とんだごちそう2

毎日復員列車を見に行くめいこ。

他の家族の再会を横目で見てがっかりして
帰る毎日だった。

そんなめいこに、静は声をかける。
「わたしは、8年・・・待ったで・・。」

「負けませんよ。」とめいこ。

家にはいると川久保、諸岡、泰介が
どうも、イラついている。

「何やってんの?」

「おねえさん」、と川久保がめいこの前に座って
いった。

「はい・・」

「この春の中等学校の甲子園大会が
あるというのは知っていましたか?」

めいこは新聞で読んで知っていたが
川久保の話によるとそれが中止になったという。

去年の夏は西宮の球場だったが
この春からは甲子園が使えるようになった。
さすが、ベースボールの国だとアメリカを
高く評価していたと川久保は言うが・・・・

「このご・・・この・・」あまりの感情に川久保は
諸岡にタッチした。「この期に及んでGHQが、
GHQが・・・・」といいながら言葉がつまり
諸岡は泰介にバトンタッチした。

「その決定を自らひっくり返して・・」と泰介。

「甲子園はつかわさへん、大会は中止すると
いうてきよったんですわ・・。」
と川久保が結んだ。

「なぜ、許可があってそれがひっくり返されたのか
合点がいかない」、と川久保は言う。

めいこは甲子園大会中止に、
「それはあかん」と激怒した。

「なぜ、一度大丈夫だったのがあかんなったのか」と
静は聞く。
「その辺の事情は希子が・・・
おっそいなぁ~~~」・・・と

川久保は、希子の帰りを遅いとイラついていた。

めいこと静は川久保が怒るのをめずらしそうに
みて、「初めて見た。怒ったのは・・・」と話しあった。

「ごめん、おそなって・・・」

「遅いよ本当に。
それでどうなった?」
イラつく川久保は、端折って帰ったばかりの
希子をせかした。

大会主催者は米軍に問い合わせたという。
今折衝を重ねているらしい。でも、そこの許可が
降りたらしいが・・・
GHQの民間情報教育局という組織から大会を
中止すると言われたという。この組織が
こう言った件を左右する機関らしい。しかし
この機関は大会の話を聞いていなかった。

「親方に話をせずに決めてしまったので・・」と希子。

「話をせずに決めたからへそを曲げてしまって・・か・・?」
と静は聞く。

希子は「簡単に言えばそういうことですね」といった。

なんだか、合点がいかない。
「それだけのことで中止って・・・?」とめいこがいうと
川久保は早口で気持ちをぶつけた。
「なんと、けつの穴の小さいことでしょうか。
夏の大会の時はGHQは再び日本の
若者の血潮を沸かせるだろう
おめでとうとまで言うてたのに・・!!!」

「僕らに何かできることはあるかな。
目標が突然奪われるようなあんな思いは
後輩にさせたくない・・」と泰介。

「そのとおりや」、と諸岡。
めいこは、「なんでもするから、いうて!!!」
と勢いよくいう。

「うん、」と泰介。

「アメリカの差し入れに腹下ししこもか?」
その言葉に、泰介、諸岡、川久保
顔を見合わせた。

署名運動をやろうという結論だった。

ーその日から怒涛の署名集めが始まりました。

闇市で静とふ久が署名を集めている。
「おおきに、ありがとうございます。」
そこへめいこがおやつをもって
「おひとつどうぞ・・・」という。

かいた人は喜ぶ。

大声で署名をお願いする一同だった。

こちらはうま介の店で、署名運動の決起を高めて
町へ飛び出す。
ここは西門家だけではなく、町内の人たちも
参加していった。

「生き残った僕らにできることは・・・」と泰介は
ぼそっといって

大声で「この手で・・・」と右手を挙げて
「甲子園を取り戻すことだけやぁ!!!!」

うま介の店に結集したメンバーはいっせいに
「うぉ~~~~~~~~~~~!!!!」と
勝鬨を上げた。

ーラジオ組は・・・
希子がマイクをもち、川久保が、マシンの操作をする。

町の通りすがりの人にインタビューをするのであるが
普通の生活の質問から、むりやり甲子園大会の
話しに持っていき、それから、大会中止は理不尽だと
訴え、その賛同を得るようにする。

川久保に至っては、広島商業と中京商業の
名試合の話をするのである。
通りすがりのある人は野球に関心がなくて、
頭をかしげてさっていった。

ーかなり強引なインタビューを展開し
町の声を集めました。

それを聞いているモリス大尉。(日本語わかるのか)

ーこうしていよいよGHQに直接市民の声を届ける
こととなりました。折衝の場で手渡すことが許された
のです。

その出発の時西門家の前に勢ぞろいした一同。
「では、思いのたけをぶつけにいってまいります!」と
川久保が挨拶をした。

見送る女性たち。
これは出征のシーンではなく
平和な時代になって交渉という戦争への出征の
シーンである。

「会社休みもらえてよかったね。」と希子。
「うん!!」と川久保。

ふ久は「がんばってな」と諸岡に言う。

「うん!」と諸岡は言いながら
大吉をだきあげ、「大吉、まっとれよ!」という。
大吉は、「はい」と手を挙げていった。

「ほな・・おかあさん!!」と泰介。
めいこは、泰介の両腕を両手で
にぎりながら、「しっかりやるんやで!!」と激励
した。

うなずく泰介。

静は、「せぇ~~~のっ!!」と
合図をした。

♪~~勝ってくるぞと、勇ましく~~~
誓って国をでたからにゃ~~

交渉メンバーは歌に合わせて
行進するように一列になって出発した。

「それは、それはまずいですよぉ~~」と
男性の制止にもかかわらず
めいこたちは歌う。

♪手柄たてずに死なりょうかぁ~~~!!!

