チョッコレイトな開戦3
さて、倉田の提案通り、西門家の蔵を
お座敷にリフォームする計画を
実行することになった。
めいこは、藤井にそれを頼んだが
大村も来てくれた。
「すみません、大村さんまで。」
「かまへん、かまへん。どうせ藤井君に
呼び戻され取ってん。建物ぎょうさんある
から小さい爺さんでも働けるって。」
ーさっそく西門家のバラック造りと蔵を座敷に
しつらえる計画が始まりました。
「で、座敷ってどんな風にしたんや?」
大村がきいたら、めいこが「あ、あの・・」と
いいかけた。
その時、表から騒々しい声がした。
「奥っ!!!」
扉が開いて、人が入ってきた。
杖を突いて、ひげを生やして
風貌は、今まで通りの・・・
「竹元先生・・・・・!!!」とめいこ。
「生きてはったんですか?」と静。
竹元だった。
「奥 大変なことになっているじゃ
ないかっ!!」
「ああ、空襲で焼けて・・・・」
「うま介がなくなっているじゃないかっ
どうなっているんだ?
どうなるんだ????焼き氷はっ!!!!」
あまりの大声に一同、顔をしかめた。
「なんや、偉いことに日に焼けていませんか?」
大村がきく。
竹元は色が黒くなっていた。
「無人島だ。」
「無人島で暮らせるんですか?」めいこがきく。
「過酷だったが素晴らしい日々だった。
住居を作り、井戸を掘り、見晴らし台を作り、
畑を作り、木の実を採取し
海の幸で命をつなぐ・・・」
「そんなこと本当にできるものなんですか」
とめいこがきくと「できるに決まっているだろう、
古来の人はそうやって暮らしていたのだ、」
などと、偉そうにいう。
「空から爆弾を落とせるようになっても
無人島で暮らせないなんておろかしい。
人類とは進化しているのか退化しているのか
わからんなっ!!
さて、座敷の話だったな・・・奥!!!」
めいこは藤井と大村にお願いしているので
というが、竹元は気に入らない。
「竹元先生にお願いするほどモダンなものでは
なくてもいいし、予算もないので」、と説明した。
「がっかりだ!!」
竹元は持っていた杖でめいこをつこうと
したが、めいこは体の前で持ってい
るおぼんを防御に使った。
杖でつんつんとついて攻撃してくるのだ。
「奥、お前は私をわかっていない。
私は百貨店大食堂並みの男だぞ。
そばの付け合せにハンバーグステーキを
食する男だぞ。」
藤井は「驚いてなんでこの蔵の建設に
関わりたいのでしょうかね」と大村に
いうと大村は「金がかかるものばっかり
たてはったから、発注がないんと違うか?」
と、現実を言う。
「そうだっ!!建てたいんだ。私は!
一面が焼野原だというのに
たて放題だというのに
私の情熱はあふれかえるばかりなのに
このままでは、私は
爆発だ!!!」
大村は、様子を見ていった。
「まぁ、ほな・・・一緒にやりましょか?」
仏頂面をしてご機嫌斜めだった
竹元はその一言で
笑った。
「ええんですか?」とめいこがきくと
大村は、「もちのろんや、何しろ先生は
おもろいものを作らはるし・・・」という。
「面白なくてもええんやけどな~~」。と
めいこがいった。
藤井がどのようなものをと希望を聞く。
「来てくださる人が寛げたらええんですが
悠太郎さんだったらこう立てるという
のがあればええなぁって・・・・。」
「赤門の建てそうなん・・・・」と大村。
「あの、ばかの?」と竹元
「・・西門君が・・??」と藤井。
三人は、困った。
つまり悠太郎は、個性がないのだった。
「安全で頑丈だったらいい」というのが悠太郎だ。
「今一つ・・・そのぉ・・」と大村が言うと
「こだわりがない」と竹元がいう。
「え?そうなんですか?」
などといっていると源太と泰介が帰ってきた。
蔵の相談かと聞く。
「良かったら源太さんも知恵出して」、と静。
「あ、・・・そういえば」、と藤井は思い出した。
「小学校を作るとき、窓がなかった」という。
「ああ、あったね?」と大村。
「赤門、気負い過ぎて」と大村
「思いつめて」と竹元。
「何も書くことがないとふるふるしながら
言いに来たあのバカ!」
「あれ、倒れんことを気にしすぎてほとんど
窓のない建物になった」と大村はいう。
「これ、倒れんけど、中の人
病気になるでって・・・」と大村。
みんな笑った。
「悠太郎さんのやりそうなことやな」
と、静は言う。
「そうですね~~」とめいこは笑いながらいった。
竹元は「そうだ、窓が一つもないというのはどうだ?」
と聞く。
「いっそ、斬新じゃないか」
「窓がないってうっとうしいやないですかっ!!」
とめいこは反対した。
竹元はさらさらとラフ画を描き始めた。
「そういえばうっとうしい男やったな」と
源太が言う。
めいこはむきになって「どこが?どこが?」
と聞く。
「ありもせん、浮気をうたごうて
怒鳴り込んできた」
「え?お父さんそんなことをしたん?」と泰介。
めいこは、泰介に照れながら言った。
「うちの女房は、かいらしん(可愛らしい)やて
いうてな・・・。」と泰介をたたきながら
「昔の話よぉ~~」という。
源太は機嫌が悪い。「それでひったくるみたい
に糠床をもっていきよったんや!」
というと藤井が「糠床?
ある日突然べに子が来たのはそういう
ことやったんか?」
「知らなかったのですか?」と源太。
大村は、「赤門は恥ずかしいことは
割愛しますって、いいよりませんねん。」
一同大笑いだった。
源太は「からは大きいのに器は
小さい奴でしたからね!」という。
めいこは、「まじめなんです。まじめ!」と
フォローをする。
いきなり竹元が「いいなそれ」という。
「蔵は大きいが座るところは一畳しかないって
いうのはどうだ?
