今日でおわカレー6

出て行った・・・

っていうか

追い出した悠太郎が
帰ってきた。

めいこは驚いて言葉がない。

二人きりで縁側で話をする。
月の光がやさしい。
こんなシチュエーションもいいかも。
悠太郎は外を見ながら
めいこはうつむいていた。

「どこにいはったんですか?」

「詰所にいました。」

「ご飯は?」

「その辺で済ましました。」

「亜貴子さんのところには?」

「一度だけ行きました・・・」

めいこはじっと悠太郎を見た。

悠太郎が言うには結果的に振られたという。
ふられた?とめいこは聞き返した。

「それって・・・??」

「僕も言いたくないですが、あなたに夢の中まで
検索されるのであえて全面的に説明
させていただいていいですか?」

めいこは、緊張して小さな声で「はい」と
答えた。

悠太郎はめいこのほうを向いて
両手を組んで輪を作った。

つまり、後ろから亜貴子を抱きしめたとき
のことだった。

「こういったわけです。」
亜貴子は、光男のことを話し出した。
亜貴子が仕事から帰ってくるまで
食事を待っていてくれたこと。

それから・・・以下亜貴子の話である。

『今日は何があったの?どんな患者さんが来たのかと
話を穏やかに聞いてくれた。
ええ人というより、生きているより
死んでいるみたいだと思った。

そんなひどいことを思っていた。』

亜貴子は悠太郎のそばから離れて
話を続けた。

『最後も穏やかで・・自由に生きや
・・と今際のきわに
いわはった・・・。

ずっと知ってはったんや。
しんどかったやろな。
辛かったやろなと・・・
思った。

ゆうちゃんとずっと
こうなったらええなと思ったけど
それが私の夢やと思っていたけど

けど、

今は

なんでここにおるんは、光男さんや
ないのやろと
思っている・・・。ごめん・・・。』

「それ・・・・」とめいこは言った。

「降られただけやないですか。」

「そういうたやないですか。」

「降られたから戻ってきただけ
やないですか。」

「しゃーないやないですか。
僕の戻るところはここしか
ないのですから。」

めいこは、口をとがらて
悠太郎を見た。

「大体ひどいですよ。
なんで僕が追い出されなあかん
のですか。」

「悠太郎さんが無理しているのが
耐えられなかったのです。
横で見ているのが辛かったのです。」

悠太郎はピシャリといった。
「じゃこれ以上、
僕に無理をさせないでください。

亜貴のカレーはそれなりにおいしかった
ですけど、僕には無理です。

あなたのカレーがある限り
よそのカレーを心からうまいと
は僕には無理なんです。

僕はたぶん、どんなカレーを食べて
もあなたのカレーを思い出します。
あなたのところに戻ってきて
しまいます。

そやから
もう二度と追い出すとか
無駄なことをせんとってください。」

きっぱりといった。

めいこは、うつむいて
片腕で握り拳を作った。

そして悠太郎の膝をたたいた。

悠太郎はその手を両手で
包んで、握手をした。

奥で様子を見ていた静も桜子も
ほっとした。

翌朝、市場で源太の店。
めいこは肉を買った。

「やっすいおなごやのぉ
結局カレーひとつでころりか。」

「なんとでもいうて。もうちょっとおまけして・・。」

「ああ??

ほら・・・。」源太は少しだけ

肉をもった。

「二人は職場近いしまた会うこともあるやろ。」

めいこは、いつか亜貴子に感謝できるように
なりたいといった。
「いまの悠太郎があるのは亜貴子さんに出会った
おかげや、下ごしらえをしてくれたんやと
思えるようになりたい。」と言った。

「ほぉか・・・。」
源太は小ばかにしたように言った

「今はまだ無理やけどね。」
めいこも顔をしかめていった。

台所をする正蔵とめいこ。

「すじ肉はどうですか?」

「ええ具合やろ・・はははは」

今日はカレーらしい。

「お先に失礼します。」

悠太郎が職場を終えて
帰ろうとしたとき

騒々しく竹元がやってきた。

悠太郎になぜトイのサイズが
大きいのかと文句を言う。

「私のデザインをトイの幅で台無しにする。
お前の下剋上か!!!」

「明日にしてもらえませんか?」
と悠太郎はいった。

「今日はカレーなもので・・・・。」

「カ・・・・・・」竹元は一文字で
黙った。

希子は仕事を終えてスタジオを出た。
川久保は一緒に帰るというのだった。
「今日もありがとうございます・・あの・・」

「乗りかかった船やから・・・」

「あの・・」

その時、建物の隅にあのストーカー
男が待ち伏せをしていた。

川久保は希子の前にたって
威嚇をして
希子を連れて出ようとした。

希子は

ストーカー男に近づき

「あの・・・うち・・」

川久保のそばにいき

「この人と一緒になりたいんです。」
川久保は希子を見た。

「希望ですけど・・・」

そして、

「好いてくださっているのに
すみません・・・。」

川久保は驚いて希子を見て
男を見た。
男は・・・・

「ほな

ほな・・・・」

男は近づいてきていった。

「一つだけ言うことを聞いてくれるか?」

スタジオに入って
川久保がミキサーで
希子がアナウンスをする。

男は紙に

「おはようさん、新吉さん」と
かかれたカンペをだした。

希子は、「おはようさん、新吉さん」

と緊張してそれを読んだ。

新吉と名乗る男は
ぺけを両手で出して
(お前はディレクターか)
モット心を込めてと
心臓のあたりをさして
両手で気持ちを前に出すとか
そういうジェスチャーをした。

希子は、はいはいと
うなずいて

「おはようさん・・・新吉さん・・」と
明るく言った。

新吉は両手で大きな丸を
頭の上に作った。

そして、川久保と握手をして
喜んだ。

新吉はディレクターのまねをしたかったのか
それとも
希子にそれを読んでもらいたかったのか?

