アイスる力5

希子が帰宅する。

「ただいまもどりました。」

返事がない。

あがってみるとめいこが書き物を
している。

希子に気が付かないほど
必死に集中している。

希子はそばに座ってめいこの
顔をのぞきこんだ。

「あ、おかえり」

「ただいま、何してたん?」

「あのね

ふくがね

アイスクリン

作ってほしいって・・・・・」

「アイスクリン?」

「私のアイスクリンが食べたいんやて」

「ほんまですか?」と希子は驚いた。

「はじめて・・・・・!!

はじめてよ、あの子が私の作ったものを
食べたいんやなんて・・うううーん
どうしてやろっかなぁ!!!」

感動で涙声になりながら
そういった。

希子も笑った、泣いた。

そして、「お兄ちゃん、今日もまだなん?」

「うん、なんやいそがしいみたいやね」

書き物をしながらめいこは言った。

「ふーーん」と希子もいった。

ノートにはイラストを交えた
レシピが書き込まれた。

翌日、めいこは着替えと弁当をもって
悠太郎の職場を訪ねた。

現場には活気があると言えば
あるが、事務所の中は
緊張感がただよっていた。

「あの・・・」と声をかけると
それまで難しい顔をして
図面を見ながら打ち合わせをしていた
悠太郎が、ふりむいて事務所の入り口まで
来てくれた。

めいこは「寝てないのね。」といった。
悠太郎は口数少なく答えて
がんばってね、とめいこに言われて
うなずき事務所の中に入って
いった。

「え??アイスクリン、一緒に作るん?」
学校から帰ってきた泰介とふ久。

泰介は驚いてめいこに聞いた。

「そう、自分で作ると倍おいしいというし。」

「ほんま?」と活男がうれしそうに答えた。

「ほんまほんま、な?ふ久も。」

ふ久はうなずいた。

「ほんなら・・・・・・・」とめいこは
目指せ台所という姿勢を取った

「やるでっ!!!!」と掛け声をかけた。

めいこと子供たち三人は台所へ
突進した。

「まず・・・たまごの黄身に
砂糖を入れて

それを

すり~~~~すり=====」

めいこは泡立て器で
それを混ぜていく作業を
ふ久にさせた。

「すりすり~~~~~~~ぃ」

ふ久の手を取って泡立て器を
使ってまぜる動きを一緒にした。

ふ久は興味津々の顔をする。

「そこに温めた牛乳と生クリームを
すこ~~~し・・ずつ、いれます」

活男は、「おおお~~」とか「わぁ~~~」と
いいながらワクワクしながら見ていた。

「それを、しゃもじでの~~~びのび~~~」と
いいながらまぜる。

活男の手を取り、牛乳と生クリームを
少し加えて、「の~~~~びの~~~~びと
混ぜる。」

ふ久はじっと見ていた。
活男はうれしそうだった。

「つぎは

これを鍋に入れて弱火にかけて

ゆる~~~ゆ~~~~~る

と、混ぜる。・・・・・

おぬしは!!!」

といきなり大声になり、子供たちは
はっとする。

「そう・・・・・・・・あつう

なるで

ない!」

祖母仕込みの芝居小屋の時代劇風の
つぶやきをする。

泰介はじっとそんな母を見る。

「ゆめゆめ

ふっとう

めされるで

ないぞ~~~~~~~~」

めいこは、鍋の中をゆるりゆるりと
かきまわす

「おかあちゃん?」

と泰介が言う。

「沸騰させるとあかんねん。」
めいこは普通にそういって、

泰介を鍋の前に寄せた。
そしていっしょに

「ゆる~ゆる~~~~~~
ゆる~ゆる~~~~~

そう!そして・・・・」

充分なじんだアイスの種を
こんどは
桶に氷をたっぷり入れて
その真ん中に丸いアルミ缶を
おいたその中に
移すのだった。

「これでできるの?」と泰介

「うん、これをね

ひたすら

回す!!

回す~~~~~!!!!!」

アルミ缶を回しながら中のネタを
かき回す母。

じっと見るふ久。

「おいしくなぁ~~~れ~~~~~~~~~」

そのころ、悠太郎の職場では
悠太郎が土木課の石川に
新しい提案としてアーチ型の天井を
二重にして、壁も二重になることを
説明した。

「安全性と美観を確保するためにはこの手しか
ありません。」

「ほんきでゆうとんのか。
こんなんできるわけないやろ。」
工期も予算も限られた中で
どうしてこんなことができるのかと
石川は怒鳴った。

悠太郎は土木課の苦労を理解したうえで
これだけ頑張ってきたのだから
できるだけ高みを目指そうと石川に
いう。石川は建築課の自己満足だという。

悠太郎はこの地下鉄を作るために
御堂筋に住んでいた人に泣く泣く立ち退いて
もらったこと、市民の寄付もある。
「せっかくそこまでしてもらったことなんだから
いいものを作ろうと思うのは自己満足
なのでしょうか?」と訴える。

「一日も早く工事を終わってほしいと
思っている人は大勢いる」

と石川は言う。

そこに一人の職員が質問した。
「壁も二重にすると
電車が入らないのでは?」と。

悠太郎は

それでホームを5センチ削るという。

それを聞いた石川はやってられるか!

