮子の腕をつかんだ花。

「いやです。そんなの。
なぜだかわからないけど、ほっとけないのです。
蓮子さんのこと・・
あなたは空っぽなんかじゃない」

精一杯の気持ちを伝えた花だった。

そのとき舞台では、ジュリエットの
登場場面となっていた。

セリフを聞きながら
蓮子は、花を見て、つかまれた腕を
離し、舞台へと向かった。

ジュリエットの登場。

大きな拍手がわいた。
★さぁ、ロミオとジュリエットの幕が開けました。

じっと見る伯爵。多くの観衆、見守る花だった。

第一幕
皆様にロミオとジュリエットのストーリーを
ざっと説明しましょう。
このお話は互いに憎み合う二つの家に生まれた
ロミオとジュリエットが
深く愛し合いながらもその運命に引き裂かれる悲劇
でございます。

第二幕

「おお、ロミオ様どうしてあなたはロミオなのでしょう。
ロミオモンタギュー・・・。あなたの家と私の家は
互いに憎しみ合う宿命・・
その忌まわしいモンタギューの名前を今すぐ捨てる
なら、私も今すぐキャピュレットの名を捨てましょう。」

客席には舞台に夢中になる白鳥がいた。

「おお、愛するジュリエット、名前がなんというのだ。
なまえを捨てたところで私は私だ。」

「ロミオ様それはどうでしょうか。
もしバラがアザミやキャベツという名前だったら
同じように香らないのではありませんか
やはり名前は大事です。」

第三幕

ロミオは喧嘩を仲裁しようとしてジュリエットの従弟を
殺してしまい、おわれる身となります。

「捕まったら死刑だぞ・・・逃げよう。」

★一方、ジュリエットは父親が決めた侯爵との結婚を
せまられなんとかそこから逃げようとする
のです。

幕裏ではジュリエットを励ます花だった。
「いいわよ、がんばって!!!」

バルコニーのシーン。

「おお、愛するジュリエット、そなたが望むなら
私はいつでもモンタギューの名を捨てる覚悟は
できている・・・。」

白鳥は、ロミオに夢中になる。

「キャピュレットの家に縛られているのはそなたのほう
ではないのか?」

「私が家に縛られている?
ロミオ様なにをおっしゃられますの?」

「そなたには父上がきめたいいなずけの
パリス公爵と言うお方がいるでは
ないか・・・。」

バルコニーから降りてきたジュリエット。
「それは父が勝手に決めたこと
父が大事にしているのは私のことではなく
家の名前のことですわ。

私は・・・・」

蓮子は、客席の伯爵を見据えていった。

「私は父の操り人形ではありません!!