終戦はとっくに終戦だったが・・・。
戦いはあらゆる意味で続いていた・・

ということだ。

台所をするめいこに、希子は声をかける。
「今日はみんなに何を作るんですか?」
「コメのコロッケ・・・

コメは米(べい)コロッケはカツ・・
つまりアメリカに勝つや!!」と
めいこ。

二人は笑った。

「最近、顔出さなくてごめんね。」と希子。

「ええ、ええ。忙しいのはわかっているし。
けーへんというのは思いやりってことわかって
いるから大丈夫!!」

希子は思いを伝えた。
希子はめいこを大好きだということ。

希子にとってめいこは
姉であり
母であり
一番大事な友達で
なんでそんな人のこと傷
つける仕事をしているのかなって
思うという。

めいこはうれしくなって希子を抱きしめ
「大丈夫だから、わかっているから」と
言った。

さて・・・ラジオ放送局では・・・
モリスに強引インタビューが
ばれたと希子に上司が言う。

モリスの部屋に行くと通訳が
「なぜあのようなインタビューをやったのか
白状しろといってます・・・」という。

その夜の夕餉。

コメのコロッケを食べるが、
みんな元気がない。

めいこ、静、ふ久は
泰介、諸岡、川久保に
折衝はどうだったのかと聞く。

あいての民間情報教育局の
ベーカーは、自分は何も聞いていないの
一点張りで話を元に戻そうとしない。
川久保はそれは反省しているから
どうにかしてほしいというが

ベーカーは、学生の本分は勉強だ。
そもそも年二回も大会があるなんて
どうかしているという。春も夏も
野球をしていたらあほになるというのだ。

川久保は日本には文武両道という
ことばある。体も頭も同時に鍛えると
いうことだと説明する。

すると、これをやってみろと
ベーカーは言う。

それは・・・・・

腕立て伏せをしながら

数学の問題を解くのだった。
川久保は挑戦したが
腕立て伏せも数学の問題も
どうにもならなかった。
「数学やなかったらな・・・・」
というが・・

その話をめいこたちにした。

「ふ久は?」とめいこはいうが
ふ久は数学はできても体育が
てんでダメである。
その前にはたして文武両道とは
そういうものではないだろう。

泰介は自分たちの思いをぶつけるためには
ことばが問題だ。といった。

通訳を介してでは、うまく伝わらないのである。
相手の言葉で話さな伝わらないという。

そこへ希子が帰ってきた。
様子を感じて「あかんかったんやね」という。
「聞かんうちからわからんとってよ・・・」と川久保。

希子は強引なインタビューがばれたことを
話した。
それで、大丈夫だったのかと川久保が言う。

事情を説明したら助けてやってもいいと
モリスは言ったという。

「でもね・・・」
民間情報教育局のカーチスとモリスは
同じハイスクールで、顔なじみ。
面識がある。

「助けてくれるって?」と川久保。
希子は続けた。

「それにはひとつ条件があるって」

「ヤミを(モリスのこと)ここに招いて最高の日本料理を
だすこと、最高でなければ
協力しないと・・・・」

めいこは、アッと驚くが・・・

*************
確かに今、春の甲子園大会をやっています。
こうした大阪の人の思いが
甲子園を支えているのですね。
さすが、商人の町です。
人の気持ちがひとつになればこれほど
強いものはないのです。

っていうか・・・
ラジオ放送を聞くモリスさん。
日本語わかっているのでは?
いいえ、私は聞こえませんって
佐村河内さんじゃあるまいし。

いいえ、私は日本語がわかりません
っていうのかな?

でもあの通訳のベーカーさんだっけ?
名前なかったっけ?
いつも、へんな命令口調の日本語ですよね。
白状しろ・・・とか。説明せよではないですか。
犯罪人ではあるまいに。

で、昨日、川久保と諸岡が血相を変えて
泰介につめよった件とは
この甲子園大会中止のことだったわけで。
いよいよ、めいこの出番となったのですね。

めいこがおいしい日本料理を出して
くれるか否かで甲子園が決まるのです。

このへんはフィクションでしょうけど・・・。

まさか腹下しをまぜるわけにはいかない
わけで・・・めいこはどうするのでしょうか。

いまだ帰らない悠太郎を待ち
失った活男への罪悪感を持ちながら
生きているめいこ。
この気持ちの折り合いはどこで
どうつけるのでしょうか。