と怒って事務所を出ていった。

「石川さん、話を聞いてください。」

悠太郎は追いかけたが、「おまえが
話し合わなあかんのは
わしではない。お前の先生や」

「石川さん、僕らもできるだけのことを
やりますから・・」

「話すことなんかないんじゃ!!」

石川は悠太郎を突き飛ばした。

そのとき、現場の木材にぶつかり
その反動で周りにあった木材が
悠太郎めがけて
なだれるように倒れてきた。

悠太郎は木材の下敷きになり
大けがをした。

「石川さん・・・

話を・・きいて

ください・・・。」

「先に医者や!!」誰かが叫んだ。

病院では、手当てを受ける間も
早く仕事に戻ろうとする悠太郎に
そんなこと言うてる場合かと
上司池本が言う。

そこへ主治医が来た。

悠太郎は、その相手を見て
驚いた。

西門家では
おやつの時間となった。

正蔵、静も加わった。

「今日は三つもあるの?」と静。

アイスクリンが三種類で来た。

「はい、こっちはいつものアイスクリン
こっちは卵白を使って作ってみました。」

そしてもう一つは活男が
スプーンにとって
「ぴろ~~~~~~~~ん」

といって、アイスクリンをすくって
伸ばした。

アイスクリンは長々と伸びた。

活男の注文らしい。

正体を明かさぬまま、めいこは
食べてからのお楽しみといって
お皿にわけた。

「いただきまーす」

「たまらーーーーん」と活男。

正蔵と静は一口食べると

「これ・・・なに???」という。

「納豆です。」とめいこ。

「ええ?」と驚いた。

正蔵は

「納豆食べてしもた。」という。

「ふ久もどうぞ」といって

ふ久に渡す。

ふ久は一口食べた。

「どう?」とめいこは

きくが答えない。

また一口食べる。

「昨日のほうが好き?」

と昨日の露店のアイスクリンを
いうと、

ふ久は

「ううん・・・・・」

「よかったぁ。昨日のほうが好きといわれたら
おかあちゃんくやしいし。」

静も正蔵も笑った。

ふ久は

「これがおいしいということやったんか」

と、いう。

「うん???」

めいこはなんだろうと思った。

「うち、おいしいってわからへんかった。」

「うん?????」

「おじいちゃんのおいしいって
うち・・・わから
へんかった。」

みんなが「???」と思っていると

泰介がきく。

「えっとまずいっていうんは?
感じたことなかったん??」

「えっと、昨日のアイスクリンは
変な味やなって・・・。」

「もしかしてやけど

ねえちゃん、友達の家で物
食べたことない?」

声もなくうなずくふ久。

「買い食いも
弁当のおかず変えっこ
したこともない?」

声もなくうなずく ふ久。

「はぁはぁ~~~~」
静は合点がいったようすだった。

「そないなことやったんか」

「え?」とめいこ。

「つまりな、ふ久はあんたの料理と
あんたがおいしいとおもったものしか
与えられヘンかったんや。」

「あ・・・」

「そやからな、今までまずいと
思うものを食べたことがなかったから
人がおいしいというけど
それがなんなのかわからなかったんやて」

「そうやったん?」

「これがおいしいというのなら
ずっとおいしかった。」とふ久。

「・・そんな話やったん・・・・。」

「ふ久は腑に落ちないことはうなずけない
たちなんやろな」、と正蔵はいう。

「難儀なたちですね・・・」とめいこはいった。

一件落着した。

すると玄関先から声がした。
でてみると悠太郎の職場の人だった。

悠太郎がけがをしたことを告げられた。
めいこは驚いた。

病院では包帯を巻いてくれたのは
あの

亜貴だった・・・・。

「もうええよ、ゆーちゃん!」

そういって振り向いて
机に向かってカルテをかく。

悠太郎は呆然とした。

***************

ゆーちゃん
驚くほどのことですか?

アキとは結婚しないとか
いったはずではないですか?

アキさんは、才色兼備で
幼馴染で・・・明るくて、すてきで。
めいこはそれだけでやきもちを焼いて
イライラしたけど、悠太郎はあっけらかんと
二人は結婚なんかあり得ないと
いったはずだった。
驚くほどのことでは
ないと思いますがね・・・・。
それともなにか?いまさら???

昨日の感想で、めいこのアイスクリンは

空気がどうのと書きましたが
みごと予想が外れました。

ふ久は露店のアイスクリンがまずかったのです。

それでめいこのアイスクリンを食べたいと
申し出たようです。

しかし・・・

どれだけ

お嬢様やねん???

グルメの母を持つと
おいしいものは当然のこととして
子供は受け止めるのでしょうね。

わたしは、その点がにぶいので
結構まずい料理もつくりました。

しかし、いまは作るのに苦手なものは
外食で食べればいいと
ひらきなおり
できるだけ簡単でもおいしいものを作る
余裕ができたので
なんとか料理ができています。

めいこは、じいさんばあさんと
一緒に住んでいるので
子守をお願いできます。

それで、台所であれやこれやと
料理の研究ができるのだと
思いますね。

大家族っていいですね・・・。

今だから言えますけど・・・。

結婚当初は

うるさくて

うるさくて・・・

たまらん!!!

主人と二人暮らしがしたかった

なんて

身勝手なことを
思いましたけど

いまとなっては

一緒に住んでくれて

うれしかったです・・・>舅姑さん。

ふ久は大事にされておなかすく前から
ごはんやで、はよ食べやと言われて
いたのでしょうね。

自分からおなかすいた~~というまえに。

空腹は最高の調味料といいますから
大事なことですね。