よーわからん。

西門家。
さて、カレーができた。

いい匂いだった。

「ただ今戻りました~~~ぁ」

悠太郎が帰ってきた。

「お帰りなさい~~~。」

いつもの風景である。

突然

「失礼する」

と、男の声がした。

竹元だった。

夕餉にやってきたのだ。

カレーを一口食べた竹元。

「この圧倒的存在

無限の広がり・・・」

と演説を始めた。スプーンを
ふりながら・・・。

「心がふるえるようだ

エネルギッシュでありながら

繊細・・・

情熱の裏にある緻密な計算

おおらかに見えて

何が入っているのか
見当もつかない」

めいこは・・・あっけにとられていた。

全員、黙って食べている・・・。

「すなわちカレーとは

女そのもの・・・。

わけてもこれは

女の中の女・・・・

カレーの女神だっ!!!!

奥っ!!!!」

スプーンでめいこをさした。

「あ、ありがとうございます・・・。」

めいこは面喰いながら言った。

「変わったお人やな」と静は正蔵に言った。

正蔵は「面白いこといわはるな」
といった。

そして二人でふふふと笑った。

竹元は

「おい」、とめいこに言った。

「こいつが死んだら、私がもらって
やってもいいぞ。奥!」と悠太郎をさして
いった。

めいこは「え?」と驚いた。

悠太郎は黙々と食べているので
泰介は
「おとうさん・・・」と悠太郎に言うが

「私は仕事柄、海外へ行くこともあるが
お前が外国の食べ物に接すれば

それはもう・・・」

ふ久は竹元のひげが
気になって仕方がない。あれは
ほんものなのだろうかと
竹元が話をしているのに
その口元のひげを
触りに来る。

「造形の深い・・・うん・・造形・・う・・

なんだね、小娘・・何がしたいんだ。」

やっと怒られた。

「こらっ!ふ久・・・」

めいこも言った。

「座りっ!!」犬か???

ふ久はとぼとぼと自分の
席に戻った。

泰介は悠太郎に
「お父さん、食べてばかりやのうて
なんかいおうや・・」という。

「うん?」
悠太郎は
お皿をだして

「おかわり!!」

と大声でいった。

ついで

活男も・・・

「おかわり。わしも・・・」という。

めいこは、

「はい、はい」

と笑って、おかわりをついだ。

悠太郎は幸せそうに食べた。

夕餉も終わって
竹元が西門家を辞した。

玄関先で、見送りに出た
正蔵に

「では、失礼します」

と、礼を言って帰ろうとしたら

正蔵は、悠太郎はしっかりと
仕事をしているのかと聞いた。

「ご迷惑をおかけしているのでは
ないかなと思いまして

融通のきかんところがありますのや。」

竹元は

「そうですね。

いつまでたってもなじめません。

私の美を理解しようという発想は
皆無。

どこまでいっても

安全、安全・・・の一点張りです。」

恐縮してきいていた
正蔵は、頭を上げた。

振り向いた竹元は
正蔵にきちんと向かっていった。

「ありがたい話です。」

正蔵ははっとした。

そして、「おおきに」といって
礼をした。

竹元も礼をして

去って行った。

正蔵は後姿を見送った。

そして、もう一度礼をした。

台所では食べすぎた
悠太郎がのびていた。

めいこは
横のテーブルふきをしていた。

「まだ、動けないのですか?」

「食べすぎました」

「お薬いりますか?」

その手を悠太郎がにぎった

「おいしかったです。」

そして

起き上がって、

「ごちそうさんでした」

といった。

「はい・・・」

めいこは答えた。

二人の様子を

じっと見ていたのは

糠床のつぼだけ・・。

**************

壺が見ていたのは

二人のキス??

そこまで確認できませんので
かけれません。

融通が利かんですみません。

どちらがどう、ごめんといったのか
なんてどうでもよかったです。

振られたというのは、好きだったと
いう告白をしたということで、
それでもここしか帰る場所がなくて
めいこのカレーが忘れられなくて
そんな理由で帰ってきたことを
受け入れためいこ、偉い。

自分が好きになった悠太郎を
作った亜貴子さんへ感謝できるように
なったら、うれしいですよね。

長く一緒にいることは大きなことだと
希子が言ったけど
亜貴子も光男と一緒にいて
悠太郎も、めいこと一緒にいて
その値打ちは大きかったですね。

改めて幼い日からの恋心は
そのときだけの
思い出だったと結論がでました。

吹っ切れました。

いつまでも、お互いを意識して
心の底においていても
意味のないことでした。

決着がつきました。

で、希子の結婚になりますが
またあの和枝さんが
来るらしいですね。

面白いです。