贅沢はステーキ2
「来てもうたんや
あかがみ」
肉屋の大将が言った。
赤紙をじっと見ていた源太は
「しゃーないな。」という。
「女房も子供もいない自分がいくのは
当然かもしれない」と。
「せやけど・・・」と源太は言葉に詰まった。
女将さんは、納得がいかず泣いていた。
めいこは、立ち尽くしていた。
「パパパっとうまいこと立ち回るさかい
大丈夫や・・」と元気に言う。
源太はめいこにいった。
「よう似おとるな、ごぼうを持って立っていると
ごぼうの精みたいや」
というが、これはタンポポだとめいこはいった。
「え?なにすんねんそれで?」
「これでコーヒーを作るんや」
「草の根まで食うんやな、お前は。」
「もう、ほっといて!」
そういって二人は笑ったが
ずっと泣き続けている女将さんを見て
顔を伏せるめいこだった。
うま介の店でタンポポの根を
洗っているめいこ。
うま介は「そうか、源太は行くんか」と
さみしそうに言う。
桜子の視線を感じてめいこは桜子を見た。
「何か言いたいことあるんでしょ?」
「わかっているんだろうから言わない。」
「どうせ、勝手ですよ。
今まで旗振って送り出してきましたよ。
そのくせ、いざとなったらなんで源ちゃんがと
思っているわよ。」
「・・・・」
「だけどお国のためなんだから。みんな我慢して
そうしているんだから。
仕方ないじゃない・・・・」
言葉もない。
じっと考える桜子とうま介だった。
悠太郎の職場に元上司の藤井が
訪ねてきた。
市役所をやめて民間へいった。
藤井は兵役で満洲へ行ってきた。
「どないですか?民間の景気は?」
「ぼちぼちやな。」
「いつ満州から帰ってきたのですか?」
「こないだや。鉄筋の確保偉いことに
なっているみたいやな。」
「設計も変更に次ぐ変更で」
「ふふ・・」
「なんですか?」
「昔もこんなことあったな
小学校建築の時
設計変更で夜な夜な・・・」
「そういうことありましたね・・。」
「議会承認が下りへんかもって
いいながら・・・」
藤井の言葉にハッとした悠太郎だった。
「そういえば、めいこさん元気?」
悠太郎は立ち上がって「ありがとう
ございます」、といって
部屋を出て行った。
悠太郎が思いついたのは、民間で
軍需のせいで会社がつぶれたり
仕事が計画変更になったりして
鉄筋があまっているところはないかと
思ったからだ。
職員で手分けしてそんな会社を探すこと
になった。
市場に行くめいこ。
肉屋の前で立ち止まると
女将さんは相変わらず
気落ちしていた。
「ほな行ってくるわ」
と源太が店を出てきた。
「どこへ行くの?」とめいこがきいた。
源太は小指を出して
「これのところへ行ってくるわ」
という。
めいこは、「源ちゃん・・・あの・・・」と
言いよどみながら
「おめでとう・・」といった。
源太は・・「うん、おおきに」といった。
めいこはさみしかったが仕方がないと
思った。
その日の夕餉。
泰介は源太が兵役になったことを
しって、驚いた。
めいこは、「お国のためなんだから
笑って送り出してあげましょう?」
という。
「うん。」
「りっぱなことや。」
と泰介も活男も
納得した。
「義務ですものね。」と希子。
「いつですか?」と川久保。
「入営は一週間後かな・・・」
とめいこ。
静は、ぱたんとテーブルをたたいた。
「あああ、うっとうしい。
こんな戦争止めてしもたらええのに。」
と、いう。
めいこは、声を荒げて
「なんてことを言うのですか。」
といった。
「ご飯も貧相になるし
男もおらんようになるし
ろくなことないがな。」と静。
「せやから、みんなで一日も早く
終わらせようとがんばっているんや
ないですか。
みんなで心を一つにしてむかって
いかんと・・・」とめいこ。
ふ久が立ち上がった。
「もうええの?」と泰介がきく。
めいこも、気が付いて
「もうええの?」と聞いた。
ふ久は、
「お母ちゃんの話でおなかが
いっぱいや」といった。
相変わらず、心の読めない娘に
めいこは唖然とした。
うま介の店では
タンポポのコーヒーの試飲会
をしていた。
桜子とうま介とめいこで
飲んでみたものの
おいしくない。
がっかりしているところへ
室井が下りてきて
「珈琲ください」という。
三人はだまって、それぞれのカップを
室井に差し出した。
室井はそのうちの一つを飲んで
ブッと吐いた。
めいこはがっかりした。
そこへ市場の銀二さんと定吉さんが
やってきた。
源太が帰ってこないという。
三人は青ざめた。
室井は面白くなったとばかりに
「逃げた?」と叫んだ。
みんなで室井の口をふさいだ。
とんでもない罪になるので
探そうと手分けした。
めいこは室井と探していた。
室井は何でも小説のネタにするので
面白そうに探していた。
そこへ、めいこはふ久をみかけて
驚いた。
しかも、制服を着ていない。
めいこは学校は
どうしたことかと問いただした。
「その服はどうしたの?」
「買ってもらったの。」
「だれに?」
そこに現れたのは
なんと竹元だった。
「なんだ?」
うま介の店で
話をするめいこと竹元とふ久。
室井が「お冷でございます~~~~」と
水を運んできた。
めいこは、水を
ぐびっと一気に飲んだ。
そして、タンと音を立てて
テーブルにコップを戻した。
「あの・・・どういう関係なんですか?」
「私はこのこを愛している・・。」
そこにいためいこ、うま介、桜子
そして室井は目をまん丸にした。
「愛って・・・・」めいこはよく訳が分からない。
「この子の才能を愛している。
この子の物理の才能は非凡なものがある。
それはわかっているか?」
「あ、はあ・・・昔から算数と理科だけは・・」
「だけでいいのだ。天才とはそういうものだ。
それを愚劣ともいえる教育者どもが
虫けらのごとくふみにじったんだぞ。」
「ふみにじったって???」
竹元はふ久に話をするように言った。
学校で勤労奉仕の時間
ふ久は勉強をしていた。
それを見つかって先生に怒られた。
「何で勤労奉仕の時間に勉強をしているのですか!」
「なんで学校で勉強したらあかんのですか?」
「勤労奉仕は銃後を守るものの義務です。
いまや婦人の務めは皇国の母となることです。」
「それ学校イランということになりませんか?」
「みんなそれで我慢しているのです。」
「みんな我慢していたら私もがまんせなあかんのですか?」
先生はふ久をぶった。
そんなことが何度かあって学校が嫌になったふ久は
ぶらぶらしていたら、竹元とあって勉強をしていいというので
竹元のところで勉強をしていたのだった。
めいこは「それでタンポポ珈琲なの。」と納得した。
「私以外にだれがいる。」と竹元は
威張っていった。「あんな可憐な飲み物・・。」
室井は、「けど今日は完全な逢引ですよね?
