ついの棲家4

希子が待つ西門の家に
和枝以下西門の娘たちが帰ってきた。

和枝は
「柿の葉が落ちんかったからな、
おかあちゃんの名代や。」

「名代?」と倉田はつぶやいた。

「今年はなんでか葉の落ちん柿の木が
一本だけありましてな。

今日まで落ちんかったら
これはおかあちゃんが行けと
いうてはんねんやと思うてな。」

言葉の出ない希子に
倉田は言った。

「あがってもええか?」

めいこは「はいどうぞ」と
こたえた。

川久保はうま介の店にいって
姉たちが来たことをつげた。

「来た?」

「来はりました。万事よろしくお願いします。」

そういうと

室井は喜んで「任された!」と
いった。

何が始まるのか?

座敷では大勢の姉たちが談笑していた。

それをそっと物陰から
見る正蔵。

静は入ったらええのにという。
「あんたの言うことは二つだけ。

今日はおおきにと、昔はすまなんだ、や。
ほな、行き!」

正蔵は静に押された。

台所で準備をしているめいこに
桜子は言う。

「めいこ、希子ちゃんが呼んでる」

「え?」
めいこは二階に上がって部屋に入ると
花嫁衣装がまだつるされたままだった。

「まだ着替えてないの?
ちょっと桜子、希子ちゃんはどこ?」

「しーっ。聞いてめいこ。」

階下では希子と川久保が並んで挨拶をしていた。

「今日はお忙しいところ
運んでいただいてありがとうございます。

実はひとつ皆様に私と川久保から
お願いがございます。

この場におきましてわたしの
兄と姉の祝言を上げさせていただきたい
と思います。」

ざわざわとし始めた。

和枝は立ち上がった。

希子は和枝に近づいた。

「ねぇちゃんきいて」

「だまし討ちにもほどがありますやろっ
わてはあんたの頼みやから
飲めんものも飲んでここに来たんや。
それをようも・・・」
「話を聞いてっ!」

和枝は
怒鳴ることなどなかった希子に
和枝は驚く。

「ちーねーちゃんが今まで祝言を
しなかったのはなんでかわかるか」と
和枝に聞く。

もちろん和枝は「しらんがな、そんなもの」

である。
「お姉ちゃんに認めてもらえない祝言など
意味がないと思っているから。

お姉ちゃんを追い出した自分にそんな
資格はないって。」

二階では桜子が希子の計画を話していた。

「希子ちゃんはどうしても和枝さんを呼ぶんだって
大ウソをついて走り回っていたのよ。」

めいこは驚いて希子のところへ行こうとして
部屋を出ると階下の話が聞こえてきた。

「うち、ちーねぇちゃんが来るまで

何のとりえもない何もできないあかんたれやった。
ずっとショーもないまま生きていくんかなって
毎日、憂鬱だった。ちーねーちゃんが来て、
うちにもええとこがあるよって教えてくれた。

だから少しだけ声が出るようになった。

声が出るようになったら自分の言いたいことを
少しづつ言えるようになって
そこからとんとん拍子で
あったかい人たちに囲まれて
好きな仕事ができて

うちはちーねーちゃんに人生をもろたん
です。うちはおねーちゃんに育ててもろて
ちーねーちゃんに人生をもろた。」

めいこは階段上でそれを聞きながら
驚き泣いた。

「二人とも大好きやからおねーちゃんに
ちーねーちゃんのこと
認めてもらいたい。

その姿をお父さんに見せてあげたいの。
希子は和枝の足元に座った。」

他の姉たちからクレームが来た。

「希子それはないで。」
「うちら悪者みたいやないか」

「ずるいと思います。
やらしいやり方だと思います。なんと思われても
構いません。でも・・・
これだけは・・」

希子は頭を下げた

「お願いします。」

和枝はじっと見ていた。

悠太郎も同じく
「お願いします」といった。

「ちょっとやめてーな。」子供たちも同じくだった。
「子供まで卑怯や」

そこに倉田も頭を下げ

うま介たちや
近所の奥さんたちまで
やってきて

頭を下げた

「関係ないやろ
あんさんら!!!」

静は
「なんや頭を下げるほうが気の毒な

きがすんやけど・・。」

そういって頭を下げた。

正蔵も同じだった。

和枝はじっとみていてため息をついた。

「皆さん頭あげてもろても
よろしいでっしゃろか?

