貧すればうどんす3

西門家の蔵の中・・・・懐中電灯を使って
家族がそろって
中を見る。

めいこが必死になって貯めた食料が
つまっていた。

それをみた悠太郎は「やっているとは思って
いたけど、ここまでとは・・・。」

といったほど、大掛かりな貯蔵だった。

砂糖、小麦粉、干しイモ・・

食料が配給制になったころから
すこしずつ怪しまれないように
ためたという。

「食料がなくなったらどうするのか?
生きていけれない。
しかも、だれも助けてくれない。」

と、めいこは今の危機的
状況を天下分け目の関ヶ原
といった。

「帝大卒の名誉にかけてだれにも
見つからない地下室を作ってください。」

めいこは、お願いをした。すると、悠太郎は
「ありますよ・・」と地下室の存在を
明かした。

「どこに?」

「ここに・・・」と蔵の床を指差した。

「ここに???」

確かに、そこには部屋ほど大きくはないけど
貯蔵庫としては成り立つほどの地下室があった。

昔は火事が多かったから
貴重品入れとしてつくったらしい。

「前もって教えといてくださいよ。」

めいこは、ため息交じりに言った。

翌日は木炭の配給だった。

ところがめいこの番になったとき
木炭が消し炭を集めた貧祖なものになった。

「これ・・・ちょっと・・・」

「目方は一緒やで。」と高山が言った。

「そやけど・・・・」

「お宅は闇で都合できはるやろ???

