悠太郎の卵(らん)6
今日一日、家族の計らいでふたりきりと
なっためいこと悠太郎。
その真意をしることなく、
めいこはいつもどおり
家事にいそしむ。
「どこかへいきませんか?」
と悠太郎がきいても
「やること一杯だから」という。
うま介の店にも手伝いにいくめいこだった。
雑草で作った青汁を手に
「これがなぜ需要が?」と
不思議に思う悠太郎だった。
うま介の店の外では悠太郎が
源太を呼んでいた。
「なんやねん、話って!!」
源太はイライラしていった。
悠太郎は、「この間はありがとう
ございました。」という。
「ええかげんにしたってや。
あいつも大変やったんやで。」
悠太郎は一呼吸おいて、
「あした満洲へ行きます」
といった。
源太は驚いて悠太郎を見る。
悠太郎は源太に近づいていった。
「この先、あの人を助けてやって
くれませんか?お願いします・・」
と言って、頭を下げた。
源太は・・・しばらく黙っていたが
「そんなん・・・
頼まれんでも
やってきたやないか。」
悠太郎は顔を上げた。
「これは、お前がどうでもわしには
関係ないんじゃ。
あいつは、表向きはお前の嫁さんでも
たった一人の人生の相方なんや。」
悠太郎はじっと源太をみた。
源太はうま介の店に入ろうとして
もう一言言った。
「食わしとくから・・・
ちゃちゃっといって戻ってこいや。」
源太はそういって
うま介の店に入って行った。
揃った食材を前にめいこは考えていた。
悠太郎はじっとみていて、近づいた。
「なんですか?」とめいこはいった。
「楽しそうやなと思って・・」
「楽しいですから。」
で、作ったのは・・・
スコッチエッグ・・・もどき。
「肉は大豆やし衣はトウモロコシ粉やし
大丈夫かな??」
めいこは、スコッチエッグを箸で
わった。
中からトロッとした黄身が出てきた。
悠太郎は、おいしそうに食べるめいこをみて
いった。
東京で出会った頃もよくめいこは食べていた。
しかも、おいしそうに・・・。
「食べてばかりでしたよね、あなたは」
「誰かさんから何の魅力もないと
いわれましたよね。あれで私の人生
かわったのです。」
悠太郎さんの夢をかなえることが
私の夢をかなえることになったと
めいこはいった。
「楽しかったですか、そういう生き方が。」
「私は厚かましいから・・・。」
悠太郎の仕事の何百万分の一が
めいこの作ったごはんでできている
細胞であって、それが仕事して
安心して住める街を作ったということは
私が作ったと思っているという。だから
厚かましいといった。
「次は何を作りたいですか?」
悠太郎はホテルやビル、アパートメント
高いビルを作りたいと言った。
めいこは、子供たちや孫たちと一緒に
おなじアパートにすんで
いつも、顔を見れて、一緒に地下鉄に
のって、デパートへ行ったりホテルに
食事にいったり・・・そうしたいと夢を
語った。
「これみんなおじいちゃんが作ったんよって
ふふふ・・・」
悠太郎は、じっと聞いていたが
涙が出てきた。
「いけませんね・・・
年取るといろんなところが緩くなって」
といった。
悠太郎は少し泣きながら食べた。
その夜、めいこの寝顔を見ながら・・
手紙を書いた。
翌朝、出かけるとき、静にその手紙を
託した。
そして、いつもどおりめいこがお弁当を
「はい、悠太郎さん」、といって渡してくれた。
悠太郎もいつもどおり
「今日はなんですか?」と聞いた。
めいこはいつもどおり
「なぁ~~んでしょ。」と答えた。
悠太郎はじっとめいこを見た。
そして
「ごちそうさんでした」
と言った。
めいこは、「え?」と思って悠太郎を見た。
まだ食べてないのに・・・。
悠太郎は
「夕べ言い忘れた気がします」といった。
「そうでしたっけ?」
「ほな、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
