とんだごちそう2

室井のファンを名乗る女性は
ファンレターを室井のもとに
寄せていた。

それを大事に持っている室井だった。

そして、そのファンの女性が室井のまつ
蔵座敷にやってきた。

「どうも・・・。」と決めポーズで言う室井。

台所で料理をだす準備をするめいこに
泰介は蔵の様子に興味津々。

「へぇ~~室井さんて、そんなにかっこつけているの。」
めいこは、室井のまねをして「どうも・・・やて」という。
そこへ静が走ってやってきた。

「すけべぇがほとばしっとるで、あれ!
いつのまにか、ぴた~~っと横にすわっとる。」

女性のほうもまんざらでもない様子だという。
「いややわ~~今日は蔵座敷が連れ込みになる
日かもしれヘン・・・。」と静。

めいこは、眉間にしわを寄せて
嫌そうな顔をした。

すると泰介がいない。
「泰介!!なにしとんねん。」

泰介は蔵座敷を覗いていた。

「室井さんやったら覗いてもええんと違うかな
とおもって・・」という。

「あかんやろ」、といいながら、めいこも
覗く・・・

すると泰介が、めいこの腕をたたいて
いった。

「おかあさん・・・」

その目線の先には・・・・。

思わずめいこは息をのんだ。

さて、室井の様子はと言えば
女性の手を取ってなでている。

「雪のようだね・・・・」

「ふふふ・・」

まんざらでもない様子である・・・確かに。

「失礼します・・」

めいこが入ると、「あ、ご飯来たかな~~~」と室井。

「ご飯はまだなんですけど。
奥様がおつきです・・。」

「奥くん?
そんな知り合いいないけどね~~」

「ふふふ・・・」

「お久しぶり・・室井さん。」

室井が振り返ると、そこには桜子がいた。

いつの間にかめいこはいない。

「え???」

室井はあっけにとられた。

「まぁ~~仲良し?」室井が握っている
手を見て言った。

室井は固まっていたが、
いきなり女性の手を払って
ぱちぱちとその辺をたたきながら
「蚊・・・蚊がね・・・と」
慌てる。

「あ、あの…先生??」

「え?あ・・うん・・・もういいから・・またね。」
室井は女性を追い立てながら
いった。

「ごめんね~~どうもどうもぉ~

お世話様~~~失礼しまぁ~~す~~」

と、室井は女性にかばんを渡して、せかして
外へ出した。

桜子はあきれていった。
「追い出すことないじゃない。」

「何しに来たんだよ」

「興味あるじゃない。
自分の旦那がどんな女性と
交際しているかって」

「悪趣味だよ、覗くなんて・・」

「ふふふ・・だれに言ってんのよ(怒)」

そしてテーブルに座って、室井が出していた
ファンレターを読んだ。

「楽しかった?」

室井はそれをひったくった

「関係ないよね。僕たちもう別れているよね。
そういう解釈でいいよね。」

「楽しかった?」
桜子のクールな質問にたじろぎながら
答える室井。

「はい・・・・楽しかったです・・彼女は僕の文学を
理解してくれていまして・・・」

「ディケンズだとか、西鶴だとか・・?」

「そうそうその感性がいいんだよ」

「涙でその文字が流れても・・とか」

「そうそう発禁になったものも読んでくれて。」

「阿呆の仏はまさに集大成だとか」

そこまで行くと室井ははっとした。
「え??」とファンレターを読んだ。

「まさか・・・・??ひょっとして
僕が文通をしていたのって・・」

桜子は、かばんから手紙の束を出した。
それは、室井からもらったものだった。

そして、その束を室井に向かってなげつけた。

外で見ていためいこは
「ひっどいことするなぁ~~」という。

「ね?ちょっとかわいそうですよね。」

とその女性が言った。

めいこ、静、泰介はそっちをみた。

「あんさんは、どないな関係なん?」

静がきくと

「私は民子の姪です。」
あの民子の・・・・である。

ちょっとアルバイトをしてと桜子に言われて
ファンレターの清書も彼女がしたという。

つまりすべては桜子の脚本通りだった。

蔵の中では・・・桜子がファンレターを読む。

「塩と砂糖の話がでましたが、路代(みちよ)さん
あなたは砂糖のような人だ。」
「やめて~~」

「すべてを甘く、まるく包んでいる。
白状しよう、僕はあなたのことを
思わない日はない・・・」

「ごめんなさい・・」

「思えばずっとしょっぱい女房に支配されて
いました。」

「ごめんなさい!!」

「えらそうで、きまぐれで・・・」

「うそ、それうそ。」

「あまつさえ、戦争中に僕をほおりだす
ような女だ。ひどくない?
ふつう、そんなことする?
しないよね~~~~~~????」

「ごめんなさい・・・・」

桜子は振り向いていった。

「ひどいでしょ!!!
いきなり文体が変わってっ!!!

