初恋パルピテーション2
「花子さんは実に英語の発音が
きれいですね。」
「て?」
「どうかなさいましたか?花子さん」
★花は生まれて初めて花子と呼んで
くれる人が現れ、花は恋に落ちてしまったようです。
花の部屋に亜矢子たちが
揃っていた。
いち、にの・・・さん!
三人の女学生は袂から
付文をだした。
「醍醐さんが一番多いですわね。」
「みなさんだって・・
あら、花さんは一通もいただかなかったの?」
浮かぬ顔の花だった。
亜矢子は「ついにおくての花さんにも
ときめく男性が現れたわね」
という。さきほどの花のときめきを
見逃さなかったようだ。
「北沢さまでしょ?」
「ちがいます」
「花さんも北沢さまから付文が来るといいわね。
では失礼して読ませていただくわ。」
亜矢子たちはうれしそうに、付文を
ほどいて読もうとした・・・・ら。
花は驚いた顔をした。なにかをいおうと
したのだが・・・・・・・・
亜矢子の手にあった付文が
取り上げられてしまった。
つぎつぎと取り上げられていく
付文・・
「あ??」
ブラックバーン校長が何も言わないで
どんどん取り上げて・・
あっけにとられる彼女たちを無視して
集めた付文をもって
暖炉にくべてしまった。
付文は、勢いよく燃えた。
「ブラックバーン校長、それだけは・・」
「きゃーーーーー!!!」
校長はさっさと彼女たちの前に来て
いった・・・・・
早口の英語だった・・・・・。
花は、「反省文百回・・・・」と通訳をした。
うなだれる三人。
原稿用紙にペンで書いている彼女たち。
「全部燃やすなんて・・・。」
「あの中にわたくしの王子様がいたかも
しれないのに。」
花は英語のカードをめくりながらその話を
聞いていた。
亜矢子は決意した。
「こうなったら、今度はブラックバーン校長にみつから
ないように、やりましょう。」
「醍醐さん・・・」
「門限の5時までに外で読んでから
帰りましょう。付文には将来の結婚と
女の幸せがかかっているんですもの。」
そういって反省文を書き始める
亜矢子だった。
花はカードに絵をかいて
うらには英語の単語をかいた。
「それ、ミニちゃんに?」
「花さん、小さな子供が好きだわね。」
花は泣いているミニをみたら
一番小さな妹の桃を思い出したという。
「毎日私がおんぶして学校へ行っていたの。」
三人のお嬢様は驚いた。
「ここにはいないけど、私が行っていた
尋常小学校では女の子はたいてい
子守をしながら授業を受けていました。」
「・・・花さん、よけいなことかもしれないけど」
と亜矢子。
「北沢さんとお近づきになりたかったら
あなたが給費生だということは
黙っていたほうが良くてよ。
あの方のおうちは金沢の由緒ある
おうちでお父様は地元の名士なんですって
家柄もよくて帝大生で。
わたくし、花さんに好きな方ができて
うれしいの。ぜひ、あの方とうまくいってほしいの
よ。だから・・・・」
「醍醐さん!・・・・ありがとう。
でもわたし、嘘をついてまで帝大生と
おちかづきに成りたいと思わないわ。」
★その時は心からそう思う花でしたが。
次の日曜日、あの方と目が合うとどうしても
ドキドキときめいてしまうのでした。
教会で礼拝をする花たちと帝大生たち。
季節は冬でクリスマス。
帝大生は礼拝が終わってから
花たちに話をした。
クリスマスなので子供たちに何かしてあげたいと。
「そこで修和女学校の麗しいお嬢さま
たちにもお手伝いをしてほしいのです。」
「ええ、喜んでお力になりますわ」
「なにをやるんですか?」
まだ、決まっていなくてという。
なにができるか、ときくと
それぞれ、お琴を、踊りを・・・と
お嬢様らしい答えがくる。
「あの・・・紙芝居はどうでしょうか。」
と、花は言う。
「紙と絵の具があればできますから。」
「たとえば?」と北沢。
「親指姫とか・・・」
「アンデルセン童話ですね・・・・」と北沢。
「いいですね・・・」と北沢の賛同を得た。
みんな賛成をした。
画用紙に絵をかいて
それぞれの役を決めて
と作業を始めた。
その時北沢は絵に色を塗りながら
「花子さん、親指姫はいつ読まれたんですか?」
と聞く。
花はどきどきしながら、父に初めて
かってもらった絵本ということをいう。
すると、北沢は感動して、「お父様は
何をされているのですか」と聞く。
花は、またどきどきしながら・・・・つい
亜矢子の助言を気にしていった。
「あちこち飛び回っています。」
「海外へも?」
「海外???」
「花子さんの英語の発音はお父様
仕込みかと。」
亜矢子ははっとしてつい二人の話を聞いて
しまった。
「はい・・・英語は最初だけ父に教わりました。」
~~グッドアフタヌーン!~~である。
「やっぱりそうか、花子さんのお父様は
貿易会社を経営されているのですね。」
