悠太郎の卵(らん)1

昭和19年秋・・・・
大阪の街は空襲への警戒を
強めていた。

しかし、空襲に対する認識が
ちょっと違うような・・

お米を一升瓶に入れて
棒でつきながらめいこは
ラジオ放送を聞いていた。

空襲は怖いものではない。
爆弾は簡単にあたるものではない。

そして、防空活動をおろそかにして
町が焼けることが恐ろしいので
迅速に火を消しに行けばよい。
空襲に備えての訓練といって
防空壕に隠れて
おさまったら、火を消しに行く

という
訓練を民衆はしていた・・・が

めいこは、「そうかなぁ?」と疑問に思った。

ーいきなりでございますが、当時の市民には
防空義務というのがございました。

ーようするに防空時には市民が一丸となって
町の火消しに当たれ!

ー 一方で建物を疎開する作業も続けられて
おりました。

建物疎開とは空襲時の火事の延焼を
ふせぐために、住宅密集地の建物を
こわして、空き地を作って
大きなダメージを食らわないようにとの
対策である。

その作業にあたったのが・・・
悠太郎の部署だった。

「大阪の街を守るためにも
なにとぞ、皆様のご理解と
ご協力をお願いします」
といって、悠太郎は
先頭に立って、建物を壊していく
作業を進めていた。

その現場で滔々とそのような説明を
して、ご協力をお願いしますと
頭を下げた悠太郎にひとりの老人が
訴えた。

「わしはなぁ、絶対立ち退かんと
いうとるやろ・・・!!」

悠太郎は冷淡に言う。
「結構です。どうしても立ち退かないと
いうのなら、あなたごと引き倒す
のみです・・・。
かかってください!!」

「位置につけ!!!」

作業員は目指す老人の家を
引き倒す作業にかかった。

ーその迷いのないやり口に悠太郎は
疎開の鬼と異名を取っておりました。

いつもの朝のことである。
「はい、お弁当!!」

めいこは悠太郎に弁当を差し出した。

「今日はなんですか?」

面倒くさそうに悠太郎は言う。

「なぁんでしょう?」

「もう、おにぎりでもないでしょ?」

「旦那、それをいったらおしまいでは
ないですか。(笑)」

「・・・そうですね・・・ほな行ってきます・・。」
そういって悠太郎は
行ってらっしゃいというめいこの
目の前で
玄関の戸を閉めた。

愛想のない態度にめいこは静に
愚痴ると

「仕事で疲れているんやろ。」
という。

「何ぼ安全のためとはいえ
人さんの家を引き倒すのは
気持ちのええもんじゃないし。」

と静は言った。

めいこは、鶏をかかえて
「夜も帰ってくるのが遅いですから
ね」という。

「ほんとうなら栄養のあるものを
食べさせたいけど・・」今のご時勢
そうはいかない。

鶏もとうとう、卵を産まなくなった。

めいこは、畑へ行ってから
うま介の店に手伝いにいった。

うま介の店では
あるものが人気だった。

それは、青汁・・・・・。

その時にある雑草を
あつめて、つぶして
ジュースにして飲むのである。

奥さんたちにはお肌がつやつや
になると評判となったが・・

その名前が???

「よしだ汁」

その名前の由来は、おそらく室井が
考えたのだろう。

室井は、「材料がその時にある草でつくる
ことから、つれづれの草・・・
徒然草・・

徒然草と言えば?
そ・・

吉田兼好・・・よしだ汁しかないでしょ?」

みんな、あははと笑った・・

めいこは、桜子がよく許したなと
いったが

その桜子・・・は?

