乳のおしえ4

あと五年は、甲子園大会はないと
泰介は言った。

あと五年たてば、できるわよといっても
そんな年ではなし・・・とめいこは思った。

ー来年戦争が終わるかもしれないし・・・・

と思うのはあまりにも能天気だわね・・・・と
めいこは思った。

そこへ泰介が帰ってきた。

二階へ行こうとする泰介に
声をかけたが・・・

とくにいうこともなく

めいこは、「なんか食べたいものある?」と
きく。

泰介は、笑って、「なんでもええよ」、と
いった。

翌朝、悠太郎は活男に泰介の様子を聞く。

遅くまで起きてたけど、別に普通だ・・・という。
変わったことはなかった・・・と。

泰介がおりてきて、「おはようございます」といった。
希子が気を利かせて
トーナメント表を外そうとしたら
そのままでいいと泰介は言った。
予選は普通通りあるからと・・・。

泰介はめいこに弁当は朝練もないし
普通でいいというと
もう、大きな弁当を作ってしまったらしい。

めいこは、「ごめんな」という。

「謝るのはヘンやで」と泰介は笑った。

みんな泰介に気を使う。

「放課後あるん?練習・・・」
「まだわからん・・。」
ふ久と泰介の会話だった。

市場でのことだった。

源太がお店に出てきた。

なんだか元気がない。
大将も、女将さんも喜んでいるが
肉を切ろうとして手が震えた。
そして脂汗がでてきた。

うま介の店に現れためいこ。

重たい空気だったのでどうしたのかと
きくと、塩と砂糖の恋愛小説が
出版差し止めになったという。

戦意高揚の検閲に引っかかった。

「ただの恋愛小説だったのにね。
砂糖がよくないんだって。

塩をなめて生きてきた男が
砂糖をなめて生きてきた女にあこがれる
なんてぜいたくだ、非国民だ。

塩と水だったらいいんだって・・」と室井が
いうとめいこは聞いてしまった。

「海水ですか?」

「海水作ってどうするのよ、塩と砂糖でないと
いけないのよ」

桜子が血相を変えていった。

めいこは、「ごめん」といった。

桜子はどうしようもない怒りに
悔しそうだった。

めいこは、桜子に寄り添った。

「いい小説だったのよ、室井さんにしか
思いつかないようなお仮名品設定で
でも、生きるってこういうことだな
愛するってこういうことだな
塩も砂糖もあってこその人生だなって。」

ーそうだよね、かけてきたときの夢が
つぶれたときって、怒ったり泣いたり
するもんだね・・・。

ーやっぱり泰介は無理しているのかね???

市場に行っためいこは、源太が発作を起こして
苦しそうにしているのを見た。

声をかけたら、包丁を向けてめいこをみた。
驚くめいこだった。

源太も驚いて「すまん」といった。

「なにがあったん?」めいこがきいた。

肉を前に源太は「わからん」といった。

「わし・・・わからん・・・」

そして気を失った。

学校でのことだった。

諸岡は「お前んちへいくのをやめようかな」と
いう。

「なんでですか」と、泰介がきくと
「泣いてしまうかもしれないから」という。

「熱いですね・・・諸岡さんは。」と泰介は言った。

「悔しないんか、おまえは?」

と聞くと泰介は
「悔しいです。

でも二十歳やそこらで兵隊へ行くことを思えば
なんか・・」

「そやからこそ、今しかないと思わんのか?」

諸岡は怒って行ってしまった。

泰介は何を考えているのだろうか。

泰介が帰ると
源太が担ぎ込まれていた。

しばらく何も食べていないから
倒れたのではと医者は言ったらしい。

やせて、生気のない源太だった・・・。

悠太郎は、竹筋コンクリートの件を
考えていた。
強度は弱い。安全を考えると
採用はできないが・・・

橋もつくれると藤井は言うが。

悠太郎は、この竹を使えば
確かにできると思った。

『私の設計を守るのが
お前の仕事ではないのか!』

竹元がそう怒鳴ったことを思い出した。

これを使えば、できるのだが。

夕方、うま介は客も来なくなった店で
もう閉めようと思っていたら
悠太郎が来た。

タンポポコーヒーを出した。

「これ、代用品ですよね。
僕も代用品を使わないかと
持ちかけられてまして・・

それをつこうたら設計も変更しなくて
ええし・・」

うま介は、

「僕はどうでもええもんが好きなんや。
こんなもの飲まんでもええことはええけど
珈琲っておもろいやん?

黒いし、苦いし・・僕は無駄なものが
好きやから、代用品でも・・・て。」

「無駄こそ・・・文化なんだよ」と室井がやってきた。

「そや、室井さんの小説とかな?」

「そうだよ、その無駄なものに人生を
かけているんだからおもろいよな。」と
室井。

悠太郎は思い出した。
竹元がいっていた、階段を下ると
そこには広大な地下空間がある。
息をのむように壮大なアーチ型の
天井。きらめく特大のシャンデリア。

彼は夢を語るように話していた・・・

「これどないしたん?」
西門家の台所ではたくさんの食材があった。

活男に聞かれて、めいこは答えた。

「源ちゃんに食べさせてやってくれって
市場のみんなが・・・。」

静はどういうことなんやろかと聞く。
戦地でろくに食べられなかったのかもという。

「とにかく食べればいいという話しみたいです」
と、めいこは言う。

源太が寝ている部屋で源太の様子を見ている
泰介。泰介は昼間諸岡に言った言葉を
思っていた。

『二十歳やそこらで兵隊へ行く間でのことやと
おもたら・・・』

「どう?」とめいこが来た。

「まだ寝てはる」と泰介は言う。

めいこは、おじやを作った。

それを持ってきた。

「源ちゃん、ご飯にしようか??

源ちゃん??」

すると源太が飛び起きて何かにおびえている
様子だった。

「源太さん?」泰介が言うと

源太は初めて気が付いた様子だった。
その目には恐怖があった。

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泰介は何を考えているのでしょうか。

幼いころから、あまり人の手を煩わすこと
なくいい子で育った泰介。

兵隊に行くということは
泰介にとってどういうことなんでしょうか。
なにか、冷めているようなところも
見受けられます。

源太はなにがあったのでしょうか?

肉を見ると震えだすとは・・・
戦地でひどいことがあったのでしょうか。

悠太郎は、何を悩んでいるのでしょうか。
竹で代用だなんて
いい考えではないですね。

珈琲とは違います。

おそらくうま介はそういうことを
言いたかったのではと思います。

重く暗い空気が立ち込めています。

よくないことがおこらなけばと思います。

いろいろ雑用がありまして
アップが遅れました。
なにかコメントがありましたら
お書きくだされば、うれしいです。