雑!!!」
いきなりの場面展開である。室井は
狼狽した。
「室井さんは大作家になったんだから
こんな手紙を書いたら駄目よ
書簡集が出るのよ、死後・・・。
あの作家はどんな手紙をふだん書いていたのかって
みんな読むんだから、

この文体の・・・この文章・・・は

ない!!」

「桜子ちゃん?」

「でも、手紙に書いていたことは本当。
阿呆の仏は本当に面白い。
ばかばかしくて下らなくて、猥雑で
でも、根底に焼け跡で生き抜く人たちの
愛がある、命への愛がある。」

「・・阿呆の仏をかかせるために僕のことを
ほりだしたの?」

「室井さんを走らせるには過酷な状況が
必要だから、どうしても読んでみたかったの
室井さんが焼け跡で描く物語を・・」

「ひどいよ~~~」

「ごめんね・・・」

「ひどいよ、桜子ちゃん・・・・」

桜子も泣いた
室井も泣いた・・・

室井は桜子にだきついた。

「もう、もう~~~大好きだよ~~」

蔵の外では一部始終を見ていた
めいこたち。
めいこは、つい泣いてしまった。

静は
「泣くことないがな・・・」という。
「よかったなって思って、元のさやにもどって・・」
とめいこはいった。

めいこは泣いた。

その後、めいこと桜子は、座敷で
グーグー寝ている
室井の横で話をした。

東京へ戻ったとき、
女優志望だった民子の姪の
路代にあった。
それで、このバイトをしてもらったという。

「めいこのことはさっき室井さんから聞いた。
いろんなことが宙ぶらりんのままだって。」

「かっちゃんを・・・殺したんは、軍へ行か
してしもた私やと思っている。
私が変わらなあかんて思ってるんだけどね
かっちゃんのこと思ったらかわいそうな気がして
私だけはアメリカを許したらあかんと思ってね・・・。
出口が見つからんのよ・・・。」

じっと聞いていた泰介。

家に入って静に言った。
「おかあさん、僕らには話されヘン
のかな・・・本音というか」

「アメリカのことか?
近すぎるっていうか・・
本音をぶつけたら
タイちゃんも希子ちゃんも
攻めることになってしまう
やろし、今はこのまま、行くしかない。」

「お母さんは孤独やな。
周りにだれがいても一人ぼっちなんやな。」

「あたりまえやんか、そんなこと
人はみんなひとりや
それぞれ勝手が違う
理屈が違う

だから、腹の底から一つになれる瞬間は
ごっついありがたいんやってことが
わかるんやで。」

泰介は考え込んだ。

翌日、倉田が若ごぼうを
持ってきた。

これをなんとか料理してくれという。

めいこは、倉田に和枝のことを聞いた。
元気にしているらしい。
どうしたのかと聞いたので
最近、少しだけど、和枝の気持ちが
わかるようになってきたと話した。

うま介の店は、桜子が帰ってから
華やかになった。
米軍の英語にも対応できて
お店も流行っている。

が、泰介は、ちょっと落ち込んでいる。
「どうしたんや」、と源太がきく。

「腹の底から一つになれる瞬間って
どんなものかなって思って。」

昨日の静の話である。

そこへ、ばたばたと男二人が
入ってきた。
ひとりは・・・・誰かな?(諸岡?)
ひとりは、川久保だった。

「西門・・・泰介君?
僕は平和主義者だけどね。
これは戦わないといけないと
思っているんや。」

「ちょっと待ってください。
誰と戦うんですか?」

川久保は、店にいる米軍に
聞こえないように言った。

「GHQや・・・・。」

泰介は驚いた・・・。

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室井と桜子の夫婦はごちそうさん
を通じて、ほほえましく、
ほっとするような、おもしろい味のある
夫婦だったと思う。
室井の風貌やら、体裁から
胡散臭い感じだが、東京にいるときから
調子が良くて、まじめなんだか、
ふまじめなんだか、よくわからない。
だけど、めいこのお見合いをぶっこわす
発火点になったし、
下宿を追い出された悠太郎をかくまったとき
悠太郎が風邪を引いたと
めいこに知らせに女学校へ行ったのも
室井だった。

お話全体から、いいかげんで、お調子者で
誠実さなんてみじんもない様子だけど
なぜか、魅力がある・・・。桜子のようなおじょうさまが
あこがれるのは・・・ミスマッチで
あることかもしれないと思ったりする。

昔の名作、「愛と誠」がそうだったから(笑)

めいこが孤独であることが
心配な泰介だが
ここで、ひと悶着起きる。

川久保は確かに争いは好まない
タイプである・・・。
その彼がなぜ、わざわざ・・・泰介のもとにきて
戦わなくてはならない・・・GHQと・・・と
いったのか???

泰介の仕事に関係があるのか???

アメリカ人との養子縁組になにか
起こったのか???

なんて思ったけどね。