だからロミオ様・・・たったいま私をここから
連れて逃げて行ってください。」

迫真の演技に伯爵は苦虫をかみ殺した顔
をした。
花も息をのんだ。

観客も引き込まれていた。

「さ、運命が私たちを引き裂いて
しまう前に・・・」

観客の中に富山がいた。
仕事が残っているからと
いってたのに、富山は真剣に見ていた。


次のシーンはいよいよ、花がジュリエットに眠り薬を
渡すシーンである。

あがり症なので、どきどきしているが
亜矢子が「がんばって」、と花を激励する。
花は、薬の瓶をもって部屋にいるジュリエットに
渡しに行くのだが・・・

「ジュリエットお嬢様!!」

小間使い登場に拍手が起きる。

花は上がってしまい

ジュリエットに近づくとき、スカートのすそを
ふんづけて、転んでしまう。

「ああ!!!!!」

ジュリエットは驚いて小間使いに近寄る。

薬はてんてんと舞台を転がり、幕のむこうに
いってしまうが・・
幕の間にいたひとが
薬の瓶をつかんで舞台のほうへ転がした。

観客、大爆笑となる。

「すみません~~~~」と花。
亜矢子も、畠山も
茂木も

「は!!!っ」と驚く。

「早くセリフを・・・」と蓮子が花に小さくいう。

花は、うんうんとうなづきながら
「ジュリエットお嬢様・・」といってたちあがる。
会場は大爆笑である。

「御神父様より秘密のお薬を預かってきました。
・・・・その・・・お薬は・・・
42時間・・・・(声が裏返る)死んだように寝て
その後目覚めます。」

ジュリエットは転がっていたくすりの瓶を
ひろいあげる。

「・・・そ、そこに・・・ロミオ様が…助けに
来られます・・・」


亜矢子は、がくがくとした花のセリフを緊張して
聞いていた。

そのおかしさに、ジュリエットまで
わらいながら「ありがとう」と言う・・・。

「とうとうこの家を抜け出し
どこか知らない街でロミオ様と暮らすことが
できるのね・・・。

この薬さえ飲めば・・・」

花は緊張しまくり

「どう、どううか…お幸せに・・・」と
棒読みでいう。

このシーンはおかしくはないのだが・・

観客は花がセリフを言うたびに
笑った・・・。

最後のセリフを言って幕に下がった花は

「ごめんなさい失敗しました~~」
と綾子と畠山に謝った。

亜矢子は大丈夫よ、畠山は気にしないで
という。

「さ、最後の幕よ・・・。」


最終幕・・

ねむっているジュリエット。
だが、ロミオはジュリエットは死んだと
思い、同じく毒をあおって死んでしまう。

「ジュリエット愛する私に妻・・・死んでもなおこの美しさ。
私もすぐそばに行こう。
ジュリエット・・・いつまでも愛するそなたのそばに・・」
★ジュリエットが42時間の眠りから覚めた時には
ロミオはもう息絶えていました。

