私の大豆な男の子6
めいこは、父である卯野大吾に
手紙を書いた。
活男が志願して海軍の主計官になること。
どこの部署に配属かわからないが
だれよりもうまく大人数の料理を
作るにはどうすればいいのかと
報告と質問だった。
その手紙をみた悠太郎にめいこは
いった。
活男に有利になるための武器を持たせたい。
それには教えるべきことを
おしえておきたい。
自分にできることはそれだけだ・・と。
「それだけしか、ないやないですか・・(涙)」
この時代の流れで、親として子供にして
やれること、活男にしてやれることは
もう、それだけしかない・・・・。
めいこは、そういいながら
泣き崩れた。
『めいこへ。
ほんとうなら、かっちゃんをかっさらって
うちの店にぶち込みたいところだが
そうもいかない。本当にすまない』
さっそく、大吾からきた返事を読んだ
めいこは、風呂敷にどっさりと
自分の着物を詰め込んで言った。
「さらばじゃ!!!!!」
つまり質に入れて・・・食料の材料を
ドカンと買ってきたのだった。
おそらく闇であろう・・・。歴史的に
闇しかない。
『この上は卯野の意地にかけて
かっちゃんを厨房に送り込むことだ。
いいか、俺の考えを記す。』
背中にリュックをしょって帰ってきためいこ。
静は「芋?どうしたのこんなに?」と驚く。
「うまの飼料用の芋なんです・・・。」
そして卯野大吾指導、めいこ
実践直伝の特訓が
はじまった。
まず、包丁の使い方だ。
「遅い、手を回す!!」
めいこは、活男にすばやく芋の皮を
むくことを練習させた。
『戦場で求められることは早さだ。
とにかく包丁づかいを鍛えろ。
鍋振り、すりこぎ、うらごし・・・・
とにかくコックは重労働だ。特に
手首を鍛えろ』
めいこは、活男にフライパンを振らせて
野菜炒めをつくる。
「そんなんやないで。遅い、もっと振る!!」
『聞いた話だがとにかくめっぽう握り飯を
作るらしい。これはきっとおまえのほうが
うめえな。』
めいこは、ご飯を炊いた。
「ホンマはアツアツを握ったほうが
おいしいんだけど。速さを考えたら
少しさましたほうがええかもしれヘン」
そういって、ご飯をわけた。
活男は「炊き立てご飯でむちゃくちゃ
はよう握れるようにする。
そのほうがおいしんやろ?」といった。
活男はがんばった!!
熱くてもがんばった!!
うま介の店で、活男はコーヒーを飲んだ。
「おいしい。」
「そうか?戻ってきたらほんまの
うまいコーヒーを飲ませてやるさかいナ。」
とうま介は言った。
うま介の店で身内だけで
壮行会だった。
「はい、このお餅もどうぞ」と桜子。
「かっちゃんのために、かっちゃんの
分だけ作ったんだよ」
と横から室井。
「室井さんはなにもしてないでしょ」
そういって、みんなで笑った。
源太は「ほんまにこれでええんか?」と
めいこに聞く。
めいこは、「今は派手に壮行会をすると
怒られるし、共同炊事をよそって
やったらええと思って。
源ちゃんも帰ってきたし、ここはえんぎが
ええから」といった。
そういえば、ここで源太の壮行会を
やった。
おいしい、おいしいと、活男は食べている。
家族の出征祝いは
泰介とふ久もきて
それは明日の朝と、めいこはいった。
翌朝だった。
活男は早く起きて台所を磨いていた。
「早いな、かっちゃん。」とめいこは驚いた。
「今日、わしが作ろうと思って。」
めいこは、自分が作るというと
活男は作りたいとまたいう。
二人は笑った。
鶏が産んだ卵をみて
活男は喜び、何を作ろうかと
めいこにきく。
「牛乳あったらオムレツにするけどな。」
「豆乳やったら?」
「あ・・・やろか!」
「うん!」
活男は卵を手際よくまぜる。
それをみてめいこは思い出した。
この子が幼いとき、三人の子供と
台所で一緒に料理をした。
の~~~び~~
の~~~び~~
とめいこがいうと
活男は笑いながらアイスクリームの
素材を混ぜた。
納豆の入ったアイスクリームを
喜んで伸ばして笑った活男・・・。
それを思い出し、活男の横顔をみていた。
食事中は
他の人がおかわりというと
この子も負けずに
大きな声で
「おかわりぃ~~~わしも~~~」
と元気よくお茶碗を出したものだった。
