貧すればうどんす1
鉄筋確保か竹筋かとなやんだ悠太郎は
ある結論をもって竹元を訪ねた。
「お忙しいところ恐れいります」
「まったく忙しいことはないが
貴様と会いたいほど(暇)でもないがな。」
悠太郎は、花園町の駅舎のことで
変更を申し出た。
竹元からもらった設計図を広げて
中二階の部分を
撤廃したいといった。
竹元はぎろっと悠太郎を見た。
悠太郎は、地上からホームへ
直通だといまある鉄筋で賄えると
いった。
「なにとぞご承諾願えれば・・」
竹元は
自分の設計図の撤廃される部分を
手でなぞり
そして、
「洞穴じゃないか・・・・
こんなもの、洞穴じゃないか!」
と、机をたたきながら
設計図をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
「米英との戦争が長引き
空襲があったとき
地下鉄の駅舎は
防空壕の役目を果たします。
必要なのは強度です。
この状況で守るべきものは人命です。」
竹元はじっと悠太郎を見たが
くるりと椅子を回転させて
後ろを向いた。
「今後・・・・
地下鉄事業から
私の名を消してくれ・・・・。」
悠太郎は残念な思いをしながら
「上に報告します。」と一言重苦しく言った。
そして設計図をまるめてドアの前まで行き
振り向いて
「竹元さん・・
いままで
お世話になりました・・・・」といった。
竹元は後ろを向いたままだった。
西門家で世話になっている源太は
軽めのご飯も、食べれるようになった。
ちょっとえずくこともあるようである。
が・・・・
大丈夫な気がする・・・と言った。
見ていた泰介と活男も
喜んだ。
泰介は、地区予選が始まることを
いった。
「あのトーナメントを復活して
カツをつくらなければ」とめいこはいった。
「それはなんだ?」と源太がきくので
「勝ち上がって行くたびに
カツの中身がどんどん豪華になって
行って、最後には
牛カツになる」と活男がいった。
「ほぉ~~」と源太はいいながら
「ほな、それわしが
なんとかしたるわ。」
という。
みんなびっくりして、「ほんまに??」と
聞いた。
「こんなに、面倒見てもろて
あたりまえやがな。」
めいこは、うわぁ~~とよろこび
「おおきにげんちゃん」といった。
その時、外から声がした。
「奥さーーん・・・すみませーーーん」
めいこは、何事かと玄関へ行くと
元上司の藤井と大村が
ぐてんぐてんによっぱらった
悠太郎を連れて帰ってきて
くれたのだった。
悠太郎はまったく意識がない。
泰介と活男が
悠太郎を運んだ。
めいこは、ふたりに何があったのかと
訪ねた。
大村は、竹元に鉄筋が足りないから
設計変更をするといいに行ったら
絶縁されたことを話した。
それで深酒となったらしい。
竹筋つこうたらよかったのにと
藤井が言うが大村は「あほか、あんなもん
つこうたらあぶのうてしゃーないやろ。
ま、ゆうてしまえば、人命を守るために
竹元さんを切り捨てたんやな・・
ほんでも、なんやかんや言うてもあいつは
竹元さんに心酔していたからつらかったやろな
と思うわ
ま・・・やさしゅうしてやってな・・・。」
そういって二人は帰って行った。
めいこは悠太郎を部屋に寝かして
ふと思い出した。
地下鉄の駅舎の写真を見ながら
『気持ちええでしょ、竹元さんの作る
駅は。夢をかなえるために一番大切なことは
才能や根性ではなく生き残ることです。』
そういっていた悠太郎の気持ちを考えた。
「はよ終わったらええのにね・・・」
(こんな戦争)と悠太郎の寝顔に言った。
源太は、カツのトーナメント表を見て
「いつ持ってきたらええねん?肉を・・」
という。
「確かめとくわ」とめいこはいった。
源太は「わかったら早めにいいに
来てな」という。
めいこは「え?」と思った。
源太は「そろそろおねーちゃんのところへ
行こうと思っている」という。
めいこは、「家族が多いから
居心地、悪いかな」と聞いた。
源太は「逆や、いつまでもいてしまう」と
いう。
翌朝、源太と悠太郎はそろって西門家の玄関を
出て行った。