芝居がかった身の上話に
ええ大人が頭下げて
昭和いうんはこのようなご時世なんですな
わてはもうよその人間やし
口出す立場ではおまへんし

・・・・

好きにやっておくれやす・・・・。」

希子は和枝に抱きつき

「おおきに」といった。

和枝は驚いて

希子を抱いて

「行儀悪いで
やめとくれなはれ」

といった。

それでも希子は
和枝に抱きついて
「おおきに」といって泣いた。

めいこも裏庭で泣いていた。

悠太郎がめいこを迎えに
やってきた。

「それでは、新郎新婦の入場です。」

希子が言う。

悠太郎とめいこがそろって
登場した。

めいこは打掛を着て髪も高砂で
やってきた。

友人たちは
「でかっ!!!
通れるんかいな」

といって笑った。

座敷に入ってきた二人に
静は「馬子にも衣装やな」
といい

正蔵は「きれいやな」といった。

「さすが実のお母さんのみたてやな」と
静は着物が好きなだけある。

「おかあちゃんきれいやな」と活男。

金屏風の前に座った。

人一倍大きな鼻をすする音がするので
めいこは頭を上げてそちらを見ると

なんと!

いつのまに!

大吾が来て座っていた。
「おとうちゃん、早いよ」

と早々と泣き崩れた大吾を
諭したのはイクだった。

めいこは驚いた。「おかあちゃんも・・」

「だってお前、何年越しだよ・・・・・。」

「よかったな、希子ちゃんに感謝しろよ」
弟の照生だった。

めいこはうんうんとうなずいた。

希子と川久保は顔を合わせた。

イクはめいこにいった。
「めいこ、きれいだよ。」

めいこはうなづきながら
泣いた。

悠太郎は挨拶をした。

「からばかりが大きな二人が
一緒になってもう9年になります。
ホンマにようもこんなに続いてきたものやと
思います。

お恥ずかしい想像も多く
そのたびにみなさんにご迷惑をかけ
教えられそして支えられてまいりました。

今日のよき日もまた
僕たちに力では到底
迎えられませんでした。

これは皆様からのごちそうやと
こころからそうおもてます

最高の心づくしに
感謝の言葉に変えまして・・・」

「ごちそうさんです。」

二人は揃っていってあまたを下げた

三人の子供たちも一緒に

「ごちそうさんです」

といって

頭を下げた。

感動の中

拍手がわいた。

めいこは

静と正蔵を見た。

うれしそうだった。

めいこは和枝を見た

怒っていなかった。

めいこは友人たちを見た。

喜んでくれていた。

陰の功労者の倉田さん・・・

めいこは頭を下げた。

希子ちゃん・・・

卯野家のひとびと・・

みんなうれしそうだった。

拍手がいっぱいだった

そして

幸せと感謝でいっぱいだった。

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よかったです~~

まさか、あの大きな杏さんが
花嫁さんって・・余計大きくなるやろと
思いますが

さすが相手も大きいだけに
よくお似合いです。

この時代の花嫁姿ってのも
いいですね~~~。

ちょっと時代を感じますが
いい感じです。

和枝さんの存在感は抜群です。
一筋縄ではいかないけど
話が分からない人ではありません。

これでめいこは一区切りがつきました。
もういちど、仕切り直しの人生です。

希子ちゃんを送り出さねばなりません。

9年前に西門にきてすぐ祝言をあげるより
このほうがよかったかもと思います。

たくさんの友人たちができて、
子供たちもできて
希子や和枝とも心が通じて
静や正蔵とも
本当の両親のようにしてもらって

そんな人たちに囲まれて
恩返しにはこれからも
また一家が幸せにと決意も新たに
できましたね。