活男の横顔をみて・・・涙が出てくる。
めいこと活男のふたりは
ならんで料理をした。
「おお・・・!!!」
見事なオムレツができた。
ソースはケチャップがないので
めいこが作ったお出汁になった。
「嘘みたいやな~~」と泰介。
「このオムレツはかっちゃんが焼いてくれました。」
「上手やな~~」とみんなが感心する。
「ほな、熱いうちにいただきましょ?」と
悠太郎が言う。
活男が取り分けた。
みんなで「いただきます」といった。
活男はみんなの食べる様子を見た。
「うん?豆乳ですか?」と希子。
「うまいよ、活男」と泰介。
「ようできている」と静。
「このお出汁は活男なだけに
カツオで作った」とめいこは言う。
活男は一口食べていった。
「おかあちゃんの、出汁や・・・。」
みんな黙って活男をみた。
そして、黙々と食べた。
ー最後かもしれないものね。みんなとご飯食べるの。
言いたくないね。あの言葉は・・・・
最後に残った漬物をみて
悠太郎がいった。
「お父さんがもろていいですか?」
「はい・・・。」とめいこ。
ーいやだよ、わたしは、行かせたくないんだよ。
かっちゃんはここに残って私の世話をするんだよ。
あ、ああああ・・・
悠太郎に食べられた漬物一切れ・・・。
「活男、ごちそうさん。」と悠太郎。
「はい・・・。」と活男。
「かっちゃん。ごちそうさん。」と川久保。
「こうなったら思いっきりやっといで」
と希子。
「うん」
「料理、楽しんどいでな」とふ久。
「卑怯者と言われても一番安全なところへ
逃げんねんぞ!」と諸岡。
「えーか?絶対やぞ!!」と諸岡は念を押す。
「・・・・うん・・・」(涙)
「かっちゃん・・・・」と静。
そして、
「いかんといて!!!!」
という。
めいこは
「かっちゃん・・・・
すごく・・・
すごーーーく・・・・
おいしかった。」
そういって
「ごちそうさん!」といった。
そして
「兵隊さんのごちそうさんをたくさん聞いといで」
「・・・・・」
「・・聞いたら・・・
戻っておいで・・・・。
戻ったら
また
一緒に・・
一緒に・・・・」言葉に詰まっためいこ。
活男はいった。
「アイスクリン・・・
アイスクリン、つくろな。
今度は牛乳でオムレツ
つくろな。
わし、いろいろ覚えてくるさかい。
たのしみにしとってな。
おかあちゃん、
ごちそうさんでした!!!」
「うん
おそまつさんでした・・・。」
やがて、荷物をまとめた活男が
西門家の玄関先に立つ。
家族が見送る。
「ほな・・・
いってきます」
「いってらっしゃい」
活男は笑ってさっていった。
めいこは叫んだ。
「かっちゃん
げんきで
やるんやで・・・・」
活男はふりむいて
笑って答えた。
残された家族は
活男がさっていっても
動かなかった。
活男の影を静かに
見送っていた。
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アイスクリームを作った日のこと
めいこも思い出しましたが
活男も思い出して
いたのですね・・・・。
くるくる~~~~~~~と
いって一緒に材料を混ぜたこと。
嬉しそうでしたよね・・・。
親は何のために子供を産んで
育てるのか。
大きくなって
幸せな家庭を作って
それが代々続きますようにと
願って育てます。
決して、能無しの国家のために
殺されるために産んで育てる
わけではないのです。
この、底抜けに明るい
活男がいなくなって
西門家はさみしくなりますね。
去っていく後姿が
こんなに幼いのに・・・なぜ
国家のために危ないところへ
と、思いました。
帰ってきてくださいね!!!
海軍仕込みの洋食を披露して
くださいと思います。
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この+印以下はオリンピックの
感想を書くことにしていました。
女子のメダルは
19日、スノーボード女子パラレル大回転で、
竹内智香さん銀メダル。おめでとうございます。
フリースタイルスキー女子ハーフパイプの
小野塚さんが銅メダル、おめでとうございます。
メダル以上に感動をくださった
上村愛子さん、浅田真央さん
高梨サラさん・・・
ありがとうございました。
