アイスる力3

ふ久は怒られて泣きながら部屋で寝ていた。

めいこは、さかなのつみれを作るため
包丁でこまかく刻む作業をしている。
先ほどまでの怒りをぶつけるかのような
勢いに、おやつを食べている子供たちも
圧倒されている。

泰介は「なにがあったん?」と活男にきく。
「おやつがほしいといったらうるさい」って
と答えた。

めいこは、先生の言葉を思い出した。

「火をつける子なんか僕ら聞いたことがない・・・」

ご近所の奥さんの言葉を思い出した。

「あのこ、ちょっと普通じゃないのでは?」

その怒りが包丁に伝わり、とんとんとんとん・・・
が、どんどんどんどん・・・と言う音になって
響いていた。

悠太郎の仕事も大変な状況だった。

現場にいる悠太郎は職人たちが帰る準備で
わいわい言っている中、一人の職人が
煙草の吸殻をほってそれを足でつぶしたのを見た。

それで職人たちに注意をした。

「そこらへんに捨てるのをやめてもらえますか?
木材も多いですから。」

「ちゃんと消しとるやろ。」

「もしもってこともありますから」

「あんなぁ、みんな漏水のためにこっちに
でばってきれもろとんやぞ。」
土木課の石川はそう答えた。

「それとこれとは違う問題やとおもいますけど。」

すると、石川はなんだと?といいながら
悠太郎に詰め寄ろうとしたが
それを職人の一人が止めた。

そして「すみませんでした。」と

そういって、たばこの吸い殻を拾った。

「よろしゅーたのみますね。」と悠太郎。

悠太郎の仕事もなかなか大変である。

ところが家に帰っても大変だった。

ふ久の火付けの話をめいこから聞いた。

「火?」

「煙が見たかったんやて。なんやかんや燃やして。
それで学校は対応を考えるって
いうので、その・・・」

「昨日は石で今日は火ですか。」

「本当に・・・ね・・・
何を考えているんだか。」

悠太郎はあれからちゃんとふ久に話を
聞いたのかと尋ねたが、めいこは
話をする前にこうなったと
頼りない返事をした。

悠太郎はつい大きな声でいった。
「何をやっているんですか。あなた母親でしょ。
ちゃんとふ久の気持ちを考えて理解してやって
あげないとかわいそうやし・・・。しつけもできんでしょ。」

めいこは、自分が怒られているのに
ショックだった。

「おにいちゃん、それはちょっといいすぎでは」
と希子が言う。

めいこは、立ち上がって
「じゃ、悠太郎さんやってくれる?
悠太郎さんだって親なんだから

ふ久の気持ちを聞いてやってよ
しつけてやってよ」と叫んだ。

悠太郎はめいこが怒っていることが
理解できない。

めいこは自分はバカだから子供の気持ち
なんか理解できないという。
それで、かしこい悠太郎がやればいいと
いうことを叫んだ・・・

その声は静と正蔵の部屋に届いてしまった。

「ぜんぜん家にいないくせに、何も知らないくせに
こんな時だけ父親づらしないでよ。」

「悠太郎は、ほなあなた僕の代わりに
働いてくれますか。

どうにもこうにもゆうこと聞いてくれん
水相手に知恵絞ってくれますか?

疲れ切ったおっさん相手にいいたくもないことを
くどくどというてくれますか?」

希子は「お兄ちゃん、話ずれている・・」と
いうが・・

悠太郎は、続けた。
「あなたの相手は子供じゃないですか。それも
自分のかわいい子供でしょ。何を甘えたこと
をいうてはるのですか。」

「・・・・・
普通じゃないから。」

めいこは、近所の奥さんの言葉がどうしても
気になって、普通ではないということを言った。

「(ふ久は)やっていいことと悪いことがわからないの。」

階段から静たちが下りてきた。

「普通の人が自然とわかることがわからないの
学校へ行けないと困るとかさみしいとか
そういうことを思わないの

そういう子をどうやって育てたらいいのか
私わからないの・・・!!!あのこは
あのこは・・・」

めいこはそういいながら涙が出た。

「ちーねーちゃん・・・」希子がめいこを止めようとした
そのときだった。

「世界一のべっぴんや!!!!!」

と静の声がした。

めいこは我に返って振り向くと
正蔵と静がいて正蔵がふ久を抱いていた。

「もう・・・おかあちゃんたら
やかましいなぁ。

今日はおばあちゃんらと寝よか?」

「そうやな。」と正蔵もいう。

二人はふ久をつれて部屋に戻った。
めいこは、泣き崩れてしまった。
情けなくて情けなくて・・・。

静と正蔵の間にふ久が寝ていた。
静は子守歌を歌った。

「かいらしい(可愛らしい)なぁ・・・」と静は言う。
正蔵は、「気にならないのか」と聞く。
静は「うちはな、この子、見ているだけでええねん・・・。
なにやってもかいらしいてかいらしいて・・・」
と笑いながら言う。

