初恋パルピテーション1
★5年前修和女学校に来た頃
英語が恐ろしくて
西洋人の先生たちから逃げ回っていた
花でした。ところが今では横文字のほうが
なくてはならないほど英語が大好き
になりました。
そんな花は廊下を走った罰として
ブラックバーン校長から
ゴーツーベッドを命じられる・・・。
布団の中で
花が英語の本を読んでいると
この単語がわからない。
さきほど、廊下を走ったのは
図書室へ行って調べようと思った
単語だった。
「palpitation・・・・・・」
指でなぞって、なんだろう?と
考えるが・・・
そこへ醍醐たちが入ってくる。
「ごきげんよう~~」
と亜矢子は声をかける。
「ごきげんよう」、と花。
「花さん、また廊下を走って
ゴーツーベッド??」
と、聞く。
花は、亜矢子に「辞書を貸してくださらない?」
と聞く。
亜矢子は「よくてよ」といって、貸してくれた。
机に向かって調べていると
亜矢子たちは縁談の話を始めた。
「わたくし・・両親から縁談をすすめられました
の。」
「どういうかたですの?」
「御家柄は申し分ないのですが、
イノシシのようなかた・・・
もっと素敵な方が現れないかしら・・」
すると亜矢子は
「今度日曜学校へ行くとあえるかもよ。」
という。
亜矢子たちは声を上げて
「そうね」、とよろこぶが
その声に紛れて花が
「あったぁ~~」とうれしそうな声をあげる。
亜矢子がそっちをむくと
花は、「palpitation・・・ときめきかぁ~~~」
という。
「まぁ、出会いあのときめき」
「ロマンスのときめき!」
と口々に亜矢子たちが
感動していると花が
「いいえ!!
これは、90歳のおじいさんのお話なので
動悸、息切れと訳したほうが
いいと思います。」
と、いう。亜矢子たちとは話の筋が
違うのだ。
あっけにとられる亜矢子たちは
つい花に聞く。
亜矢子は
「ねぇ、花さんはどんな時にときめくの?」
「それは・・・」
と考えて
「こんな風に辞書を引くときです・・」
と答える。
「未知の言葉の意味が分かるワクワクした
気持ちがたまりません。」
3人の友人たちは
「ほほほほ」と笑って
「辞書にときめくなんて
ほんとうに花さんて
かわっていること・・・」
という。花は「繰り返し申し上げますが
わたしのことは、花ではなく
花子と呼んでください。」
すると三人のご友人たちはぽかん
とした。
亜矢子は
「子の着く名前なんてここには
たくさんいるわ、花のほうが
花さんらしくていいわよ。」
という。
三人は、「ええ!」と相槌を打つので
花はそれ以上いうのをあきらめた。
『前略・・・
お母様、お元気ですか?
花子は元気でやっています。
富士山はもうすっかり雪化粧をして
美しいでしょうね。
今度のお正月も甲府に帰れませんが
どうかみなさんお体に気を付けて
良いお年をお迎えください。
ごきげんよう。Thank you・・・花子』
「朝市いつもありがとうね」とふじ。
朝市に手紙を読んでもらったのだ。
「花すっかり東京言葉になって」と朝市
「お母様なんてよその人みたいだな」とりん
「そうさな、 もう五年もここに帰って
ないしな・・・」と周造。
野良に行く朝市に、ふじは「文字を教えてほしい。
自分で手紙を書きたい」という。
朝市はうれしそうに引き受けた。
★花にまけないくらい勉強が好きだった
朝市は上の学校へは行かずお百姓さんに
なりました。
本科の英語の授業だった。
富山が講義をしていた。
「My hair is turning gray.
私の髪は灰色に変わってきました。
That is a long story.
それは長い物語です。」
「・・・そうかなぁ・・・・」
花がつぶやくと富山はぎろっと
目を向けていった。
「安東さん、質問があるならおっしゃい。」
「私は少し違う訳をしました。」
「・・いってごらんなさい。
あなたの訳とやらを・・」
花は立ち上がった。
「My hair is turning gray.
私は白髪が増えてきました。
That is a long story.
話せば長いのよ・・。」
富山はそれをきいて
「つまり・・・
あなたは私の訳が間違っていると
いいたいの?