42時間たって起き上がったジュリエットは
ロミオが死んでいるのをみて
自分が死んだと思ったのだと悟った。
そして・・・

「おお、かわいそうなロミオ様
私が本当に死んだと思い込み
死んでしまうなんて、しかも私に
一滴の毒も残しておいてくださらないなんて。」

じっと見つめる富山・・・
なぜか、伯爵夫人・・・。

「ロミオ様と出会った時からこうなることは定められて
いたのでしょうか・・・


結局・・・私たちは家の名前に負けてしまったのですね。

このまま運命を呪って生きていくことに
何の意味がありましょう?
家に閉じ込められて生涯を送ることなど
私には耐えられません・・・。」


じっと見る伯爵

花・・・

「それよりは
家の名前などない天上の国で
ロミオ様と二人永遠の愛を手にしとうございます。」

じっとみつめる富山・・・

ジュリエットはロミオの剣を抜き

自らの胸を刺した。


「ロミオ様・・・・・」

そういって愛するロミオにかぶさるように
倒れた。

幕が閉じられた。シーンとする会場。

じっと見ていた富山が
思いっきり拍手をした。

拍手を忘れて見入っていたお客様は

はっとして

拍手をした。

大きな拍手をした。

白鳥も

校長も

立ち上がって拍手をした。

茂木も・・・綾小路先生も

伯爵は・・・まったく無表情だった。

幕のなかでは、蓮子と亜矢子は
大きな拍手を聞いて
嬉しそうに見つめ合った。
舞台にクラスメートが集まり
健闘をたたえ合った。
花は蓮子の手を握りしめた。

富山は廊下の椅子に座って
涙をふいていた。

茂木はもう一枚ハンカチを渡した。
「いいお芝居でしたね
あなたが演じたジュリエットもいいお芝居でしたが。」

富山は、「ええ・・・」といって
「でも、舞台の私を見染めたあの人はロミオのように
愛を貫く人ではありませんでした。

あんな人のためにロミオとジュリエットを避けていた
なんて、馬鹿みたいですね・・」


観客がつぎつぎと会場からでてきた。
茂木もその中に入ってさっていった。

観客の中にたちどまって富山を見る男性
がいた。
富山はその人を見て驚いた。

校庭では、カフェテラスがあった。
伯爵と夫人はテーブルに座って
いた。
校長が近づいてきて
「蓮子のジュリエットの演技は最高でしたでしょ」と
いった。

伯爵は答えないので校長は去って行った。

なぜか虫の居所が悪そうである。

一方出演者たちは衣装のままで
ファンからプレゼントをもらっていた。

というより、ロミオ役の亜矢子は
大モテで、「醍醐様~~~~」と
ファンが集まってくる。
「醍醐様のロミオ様素敵でしたわ~~」
「私のお姉さまになってください。」

よくある、女子高の疑似恋愛である。

さて、花と蓮子は
伯爵夫妻をみて
どうしたものかと思った。

「そうだ」、と花は一計を案じた。

「蓮子さん、復讐してやりましょう」

「え?」

伯爵はイライラして葉巻をぷかぷかと
ふかしていた。

蓮子が来ないので帰るぞという。

立ち上がった時だった。
花が伯爵にぶつかった。

「すみません~~~」

と言って去って行った。

「ええい!」と伯爵はむかついて叫んだが
どうも様子がおかしい。

周りの人たちが
笑っている。
伯爵を見て、笑っているのだ。

「みんなどうしたのかしら?」

と夫人は言った。

「うん?」
伯爵は周りをくるっと見た。

みんなが笑っていたのは伯爵の背中に
張り紙がしてあったからだ。

「我輩は伯爵さまなるぞ、エッヘン」

とあった。

綾小路先生が
怒って「だれですか、このようないたずらをしたのは」

といった。

伯爵はこっちをみた。

「申し訳ございません」

といって
先生は
貼り紙をはがした。


すると

その下に

もう一枚

「家の名は大事だぞ、
エッヘン!」

とあった。


それを先生は声に出して読んだので

「なに?」と伯爵

「あ」、と先生

「え?」と夫人・・・


先生は
「申し訳ございません。


もう!!!

だれですか!!!!」



と、金切り声をあげて叫んだ。


こそこそと逃げる花と蓮子。

「待ちなさい!!!」

立ち止まる蓮子。

花は逃げる体制で

蓮子の腕をつかんだ。

「行きましょ!!」

「え???」

鐘がなった・・・

二人は走って逃げた。

花は蓮子の手を取って
走った。

学校前に泊まっていた電車に乗った。

二人は大笑いをしながら
電車に乗った。

「ああ、面白かった」
「ええ~~あはははは」


電車が動いた。

ハッと我に返った。


乗客はおかしな顔をしてみている。
おかしな衣装を着た二人が
なぜか大笑いをしているからだ。

それでまた二人は大笑いをした。


「ね、蓮子さん、私の腹心の友になって?」

「・・ええ!」

また笑った。

★この日は二人にとって生涯忘れられない
記念日になりました。

では、また来週・・・

ごきげんよう

さようなら・・・

**************

あれほど問題の多かったお芝居が
大成功でよかったですね。

でも、明治のはいからなシーンに
この衣装はまた素敵に映えました。

葉山をよく思っていなかった
亜矢子はきっと一緒にお芝居をして
良かったと思ったはずです。

それから、最後の学校から逃げるシーン
は、鐘が鳴りますね・・

小間使いの質素な衣装の花と
お嬢様の衣装の蓮子・・・
花が蓮子の手をひいて走って逃げる
シーンは・・・

映画の「卒業」の最後のシーン

エレーーーーン~~~って
彼女の手を引いて逃げるシーン。

あのシーンに似ている

と思うのは私だけ?

だって鐘がなるではないですか。

女子高の疑似恋愛はよくあるとは
いいますが、私も女子高でした。

ありました・・・。

すてきなお姉さまはいらっしゃいます。
で、文化祭でお芝居もされまして
また、かっこいいのですよ・・・女の子
なのにね。
宝塚ぽくて。


夢のような女学校の文化祭。
ロマンチックですね。
いい時代だったのだと思います。