顔色を変えてうま介の店に帰ってきた。

「どこへ行ってたの?」とめいこがきくと

「実はね・・・」

悠太郎の職場では
「引き倒してもひきたおしても終わ
りませんなぁ~~」と職員がぼやいていた。

こんなにあると書類を見せる。

悠太郎は

「空襲が来んでも
町がなくなりそうですよね。」

と物騒なことをいう。

「ほんまですね・・・」
悠太郎は住宅地図を
赤鉛筆で塗りながら
いった。

そこへ、上の人がやってきた。

「防火改修課でも民間の防空指導
にあたってくれへんかなと
上からの要請や。」

防空指導とは建物から火が出たときに
恐がらないで火を消すという指導である。

「それはわかりますが、
うち、まったく人が足りてないんです。」

「ま、これ読んでちゃっちゃっとすましたら
ええから。」

といって、書類を置いて行った。

「ちゃっちゃっと・・・て・・・」

悠太郎はため息をついて椅子に座った。

そこへ、一人の老人がやってきた。

この時代、やっぱり、若い人は
戦争へ取られるので
少ないんでしょうね。
で、町を守っているのは
女と老人なのでしょうね・・・・。

「防火改修課というのはここか!!」

偉い勢いでやってきて怒っている。

部下が

「なにか?」と聞いた。

その男は

「わしな、五月の建物疎開で
自宅をひきはらって
北川町へひっこしたんや。

そしたら今度はそこが
防空陣地に指定されるというんや。
どないなってんねん!!
どないなってんねん!!」

つまり・・・またこの人は引っ越し
なのでしょうか・・・・・。ちょっと
防空陣地がわからない。

悠太郎は、立ち上がって
その男性に近づいていった。

「疎開地域の作成は内務省の
管轄でわたくしどもに権限は
ないのでそちらへ行ってくださいます
でしょうか。

以上・・ご質問は?」

その男は、やり場のない怒りに震えて
部屋を出て行った。

なんと冷酷な男でしょうか!!!

夕餉。

めいこは、おかずのアイディアを披露した。

「かぼちゃの種をすりつぶして
炒ったという。ゴマみたいでしょ?」

「かぼちゃはワタも茎も種も
捨てるところがないので
助かります。」

悠太郎は力なく「へーっ」と
感心した。

めいこは、悠太郎を励ますつもりで
かっちゃんの分も無事をねがって
食べてくださいねという。

つかれている悠太郎に
静は大丈夫かいなと聞く。

「啓二君ほどではないですよ。」

川久保は空襲警報の
準備で放送局に寝泊まりする
ことが多い。

「なんやもう・・・みんなぐったりやなぁ。」
静は言った。

暗い空気なのでそういえばと
めいこは、桜子の話をした。

疎開が認められたというのだ。
実家のお父様が計らってくれたという。

こうなったら、許すも何もないらしい。
みんなまとめて別荘地へ来いと
言ってくれたという。さすが・・・
お嬢様。

「なにわともあれよかったですよね?」
元気のない夕餉に元気を入れるつもり
で話をしたが
緊急事態に、なにげに、人様のことなので
笑顔がない夕餉だった。

その夜のこと、悠太郎は書類を読んでいた。

『空襲は恐れるに足りません
防空壕に一時避難したら
素早く消火活動にいそしむこと。』

めいこは、「世間ではそういわれています。
爆弾は思うほど当たらんものとか。」といってます。

「当たらんわけないでしょ・・」

「とにかく怖がるものではないと言われています。」

めいこは悠太郎から以前聞いたこととは
感じが違うというが。
悠太郎は腹が立った。
「信じたらあきませんよ!」と声を荒げてしまった。

そして、ハッと気が付いて
「ふ久の疎開先は?」と聞く。
ふ久は妊娠して、妊婦の疎開の
受け入れ先を探しているのである。

「どうにもならなかったら姉さんとこは
ありえませんか?」

と悠太郎がきく。

めいこは以前、和枝の嫁ぎ先へ行ったときの
ことを思い出した。

能面のような恐ろしい無表情な顔で
めいこに、「なに?」と答えた
あの顔だった。

そして、うーーん・・・と悩んだ。

「ありえませんよね、すみません。」

と悠太郎は誤った。

めいこは、和枝は以前よりは丸くなった
けど、行くのはふ久なので
どうかなと心配だった。

めいこはふ久のいる諸岡家にいった。
ふ久は元気で、諸岡家の
工場の台帳つけやら、機械の修理やらを
している。
諸岡の母は、その話をめいこにして
主人ともども三国一の花嫁やと
喜んでいるといった。