逢引ですよね~~」と面白そうに言うので
竹元は室井の頬をぶった。
「痛い~~」と言って室井は倒れた。
竹元はめいこに向かっていった。
「奥、母親だったらもう少し娘のことを
考えてやれ」
「考えてますよ!このあと師範にかよえる
ようにって。」
すると竹元は否定した。
「この子には集団行動の才能は皆無だ。
そういう子にとって今の学校は
生きにくいものだと考えたことはあるのか。」
「学校やめるわけにはいかヘンやないですか」
「学校へ行かないと勉強はできないのか。
料理以外は、とんとだめだな、貴様は。」
めいこはむっとした。
帰り道だった。
バンざーいと出征兵士を送る会ごっこを
する子供たちの横をめいことふ久が通る。
「退学にならんうちに学校へ戻るねんで。」
とめいこは言った。
「やめようかな。竹元さんのところへ行ったほうが
勉強できるし。」
「師範どうするの?
卒業せんと師範はいけれヘンで。」
「竹元さんが大学の先生紹介して
くれるって。」
その件を悠太郎に言った。
結局たちの悪い風邪を引いたことに
して、ふ久は学校をしばらく休むこと
になった。
めいこは竹元の批判をした。
「無断でかくまうなんて。親に連絡しませんか?」
「うーん」、悠太郎は考えた。
「竹元さんは自分とふ久を重ねているのかもしれない。
みんながするから自分も我慢しないといけない
という考えが合わない人がいる、、、」と悠太郎は言った。
めいこは、「わがままだ」といった。
翌朝の朝餉。
相変わらず、食卓にまでノートを持ち込んで
書き込みをしているふ久であった。
泰介と活男は、ふ久がたちの悪い風邪を引いたこと
にして学校を休むという話を聞いて、驚いた。
静は「話を合わせてな」という。
泰介は「見えヘン風邪をひいているというんやな、
わかった、」といった。
「見えヘンだけは余計や」とめいこは言った。
悠太郎は複雑である。
希子は「源太さんの出征祝いはいつになりますか」
と聞いた。
めいこは、まさかいなくなったとも言えず
聞いておくからといった。
うま介の店では心配していた。
東京へ行ったのではと桜子は言う。
源太が昔馴染みに会いに行ったのではと
いうのでめいこはおとうちゃんに聞いてみると
いって店を出ようとした。
そこへ源太が入ってきた。
驚くめいこ。
「源ちゃん。」
「え?どないしたん?」
「どこへいってたん?」
「女のところや。順繰りに
回ってきた」という。
めいこは腹が立って
源太の、胸ぐらをつかんだ。
「全部なら全部ってちゃんというて
行きなさいよ。
兵役逃れだったらって
みんな心配してたんだからね」
「ごめん・・・。」
めいこは、源太を椅子に座らすように
突き飛ばした。
やりきれない。
「タンポポコーヒーのむ?」
うま介がきく。
「おお、飲む…のむ。」
めいこは店を出ようとした。
桜子が「入営いつだっけ?」と聞いた。
「ああ、三日後や、うん・・ははは・・」
会話がなぜか笑えないのに、源太は笑い
桜子はうなずき、うま介は・・・
考え込む。
やりきれないのは、
めいこばかりではなかったのだが・・・
*************
めいこはすっかり銃後の皇国の母です。
しかし・・
一番人間らしいのは
竹元かもしれないと思います。
こんなご時世に、おちこぼれの
女学生をかくまうのです。
しかも、天才と言い切るのです。
ふ久は天才なのでしょうか???
時代が平和だったら、外国の大学へも
いって、勉強ができたでしょうが。
戦時中です。
しかも、学校は勉強ではなく
勤労奉仕と言って兵役で人がいなくなった分
いろんなところで働きます。
工場へ行って武器を作ったり
公園を掃除したり・・・
ふ久にとっては辛いことでした。
ちょっとでも勉強がしたいと。
そんな勤労奉仕には何の魅力もない
ということです。
ふ久は・・・戦争を憎んでいたのではと
思います。
しかしめいこはこてこての
皇国の母でした。
ふ久はめいこを非難しているのでしょう。
めいこは、実の娘には
強く出れないようです。
なぜ???
このへんが興味があります。
静にも桜子にも
お国のために一致団結と
演説をぶるのにね・・・・・。
ドラマが大変興味深く展開して
いきます。
まさかうま介さんとか、室井さんとか
悠太郎とか・・・
赤紙がくるとか・・・・・・???
戦争は反対です。
いいことなど一つもありません。
あなたはどう思いますか?
