ふくがきた5
さて、大晦日でございます。
西門家は女性たちはおせち作りに
男性・・といっても大五とテルと悠太郎だけど
は餅つきにと忙しい。
大五はせいろでむしあがったもち米を
食べてみて様子を見ている。
「なんで餅ついてねーんだよ。すぼらにもほどがある。」
「男手がなかったんだもの・・。」とめいこ。
できあがったおせちをもって希子と一緒に
正蔵の家を訪れるめいこだった。
「おとうさん、お節できましたよ~~」
ーそれはそんなあわただしい日の出来事で
ございました。
めいこが
正蔵にお節を渡すとおおきにといった
「もうそろそろかいな?」
正蔵はめいこのおなかを見て言った。
「来月といわれています。」
「ちょっと早いけどこれご祝儀や。」
「いーです。いーです。」
「頼むわ。このくらいのことさして。
その子のお年玉にしてもろてええ・・」
「では、ありがたくいただきます。」
「ほなええお年を・・」
「おとうさんも・・。」と希子が言う。
「おおきに」
「おせち・・願いの料理でしたよね。」
「え?」
「忘れてましたね・・・ではよいお年を。」
「良いお年を。」笑顔で正蔵は見送った。
正蔵と分かれて、商店街の近くで
源太が染丸を介抱しながら
歩いているのを見た。
「どうかしたのかな?」
「なんで二人でいるのですかね?」と希子
「二人でお伊勢さんにいくのでは
なかったのかな?」
「・・・・え??
え?あの二人そういう仲やったんですか?」
希子は驚いた様子だった。
(いっつも引っ付いていたやん。)
めいこの様子がおかしい。
めいこがお腹を押さえて辛そうにしている。
「ちぃねーちゃん?」
西門家では、つきたてのお餅を並べて
いた。大五は「このときでなければ食べられない
餅だ」とうれしそうに食べてた。
つきたての餅はおいしいそうだ。
「どんなごちそうより・・でんなぁ」と静は
おいしそうに食べる。
悠太郎は、「一番食いつきそうな人が
まだですが・・・」と心配した。
イクも、「食べられるころには帰ってくるって
いってたけどね」という。
そんなとき、外が騒がしくなった。
「あ、噂をすれば・・」
と静が笑ったその時だった。
希子があわてて入ってきた。
「産婆さんを呼んでください。
生まれるかもしれません。」
「大丈夫か??」
とめいこのそばにみんな走り寄った。
めいこを桜子と室井が連れて帰って
きたのだった。
イクは悠太郎に「産婆さんを連れてきて」と
指示した。
お湯を沸かせて・・・とイクに言われて桜子は
台所でお湯を沸かそうとした。
「上に行くよ」とイクが言うと
「あんたこんな時に何しているの??」
とイクが叫ぶ。
めいこができたての餅を食べていたのだった。
大五も「いましかねーもんな、その餅は。」
でもこれ力餅って言って
お産の時食べるものではないの?
「まったくこの子は…」とイクはあきれた。
正蔵は部屋をかたずけていた。
一体なぜ?
産婆が来た。自分の部屋で横になるめいこだった。
そして正蔵からもらったご祝儀を開けた。
なかに二人への手紙があった。
下では悠太郎がそわそわしている。
大五は「こっちはそばはどうするのですか」と
静に聞いている。
「ああ、頼んであって・・」というと「ああそうですか」と
納得していた。
室井は二階に上がろうとしたので桜子が
とめた。
物書きの興味なのか、知りたいというが。
「今じゃなくてもいいだろう?」
とイクの怒った声がした。
「今、今じゃなくてはだめなの。」と
これも叫ぶめいこの声が聞こえた。
階下の一同何事と上を見る。
イクが下りてきて「悠太郎さん
ちょっと来てくれるかい」という。
悠太郎は、はい・・といって
あわてて、上がろうとすると室井も
一緒に上がろうとしたので、襟くびを
つかんで後ろに下がらせた。
二階に上がると部屋のふすまが開いていて
めいこが寝たまま廊下に体ごと出ていた。
「どないしたんや?」
「ううーーん、」といいながら手紙を渡した。
「読んで、読んでよ・・・」
そういって、部屋の中にずるずるとはいって行った。
悠太郎は、「がんばってな・・」といった。
下に降りるとテルが「ねーちゃんなんだって?」と聞く。
「手紙を読んでくれって・・」
「何の手紙?」
室井が興味津々で悠太郎に近づくと
大五が悠太郎を隣の部屋にいれて
ふすまを閉めた。
「なんだ?こいつ・・・」と室井を見た。
「すみません」と桜子は頭を下げた。
その手紙は正蔵から預かったもので
じつは・・
正蔵の明かされていなかった仕事の
ことが書かれてあった。
