い草のあじ3

空襲の後、ふ久は諸岡の親戚のもとへ
静は桜子の別荘へと疎開していく。

生まれたばかりの孫に名残惜しそうに
声をかけるめいこ。

焼野原で自宅のあった場所で使えそうな
ものを探すめいこに、泰助は言う。

「よし、ほなお母さんも行くで。
僕がうまいことやるから
和枝おばさんのところへ行くで。」
めいこは、それはないと驚く。

二人で歩きながら話した。
めいこは言った。
「そんなんでうまいこと
いくはずないって。」

「やってみんとわからんやん」
と泰介は言った。

和枝の家について、和枝にあった。

「はぁ、それは難儀でしたね」と
和枝は平然と言った。

「母の受け入れをなんとか
おねがいできませんか」

「なんや勘違いしているみたいやけど
うちは受け入れヘンとはいうてまへんで。
条件をのまはらヘンのは
そちらのかたで・・・。」

和枝はめいこをさす。

家屋敷の権利のことである。
泰介は、風呂敷包みをあけて
これが印鑑と権利書ですと
和枝にみせた。

箱はあっても、中身は真っ黒で
要するに焼けてしまっていた。

和枝はそんなはずはない。
焼けるようなところに悠太郎さんが
しまっておくわけがないと
いう。

泰介は燃えないものなどないという
程の空襲だったというが。

和枝は、「ほな一筆書いといて。」といった。

「僕も母も権利者ではないので法律的には
無効と思いますが、それでもいいですか?」

和枝は、だまって了解した。

あてがわれた部屋で泰介とめいこ。

「とりあえずおいてもらえたからええやない。
でも、あれやな、骨のありそうな人やな」

「のんきなこというて」

泰介は希子から西門を出ていくまでのことを
きいていたというが、和枝がここで
どんなふうに暮らしていたか・・と
めいこにきいた。

めいこも詳しくは知らない。
ただ、先妻がなくなってここに後妻で
きたこと、相次いで舅、姑が
なくなったこと、息子さんたちは
家をつがなかったこと・・・ぐらいである。

