乳の教え1
ーこのころの4月からコメが配給制になりました。
西門さんちは8人やからといって
コメをもらうめいこだった。
ー長引く日中戦争の影響でコメばかりではなく
木炭などの燃料、酒なども配給制に。
ー肉や魚野菜などはまだ、自由販売を許されて
おりましたが、品薄、かつ商品も偏って
きておりました。
源太のいた肉屋では女将さんが
元気がない様子。
「もう、終いにするし」と大将がいっても「ここに
座っているし」と女将さん。
ー戦地にいった源太のすがたもまた店先には
ありません。
風呂敷に包んだ荷物を背負って帰るめいこ。
そこにわらわらと子供たちが
集まってくる。
「ごちそうさん、今日は何?」
「なにぃ????」
と子供たちがよってくる。
ーそんななかめいこはごちそうさんとして
近所の子供たちのていのいいカモに
されておりました。
「焼けたでぇ~~~~」
「わぁ~~」
「よう、かんで食べ。ふふふ・・」
夕餉はめいこのアイディア料理で
なぜかぜいたくに見えるのだった。
そこへ帰ってきたのは
悠太郎、川久保、泰介それから
諸岡という泰介の先輩で
ピッチャーをしている少年だった。
諸岡は玄関に入り挨拶をした。
「お邪魔します。きょうもお相伴に
預かって結構でしょうか」
元気よく挨拶をする。
「どうぞ」
「では、失礼します」
あまりにも丁寧で元気のいい
挨拶なのでいつまで続けるのかと
泰介は言う。
ーこの諸岡という少年は泰介が通う
天満南中学の5年生。野球部のピッチャー。
そして泰介はキャッチャーなのでございます。
裏で顔を洗い手を洗う諸岡に
泰介はタオルを渡す。
すると、その手のひらが真っ赤なのを見て
諸岡は心配する。
泰介は大丈夫だという。
ーその縁で最近ではしょっ中毎日のように
食べに来るのでございました。
じっと見ているふ久・・・。何を見ているのだろう?
夕餉が始まった。
泰介も諸岡もがつがつと食べる。
「獣やなぁ」と静は感心していう。
「どうや、諸岡君、肩の調子は?」
と川久保がきく。
「ここのご飯のおかげで調子がいいです」
と答える。
「また、また・・・」とめいこはうれしそうに言う。
「今年は甲子園まっしぐららしいな。」
「え?」とめいこは川久保に聞く。
「天満南中は下馬評では甲子園に
行くかも」と言われているという。
「え?みんな知っていた?」
とめいこは、自分が知らなかったので
みんなにも聞いた。
しーんとする。
「泰介、なんでそんな大事なことを
いわへんの?」
めいこは、声を荒げて叫んだ。
悠太郎が
「いうたかて、何も変わらないからでしょ?」と。
するとめいこは、「変わる」という。「甲子園が
かかっているのならご飯かて・・・・・
なぁ?」とめいこは活男に聞く。
活男はうん、うんと頭をふる。
「豪華になるよな?」
悠太郎は「そやかて、それはもし甲子園にいけるんやったら
応援するけど、いけへんのやったら
応援せーへんという非常に厳禁な話になりませんか?」
と分析する。
「そうーーーですけど。でも・・」と
めいこはつっかえながら答える。
泰介は「お母ちゃん、僕らお母ちゃんの気持ち
充分もろているから・・・」と。
「そやけど、もうあと一善ご飯を食べていたら
はよ走れて決勝点とれていたとか
あるやないですか。」と向きになると
「胃もたれして走れないケースのほうが
多いと思います」
と悠太郎は茶化していった。
みんなが笑った。
「いま、ご飯の力ばかにしましたね?」
泰介は「おかあちゃん、僕らこのご飯で
充分やから。」と。
めいこは膝をポンとたたいていった。
「いかせて見せますから。私のご飯で。
甲子園へ!!!」
めいこは諸岡のお茶碗をとって
「あんたら、何が何でも甲子園へ
いくねんで!!」
そういって、ご飯をもってお茶碗を
かえした。
その勢いで二人とも
「はい」、と答える・・・しかなかった。
夕飯後、二人は部屋で野球道具の
手入れをしていた。
それをじっと影からみる
ふ久だったが・・・。
「西門、おまえああなるのを知っていて
いわへんかったんか?」
「うちの母親は過ぎたるは及ばざるがごとしって
いう言葉を知らないんや。」
「お前んちの人・・・・
みんな
変わってんな・・。」
ふ久は、柱から顔半分出して
見ていた。
「はははは…」と二人は笑った。
翌日から・・・・
泰介が持っていく弁当は
大盛りで、しかもみんなに分けてあげて
という量となった。
そのうえ、にんにくの梅肉エキス・・・という
大きな瓶入りを出した。活男は疲れが取れるから
という。
そのうえ、ゆずの皮の砂糖漬けを瓶に入れたもの。
これも疲れが取れるからと活男がいう。
「おおきに・・・・」泰介はあきれながら
礼を言った。
うま介の店でめいこは料理で甲子園へ行ける方法は
ないものかと話をしている。
「普通に元気の出るものを作っていたら
ええんと違うの?」とうま介。
「それは誰でもやりますよね。」
「さしいれとかは?」
「それもやりますよね。」
そこでイライラしている桜子に「どう思う?」
と聞くと、「それ以上やったらうっとうしい
と思う」、と答える。
「なによ、とんがらかっちゃって・・・」
すると室井が帰ってきた。
「どうだった?」と聞く桜子。
すると室井はめいこのお水を一気に飲み干した。
ああ、とめいこは小さく声を上げた。
そして、「決まったよ」といった。
大喜びの二人。
何があったのかとうま介に聞いた。
『塩と砂糖』という題らしいが、今まで童話を書いて
いたが、もともと大人が読む小説を書くのが
目標の室井だった。
「なにいってんの?昔ったじゃない。
なんのとりえもない女に惹かれる
そんな不思議をかきたいって。」
「え??そうだったのか」とめいこは
思った。
「いままで食べさせてもらった大将に
お礼を言いたい」と室井はいう。
めいこはその様子を見て思った。
「やっぱりご飯は夢をかなえますよね。」
「あたりまえじゃない。なにいってんの?
