い草のあじ2
大阪に爆撃機がやってきて
空襲が始まった。
そのさなかに生まれたふ久の赤ん坊。
お産したばかりのふ久をリヤカーに乗せ
赤ん坊とともに日の中を逃げるめいこだ
ったが・・・
火の手は思った以上にきびしく逃げる道をふさいだ。
どっちに逃げても火の海に
めいこは、「死んでしまう・・・」と
つぶやく・・・そのとき懐に入れていた
悠太郎の手紙がない。
さがすと近くに落ちていた。
その手紙を拾ってだきしめると
ふと地下鉄を思い出した。
「悠太郎さん・・・・」
「お母さん大丈夫?」泰介が走り寄る。
「地下や・・・」
「え?」
「地下鉄や!!」
めいこたちは、地下鉄の入口へ走って行った。
ところが、入り口の門が閉まっている。
「あけて!!!
あけて・・・ください!!」
めいこは、叫んだ。
「開けろ!!!あけろーー!!!」
といいながら門をがたがたしたり
叩いたりした。
すると駅員がやってきて、
やめろという。
「空襲時は地下鉄は危ない。
危険なんや。防空法でそう決まっているんや。」
という。
だから開けないというのだった。
「この地下鉄作ったんはうちの人や。
なんかあったら地下鉄に逃げろと
ここに書いてある。」
めいこは悠太郎の手紙をだした。
「地下鉄が一番安全なんや!!!
作った人がそういうているんや。
信じられないことがあるんや。だから
ほんまに・・・お願いします。」
駅員は門を開けた。
多くの人たちは地下鉄に入って行った。
めいこは悠太郎に助けられたと思った。
静も、めいこもふ久を気遣った。
そこに電車がやってきた。
あかるい、暖かそうな、電車だった。
「梅田方面は火が回っていませんから
とりあえずそっちへ走らせます。」
「おおきに・・・」
「おおきに・・・」
人々は、電車に乗った。
めいこは、ふ久を座席に座らせた。
「おかあちゃん、おおきに・・。」
「抱っこさせてもろてええ?」
めいこは、初孫を抱いた。
「悠太郎さん、おじいちゃんになったで。」
赤ん坊はおとなしく寝ていた。
電車は走り出した。
ー守ってくれたね、悠太郎さん
守ってくれたね・・・よかったね めいこ。
翌朝、住んでいたところは一面がれき化として
いた。全焼である。
みんな呆然とした。
「これ・・・・?」
ただ、あの蔵だけは残っていた。
赤ん坊が泣いた。
落ち着けるところを探そうとめいこは言った。
源太が来た。
うま介は焼けてないという。
めいこは、うま介に行く前に
焼野原を見た。
ここが台所だった。
このちゃぶ台でみんなで食事をした。
そして…糠床の壺がわれていたのが
わかった。
地下室に入れてたらよかったとめいこは言った。
うま介の店は避難民でいっぱいだった。
「めいこちゃん、大丈夫だったか?
子供抱えているおかあさんには
二階を使ってもろてるから」
という。
とりあえず、ふ久と静はおちついた。
「ふ久・・・たべるか?
中は大丈夫やと思うけど。」
めいこは、焼けた我が家にあった
サツマイモがちょうど焼き芋になって
いたので、ふ久に食べさせた。
ふ久の隣にいた女性にも
どうぞ・・といって食べさせた。
その夜、これからのことを話し合いをした。
静は桜子さんのところへ行く
希子は放送局に近くにアパートを
借りるという。
ふ久は諸岡の親戚に行くという。
源太はめいこはどうするといった。
お静さんと一緒にいけれヘンのかと
いうが、ここを離れたら
悠太郎や活男が帰ってきたとき
わからないという。
「和枝さんとこは?」と源太がきく。
「来るんやったら家屋敷を渡せと
いわれている」と静は言う。
家は焼けてしまったが
土地はある。
しかし、かってに渡すわけにもいかない。
ふ久のようすを見てくるなと
めいこは二階へ行った。
静は、「あそこをあきらめたらみんな戻って
来ないと思っているのかな」という。
泰介は考えていた。
『十四日ふ久に子供が生まれました。
元気な男の子です。』
「なにやってんの?」
「お父さんが帰ってきたら話すことを買いてんねん。」
『今日の配給はいつもよりも大きな
大根だった・・??
お酒の配給がありました。
押入れの隅からクッキーが出てきました』
「あははは・・ええことしか書いて
ないやん。」
「悪いことかいたら、気力がなくなるから。」
「おかあさんこれからどうする?」
「空襲のとき地下鉄が走ったって
ええこと?わるいこと?」
めいこは無視して聞く。
『この地下鉄を作ったんは
うちのひとや。なんかあったら地下鉄に
逃げ込めってここに書いてある!
一番安全なんや!』
泰介はめいこが叫んだことを思い出した。
生きるために必死になる母だった。
「ええ悪いは別にしてお父さん喜ぶと
思うけどな。」
「そうか・・・ほなかいとこ(書いておこう)!!」
めいこは、月明かりの中で
せっせと悠太郎への土産話を
かきました。
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地下鉄はすごいですね。
南海トラフの地震がきたら
地下鉄に逃げるのですか?
浸水さえなければ
いいかもしれません。
いまも役に立つ地下鉄です。
焼け出されためいこたち。
土地の権利を手放して
和枝の世話になるのでしょうか??
戦争のために
活男と別れ
悠太郎と別れ
静と・・・ふ久とも別れ・・
そして、糠床とも別れ
これ以上別れたくないのに
大阪の街とも別れるのでしょうか。
まだまだ・・・戦争は続きます。
苦労が絶えないめいこです。
