嵐を呼ぶ編入生1
1945年昭和20年東京でのこと。
花は赤毛のアンの翻訳をしていた。
おおダイアナ・・・・
やっとのことでアンは囁くような声で言った。
ねえあんた、わたしのbosom friendになってくれて・・・
bosom?なんだろ?
花は辞書を引いた。
親友?心の友??違うなぁ~~~
花は窓の外・・暗がりの中を桜の花びらが
落ちていくのを見た。
ひらひら・・・・ひらひら・・・と・・
その花びらを見てひらめいた。
腹心の友・・・・
腹心・・・・
私の腹心の友になってくれて・・・
訳をしながら花はあの日桜が舞い散る
校庭に立っていた自分を思い出した。
その日出会った人がいた。
1909年明治42年四月だった。
桜の花が満開となり、また
散って行く桜の花びらが舞っている
校庭だった。
花は一句読んだ。
「学び舎に帰りて見れば
桜ばな・・・
今を盛りに咲き誇るなり・・・
・・・・・・・・花子」
気持ちのいい風景だった。
その時
校門前に車が止まった。
花は何事と思ってそちらを見た。
降りてきたのは美しい女性だった。
彼女はじっと見ている花に向かって
いった。
「ごきげんよう・・・」
あまりにも突然だったのでごきげんようと
いう前に女性は「校長室はどこかしら」と
聞いた。
「ご案内します。」と花はやっと答えた。
運転手が荷物をもって一緒に入ろうとした
ので、「すみません、うちの学校は男子禁制
なのでここから先は入れないです」と
花は言った。
「行ってらっしゃいませ、お気をつけて」と
その男性はいった。そして荷物を
置いた。
女性はうなずいた。そしてすたすたと
花の横を通り過ぎたので
花は、あわてて、彼女の荷物をもった。
★これが不思議な編入生と花
との出会いでした。
花は彼女の荷物をもって校舎の中に入った。
それを女学生たちはわいわいと
見ていた。
醍醐亜矢子は「どちらのご令嬢かしら」と
さっそく只者ではないことに
気が付いたらしい。
彼女は葉山蓮子という。
そこへ茂木が走ってきた。
「もう、おつきになられたんですね。」
「迎えが遅いからこの子に
案内してもらいました。」と花を見た。
「それは大変失礼をいたしました。」
「この人は何者?」と花はじっと
蓮子をみた。
茂木は「花さん、ご苦労さん」と
いって、蓮子の荷物を
受け取った。
★先生にも高飛車な編入生の態度に
花はただ、圧倒されておりました。
蓮子はスタスタと、廊下を歩いていく。
茂木は花から荷物を受け取って
追いかけた。
★いったい何者なのでしょう?
「あのお着物ごらんになりました?」
「ええ・・・」
「帯びは京都の西陣のそれは高価な
ものでしたわ・・・。」
目ざとい亜矢子である。
「きっと大変なおうちの方よ。」
「花さん、あのかたと何をお話になったの?」
「ああ・・・校長室はどこかと聞かれて。」
「どんなお声でした?」
亜矢子はうきうきした様子で聞く。
花はふと考えて、こんな感じと
真似をした。
顎をついとあげて、クールに
「校長室はどこかしら・・・・」
といった。
亜矢子は喜んだ。
亜矢子と友人はきゃっきゃと
喜び
「他には?」と聞く。
「迎えが遅いのでこの子に案内して
もらいました・・・」
花は言い終わってうれしそうに
したが亜矢子たちは
黙っていた。
それもそのはずで花の後ろに
茂木先生と蓮子がいたのだった。
茂木先生は
「う・・うん!」と咳払いをして
「花さん」と言った。
「て!!」
花はびっくりした。
抜け目のない亜矢子は
松平が抜けた後の自分たちの
部屋に、蓮子に来てほしいというが
蓮子は個室だった。
茂木は蓮子を連れて部屋に行こうとして
花にいった。
「夕食の時間になったら食堂に
葉山さんをお連れしてください」と。
花は・・・「はい・・」と返事をした。
茂木は様子を知っているらしいが
富山やほかの先生は知らない。
蓮子は葉山伯爵の妹さんで
年は24歳。同級生より8歳年上で
ある。なぜここに?と思うかもしれないけど
蓮子のことは校長がよくご存じなので
詮索しないことにしましょうと、先生たちに
茂木は言った。
花は言われた通り、蓮子の部屋にいって
ノックをして夕食の時間だと
告げた。
返事がない、花はもう一度いった。
「お食事のお時間です・・・食堂へ・・」
というと
蓮子が返事をした。
「食堂へは参りません。こちらでいただきます。」
花は「え?」と驚いたが、「わかりました」といった。
そして、お盆に食事を乗せて持って行った。
「お食事をお持ちしました」
「お入りなさい」
「失礼いたします」
中に入って食事を置いた。
じっと本を読んでいた蓮子は
顔も上げずに言った。
「もう、さがっていいわ・・・。」
「え・・・?
失礼いたしました・・・」
腑に落ちない様子で花は部屋を出た。
「もうさがっていいわ?
