悠太郎の卵(らん)3

活男からのてがみが家に着いた。

そのころ、家路を急ぐ悠太郎だが
亡くなった中学生の母親が
いった「このこはなんのために
生まれてきたのですか・・」

という言葉が悠太郎を
悩ました。

カツオの手紙を夕餉に読んだ。
それは元気であること。
海軍の主計課に配属になったこと。

自分のやりたいことが現実になった
喜びだった。

海軍一等主計兵だって・・・
いいのか、わるいのか・・・。

静は「よかった、行きたいところへ行けて」
という。

「海軍へ行ったかいがありましたね・・・」と
希子はめいこにいう。

悠太郎は・・・・

黙っているので、めいこは声をかけた。

「よかったです」といって二階へ上がった。
元気がない。

悠太郎は、父親の遺書となった手紙を
読んでいた。内容は、なんだったか
とにかく、夢に向かって生きている息子が
誇らしいという意味だったと思うけど。

めいこは、そっと部屋に入ってきた。

そして
悠太郎に「お仕事今は何をやっているの
ですか?」と聞く。

悠太郎は、「気を遣わなくてもいいですよ」と
いうが・・・

めいこは、「何の役にも立たないけど
話をしてほしい」という。

「自分は何をやっているのだろうか。
なにも守れていないような気がします。
子供たちの夢や未来や・・」

めいこは、「町を守っているではないですか。
心を鬼にして引き倒しをやっている・・
だれにでもできることではないし。
私も子供たちもお父さんがいないと
食べていけれないし」

-気弱になってしまったね。
よっぽど参っているのだろうね。
元気になるもの食べさせてあげたいけど
材料がね・・・。

「なんか・・・なんかあったかなぁ??」

めいこは、探した。

「へえ?お米の配給があったのですか?」

よく朝、ご飯が食卓に乗った。
希子はおどろいてめいこに尋ねたのだった。

めいこは、あっさりと
「非常用の入り米を使ってしまいました。」

といった。

希子は笑った。
静は、不安に思った。「大丈夫なんかいな?」

「あまり先のことを考えてもね?
ふふふ・・・」

「これどうやって作るんですか?」
と悠太郎が言った。

「いり米を少しの水で煮て
昆布とお茶でお出汁を取って
ま、なんもなくても何とかできるもので
すよ。」

悠太郎は「なんか知らんできるものなんですね。」
という。
めいこは「なんかしらんできるものなんですよ。」
といった。

いただきますのあとみんなは
笑顔になった。

「やっぱりコメはいいですね~~」と悠太郎
「おいしいです。」

笑顔の朝餉だった。

ところが、引き倒し計画の一角に
ついて上司から命令が来た。

作業の一画の中の一部分だけは引き倒し
を中止するという。
では、逃げ道になる通路はどうするのかと
悠太郎は聞く。
この部分を置いておくと道ができない。

他の部分から道を引っ張ってくるんやと
上司は言うが・・

つまりは、中止した分だけ
余計なところを引き倒しをするので
人手がかかるのだ。

「子供(中学生)まで使っているのに
昨日、あんな事故が起こったばかりだと
いうのに・・・」

悠太郎は断った。

すると上司は中止の部分には
議員さんの親戚が住んでいるといった。
その手を回してきたとわかった。

「子供を入れなくてはいけないほど
人手不足なんですよ。
昨日の事故のことも報告しましたよね」

と怒って悠太郎は立ち上がっていった。

「吼えたかて、自分らには何の権限も
ないんや・・・」
上司は悠太郎を座らせた。

「骨折り損のくたびれもうけという
ことば、わかるやろ?
やれ言われたらやるしかないんや。
しゃーないんや!」

どうしようもない気持ちになった悠太郎だった。

そこへ突然報告が入った。

東京が空襲にあったという。

武蔵野の飛行機工場が敵機の襲来で
爆弾を落とされたらしい。

昭和19年11月24日のことだった。
『12時過ぎより約2時間にわたり
敵機70機内外数梯団にわたり
帝都付近に侵入セリ・・・』

夕餉の時、ラジオの放送を聞きながら
家族は不安になった。

静は「空襲にあったのは軍需工場やから
大丈夫と思うけど
卯野のお父さんたちはどうしているの?」
と聞いた。

めいこは、大吾のあの性格だと
疎開はしていないだろうと答えた。

静は、「空襲というてもそんなに怖いもの
ではないらしいから」という。

めいこも「ちゃんと防空したら
ええんと違うかな」と悠太郎に聞く。

空襲は怖くないとの話をそのまま
受け取っていた。

悠太郎は、「火事って・・・頭で考えるより
ずっとむごたらしいものですよ。」

と、ぼそっといった。

めいこも家族も(静と希子)しーんとなった。

あれは、母が死んだ火事の時だった。
悠太郎は思い出した。
母だと言われて見に行った死体を
みて、少年悠太郎はショックを受けた。
「希子・・・・これ・・・おかあちゃんなんか?
おかあちゃん・・・なんか?」
泣く悠太郎に希子も一緒に泣いた。

