エーゴってなんずら?4

学校内の格子の塀の内側に
夜ともなればガス灯がともる。

★あの晩からこのガス灯の下が
花とおとうの待ち合わせの秘密の場所となり
ました。

そっと抜け出す花。
茂木がランプをもって見回りに
あるく。
花を見つけて声をかけるが
ご不浄へいくといって
去っていく。

やっとのことでおとうのいるガス灯の
下にたどりつく。

もう来ないのかと思っていたので
おとうも花にあえてうれしいらしい。

「グッドイブニング、おとう」

「グッドイブニング、花~。」

「どうだ学校は?」
と聞く。

花は「校長のブラックバーン先生は
鬼みてーにおっかないし
英語の富山先生は全然笑わないし
寮母の茂木先生は時々優しいけど
行儀作法にうるさくて・・・」という。

「てーへんじゃの~~
友達はできたけ?」

花は頭をふった。
「お嬢様の頭の中はお見合いや
縁談のことばっかしで
おら、さっぱり話について行けねーさ。」

「ほーかぁ・・・」

吉平はうなずいた。

花はおっかーやおじいのことを聞く。

「おっかーは花のシンペーばかりしとる
腹すいてねーか
風邪ひいてねーか
って」

「あにやんは?かよやももは?」
「吉太郎は学校にも行かないで
野良仕事ばかりしとる。
かよは、昔の花みたいに
もものせわをしとる・・・・。

花・・ここでやっていけそうか?
給費生は花一人だし
肩身の狭い思いをしてるのではないか?
このまえもこの柵を乗り越えて
逃げようとしていたな?」

花はじっと考えて
「あれは、柵に上ってお月様を見ていた
だけじゃんけ。
毎日、腹いっペー食わしてもらって
ふかふかのふとんでねて
図書室にはたくさんの本があって
おらだけうちの仕事もしねーで
お姫様のくらしをさしてもらっているだ。
ありがたくってもったいねーだよ
おら、逃げねー。
お嬢様たちに負けないようこびっと
精進する・・・。」

吉平はいちいち「ほーか、ほーか」とうなずく。

そこにスコット先生の歌が聞こえてくる・・。
二人は聞き惚れた。

さて、12月となった。

富山は二学期の総まとめの課題として
ブラックバーン先生へ日頃の感謝の気持ちを込めて
手紙をかくという。
期日までにかけなかったり、校長が点数をくれなかったら
落第となって進級できないという。

花のピンチである。

お裁縫の時間となった。
綾子は花に声をかけた。

「どうしよう?英語の手紙なんて書いたこと
ないわ。」

「おらやっとこさ、ABCを覚えたのに
英語の手紙なんて無理じゃ・・・」

すると茂木がやってきて
お裁縫の進み具合を見る。

「なんですか?この縫い目は?」

と言われた。雑であった。

寮の部屋では、悩みながら英語に
挑戦していた花に、綾子は声をかける。

綾子は英語の辞書を持っていた。
それを貸してあげるというのだ。
「一緒に進級しましょう?
花さんに落第されると困るの・・」
という・・・どういう意味だ?

「手紙は最初にDear Miss Blackburneと
かくのよ。」
と綾子はいう。
すると同室で勉強していた白鳥が、「課題は
試験と一緒だから、助け合ってはいけません」
という。

花は、綾子に「おらがんばるだよ」、という。

白鳥は、「それにそのなまりはいつになったら
なおるのですか?」とまた聞いた。

こちらは吉平だった。
宿のほうに労民新聞の社主、浅田からの
伝言が届いていたので
やってきた。

浅田は以前社会主義の講演会で
人は平等だ、働くものが報われる世の中を
と訴えた人だ。
それに心酔した吉平が昨日、ここに尋ねてきて
なにかできることはないかと聞いたのだった。

浅田が「昨日は留守をしていてすみ
ませんでした」といって事務所の奥から
出てきた。

そして、全国を行商している吉平に
自分たちの出版物をもって売ってほしいという。
社会主義の伝道をお願いしたいという。
名ずけて伝道行商・・・・と。
「お願いできませんか?」