空間であいつを表現するんだ。」
泰介は天井を見渡した。
「いえ、あの・・・とめいこは器が小さいんや
ないんです。常識的なんです。
だから常識的なお座敷を・・」
泰介は「常識的かなぁ???」
という。
「非常識極まりないことをして
満洲へ送られた気がするけどな。(笑)」
(確かに!)
「そこは、情熱家やの!わかりにくいけど
実は、情熱家やの!」とめいこ。
泰介はありえないと笑った。
「じゃ、赤だな!!」と竹元。
「え?」
「壁面は赤だな。」
めいこは「いやですそんなんまっかっかだ
なんて・・・」という。
静も、「安全安全というても家内安全の
ほうは・・な?」
大村は「まさか赤門うわきをしよりましたんか?」
と驚く。
「やめましょ?」とめいこ。
「なんだその・・・興味深い話は!!」
と竹元。
源太は「こいつがね、通天閣のこんな
小さな話をこーんなにおおきにしてなぁ」
めいこはやめてと何度も言う。
「いつの話だ?」
「一緒にカレーを食べたときですわ」
「ああ・・・」と竹元は納得した
が・・
「はぁ!!!!と大声を上げて
そうだ!!カレーだ
みえたぞ奥
カレーだ!!
オブジェだ。奥、カレーの女神が
この空間を見下ろすんだ。」
「あの・・・日本的なほうが」
「じゃ、カレーの菩薩だ!!」
「カレー色だ、カレー色だ!!
カレー色、カレー色・・
つまりカレー一色だ!!」
大村はしーんとした時
「オンリーユーってやつやね?」
と、話を落とす。
「え?絶対いやです・・そんなお座敷に」
「何を言うんだ奥!!
カレーの菩薩とは奥、お前自身だぞ。」
「ええ????」
「天空からあいつを見守るのはお前自身だろ?
それを愛と言わずしてなんという?」
「そうや、お前独占欲強いしな」と源太。
「ちがう・・」
「そうだ、この空間はお前の愛と勘違い
のファシズムだ。」
「あはははは・・・」源太と泰介は大笑い。
「いやいや・・あの・・」とめいこ。
「大変やったろな西門君と藤井」
「たいした奴やったと思うで実際。」と大村。
このような先輩を御していたのだから。
「ええ男やったとわしは・・・」と大村が言うと
めいこは、
「あの・・・まだ・・・死んでませんから」と
いう。
「まだ、死んでいませんからね、悠太郎さんは。」
「あははは・・・そうやな、すまなんだわしも
年やな・・あはは」
泰介は「その後父のことは?」と藤井に聞く。
「まだ満州からの引き上げが始まっていないから
なんとも」
「そうですね・・・」
竹元は言った。
「生きている。決まっている。あいつが死ぬわけがない。
わたしなら、あいつをそばに置きたくないからな。
屁理屈で面白味もない。しかもいるだけで物理的に
閉塞感が倍増する。
そんな男、そばに置きたい神も仏もいるはずがない。」
「竹元さん・・・」
そこへうま介がやってきた。
「めいこちゃん、今日くずマンがあったから
持ってきたで~~~」という。
「マスター!!!!!!!!!」
竹元は大声で言った。
「はいっ!!!!!」つられて大声だった。
うま介は直立不動した。
「うま介がなくなっているじゃないか!!!!マスター。」
「はい!!!!、空襲でぼぼぼぼぼ・・・どかっんて!!!!!・・」
「どうするんだぁ???
今後どうする考えなんだぁあああ
?うま介は!!!!!!」
「はい・・・あの・・・
まだどうするかわかりまへん~~~」
うま介は竹元の大声につられて
同じく大声ですべて答えた。
竹元は、「今後うま介をどうするか
話し合おう」といってラフ画をおいて
うま介と出て行った。
やっと静かになった。
「竹元さんとお姉ちゃんて似てるな」と
泰介が言う。
「興味を持つことしか目が向かないから」と
いうのだ。
大村はラフがを見て「天才やな」という。
「ホンマは大好きなんでしょうね。」
「何がですか?」
「なんや普通やね。」と静。
ラフ画はカレーの女神がいるわけではない。
普通のお座敷である。
しかし、ここを見てと大村が言う。
階段がコンクリートなのである。
手すりつきの。
めいこは昔、開明軒でコンクリートを
つかって悠太郎が階段を作って
くれたことを思い出した。
あの時も手すりつきだった。
『安全で住みよい街を作るのが僕の
夢なんです。』
完成した時はみんな大喜びをした
・・・。
めいこはラフがをみていった。
「これ・・・あの人を迎えるための
座敷ではないですか・・・・」
めいこに大粒の涙が流れた。
源太は顔をそむけた。
静は優しくめいこを見た。
ーこうして蔵座敷の建築がはじまって
行くのでございます・・・。
******************
竹元が帰ってきた。
無人島で何をしていた?
つまり、兵役逃れか??
戦争逃れか?
それはいいとしても、竹元らしい
過ごし方である。
蔵という場面だけの今回の放送。
あさいちでもいっていたが
ワンシーンだけでの放送だったと。
舞台みたいですねとの見方もある。
悠太郎の思い出話で、いろんなことを
思い出した。
悠太郎は生きていると竹元はいう。
めいこも信じていない。
しかし毎日生きることに夢中で
悠太郎のことを思い出しては泣くこともない
のではないか。
それが、今日悠太郎の話になって
めいこは、泣いてしまった。
心の緊張が少しほぐれたようである。
さて・・・これからどうなる?