「・・・・ええ・・・そうです・・・・」
亜矢子は微笑んだ・・・。
「言ってしまった・・・・」と、複雑な花だった。
そのころおとうはおとうで家族が知らない
秘密の仕事をしていました。
社会主義の啓蒙だった。
「日露戦争が終わって国は軍隊に
金ばかりつかっている。
そんなことに税金を投入するので
我々の生活はますます苦しくなるのだ
これでいいのか、いいわけない
社会主義の思想で世の中を変えよう。
これを読んでくれないか?」
隣で商売していたおやじが
「おまえがいたら商売あがったりだ。
どっかへいってくれないか」、という。
なかなか、理解されない活動だった。
さて、クリスマスの孤児院での話。
親指姫の紙芝居ができて
子供たちの前で発表となった。
「むかしむかし、あるところに子供のいない
女の人がいました・・・
女の人は魔法使いに頼んで小さくても子供が
ほしいといいました・・・・・」
ナレーションは花、親指姫は亜矢子だった。
魔法使いは花の種をくれました。
女の人はその種をまくと
チューリップが咲いてなかから小さな女の子が
うまれました・・・
「はじめまして、わたくし親指姫です。」
かわいい絵の前に棒の先につけた
蝶々がゆらゆらと動くのでみんな笑った。
子供たちはおもしろそうに見ていた。
しかし・・・昨日のあの金髪の少女ミニちゃんは
つまらなさそうにしていた。
日本語がわからないのだ。
最後に子供たちみんなにプレゼントを渡して
「さよなら、メリークリスマス」といった。
「大成功でしたね」、岩田は亜矢子にいった。
「ええ、では私たちはこれで・・・ごきげんよう」、
といって亜矢子は帰ろうとした。
岩田は付文を亜矢子の袂に入れた。
他の学生も、つぎつぎとお目当ての
女学生に付文をした。
花は気になっていたミニをさがした。
ミニは窓の外を見ていた。
北沢が花のところに来て、「あのこに
英語で紙芝居をやってあげたいのです」
という。
同じことを考えていたのだった。
「花子さん親指姫をやっていただけませんか?」
「ええ。」
二人は英語で親指姫をはじめた。
ミニはよろこんだ。
王子様は、北沢だった。
親指姫にプロポーズをするセリフがある。
「僕と結婚してください」
英語を英語と思えない花は
心臓が止まるほどどきどきした。
セリフなのにである。
「え?」という
北沢も・・・「え?」と聞き返した。
「王子様
私もお慕い申し上げております・・・」
これはかなり真剣に答えている
と聞き取れた。
北沢は花をじっとみたが
花は現実に戻って、
「と、親指姫は言いました」
と続けた・・・・・。
「二人は結婚して幸せに暮らしました・・・」と北沢。
暗くなった道を寄宿舎に帰る花と
それを送り届ける北沢。
寄宿舎のまえで
以前いったように亜矢子たちは
付文を読んでいた。
彼女たちは何をしているのかと
北沢は聞く。
花は付文を持って帰ると
校長先生に燃やされると
いう。
茂木が現れた。
付文を隠す亜矢子たち。
花も隠れた。
「こんなところを見られたら
大変でしたね」と北沢。
「正月は金沢に帰るのでしばらく
あえませんね、今度は新年会を
しましょう。」という。
花は嘘をついていることが急に
辛くなりました。
「北沢さん・・・・」と花は言った。
「はい?」
「実は・・・・
わたし・・・・
給費生・・・」
と、言いかけた時、5時の鐘が鳴った。
花の言葉はかき消された。
花はあわてて、「すみません、今何時ですか」
と聞く。
北沢は懐中時計を出して
「5時1分すぎたところです」という。
「て!!!!
てーへんだ、門限破っちまった!!!」
「え?」
「北沢さん・・・また・・
ごきげんよう、さよなら。」
そういって花は走り出した。
★花の初恋。
この分では先が思いやられますね。
ごきげんよう。
さようなら・・・。
****************
先が思いやられるというレベルではない。
この時代、この環境で
どうやったら恋愛が成就されるものか。
うそをつくとあとでとんでもないことが
おきるもの・・・である。
また、初恋は無残にも終わるものである。
結ばれないのだ。
なので・・・
そこそこにしていおくべきだと
思うが・・・
ただ、花子さんと呼ばれただけで
うっとりできるものなのかと
不思議である。
もし・・・
北沢が・・
ぶっさいくな、ブタのようなおなかをして
顎の下がすぐ胸で
糸のような眼をした
男だったら・・
花子さんと言われて、ときめいただろうか?
ようは見かけである。
お互い、幻覚を見ているのである。
正しく相手を見ていないのである。
しかも・・・
花の素性は
嘘である・・・。
初恋は泡のようなものともいえるが
根性のない、炭酸水の炭酸のような
泡だと思う・・・・。