快く引き受ける吉平だった。

★おとうがそんなことに首をつっこんで
いるとは家族は夢にも思いませんでした。

木場りんは「花は暮も正月もけーてこんだけ?」
と聞く。
帰れないというより、帰る汽車賃がないと
ふじはいった。

「婿殿が東京へ行ったきり帰ってこないので
様子がわからない」と周造はいった。

木場りんは、「東京の女学校なんかにやるから
婿殿と同じキリスト教かぶれになって
帰ってこれないんだ。こんなんじゃ嫁の貰い手も
なくなる」という。

「いや・・・・」と声がした。

りんがふりむくと朝市が野良を手伝っている。

「嫁の貰い手なら・・・おる!」といった。

リンも周造もふじも・・・
「そんな物好きがおるわけねーだ」といった。

そんな花は夜になり
ガス灯の下にいったが
おとうはいない。
おとうは忙しいのかなと
さみしくなった。

そこにまたスコット先生の
あの歌が聞こえてきた。

★英語の歌詞はわからないけどなぜか
この歌に心が引かれる花でした。

そして・・・小さな声で歌うのでした。

(花!!英語歌えるんだ!)

★この曲は別れた恋人への気持ちを
歌った歌です。

あのペンダントにあった鼻の高い男性の写真。
それを見ているスコット先生。

★スコット先生には日本に来るとき別れを告げた
恋人がいたのです。

富山先生の英語の時間だった。

「課題は今日までですから
まだ提出していないひとは
提出してください。」

先生は言うのでつぎつぎと提出する
クラスメートたち。

★手も足も出ず花は絶望してしまいました。

紙にはDear Miss Blackburne・・・と書いた
切りだった・・。

スコット先生の部屋を掃除する花・・・。
やはり、綾子はいない。

カーペットをブラシでこすりながら独り言をいう。

「おとう、ごめん、おら、これで落第じゃ・・」

『まだまだとおもい

すごしおるうちに

はや・・・

落第の道へ

むかうものなり・・・』

と、辞世の句をパロディで読んで
ため息をついた。

すると、そばにあったゴミ箱を
ころがしてしまい
中の紙くずをまき散らしてしまった。

あわてて紙くずをゴミ箱に返すが
最後の紙を見て、驚いた。

「なんでぇ?これ・・・・」

と紙くずを広げてみる花だった。

廊下を歩く富山を
追いかける花。

「富山先生!!!

これ、おねげーしやす!!」

花は課題の手紙を差し出して
頭を下げた。

「あら、まにあったんですか。」

「おねげーしやす!!」

また頭を下げた。

富山は手紙を受け取り

「わかりました、ブラックバーン校長に
読んでもらいましょう」、という。
そして廊下を曲がって
去っていった。

花は一息ついた。

★さて、花はいったいどんな手紙を
かいたのでしょう?

この手紙がとんでもない騒動を
引き起こすのでした。

「Miss Blackburne!
It's Toyama!」

富山は、校長の部屋をノックした。

★ごきげんよう、さようなら・・・

部屋から声がした。

「Come in!!!!!!」

*************

まず吉平。
危ないことに利用されているのでは
ないかと思う。

浅田は昨日は留守にしてというが
そこにいたはずだったが。

貧しい学も金もなさそうな
吉平をみて相手にする価値もないと
判断したのか。
政治家はいつの世でも庶民の味方
にはならないようだ。

その吉平をよんで利用しようとしている
のか?出版物を売れという。
その売り上げのいくらかを
吉平にというのなら納得するが
そんなことも言わない。

そのうち、吉平は捕まるのではと
思う・・・捕まっても
浅田たちからトカゲのしっぽ切りをされるのでは?
と思う。

さて、ピンチの花は
英語に苦労していた。

それでも、スコット先生の歌は覚え
るほど好きだったらしい。

歌えるようになったようだ。

提出した手紙・・・
まさか

スコット先生の、

すてた手紙をみつけて
そのままかいたわけでは
ないだろうと
思うが・・・・???