芋に見ていろ1
昭和20年8月15日
めいこは終戦の日、和枝にいった。
「お姉さん、私、戻ってもいいですか?」
めいこは誰かが帰ってくるかもしれない
から、家にいないといけないという。
家は焼け落ちてしまっているが
蔵があるので、そこにいたいという。
花は電車にも乗れないと思うというが。
「あんさん、これから向こうでどないして
暮らしていかはるおつもりでっか?」
と和枝は聞く。
「ここに住んでいたみたいに、蔵に住んで
蔵がなかったら小屋を建てて
畑をして。とりあえず、食べていけれるし。」
という。かなりのんきな話であるが
和枝はしばらくじっとめいこをみていた。
そして
「ほなそうしはったら?」
といった。
めいこは、大きなリュックを背負って
和枝からもらったコメやら、野菜やら
をもって、あいさつをした。
「お世話になりました。
食料こんなに、野菜の種までいただいて
これだけあれば畑ができるまで食べていけれます。」
「そないにいうんやったら、もう二度と世話かけんと
っておくんなはれ。」
「はい。ほな、失礼します。」
めいこは門を出ようとした。
「二度と戻ってこんでもええで!!」
和枝が叫んだ。
めいこは、振り向いて笑っていった。
「落ち着いたら、お礼に伺います。」
笑顔で言った。
そして去って言った。
「いけずしはりますね・・・。」
花が言った。
「西門の奥さん、市内がどないなっているのか
ご存じないのでは?」
「大丈夫でっしゃろ。
一番きつい暮らしに黙々と耐えはったんや
から・・・・」
和枝はそういった・・。
大阪に戻っためいこは、がれきの山の街に
驚いた。
人が死んでいる。
そして、希子のいるラジオ局へいった。
希子と再会を喜んだが、めいこに和枝の
家に戻るように言う。
ラジオ局も忙しくて、いままでの放送のありかた
を全部、変更・・・変更らしい。
諸岡家の消息はおそらく大丈夫だろうと
いうことだった。
泰介や諸岡君はどうも内地にいるらしい。
軍の事務所にいったらわかるかなと
いうが、今はあてにできないと希子は
いった。
「行くだけ行ってみる、悠太郎さんのこともあるし」
とめいこはいうが希子はめいこに和枝のところへ
戻るように言った。
「そやけど・・・」と結論を出せないまま
めいこは希子のもとを去った。
その軍の事務所にいくがさっぱり状況が
わからない・・。
物乞いに食べ物をねだられた。
一人の男性が近づいて「安否の確認は
こちらです」と言って案内した。
ところが、いけばいくほど人気のない場所に
いくのだった。
めいこは、不安を感じた。
すると、ほかに男が現れ、さっきの男に
金を渡した。
めいこは、逃げようとしたが、数人の男に
囲まれた。
そして持っていた荷物を取られてしまった。
西門の家に着くがだれの気配もしない。
蔵は空いていた。
恐くなってそのへんにあった刃物をもって
こわごわと中に入った。
しかし・・・だれもいない。
蔵の中にの品物は見慣れないものがあった。
軍用品である。
「なぜ???」
その時めいこに近づく人影があった。
めいこは振り向いて、「ぎゃーーーーっ」と
声を上げた。
すると、「めいちゃん??」という。
よく見ると汚れていたが室井だった。
室井は喜んだ。
室井が持っていたのはコークスだった。
造幣省で盗んできたらしい。
「いまは、食べるためには仕方がない」と
いう。
「あ、食べ物・・・」とめいこは懐から
竹の葉に包んだおにぎりをだした。
そして、室井に一個わたした。
ふたりで焼け跡で握り飯を食べる。
「いただきます・・・」
室井が言う。
めいこも「いただきます」といった。
おいしそうに食べた。
「うま介さんは?」
桜子ちゃんあてに店をあけて疎開したと
手紙が来たという。
「源ちゃんとか商店街の人は?」
「さぁ??」
「桜子のとこは?」
「みんな元気だと思うよ」
桜子ちゃんに追い出されたと室井は言う。
「焼け跡でご飯くれる人なんて誰もいなくてね。
やっと・・・僕にご飯くれる人が・・・・」
室井は泣いた。
しみじみとしながら食べ終わった・・・。
「ごちそう様でした…」室井が言った。
「ごちそうさんでした・・・」めいこが言った。
「ごちそう様でした」
「ごちそうさんでした」
何度も二人はいいあった。
焼野原にひびくように・・・なんどもなんども。
そこへ希子と川久保が来た。
「戻るって言いはりましたよね・・・?」
と厳しい顔で言った。
めいこは・・・・・
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焼野原に響く、「ごちそうさんでした」
「ごちそう様でした」
の、声・・・。
一人でご飯を食べてきためいこにとって
この食事は久しぶりに誰かと食べた食事
だった。室井がいただきますといった。
その言葉にめいこはうれしそうだった。
そして、めいこもいただきますといった。
食べ終わると、ごちそう様と室井が言った。
めいこもごちそうさんでしたといった。
室井は、久しぶりに食べた白米のおにぎりが
うれしかったのだろうと思うが
めいこは、ひさしぶりに誰かと一緒に食べた食事と
いただきます、ごちそう様のことばが
うれしかったのだろうと思う。
町は焼けて、食べ物は盗まれて
おにぎりを二人で分けて・・この大変な
状況をめいこは、どうのりきるのか???
希子が怒るのも無理はないと思う。