普通はありがとう、よね?」
と、あまりの理不尽さについ
愚痴が出た。
授業が始まった。
「今日から皆さんと一緒に学ばれる
編入生の葉山蓮子様です。」
と茂木が紹介した。
「クラスメートに一言ご挨拶を
どうぞ」
蓮子はぐるっと教室を見渡した。
醍醐達もなにをいうのかと
じっと緊張してみていた。
そして、
蓮子は
「ごきげんよう・・・」と言った。
茂木は「本当に一言ですね」と言った。
休み時間、亜矢子たちは蓮子の周りに
集まった。
「葉山さま、こちらの前はどちらに
いらしゃったのですか?」
「華族女学校ですか?」
「それともご両親のもとで
花嫁修業をなさっていたのですか?」
蓮子は、顔を上げて亜矢子たちを見あげて
いった。
「ご想像にお任せします・・・。」
「まぁ・・・」
と亜矢子たちは感激した。
蓮子はそっと花を見た。
花はひとりで本を読んでいた。
他の女学生はこうしてみんなと一緒に
おしゃべりをしているというのに。
甲府の実家に花からハガキが
とどいた。
「前略、おっかーおかわりありませんか?
こちらは今、校庭の桜が満開でそれはそれは
美しいです。」
朝市がハガキを読んでいる。
ふじと周造がそれを聞く。
「かよと、約束した通り私は、首席をとるよう
精進しています。
数学とお裁縫はどうしても苦手ですが
英語の勉強はやればやるほど楽しくなります。
もうじき田お越しですね。
おじいやんに無理して腰を痛めんように
伝えてくれちゃ。」
周造はうなずいた。
「おかあもお体を大切に・・
Thank you.
花子・・・」
「朝市いつも、Thank youね?あははは・・」
朝市はふと、ハガキの横に
追伸があるのを見た。
朝市へという追伸である。
「朝市、勉強続けているけ?
私もがんばるから朝市もこびっと
がんばれし。」
と・・あった。
朝市は教会で勉強していた。
牧師さんが声をかけた。
「朝市君いつも感心だね。」
朝市は、りんが米を作るのに
勉強は関係ないというので
こっそりと内緒で来ていることを
つげた。
「それじゃ、人の役に立つ勉強を
したらどうだい?」
牧師の提案に朝市は驚いた。
「どういうことですか??」
そのころ英語の授業だった。
ロミオとジュリエットを読んでいた。
英文を読んで訳していく。花が訳していく。
「Kisses her
ジュリエットに接吻をする」
Thus from my lips by yours. my sin is purged.
ほら、あなたの唇のおかげで私の唇が
清められました・・・。」
「そこまでで結構です。
この先は割愛して次の章へ移ります。」
富山が言った。
「ちょっと待ってください
ここはロミオとジュリエットが愛を確かめ合う
大変重要な章だと思うのですが。」と花。
「授業の教材としてふさわしくないと
言っているのです。」
「・・・どうしてふさわしくないのですか?」
花は納得がいかない。
クラスにはまたか、という雰囲気が流れた。
富山は花のおかげでこのクラスは
授業が遅れていることをいう。
「さ、次へ進みますよ、」
というのでみんなページをめくる。
花はあきらめて椅子に座った。
そこで・・・
声がした。
葉山だった。
「柔肌の熱き血潮にふれもみで
さみしからずや、道を説く 君・・・・」
みんな何事かと振り向く。
富山は「なんですかその歌は」という。
蓮子は「与謝野晶子です」というが
「そんなことを聞いているのではありません
なぜ、英語の授業に短歌など」と言った。
蓮子は「なぜかしら?」
といって
「今のやり取りを聞いていたら急にこの歌が
頭に浮かびましたの。」
「あなたまで授業の邪魔をするのですか?」
「先生は男女の恋愛をけがらわしいものだと
決めつけているようですね。
それは、ご自身の恋愛経験が乏しいからでは?」
クラス中が騒然となった。
心に思っていても口に出して言えないことを
この編入生が言ってのけたからだ。
花もびっくりした。
富山は興奮した。
「何を言うの、あなたは教師を侮辱するのですか。」
「いいえ、客観的な感想を述べただけです。」
花は、やりすぎだよという表情をした。
富山は怒っていった
「出て行きなさい!!
ゴーツーベッドーーー!!!」
蓮子は、本を持って立ち上がり
言った。
「では、お先に。ごめんあそばせ。」
★どうやらこの編入生、富山先生よりも
一枚も二枚も上手のようですね。
ごめんあそばせ・・・。
教室を出た蓮子は廊下に校長と茂木
がいたので、頭を下げてさっていった。
廊下から窓を見ると桜が満開だった。
散る桜を見る蓮子・・・
★ごきげんよう
さようなら
*************
蓮子とは?
腹心の友だというが
どういういきさつでそうなるのか
わからない。
英語の授業では
キスシーンが
教材にふさわしくないなら
なぜロミオとジュリエットを
教材に使ったのか・・・この学校は!と
思うのだけどね・・・。
こんな教材だったら、多少優しい文体で
中学生でも読めるようにしたら
英語が嫌いな生徒がいなくなるかもと
思うけど。
今回は
桜の花びらのシーンがきれいでした。