そんな砕けた訳は私の授業では
みとめません。
わかりましたね。」
クラスはざわついた。
授業が終わってから
亜矢子は花に言った。
「花さんの訳のほうがわかりやすかったわ。
自信をもって!」
他の友人たちもそうよといって
応援してくれる。
亜矢子は、「そんなに勉強ばかり
していると富山先生や白鳥さまのように
お嫁に行きそびれるわよ・・。」
という。
「え?」
「あ、うわさをすれば」
★花の天敵の白鳥かをる子様です。
卒業後も学校に残りいまもこのとおり
幅を利かせていらっしゃいます。
花たちは廊下の隅に一列になって
頭を下げた。
「安東花さん・・お父様が面会室で
お待ちです。」
「て!」
「て?」
「いえ、ありがとうございます。
失礼します。」
花はそういって廊下を
急いで歩いたので
亜矢子たちは白鳥が何かを言う前に
「白鳥さま・・」といって
取り囲んだ。
そんな亜矢子たちのきづかいも
茂木の前では
通じず、「廊下は静かに歩きなさい」と
言われた。
「おとう!!」
部屋に入ると吉平が
いた。
「グッドアフタヌーン花・・」
「グッドアフタヌーンお父様」
「お、お父様・・・」
照れながら「げんきそうじゃな」と
いう。
東北へ行っていたというが
茂木先生から英語で一番だった
と聞いたとうれしそうだった。
花は一家の希望の光だというが
「今度の正月は甲府へ帰れという。
汽車賃はなんとかするから」という。
花は、「そのお金で家族においしいものを
食べさせてあげて」という。
「寄宿舎のお正月も悪くないのよ。
誰もいないから図書室は
使い放題だし、本は読み放題だし」と
いう花。
あきらかに我慢している様子だと
吉平は思った。
★花のそんな強がりをおとうもよくわかって
おりました。
窓から吉平が帰る様子を見る花。
「みんなにあいてーなー」と
つぶやく。茂木がそっと聞いていた。
★日曜日がやってまいりました。
花たちは毎週孤児院にでむき
恵まれない子供たちのために
奉仕活動を行います。
★それにしてもお嬢様たち
ずいぶんと気合が入っております。
♪いつくしみ深きともなるイエスは・・
の歌を歌って礼拝をする。
★礼拝の後はいよいよ、奉仕活動。
ミッションスクールの生徒にとっては
異性と知り合う唯一のチャンスです。
そこには帝大生が来ていた。
花は子供たちと
楽しそうに鬼ごっこを仕切っていた。
亜矢子は帝大生をさしていう。
「あの背の高い岩田さま、おうちが
大富豪なんですよ。
その隣の北沢さまは金沢の由緒ある
御家柄で帝大一の秀才なんですって。
おまけにあの通り眉目秀麗。」
きゃっきゃっと笑う亜矢子たち。
「後ろの正面だあれ?」
「花お姉さん」
「花じゃなくて
花子でしょ。」
「花は花だぁ~~~」と
子供たちは「わぁ~~」と走って
いった。
追いかけると、廊下でひとりぽつんとしている
子供がいた。
金髪の女の子だった。
花は英語で話しかけた。
「クッキーはいかが?」
いやと頭を振る。(イッツ ヤミと花はいうが。)
「一緒にあっちで遊びましょ?」
嫌だという。
手を引くと泣き出した。
「びっくりさせてごめんなさい、困ったな。」
そこへ先ほどの北沢がきた。
「この歌知ってる?」
そういってキラキラ星を
歌った。
すると、女の子は一緒に歌い始めた。
明らかに機嫌がよくなった。
クッキーを食べる女の子。
「ヤミ?」と聞くとうんうんとうなずく。
花はうれしくなった。
亜矢子はこの子の状況を知っていて
カナダから来たという。
「貿易商のお父様と一緒だったけど
亡くなった」という。
「ずっと誰にも心を開かなかったらしい」と。
「花さん」、といって亜矢子は北沢がきたこと
を花にいう。
花は「先ほどはありがとうございました」という。
北沢は、「たまたま知っている童謡だった
ので」というが、友人の岩田が
北沢のことを話す。10歳の時から
イギリス人の英語の家庭教師について
勉強して英語がペラペラなんだと。
花は「そうなんですか。」
と驚くがもっと驚くことがあった。
それは、北沢が
「花子さんは英語の発音がきれいですね。」
といったのだ。
まさしく花の心にドギューンと
バズーカ砲がぶち込まれた。
「て?」
「申し遅れました、北沢です
花子さん」
「て??
花子???」
★花は心臓が飛び出すかと思いました。
生まれて初めて花を花子を呼んでくれる
人が現れたのです。
palpitation!!!!!!!
これぞときめきというものでした。
ごきげんよう
さようなら・・・
****************
なんというべたな出会いでしょうか。
初恋とはこんなにもべたでしたでしょうか。
それにしても、クッキーをさして
イッツヤミ・・・とは
ごちそうさんと同じではないですか。
(進駐軍のモリス大尉がめいこの
おにぎりを食べてヤミといった)
で、ここには
西門悠太郎はこないのでしょうか。
ボート部の応援で忙しいのでしょうか。
確かにごちそうさんとは
時代的にかぶっているので
懐かしく思います。
帝大生ってことも
女学校ってことも
悠太郎とめいこを思い出します。
ただ、よく読めば悠太郎とめいこが
であったのは、大正になってから
でした・・・。ちょっと花子のほうが
時代が古いです。
花は相変わらず地味な着物を着ています。
華やかなお嬢様ばかりの学校での中で
クールだなと思いました。
また、周りが花の地味さを
はやし立てないところが
上品な学校だなとも思いました。
いい時代ですよね。
