い草のあじ4
和枝に呼ばれためいこ。
和枝は縁側に座っている。
「なにか?」と聞くと
和枝は「あんさんこっちにきて
そこに後ろ向いて
かがんで・・」という。
「ちょっと乗るさかいな」
めいこは驚いて、「ええ?」という。
「足首、悪なったんや。
村の寄合に出なあかんしな。」
めいこは、「おぶっていけということですか?」
というと、「抱っこのほうがええか?」
と聞く。
どっちにしてもめいこは、「ええんですか?
私わざと落とすかもしれませんよ」、といった。
「なんや、わてのことすきやと言い続けるといった
あれは、反故でっか?」
泰介が「自分がやりましょうか」と聞くが
めいこは、
「どうぞ・・・
お姉さま」
と覚悟を決めて
和枝を背負って歩き出した。
よろよろと・・・よろよろ・・
よろよろ・・・・・
「あんさんおおきいばっかりで
乗り心地がわるいなぁ」と
和枝に言われた。
泰介はその様子をじっと見ていた。
用事を済ませて帰ってきたら
和枝は「おかゆをたいてんか」という。
めいこは、腰が痛くて痛くて
たまらないのに
「私がですか?」と聞く。
すると、
「いや!!!足の悪いばあさんに
飯、たけといわはるんでっか?
あんさん、鬼でんな!」
と言い返された。
めいこは、腹を決めて
「わかりました・・・!!」といった。
そして、「お姉さんの足が速く
よくなりますように・・」といって
アマダイをもってきて
いきなり、料理を始めた。
和枝は驚いて、「もったいない」という。
花にアマダイを取り上げてというが
めいこは、わざと高いところに
アマダイの皿を置く。
和枝はふみ台をもってきよしと
花に言う。
花が持ってくる前にすっとめいこは
アマダイの皿をとって料理をする。
和枝は自分が取り上げようとしたが
足が痛くて、「痛い!!」とひっくりかえる。
それをみて、泰介は「結構気力が
あるやんか」と感心する。
「それはこっち・・・・」
花とめいこはじゃがいもを
サイズ別にかごに分けている。
「ホンマにあんさんはとろくさい。」
「なんでこんなことするのですか?」
「供出分と自分とこで売りさばく分に
わけるんや。目方が同じということが
あなや。」
つまり供出分が小さい方、自分とこが
売りさばく分は大きい方ということだ。
供出分が配給として出回る。
「もんくあるんやったら、自分で作らはったら
ええがにゃ~~~~~」と
猫を抱いて和枝は去っていった。
「偉い身勝手な仏さんやな・・・」
めいこがつぶやくと花が言った。
配給にええもの出しても役人に
ええ処抜かれたり、横流しされたり
するので、それだったら、わざわざ
来てくれる人にええもんを売ったほう
がいいというのが和枝の考えだった。
それで、サイズ別に分けているのだった。
和枝の足もよくなった。
泰介と二人で食事をしながら
話をしていた。
めいこはやっとお役御免となることを
いい、
「あんさんのとろくさいのを見んでええと
思ったらほっとしますわ。
いらいらして心臓止まるかと思いました
さかい・・・」と言われたと
めいこはいった。
二人は笑った。
「あのな、お母さん、ぼくそろそろ
京都へもどろかなと
思うけどな・・・。もうちょっとおろか?」
「学校やからちゃんと帰らんとあかん。」
「明日の昼まではおるさかい。」
「うん。」
そのことを泰介は和枝につげた。
「お世話になりました」といった。
「畑もうすこし仕上げてから行ってほしかった
ですけどな。」
和枝は洗い物をしながら言った。
「あの・・・ひとつお願いがあるのですが。
ときどき、母と一緒に食事をとって
やってくれませんか?
母は食卓を囲むことが生きがいの人
なので、とうとう一人になります。
かなりこたえると思うのです。」
「女は一人でご飯食べられるようにならんと・・」
「え?」
「ま、考えときますわ。あ、それ持ってきて。」
和枝は籠を指差した。
「これは?」ときくと
「種イモとはつか大根の種だす。
明日これ、植えたからいかはったら
どうですか?