わてらみんな瀬戸際やさかい
いつも通り遠慮してくださる??」

その言い方が面白かったのか
おばちゃんたちは、ぷっとわらった。

めいこは返す言葉がなく悔しい思いをした。

家に帰っためいこに、別の奥さんが
昨日たくさんヤミ米を持って行かれるところを
見た人がいたという。

「多かれ少なかれみんなやっていることや
ないですか。」

奥さんは、めいこがごちそうさんで人気者だった
ので、目立ったのだろうといい、人のうわさも
75日というしという。

めいこは二か月半も・・・とため息をついた。

そこへ子供たちが勢いよく
「ごちそうさん~~ごちそうさん~~~」と
言いながらやってきた。

「今日はない!!!」

「またまた!!!」

「ないものはない!!!!」

しかし、子供たちはじっと
めいこの顔を見た。

「干しイモでええか?」

「おおきにぃ~~~」

ところが、蔵に入ると
干しイモどころか、小麦ももない。

だれかが入って
持って行った・・・・
めいこは驚いた。

怒りに燃えるめいこは一升瓶
の中に入れたコメをおもいっきり
棒でついていた。

「炭・・・これだけか???」
と静が言った。

夕餉の支度の時、静に蔵のことを話すと
静は、蔵に入っていないという。

そこへ、活男が帰って
きた。

うま介の店でリンゴのフレンチポテト風
を作ったと紙包みを開けた。

「うま介でな今日、かりんごというのを出したんや」
という。かりんとうになぞられたものだ。

りんごを細かく刻んで天ぷら油で
あげたという、少し塩を加えると
これがうまい・・・と得意そうに言った。

それを一口食べためいこは
「かっちゃん・・・・今日,うちから小麦粉
持って行った?」

と聞いた。

「うん!うま介さん偉い助かったって!」

めいこは、怒りに立ち上がって
活男にちかづいた。

「少国民の時間です。」
希子のラジオ放送が始まった。
「今日は肉団三勇士のお話です・・・」

「お国のために立派に戦い
見事散華された三勇士の勇ましい
戦いぶりを放送劇にてお聞きください。」

「・・・総攻撃を前に鉄条網を
破壊せねばなるまい。」

「さようでございます。」

「飛行機から爆弾を投げてはいかがで
ございましょう。」

「さようでございますが二百回以上
やりませんと・・・」

「それでは時間がかかるし飛行機が足りん
のう・・」

「さようでございます・・」

「大砲でやっつけたらどうかな?」

希子は台本をひっくり返して
ため息をついた。

家では悠太郎が頑丈に
蔵を修理している。

「ええやないですか。
うま介で修行させてもらっていること
だし・・」

「あかんとはいいませんよ。
せやけど一応私に聞いてもらわんと。

これは大丈夫だから持って行っていいとか
これはだめだとか・・都合がありますから。」

「以外に渋ちんですね。ごちそうさんは。」

「これ以上うちのご飯が
貧祖になったらいやでしょ?」

「貧すれば鈍す・・・」

「うん?」

「暮らしに余裕がなくなると心も
余裕がなくなるってことです」

「それは当然です。自分のうちで食べる分は
絶対確保しないと。まずは自分の身やないですか。」

「そうですけどね。
ごちそうさんという名前は多少仏さんを
期待する気がしますね。」

やらんかったらよかったとめいこは言った。
闇買いがばれたのもそのせいかもしれないし、
そのせいで
ご近所の風当たりがきつくなってきたのだ。

「仕方ないですよ。ほとぼりがさめるのを待つしか」

「みんなは暢気にそういいますが
私は毎日針のむしろなんですよ。」

そこで、めいこは
婦人会が募集している金属製のものを
集めることに協力して
少しは風当たりをなくしてもらおうと
おもった。

しかし、どの鍋も、どのフライパンも
どの缶も・・・
大事なかわいい子供に見えたのだった。

それでも、別れがつらいけど
鍋を一つ決めて持って行った。

その日は防火訓練の日だった。
婦人会のメンバーが
号令のもとに
バケツリレーで消火訓練を
しているときに、「遅れてしまって
すみません・・・」と鍋をもって
めいこは、現れた。

そこに、バケツリレーで最後の高山さんが
火を消そうとして高いところに
のぼっていたその手から
バケツが落ちて
めいこに水がかかった。

めいこはびしょ濡れになった。

「ごめーん。かんにん~~~」

と、謝っている。

バケツを持ったものの
「手がつってもうて・・・・」

と、いう。

「西門さんかわいそうに」

「かんにんなぁ~~」

と、口々に言われたが
めいこはなにぶんこのところ
貧すれば・・・の境涯である。

「わざと・・・・ですか?」

「へぇ?」

「わざと・・・やりはったんですか?」

高山さんは梯子段から
おりてきて

「そんないけズするかいなぁ」とめいこに言う。

「昨日の配給かていけずなこと
しはったんやないですか。」

「え?え??
なんかしたかいな・・・」

「うちの木炭、かすかすでしたけど。」
「ああ、あれはごちそうさんがいつも
譲ってくれはるから
あまえさせてもらおうかなって・・な?」

「うん・・あ、闇で買えるものは・・・」

という二人の奥さんに
めいこは水をぶっかけた。
「手ぇつってもうて・・・」とめいこ。

そして

大乱闘となったのである。

放送室の明かりが消えた。

希子は部屋からでてきた。
そこへ、職員さんが
川久保さんにはがきが来ていると
渡してくれた。

それは、少国民の時間の
ファンの方からであった。

内容は、長年、息子と楽しみに
聞いていますというもの。
先日肉団三勇士の放送劇をきいて
三勇士のお国を思う気持ちが痛いほど
伝わり、童心に帰った息子は
お国のために戦いたいと少年兵を志願した
。勇気を下さって心よりお礼を申しますとの
ことだったのだ。

「これでいいのだろうか?」希子は浮かぬ顔で
あった。

「一層のこと番組変えてもらうよう
頼んでみたら?」

「私だけが楽になっていいのかな」

「いいのでは?志願したと聞いていい仕事を
したと思う人もいるのでは?」と川久保は言った。

二人が帰ると
家の中は喧々囂々たる雰囲気だった。

昼間のけんかのことで静にとがめられた
めいこが意見をしていた。

水をかけたのではなく
かかったのだということでは
ないのかと静は言う。
かけたという証拠はないし。

めいこは昔から高山さんはいけずだった。
自分が副会長と座談会のインタビューを
受けたことが気に入らないに違いないと
いうし、密告も彼女だと
言い切るのだった。

「あんたはおばちゃんになったなぁ。
昔はまっすぐやったのに。」

「わたしは、できるだけのことはしてきましたよ。
闇買いもできるからって配給かて
遠慮していたし・・町会やら婦人会やら
たいしたことはないけどお菓子作って
もっていって・・そのお返しがこれですか。

わたし・・・やめます。
ひとにごちそうするの、金輪際止めます。」

希子は

「え?」

と、小さく叫んだ。

めいこの苦渋の選択だった。

*************

食べ物が自由に手に入らなくなる。
貧すればの状況である。

そうなると、本当に子どもたちにおやつどころ
ではない。めいこがどんな思いで
よその子供たちにおやつをやっているのか
その子供たちのお母さん方は
感謝さえしないのであろうか?
こんなご時世にたくさん、食料がある家など
あるはずがないのである。
その感謝もないし、そのお礼もないとは???

しかも、以前ではあるが
めいこがカブが小さいというおくさんに
自分のカブと交換したことを
感謝さえしないで、いつも譲ってくれているから
今回も甘えさせてもらったとは・・
ずうずうしいにもほどがある・・と思います。

めいこの「わざとですか?」から乱闘騒ぎまで
杏さん得意?のガンとばしとアクションで
見ていても力が入りました。

それから、希子の
肉弾三勇士のお話・・・勇ましいだけではなく
お国のために命を懸けることの
美しさを国民の戦意高揚のために
ラジオ放送で流し続けている放送局。

希子の望んだラジオではなくなって
いるということですね。

この少年兵への志願を促したことについて
希子は疑問形のなかにあったことは
かなり、普通の感覚なのだなと思った。