そのふ久の疎開先は?ときく。
諸岡の母はあてにしていたところが
あったが、ほかの妊婦さんにふ久は
自分は丈夫だからといって譲ったという。

その話を聞き、めいこは考えた。
いつものおやつの時間、子供たちが
おいしそうに食べている。

一人の子がごちそうさんといったあと
残っているおやつをじっと見ていた。

「ごめんな、これうちの家の分やねん」

というと、「うん、わかっている
ごちそうさん」、といって帰って行った。

他の子供もおなじくそういって
帰って行った。

静は「寒いな」と言って帰ってきた。
「なんや、こどもたち
痩せてきたなぁ」という。

めいこは静に和枝のところへ
いくといった。ふ久の疎開のこと
を頼みに行くのだ。

「背に腹は代えられない」と。

「つきましては・・・ですね・・??」

めいこは手ぶらではいけれない
ので静の着物を借りたいという。
つまり、物々交換の
品物である。

もう、めいこには何も残っていない。
西門の蔵にも何も残っていない・・・。

静は驚いた。とっくに米やら味噌やらに
かわったというので、「あんたが
ごちそうさんて言われてふるまうからや」
と怒った。

「ふ久のためです。
ひ孫のためです。」

めいこは重ねて頼んだ。

すると、静は「・・・ひ孫・・・」

と心が動き・・・

「そうやったら、うちも行く」といった。
めいこはびっくりした。

そして、自分も疎開ができる
のでふ久のそばにいるから、
それなら、あんたも安心やろ?と

いった。

さて、めいこは、和枝の出方が
気になった・・・。

**************

鬼と化した悠太郎。
淡々と仕事をこなす。

大丈夫か?

なにかしらのしっぺ返しを受けそうだ。

今日はこの時代の様子の一覧を
見たようだった。

防空演習とか
空襲は怖くないとか
そんな非常識なことが平然と
行われていたのだった。

空襲が終わったら防空壕から出て
火を消すって

普通・・・家が一軒燃えるとして

バケツリレーなんかで
火が消せますか???

住宅密集地は延焼で危ないから
取り壊して、空き地にするなんて
すんでいる場所を勝手に
壊してしまうのですよね。

しかも、そのかわりこちらにという
家をあてがうこともしないで。

行くところのない人はとたんに、
ホームレスですよ!!!

どうなっているのか、と思います。
戦争ですから
当たり前とか
常識とか
ありえないのですよね。

むかつきます~~~~~。

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夢中になったソチオリンピックが
終わりました。

終わって思うことは
ロシアってやるやん・・・ということでした。
競技ではなく、会場提供です。

スポーツの祭典は戦いが終わって
すがすがしくお互いの健闘を称えます。
勝って威張り散らすものではなく
負けて、当たり散らすものではなく
勝ち負けはありますが
一生懸命戦ったというその姿が
すがすがしいのです。
見ている人に生きるための
パワーを与えます。
戦いの姿が生きる姿です。

だから、非常に残念だったのは
あの優秀な女子フィギアの金妍児選手
の得点を見直してほしいと150万の署名を
あつめたという報道。
彼女こそ金メダルだというのです。
この点数はおかしい、というのです。
オリンピック精神はフェアプレーの精神です。
判定は絶対です。
なのにもう一度なんて、ありえませんよ。
そんなこというといままでそんなケースは
多々ありました。
しかし、一番になるのはひとりです。多くの
敗者のうえに一人の勝利者がいます。ひとり
の勝利者は多くの敗者の思い
のすべてを引き受けて
世界を引っ張る責任があります。
決して栄光ばかりではありません。
一番でなくてはならないと
思っていてもその時の状況も
変わります。勝負は時の運と言いますが
その通りだと思います。

判定を不服とするのはスポーツの精神に反する
ことです。残念だと思いました。

閉会式
あの熊さん、狐さん、うさぎさん
かわいかったですね。

聖火を消す熊の表情。
涙がポロリ・・・・

そして、ふっと消します・・・。

暗くなった会場に花火が・・

BGMがチャイコフスキー
ピアノ協奏曲一番・・・。
素敵でした・・・・

ロシアの空にひびくチャイコフスキーの
名曲・・・感動しました。