かわいい息子と植えたと思ったら
あの人も大事に世話しはりますやろ。」
泰介はそれをじっとみて・・・
「これ・・・どないするんですか?」と聞いた。
和枝は・・・一言。
「京都帝大はそんなことも知らんのかいなっ!!!」
泰介は背筋を伸ばした。
翌日、それをめいこと一緒に植えた。
和枝の指示通りに。
いろんなことを知っているおばさんである。
ジャガイモは種芋を半分に割って
植えつける。
はつか大根は畝にすじをつけて
おとしていく。
素人は心持多めに落とすこと。
芽が多いのは間引いたらええけどすくない
のは土地がもったいなくなってしまう。
泰介は、めいこにいった。
「おかあさん、これできたらおくってな。」
「ほな、頑張って育てんとな。」
そこへ花が来た。「西門さ~~~ん」と呼ぶ。
「追いかけ茶かな?」とめいこ。
「なんも持ってないけど。」
「奥様がすぐにうちに戻ってこいって。」
めいこは泰介の腕をつかんだ。
「なんか、用事かもしれんし。
とりあえず行ってくるわ。」
めいこは何かしら悪い予感がした。
泰介は帰ってこない。
山下家では泰介は村の役人と
会っていた。
「おめでとうございます。」と役人。
「ありがとうございます。」と泰介。
めいこは気が気でない。
水遣りをやめて歩き出した。
和枝は泰介をみた。
帰ってきためいこは、部屋に入って
泰介に声をかけた。
「なんやった?」
「うん・・・きてしもたわ・・・おかあさん。
逃げ切れヘンかった・・・・・。」
召集令状が泰介に来た。
「何食べたい?何食べたい?泰介。」
「なんでもええの?」
「なんでもええよ。」
泰介は小さい時食べた柿の葉寿司が
食べたいという。
めいこは、和枝に
柿の葉寿司の作り方を教えてほしいといった。
「あんさん、コメも魚も手配できまヘンやろ?」
「・・・はい・・」
「素直にお願いしますというたらええもんを」
「ほんまですか?」
「いかはるというたらあんさんの息子やないのやし
お国の人になるということやからな。
支度もありますやろ?」
そういって和枝は出征に
必要なものが入っている
風呂敷包みを渡した。
めいこは、「ありがとうございます」といって
頭を下げた。
和枝は「あと五日や。頭を上げてなはれ。」
と、静かに言う。
「はい・・・・。」
めいこは、頭を下げたまま涙をこらえた。
泰介がいる部屋に戻っためいこ。
「友達とかあわんでもええの?」
と聞くが、「どこにいるのかもわから
ないから」という。
「啓二さんや希子ちゃんとはあわん
でええのか」ときくと「五日しかないから
・・ここまで来るのは大変やし」と
泰介は断る。
夜なべで繕いものをしながらめいこは
泰介の寝顔をみた。涙が出てくる。
自分の顔をたたいて
しっかりせい!!!と励ました。
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野菜・・・供出分を小さいサイズにした
和枝。配給にするのだが、こんなものがと
めいこは思った。大きいほうを出してほしいと
思うものだが、和枝は役人がええ処を取ったり
横流しをして稼いだりとそんなことを
許せないらしく、供出する分は小さい野菜
我が家に買いに来るひとには大きい野菜と
決めたという考えたに納得をした。
ここで下働きをしている花という娘は
和枝の良さを知っているらしい。
泰介はそろそろ大学へ戻ろうとする。
おそらくこの季節は春休み。
そろそろ学校も始まるしとめいこは思ったこと
から、そうだろうと推測した。
昭和20年の春である。
三月に東京大空襲がある。
卯野の家はどうなるのだろうか。
また、学生は出征はないと言われていたが
このころは多くの人がなくなっていて
学生も出征をすることになる。学徒動員である。
ここに泰介がいることをなぜ、役人はわかったの
だろうか?
西門の家は焼けてそこには誰もいないのはしかたがない。
しかし、あのとき、行き交うとき挨拶をした
おじいさんがいた。
山下の親戚と言わないほうがいい
といったあのひとが、役所に
通報したのだろうか???
家を失い、家族を失い
身を寄せた先でめいこは柿の葉寿司を
作ろうなんてできるわけがない。
和枝はそれを承知の上で、
お願いしますと言いなさい
といった。
筋は通っている。
決して、和枝はいけずなだけではないのである。
こうして、泰介もめいこから
去って行く。
和枝がつぶやいた
「女は一人で飯を食べれるようにならんと」
この言葉は、大変重たい。