悠太郎は玄関を出た。そして
西門の家を名残惜しそうに見上げた。
少しため息をついて
朝もやの中
去っていった。
静は悠太郎から預かった手紙を
目の前にして悩んだ。
めいこは台所にいて、静に声をかけようと
した。
静はそれをかき消すかのように
叫んだ。
「やっぱり・・・・
やっぱり・・・」
静はめいこのもとに走って行き
「追いかけ!!!」といった。
「え?」
「悠太郎さんな、軍属で満洲へ行きはるねん。
結局下ったんはそういう処分やったんや。
最後のあんたの笑った顔を見て
笑った顔を見せて行きたいので
だまってはったんや。
やっぱり、ちゃんとお別れしていき、な?」
めいこは、おどろきのあまり一歩二歩
と、よけるように玄関へ向かって歩き、
振り向いて
口を真一文字にかみしめ
静に頭を下げた。
静も答えた。
めいこは家を出て駆け出した。
悠太郎の手紙・・・・
「めいこへ
こんな大きなことを黙っていてホンマに
すみません。どうしてもあなたの笑った
顔を見て行きたかったんです。
最後までわがままほうだいな夫
ですみません。
始末で作った鯛・・・
希子が歌った焼き氷」
『あなたは僕が手に入れたたったひとつの
宝物ですから』
めいこは・・走った・・。
「勇気をもらったお節のフグ。
魔性の筋カレー
『ホントに好きですよね。』
『あなたのカレーは天下無敵です。』
祝言の時のふたりからみんなへの
ごちそうさん。
その時の杉玉・・・。柿の葉寿司。
諸岡君たちを励ました
牛カツ・・・薄いカツ。
人生を変えた納豆巾着。
『おいしかったですか?』
『ごちそうさんでした。』
どれもこれも昨日のことのように
思い出されます。
僕はいつの間にかとてもとても幸せな夫になっていました。
僕がこんなに幸せになるとは夢にも
あなたと出会うまでは夢にも・・・・・」
「悠太郎さん!!」
めいこが悠太郎に追いついた。
悠太郎は振り向いた。
「あのね・・・
もうひとつ食べたいものがあった。」
悠太郎はめいこを見た
「悠太郎さんの手料理・・・」
雪が降ってきた
「言い忘れた気がするから・・それだけ。
・・・・
いってらっしゃい・・・。」
「できるだけ早く戻ります。」
「待っています。」
雪の中・・・
悠太郎は頭を少し下げ
そして少し笑顔で前を向いて
悠太郎は角を曲がり
町の中に消えた・・・・・。
年の瀬も真近い日の
出来事で
ございました。
*************
源太の心の妻はめいこだった。
だから、いろんな女性と付き合っても
誰とも結婚しないわけだった。
そんなことがわかって悠太郎は
どう思ったことか。
これから自分はどうなるかわからない
が
源太ならめいこを守ってくれると
おもったのでしょう。
いけませんね・・・
年を取ると
いろんなところが緩くなって・・
このセリフ・・・時代を追っていく
ドラマならではで、東出君が
他のドラマで話すことはおそらく
ないだろうと思います。
悠太郎が決意した、満州行を最後まで
黙っておくことは
正解だったと思います。
もし、その話をしていたら
ずっと、暗いまま
深刻なまま
お別れの日を迎えたでしょうね。
しらないものだから
めいこは、楽しそうにご飯を作って
楽しそうに、お話をして・・
楽しそうにいつものように
悠太郎を見送ってくれて・・・。
でもやっぱり
静は、それではいけないと
思って、本当のことを言ったのも
正解。
めいこは、悠太郎に帰ってくるようにと
メッセージを伝えることができました。
[できるだけ早く戻ります・・・。]
この決意、口に出さなくては
生きる気力がわかなくなる。
めいこに手料理を食べさせなくてはと
希望と目的をもって
戦地に行っても
がんばって生きて帰ってくれると
思います・・・。
めいこの愛はすばらしいと思います。