また、悠太郎は成人して
火事の現場にいき、死体を確認した。

「めいこ・・・!!
めいこ!!!」

そのとき、正蔵の声がした。

「お前ゆうたやないか・・・」

悠太郎が振り返るとそこに
正蔵が立っていた。

「わしが壊した分、守って回るって・・・

俺が守って回るっていうたやないか・・」

その正蔵の顔すら火でかき消された
ので

悠太郎は、大声を上げて
起きた!!

夢だった・・・。

ドキドキしていた。

めいこは、心配して声をかけた。

悠太郎はめいこの手を握って
恐怖におびえていた。

すこし、風にあたってくるといって
悠太郎は真っ暗な外をみた。

縁側で座り込む悠太郎を心配そうに
めいこは見た。

その日から悠太郎は考え込むことが
多くなり、軍事関係の資料をかたっぱし
から読んだ。

そして上司に防火のことについて
防空演習の件で話をした。

「ほんとうの火事になったら腰が引けて
消火活動は無理です」と。

「疎開地の中に建物の島を残して
実際に火をつけて防空演習を
してみるのはいかがでしょうか。」

上司は賛成した。

うま介の店では
桜子や室井が
別荘へ疎開に行くので
その送別会が行われて
いた。

桜子は、めいこに、今までのお礼
で、ためていた食材やら、浴衣やら
砂糖やらを提供した。

室井は自分のサイン入りの初版本を
提供した。

悠太郎は心ここに非ずで
飲んでいたが、ふと立ち上がって
厨房へ行って水を飲んだ。

様子がおかしいと源太は悠太郎に
話しかけた。

「まだ飲み終わるには早いやろ。」

そういって、源太は悠太郎に
お酒をすすめた。

悠太郎はおおきにと言って、
昔親父に手紙をもらったことが
あると話をし始めた。

「子供たちに輝く未来と
豊かな誇りを与える大人になれ」と。

「普通にまともにやっていたらおのずと
そうなるものと信じていた。

うちの子供らの青春は僕らのころからは
考えられないような程不自由でした。

こんな世の中にしてしまったのは僕ら
なんですよね。」

・・・源太は黙って聞いていた。

めいこは、何事かと厨房を見た。

翌日、いよいよ、防空演習が
行われることとなった。

悠太郎は職場の机の前で
目をつむってじっと座っていた。

うま介の店で手伝いながら
めいこはうま介に言った。

「とにかく様子がおかしいのですよ。
なんだか遠い感じがするというか・・・・・。」

めいこはなにかしら、不安を感じていた。

悠太郎のもとに部下が来る。
「西門課長、皆さんがそろいましたけど。」

「今行きます。」

悠太郎はそういって、ため息をついて
立ち上がった。

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このころの日本人はお上が
こうだといったら、信じるのですよね。
空襲は怖くないと言ったら
しんじたのですよね。

で、実際にどうだったか???

うなりを上げて飛んでくるB29。
すごく大きな飛行機だそうです。

それが、ばらばらばらばらと
雨のように爆弾を景気よく落とすのです。

すると、落ちたところは一瞬にして火の海です。
火事は最初は小さな火なので
その時点で消せばいいのかもしれません。

しかし、爆弾は、一瞬です。
あっという間に大火事です。

それを悠太郎は火事という事故で知り
軍事資料で、本当のことを知ることとなり
ました。

自分は何をしなくてはいけないのか???
それを、ずっと考え込んでいたのでしょう。
正蔵と誓い合った、俺が守ってみせるという
ことをいま、約束を守るとすれば
何をしなくてはいけないのかと
遠くを見ながら考えていたので
存在が遠く思えたのでしょう。

めいこの不安は・・・???

こんなご時世に正義も何も
ないのですけどね・・・・。

国が間違ったことをしているのだから
国民が正しいことをしようと思ったら
反逆者です・・・。大丈夫か悠太郎!