そこへ、「めいこはん~~」と和枝が来た。

「はい・・・」とふすまを開けると
たったままの和枝が上から見下ろしながら
いった。

「御台所手伝ってくださる?」

「あ、私も一緒にですか?」

「なんや働きもせんと居座るつもりだったんかいな。」

台所へ降りためいこは
たくさんの食材がならんでいたので
感激した。

通いの春子という娘がいた。

外の様子を見にでた泰介は
野良仕事から帰る途中の男性と
すれちがい、あいさつをした。

その人は振り返って
「あんたこの辺の人やないな」と聞く。

「はい、そうです。
山下さんのところに母がご厄介に
なるので・・・」

と帽子を取っていった。

男性は「あんたこのへんで
あそこの身内やていわんほうがええで。」

という。

泰介が帰ると台所にはおいしそうな夕餉が
できていた。

めいこは、お膳をつくった。

泰介は「おいしそう~~」と喜ぶ。
「こんなちゃんとしたごはん、ひさしぶりやね。」と
めいこも喜ぶ。

そこへ和枝がきて「なんで三膳なん?」と聞く。

めいこは、花ちゃんの分もいるのかと思った。

「あんさんらこれ食べはるつもりでっか?」

「一緒に作ろうといわはりましたけど。」

「そりゃ、いいましたけど、あはははは・・・
いきなり押しかけてきて白いご飯まで
たべるつもりでっか?」

「せやけど、どうみてもおひとりの量では
ないではないですか?」

「花に持って帰らそうと作ったのだ」と和枝は言う。
「弟らが具合が悪いんやろ?持って帰り。」

花は、受け取った。

で、二人のご飯は、お部屋で玄米の
ご飯と漬物とお茶だけだった。

めいこはため息をついた。
泰介は笑った。

翌朝、おそるおそる台所へ降りると
だれもいない。泰介とめいこは
どうしたものかと思う。

そこへ野良仕事から和枝が帰ってきた。

「都会の人はお殿様みたいでんな
わてらはもったいない、もったいないと
おひいさんと一緒に動くけど
都会の肩はそんな貧乏性なことは
せえへんのやな。」

めいこは、座って「何を致せばよろしいでしょうか」
と聞く。

で、荒れた畑を耕せと言われて
泰介と一緒にいく。

あまりの広さに驚く二人。

一方、花は和枝に聞いた。

「あの、奥様、なんであのひとらには
わけのわからないいけずをされるので
すか?奥様らしくないというか」

「あの人とわてはな、死ぬまでいけず
しようと約束したんや。
いやでもせなしゃーないんや。
やることぎょうさんありますのに・・・。」

めいこと泰介は耕していたが・・・
お腹がすいた。

「何かもらってこようか」と泰介がいうと

花が追いかけ茶を持ってきた。

奥さんらがご主人が出た後追いかけて
持っていくから・・・追いかけ茶。

つまり、茶がゆである。

「いただきます。」

ふたりは言って、ずるずる、ばりばりと
食べ始めた。

「はぁ~~おいしい。」
「あははは・・・にぎやかな音がするごはんやね。
ずるずるばりばり。」

めいこがそういうと、花は「このへんでは
家族の音というのですよ。
多いと大変ですよ」と笑った。

そこへ、荷車を押した男性が声をかける。

「花、ちょっと手伝ってくれ。」
花の父親だった。

泰介は、僕がいきますといって
茶がゆをかきこんだ。

家まで車を押して行った泰介は
昨日、ある男性から山下家の身内だと
言わないほうがいいと言われたことを
いって、なぜなのでしょうかと聞く。

花の父親は語った。

せん先代の奥様は仏さんと言われたほどの
優しい人だったという。
苦しかったら小作料払わんでもええで
大変やろって。保証人にもなってくれたし。
和枝さんはお姑さんが倒れて後妻に来はったけど
気は回る、畑仕事もいとわない
三国一の嫁だと評判だったという。

そのお姑さんがなくなってから大ナタを
振るようになったという。
つまり、小作料は取り立てるわ
押収するし書類まで書かさはるし
三国一の嫁はあっというまに鬼嫁と
なったという。

なんもいわんと小作料を取り立てたり
小作に作物の品種改良を
するようにいったり肥料を工夫するように
いうたりした。それが成功して
花の父親は楽になったという。
楽になった自分たちは和枝こそ
仏さんやと思っているらしい。
和枝はそれでも厳しい人だというが。

泰介はそれを聞いて考え込んだ。

そのころ、和枝は猫と縁側で遊んでいたが
猫が逃げだしたので追いかけようとして
どこか痛めてしまった。

泰介が帰ってきてめいこと話をした。
「なんでいまだにおかあさんには
しょーもないいけずをしはるんやろな?」

「それはずっと死ぬまでいけずをするって
約束したからや。
それだけではないと思うけど、」とめいこ
はいうが、やり返す気力がない。

そこへ花が来た。

「あの・・・奥様が呼んではるんですけど。」

めいこは泰介を見て
ほら来た・・・といわんばかりに
うなずいた。

**************
ついに和枝の家に行くことになった
めいこだった。

まだ、寒い季節で荒れた畑を耕すと
おそらく、春に種をまき、夏から秋に
野菜が収穫できる
広さである。

和枝は相変わらずのいけずだった。
ごはんがあてがわれなかったのは
恐ろしいぐらいのいけずである。

和枝の生き方がここで見えてくる
と思う。

嫁に来て
ひとり、ひとりと亡くなって行く
なかで、この家の屋台骨となって
家を守って行くことは自ら
働くことではないかと思ったのだろう。

和枝の負けず嫌いの性格がよくわかる。
小作料も取り立てたのは
まじめに働くことが大事だということでは
ないだろうか。

なまじ優しいだけでは、だれも救われない
と思ったのではと思う。

厳しいけど、結果としてよかったと
思われる和枝の様子がわかるようだ。

で、

和枝さん

ぎっくり腰かな???

あさいちでイノッチが
和枝さんが出てきたら
ピリッとするといったけど
おそろしいほどの
いけずで
ピリ・・・どころでは
ないと思いました。