「ばーさんやなぁ」と正蔵は言った。

「じーさんにいわれとないわ。」

二人はふ久をはさんで小さく笑った。

めいこは子供たちが寝ている部屋に
はいって、寝ようとした。

すると泰介が「おかあちゃん」、といった。

「ごめん、起こした?」

「ぼく、お姉ちゃんのことすきやで・・」

「・・・」

「変わってておもろい。」

「・・・お母ちゃんもそう思うかな。
お休み」

「お休みなさい・・。」

激動の一日が終わろうとしていた。

悠太郎は、めいこの料理日記を
みていた。
毎日のふ久が食べ残したメニュー
が書かれてあった。

翌朝、悠太郎はめいこに今日はできるだけ
早く帰るからという。

めいこは、「かいらしい実の娘ですから
わたしがやりますよ。」と答えた。

「ええんですか?」

「水の相手もおっさん相手にこごとをいうのも
私にはできませんから」

「できれば早くもどってきますから」

「期待せずにまっときます・・・。」

正蔵はその様子を見ていた。
そこに静とふ久が下りてきた。

「おはようさん、ふ久・・。」

めいこがいうと

ふ久は「おはよう・・」といった。

その日、静と正蔵は、活男を連れて
お昼ご飯を百貨店で食べようと
計画を立てた。

泰介はいいなぁ~~とうらやましそうだった。

ふ久はもくもくとご飯を食べていた。

活男は百貨店の大食堂と聞いて
うれしそうにはしゃいだ。

めいこは、食器を下げてきた正蔵に

「いいのですか?」と聞いた。

正蔵は、「いいから」、といって
「今日はふ久とゆっくりお過ごし」と
言った。

めいこが台所でかたずけをしていると
ガスコンロのやかんが沸騰して
蓋がカタカタとなる。

ふ久はじっと見た。
カタカタカタ・・・・

その様子が不思議でなんで蓋が揺れ
ているのかと
めいこに聞く。

めいこは沸騰しているからという。

「なんで沸騰していると揺れるの」

「えーーーーと水が湯気になって・・・・???」

「なんで湯気になったら揺れるの?」

「えーーーーと湯気になったら水がふくらむん
やったかなぁ・・・・・」

答えられないめいこ。
出かけようとする正蔵を捕まえる。

ふ久の疑問を聞くと正蔵は、百貨店は
静と一緒に行ってくれと急きょ予定を変更した。

静と活男は機嫌よく出かけた。

正蔵はやかんの絵を描いた。

水は沸騰したら湯気になって軽いので上に上がろうと
する・・・ところがふたは重たいから下に下にと力が働く
すると、カタカタとなるという話をした。

「みんな落ちたやろ、ふ久、いろいろ試したと
思うけど・・・・。」

そういえば、石は下に落ちる。
煙は上に上る・・・。

「上に行く力と下に行く力・・・・?」

「そうや、そうや・・・。」

正蔵は力の方向を説いた。
上下左右、ぶつかり合い・・・など
目には見えない力が働いているから
ここにふ久は止まっていられるんやという。

「月が落ちてこーへんのも?」

「うんうん・・」

「ほな、かぜはなんで横にふくの?」

それはな・・・お日さんがでると
地面からあたたかい風がくる。
上からも来る、その間を冷たい風が
通るんや・・・

ふ久の疑問に答える正蔵。
桶に張った水に浮いているやさいを指で押すと
下に沈むけどまたうきあがってくる様子も
ふ久はこのんで実験する。

帰ってきた静はそんなことをふ久が考えていたこと
を驚いた。めいこも驚いた。悠太郎さんの血筋かなという。
正蔵は面白い目を持った子やなとほめる。
見えないものを見ようとする・・・。

「ふ久にはこの世の中はどんなふうに
見えているのでしょうか。」

そういえば、昔、料理は科学ですと
悠太郎が言った言葉を思い出した。

「お酢の酸性に色素が反応して赤くなった
のですね。」

「はい、アントシアニンという色素です。」

台所は実験室か・・・めいこは思った。
そして正蔵に時々でいいからふ久の相手を
してやってほしいといった。

正蔵はこんなカビの生えた
頭でも良ければ・・・という。

笑いながらめいこはふ久の様子を見た。

相変わらず、桶に張った水に野菜を浮かべて
実験をしていた。

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普通であることが大事なことではないと
思いますね。

といっても子育て中の若いお母さんには
人並みにとの思いが強いと思います。

だから、人ができることや考えることを
できないと大丈夫かと悩みます。

私もそうでした・・・。
ところが、子供というのは特に発達障害
とかではない限り、人それぞれの発達の
過程があって、向き不向きもあります。

スポーツをさせようと思っても
好きではないという子もいます。

勉強をさせようと思っても
好きではないという子もいます。

音楽・・・といっても
好きではないという子も・・・・・。

何に興味を持っているか
それを見極めて、と思いますが
なかなか見れません。

なぜか・・・・。
母親だからです。子育てに責任があるからです。

ところが、

じいさん、ばあさんは・・・責任がないので
その辺を見極める余力があります。
子供を肯定して接します。

かわいらしい、とか
よう、わかるな、とか・・・

肯定します。

母親は、なにしてんの。
あほらし。
ちゃんとしなさい。
時間を守りなさい。
人に迷惑をかけたらだめよ。
先生のゆうことを聞きなさい。

つまり社会的に順応するように
育てるのですね・・・。
で、子供の素質を見抜けない・・。

そうこういうていると、小学校の
高学年になると勉強が忙しくなる。
勉強する子はするけど
しない子はどんどん落ちこぼれていく。
びっくりして塾に行かしますけど。

私もこんな風に子育てをしてきました。
わかっていましたが、
勉強も特技のうちなんですよ。
人よりちょっとできる部類にはいったところで
大物になるものでもなし・・・。

上には上がいます。

どこまでも・・・上がいます。

では、興味のあるものとは???

この問いに苦しみます。

興味のあるものはない・・・という
面白みのない普通の大人ができます。

この普通を目指すとつまらないです。

子供のうちはこの普通がなくて
個性の塊のような状況で、その個性を
肯定するには勇気がいります。

そこで存在感を発揮するのが

じいさん、ばあさんです・・・・。

核家族では小さくまとまるかもしれない
子供の個性を肯定する爺婆の存在は
子供にとって安楽の場となります。

今日のお話は育児に対する家族の
役割分担を考えさせられました。