『悠太郎、めいこさん
もうすぐ子供が生まれるんですね
おめでとうございます。
これから親になる君たちに話をしておきたいことが
ひとだけあります。
私は昔鉱山で技師をしておりました。
詳しく言えば掘削した鉱山から銅を
掘り出す工事です。銅の精錬は
言わずと知れた国の基幹産業でした。
日清日露の軍備は銅で整えたと言われるほど
自分の働きが国を豊かにしているとすなおに
思っていました。銅の精錬は鉱毒がつきもの
です。それを知っていましたが、日本が列強に
加われるものなら・・・ととやかくいうこともないと
豊かになるというのはそういうことやと思って
いましたから・・。』
めいこは、陣痛に耐えていたが
「もう・・・もう・・・・無理・・・」と
いう。
イクはもうすぐ年越しそばだからがんばらないと
いう。
「そばだよ・・そば。」
その言葉にめいこは頑張ろうと思った。
正蔵の手紙には鉱毒の害が深刻だと
いうことがわかる部分となった。
公害である。
川では魚が死ぬ。作物が実らない。
山はまるはげとなる。土砂崩れが起こる。
わけのわからない病気がおこる。
子供が大人にならないうちに亡くなる。
村の人たちは会社を相手にどうしてくれるんだと
大騒ぎをした。
その口封じのために立ち退き要請や
土地の買い上げを任されることとなったという。
このままでは村の人間は水も飲めない・・
との悲痛な訴えがあった。
目の前で子供が血を吐いて倒れる。
その様子を見て自分たちがやったことに
神経をすり減らす毎日となった。
そして人殺しと呼ばれた。
『君のお母さんがそんな時亡くなりました。
わたしは家族のためにといいながら
渡りに船と山から逃げ出した。
逃げ込んだ家族からも逃げました。
けど、逃げても、逃げ切ることができなかった。
ある日気づきました。
困難から逃れることから引き換えに
生きている価値さえも永久に失ったんやと。
悠太郎・・どれほど注意を払っても過ちに
前もって築くことはできません。
豊かさを追い求め豊かさを失うのが
人間という生き物です。
でも、過ちを犯した後にどう生きるかを
選ぶことができるのです。
もし、過ちを犯したそのあとにどう生きるかを
見せられていたら君にそのことを
伝えられたのではないかと思います。
ただ、ただ、逃げ続ける私の背中を見て
君は過剰な責任感と間違うことへの恐怖心を
与えてしまった気がします。
すみません。
父親になる君に私のこの間違いだらけの
人生が何かの役に立てばと思い筆を執りました。
悠太郎、めいこさん
どうか私のような親にならないように。
どうか、あなたたちは生まれてくる子供に
輝く未来と豊かな誇りを与える人になって
ください・・・。』
めいこは、最後の大きな陣痛と戦っていた。
悠太郎は、手紙を握りしめ
夜の街を走って、正蔵の家にいった。
息を切らせて走った。
正蔵の家の前。
暗がりの入り口に向かって
声をかけた。
「おやじ??
おやじ・・・・??」
戸を開けようとしたら
いきなり戸が開いた。
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この間から正蔵は何かしら決意をしていたけど
なんだったんだろう?
戸が開いてそこにだれがどんなふうにいたんだろうと
思いますが・・。
つきたてのお餅…食べたことあります。
子供のころ、親戚がよって
朝からせいろでもち米をふかして
餅をつきました。
ぱーん、ぱーんと
勢いよくつきました。
つく日は29日と決まっていました。
素の餅・・あんこの餅、ヨモギの餅
エビの餅・・・
お鏡餅・・・・
一日かかってつきました。
できたてのお餅はすごく、すごく
おいしいです。
今はそんなこともしなくなりましたけど
あのおいしさを知っているだけで
このドラマを身近に感じられました。
公害と豊かさと天秤にかけることの
難しさを感じます。
この時代から公害があったのかと
驚きました。
たしかに、技術的にあの時代は
進んでいなかったけど
でもその時代にとって最新の技術で
掘削をして製錬をしたはずです。
間違いを犯した後どう生きていくか?
間違いを起こそうと思って間違った
わけではないのです。
そのごの間違いへの訂正が
大事だと思います。
あの村の人はどうしている?
そう聞いた正蔵に岩淵は
答えましたね。
「あそこは、あの時のままですよ
あなたがほおりだしたあの時のままですよ。
失礼します。」
岩淵が差し出した髪の毛の束は
どういう意味があったのだろうか?
