エーゴってなんずら?1

それは昭和20年のことだった。
村岡花子は赤毛のアンの翻訳の
執筆を行っていた。
『子供はちょっとためらってから
私のことをコーデリアって呼んで。
私の名前じゃないですけどすばらしく
優美な名前ですもの。

コーデリアではないなら何て名前なの?

アン・シャーリー・・・アンなんてとても現実的な
名前なんですもの。』

村岡花子は、ふっと笑って・・・私みたい

・・とつぶやいた。

甲府にいたころ、花は、はなたれと呼ばれて
言い返した。

おらのこと花子と呼んでくりょ・・・。

父の希望で女の子も学問が大事だ、
というので東京の女学校の話が浮上した
が、家族は理解できなかった。

花が本をいっぱい読みたいという気持ちが
ふじに伝わり、理解されて
いままで家の手伝いをさせていたけど
これからは好きなようにいっぱい本を読んで
キラキラした花になってほしいと
ふじがいう。

周造の許可も下りて、花は吉平と一緒に
東京へ行く。

生まれて初めて乗る汽車に、トンネルで
真っ黒になりながら、不安を抱える花。

吉平は心配することないという。
修和女学校は素晴らし学校だから。
海の向こうのカナダという国から来た
先生方がエーゴという言葉で授業をする。

花はエーゴ??とわからない。

吉平はこれだけ覚えればいいと
朝はグッドモーニング
昼は、グッドアフタヌーン
夜は、グッドイブニング

と教えた。

そして、東京へ着いた。

修和女学校へ行くと・・・そこは・・宮殿のよう。

★そこは、花が生まれ育った甲府の村とは
まるで別世界でした。

吉平は花に言った。

「いいか、花、華族のお嬢様なんかに負けるな。
しっかり精進してみかえしてやるんだぞ。」

花はうなずいた。

中に入ると今日は日曜日なのか、静かだった。

「ごめんください~~」と吉平が大きな声でいった。

階段の上から、外人の先生が
「ここは男子禁制です」、と怖い顔をして
怒鳴った。

よこには、神経質そうな女性がいた。

「あの・・・今日からこちらでお世話になる
娘の花です。私は父親の・・・
グッドアフタヌーン・・・」

「安東花さん?ようこそ、修和女学校へ。」

別の女性教師が来てそういった。
★修和女学校は、明治時代の初めに
カナダの宣教師によって作られた
ミッションスクールです。

★生徒の多くは華族の富豪といった特権階級の
ご令嬢でしたが、花は吉平の奔走で
特別に入学を許されたのでした。
学費免除の給費生として・・・

校長のミスブラックバーン先生にあった。
「わたくしは校長の通訳を担当する
英語教師の富山です・・・。」さきほどの
神経質そうな女性である。

「寄宿舎の寮母とお裁縫の教師をしている
茂木でございます。」
この人が今日、花が来ることをしっていた
先ほどの人だった。

「娘がお世話になります。」
吉平は頭を下げた。

ミスブラックバーン校長はじっと
花を見た。

花もじっとみた。

「ほら、花もごあいさつしよし。」

吉平に言われて、花は
言いよどみながら

「グッド・・・」といいかけ
吉平は「日本語で・・」といった。

「安東花とごいっす。よろしくおねげーしやす。」

「よろしくね、花さん・・」と茂木が言った。

ほっとした花は、「本当の名前は花だけんど
おらのことは花子と呼んでくりょ。」という。

吉平は、「花で結構でございますといった。
これは花の着替えと勉強道具です。
おねげーします。

花、今日からここが花の家だ。」

すると茂木が、「そうですよ花さん。
神様の御前ではみんな平等です。
寄宿生はみな、姉妹同然です。
ただしあなたは給費生です。
その自覚だけは忘れないように。」

すると、富山が言った。
「ここでは徹底した英語教育をして
おります。
特に給費生はほかの生徒よりもいっそう
勉強に励まなければなりません。」

「はい・・・」

「一回でも落第点を取ったら
学校をやめてもらいます。」

「へぇ???」
花は驚いて素っ頓狂な声を出した。

「へ?」富山はいぶかしげに言った。

吉平は「甲府のなまりです。花のほかにも
給費生がいると伺っていますが」
というと、その給費生は落第点を
とって、学校を去ったという。

「てぇ???」
吉平は甲府なまりで驚いた。

二人の教師も驚いた。

「以上です。お父様はもう
お引き取りください。」と富山が言う。

吉平は挨拶をして帰って行った。

茂木に案内されて寄宿舎へ行くと
そこには、きれいな女生徒たちがいた