食べなきゃ夢はかなわないよ。」と室井。
「そうですよね。私もがんばります!!!」
市場の肉屋に行くと女将のトミは
来週まで肉は入らないという。
「こんな時源太がいてくれたら
どこかから都合してくれるんだけど」
とさみしく言う。
すると奥から大将が出てきて
「便りがないのがよい便り」という。
そして「今年は南中が強いらしいな」
とめいこに言った。
肉の話だが、オットセイの肉は
精がつくという。そのうえ
タツノオトシゴもいいという。
ゲテモノでも食べ物になった時代だった。
めいこは、どっちかというと自分も
そんな変わったものを食べたいと
思うというが・・・「みんなはどうでしょうかね?」
うーーんと店先で
考え込む大将と女将だった。
その日の夕餉はカレーだった。
泰介も諸岡も大喜びだった。
悠太郎は具がないといった。
めいこは、吸収されやすいように
細かく煮込んだという。
二人ともむちゃくちゃ元気になるよと
めいこはいう。
いただきますといって食べ始めた。
食料が乏しい時代、食卓がなにかしら
さみしいが。
「このカレーすごく元気になりますね。」
と諸岡が言った。
「なんだか体がほかほかしてくる」という。
夕餉の後、キャッチボールの練習をする
ふたり。
じっと影から見ているふ久。
諸岡は思いっきり投げる。
しかし・・・
いつもよりスピードがでているらしい。
玉を受けた途端
泰介はう、うううーーーーーと
うなった。
諸岡は心配して泰介のところへ行った。
「すまんすまん。体が暖かくてつい
力が入ってしまった」という。
「ちょっと手を見せてみろ」
と諸岡が言う。
ふ久はじっとみながら
二人のセリフを想像していた。
以下・・・ふ久の想像のセリフ。
「嫌なんです。先輩の球をほかの誰かが
受けるなんて。最後の甲子園やないですか。
先輩の剛速球を最後までこの手で感じ
ていたいんです。」
「西門・・・」
茶の間では静が「若い~ね。あのこら」
という話をしていた。
めいこは、「これがご飯の力ですよ」と
いった。
希子はふうふういいながらカレーを食べて
いる。
「なんや、希子、水ばっかり飲んで」と
悠太郎が言う。
希子は「なんだかポカポカするから」と
いって水を飲みほした。
静は川久保が帰りが遅いのを気にして
いた。
「今日は遅いですね」と希子が言う。
めいこは、ふうふうといいながら
食べている希子を見て微笑んだ。
めいこ・・・カレーの秘密はなんだ?
まさか・・・オットセイの肉を入れのでは?
・・・。
そのころ、川久保はとまどっていた。
マル秘と書かれた書類に
時局のことが書かれていたようである。
それを読んで険しい表情で言った。
「今年で・・・・最後かもな・・・・・
甲子園・・・」
甲子園への夢と憧れをもって諸岡と
泰介は
懸命に練習をしていた。
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国の青年を粗末に扱う体制に
非常に悲しみと残念缶を感じる部分です。
これからもっと大変なことが起こるかも知れ
ませんが、いまは夢を追いかけて必死に
生きている子供たちの情熱を
戦争が奪い取ることになるのではと
心配しています。
どうでしょうか?
それからふ久は・・・・何を考えてじっと
諸岡と泰介をみて
いるのでしょうか?
この不思議ちゃん・・・・。ちょっと面白いです。
で・・・
このカレーの正体はなに?????
まさか
オットセイの肉???