大丈夫二人とも・・・と、めいこは心配した。
「大丈夫・・・」と悠太郎は声が小さい。
「大丈夫や…」と源太は声に力がない。
出て行ったあと、めいこは悠太郎に
お弁当を渡すことを忘れていたので
追いかけると・・・
外の戸口で二人とも
倒れていた。
それで
悠太郎、源太は
二人そろって、枕を並べて
寝た。
悠太郎は、源太に 「うちの妻に
頭をつけるとしたらなんにしますか?」
と聞く。
「・・・・ごんぼう・・(ごぼう)・・」
「ひどないですか?」
「ほな、お前なんてつけんねん?」
「鉄筋・・・・ですかね・・・」
「そっちのほうがひどないか?」
「僕にはどっちもなくてはならないものですが」
「・・・ひょっとしてそれ・・・牽制球なげとんのか?」
悠太郎は、あてられたと言わんばかりに
ため息をついた。
そこに、めいこがふすまを開けて
出かけてくるからといった。
めいこが行った先は
竹元の事務所だった。
「ということで・・・
にんにくの梅肉エキス和えです」
といって、持ってきた
壺の蓋を取った。
「なにが、ということなのか」と
竹元がきく。
めいこは、和枝と仲がこじれたけど
時間がたつと丸くなったことを話した。
「逆に時間が必要と言いますか」
なぜ、にんにくなのかと竹元は聞く
竹元には元気で長生きしていただいて
お許しをもらいたいとめいこはいった。
「奥・・・つまり貴様はわしが
年寄りだといいたいのか?」
「あ、いいえ・・・その・・」
竹元は怒りでめいこを追い出した。
「去れ!!!
でしゃばりすぎだ」
と叫んだ。
(実際、何を言っているのかよくわからない
ので・・・あはは)
ドアを閉めたがまたあけて
めいこが持っていたにんにくの入った
壺を取り上げてまた叫んで
ドアを閉めた。
ー本当に、相変わらずよくわからない人だね・・
家に帰っためいこは、台所がなぜか散らかっている
ことに不信感を持った。
ふすまを開けると、源太と悠太郎が、迎え酒をしていた。
源太も、よく食べれるし、悠太郎も頭痛がなおって
いい調子で、ぐいぐいと飲んでいる。
「あははは・・・迎え酒、聞きますね~~~」
「わし・・最初から飲んでたら
よかったわ~~あははは」
「こんなにまで人が必死なのに・・・
出て行けーーーーーーーーー
この、あほ、ぼけ、かす!!!!!」
腹が立ってそこにあった枕で悠太郎をたたくと
その間に源太は逃げてしまった。
源太は店に復帰し、泰助は順調に勝ち上がった。
そして、牛カツの日となった。
玄関の上り口でふ久が両手を握って
頭の上で上下に振っている。
祈っているような・・・感じだが。
活男が「なにしてんねん?」と聞く。
「見えヘン力で
呼び寄せてんねん・・!」
「え?」
そこに、「ただ今戻りました~~」
と泰介が帰ってくる。
「どうぞ…」と泰介が言うと
諸岡が入ってきた。
「こんにちわ~~~~」という。
ふ久は、「お帰りなさい」と、心の声で言った。
ちょっと低い声やね・・・??
牛カツにみんな盛り上がった。
にぎやかな夕餉となった。
ふ久はうれしそうだった。
その夜、悠太郎はめいこに言った。
「泰介はいつか・・・甲子園へ行くと
決めたらしいですよ。
僕もいつかまた竹元さんと
仕事できますかね??」
「どうでしょうかね・・はよ・・
終わったらええですね
戦争・・・・。」
「そうですね・・・。」
ふたりは電気を消して寝た。
ーめいこの願いもむなしく
その年の暮れに、日本は太平洋戦争へと
突入するのでございました・・・。
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戦争はろくなことがない。
ええことなんかない・・。
お国のためにといいながらも
結局どこの国でも苦労して損するのは
国民である。一般庶民である。
これからどんどん、つらいことや
恐いことがあるだろう。
まだ、つらいと言いながらも
家族がいて、笑い声がして
貧しくとも食卓があって
恐いと思うことはない。
ほんとうのつらさはこれからやってくる
のである。
めいこたちはどうやって乗り越えるのだろうか。