★寄宿舎には予科、本科、高等科の生徒が
一緒に暮らしていて少女から成人した女性まで
年齢はまちまちでした。

三人の女生徒が目の前に並んだ。

そして、声をそろえて
「ごきげんよう・・」といった。

花は、「ごき・・???」とわからない。

「編入生の安東花さんです。」
茂木が紹介した。

「こちら、高等科の白鳥薫子さん
本科の一条高子さん
こちらはあなたと同じ編入生の
醍醐綾子さん・・・。」
「わたくしもここにきたばかりなんです。」
「ほんとけ?」
すると白鳥が驚いた。
「ほんとけ????」
「父が貿易会社の社長で
母と一緒にイギリスへ旅立ってしまって。」
と綾子。
「でも、大きい方たちがそれは親切に
してくださいますわ。」

「大きいかた??」

花は白鳥の堂々とした体格をみた。

★大きい方とは目方のことではなく
ここでは上級生は大きい方。下級生は
小さい人と言われていました。

「花さん、わたくしのお友達になってくださらない?」
と綾子。

花は

「いいづら、おらこそ友達になってくれっちゃ。」

「まぁ、うれしい~~」
綾子がいうが
白鳥は、「ずら?くれ???ちゃ???」
と、甲府なまりにさっそく注意をする。

「おらのことは花子と・・・」

「小さい人たち!
ちょっとお待ちになって。
今の言葉遣いは感心いたしません。
わたくしこそお友達になっていただきとう
ぞんじます。というべきです。」

「え?」

「白鳥さんは言語矯正会の会長役ですから。
言葉遣いには厳しいんですよ。」と茂木。

「言葉の乱れは精神の乱れです。
美しく正しい日本語を話せるように努力
なさってください。」

「は・・い・・・」

「ま、急には無理だからゆっくりと直して
いきましょう。」と茂木は言う。

そこに鐘がなった。

「お夕食の時間です」と茂木は言う。
「食堂へ参りましょ?」

そういうと茂木は大きい人と一緒に
出て行った。
花は首に巻いていた風呂敷包みをあけようと
した。
綾子が声をかける。

「花さん、おリボンはどうなさったの?」

花は、驚いて「おリボン?」と聞く。

「髪におリボンをつけないのは着物に
帯を締めないのと同じなんですって。」

「え?」

「わたくしのひとつ差し上げるわ。」

そういうと自分のリボンを取って
花の頭につけた。

そのころ、甲府の実家では
夕方となり野良から帰ってきた
周造、吉太郎、ふじ。
それを迎える妹たちが
いまさらながら、花がいない不便さを
かたった。

ふじは、「どうしているかね~~」
と花を心配した。

「花は華族のお嬢様とうまくやってけれる
かな?」と周造。

「大丈夫」とふじはいう。

そのころ綾子と食堂に行く途中
花は、図書室を見つけた。

綾子を置いてそこへはいると
本がたくさんあるので
大声で「みんな読んでもいいずらか?」
という。

「読んでもよろしいのですかと聞くものですよ。」

そこにいたのは富山だった。

「読んでも・・・よ・・・」

「もちろん読んでもいいのです。
読めるものならね・・・。」

花はうれしそうに本を取って開いた。

すると、全文英語。

「てーーーーー、なんだこりゃ!!」

どの本もどの本も
英語だった。

「ここは全部英語の本です。」と富山。
「エーゴ???」

「明日からの授業についてこられるかしら?

ま頑張ってください。
落第して退学したほかの給費生のように
ならないように。」

富山はすすっと部屋から出て行った。
綾子は出入り口で頭を下げた。

花は驚いくことばかりだった。

★おら、こんなところでやっていけれるのだろうか。
花は心の底から不安になりました。

ごきげんよう

さようなら・・・・。

***************

心配した通り、方言に苦しむ花。
しかも、着物も全然みんなと違う。
絣の野良着をきた花と
振袖と袴の女学生たち。きれいに結った髪に
大きなおリボンをつけている。

綾子さんはきれいな方だけど、どこまで
問題児となるだろう花を守ってくれるだろうか。

なかなか、お友達と言っても難しい。

そして英語の授業。

そんなものがあるとは、誰もいって
くれなかった。
しかも田舎の小学校では英語なんか
おしえない。

見たこともない文字に、本が好きという
花は怖気づくのではないかと
思うけど。

つまり身分が違う、階級が違う・・・
経済力が違う・・・
これ・・・子供にとっては辛いことですが。

なんだか、美輪さんのごきげんようが
暗く聞こえました。