ふくがきた2

岩淵という男性はかつて正蔵のもとで
働いていたらしい。

岩淵を正蔵の家まで案内しためいこ。
正蔵は岩淵を見た途端顔が曇った。
緊張してあわてている様子でもあった。
めいこを家に帰して岩淵を家に招き入れた。

岩淵は「いつも先頭に立っていた永田さん
覚えてますか?」「よく覚えています。」
「先日亡くなりました。」
「あなたに渡してほしいとの遺言だったので
持ってまいりました。」

小さな木箱だった。それを開けると
なんと紙にくるまれた髪の毛の束だった。

驚いた正蔵だったが、帰ろうとする
岩淵を呼び止めた。

「ちょっと、まって・・あのあこ、あの村はどう
なってますのやろ?」

岩淵の背中に向かって問いかけた。

帰ろうとした岩淵は立ち止まっていった。

「あそこは、あの時のままですよ
あなたがほおりだしたあの時のままですよ。
失礼します。」

岩淵はうつむいて去って行った。

その夜、帰ってきた悠太郎に
めいこは、正蔵の仕事関係の人が尋ねてきたことを
聞いた。
「僕かて知りませんよ。仕事関係の人は。」

「それなんかおかしくないですか?
何も知らないなんて。」

「勤め人ってそういうものでしょ?
年に何回かしか、おらんようなひとやったし。」

そういって、お茶碗をめいこに渡して
おかわりをした。

めいこはそれを受け取ってご飯をよそった。

「あなたかて僕が今何をやっているかって
何も知らんでしょ?」

「知ってますよ。」
めいこは、ご飯をつぎながら言った。
「小学校でしょ。」

「来月には生まれるんですよね。」
「この子に何か関係あるのですか」

「この子かていずれは小学校に通うでは
ないですか。」

「え、この子の小学校を悠太郎さんが立てるのですか」

「違います。
違いますけど、小学校は小さい子が通うところでしょ
ごっつい安全に頑丈に作らないといけないでしょ?」

「責任重大ですね。」

「そうです、そやのに、いままでの木造を白紙にして
コンクリート造で僕が作ることになったんです。」

めいこは、驚いた。
「え?それってすごいことやないですか
えらいことやないですか?
お祝いしなくては・・」

「まだ始まったばっかりでうまくいくとは限りませんから」

「でもよかったですね、そういうお仕事ができて」

「え?」

「自分の手で子供たちの安全を守る小学校を
たてれるってことでしょ。悠太郎さんの夢が
かなうってことじゃないですか」

まぁ・・・・前向きにとらえるとそうなりますよね・・
ふふ、頑張ります。」

翌日、めいこは正蔵の家に言ってその話を
していた。

「大抜擢みたいですけど
大喜びではないですね。」

「ま、大仕事屋から気が張り詰めているのやろ」

「やったるで、とはならないのですか?」

「ひとによるわいな。」

「昨日の方は何のお話だったのですか?」

「昔の知り合いがなくなってな
その報告や」

「そうですか・・・」

「それを聞きに来たのかいな。」

「それもありますが・・・
あのですね・・・
西門のおせちを教えてほしくて」

めいこは正月に卯野の家族が来ることを言った。
それで食べさせてあげたいと思ったのだった。

「みんな来るのかいな・・・」

さみしそうに正蔵が言った。

めいこは、「お父さんも呼ぼうとみんながいたったけど
・・・その息子さんが・・・」

正蔵は「期待はしてないけど、わしはわしで
用事があるしな」
といった。
「わかった、おせち教えたろ・・・。」

悠太郎の職場では、藤井と大村と悠太郎で
図面を見ながら話をしていた。

藤井は、もうこれでいい、大事ないというが
悠太郎は納得がいかない・・・。

「もう一回だけ、この部分を考えてみませんか?」

藤井はため息をついた。大村はじっと見ていた。

正蔵の家を出るめいこ。
「ありがとうございました・・師匠・・あ、お父さん」

「師匠として言わしてもらうけど
おせちとはなんやと思う?」

「おせちはお重に詰めたお正月の
食べ物で、お正月早々台所に立たなくても
いいという・・・???
ちがいますか???」

「ま、暇があったら考えてみとって。
ほな・・」

「あ・・・・おおきに。」

めいこは、大阪弁で感謝をして帰った。

西門家ではちょっとした荷物が届いていた。
めいこあてだった。
差出人はあの、和枝だった。

「なんやろ??」と静と希子は荷物を指で押して
試していた。

そこへめいこが帰ってきたので荷物を
ほどいてみることにした。

油紙で包まれた荷物はほどくと、
熨斗紙でくるまれた
産着・・・おしめだった。

手紙もあった。

『もうじき必要になるかと思い
用意したしました。

ひとはり、 ひとはり祈りを込めて
縫い上げました。

お使いいただけたらうれしい』
とのことだった。
人が変わったようやな、と静がいったが・・。

どうもおかしい。

おしめも、産着も・・・

糸の端を止めていないのだ。
つまり縫いっぱなしだった。

「なんやろ??」とみんな考えた。

静は、「あ!!」と思い出したように叫んだ。

「糸を止めてないというのは仏さんに着せる
経帷子のような縫い方やと・・・ちがうかった?」

三人ははっとした。

「あかんこれは呪いや和枝ちゃんに呪いを
かけられとる・・・塩をまいて!!
みたらあかん、みたらあかん!!」

めいこは目をつぶった。

三人は大慌てをした。

その話をうま介で桜子は面白がって聞いた。
結局、産着やおしめは糸が止まっていたら
それでいいのではと思ったので
ちょっとほどいて止めて、足りない分は
縫い直したという。

「たくましいね~~けちくさいね~~」

と大笑いした

「ま、おせちに願いを
おむつに呪いをってことやな」

話を聞いていたうま介は笑いながら言った。

『おせちに願い』とはなにかとめいこがきくと

うま介は答えた。

「黒豆は今年もまめまめしく働けますようにって
数の子は子孫繁栄
叩きごぼうは根を張って生きていけますように

昆布はよろこんぶ
にらみ鯛はめでたいのごろ合わせ

エビを使うんは長寿、腰が曲がるまでいうことや
きんとんは金やな。お金儲かりますようにって。

昔の人はいろんな願いを年の初めの
料理に込めたんや。」

その話を市場で源太とするめいこ。

「ええ習慣やな、年の初めに日本中の人が願いを込めて」

「そうよね、願いたくなることはたくさんあったものね」

「そやな・・・」

「あ、源ちゃんはお正月どうしているの?」

すると、源太にぞっこんの女が「源ちゃんはわたしと
お伊勢さんに行くんです~~~
二人の行く末をお願いしに行くんです~~~」
という。

え?行く末?
なぁ~♪
え???

悠太郎は暗くなった職場でうまくいかない仕事を前に
悩んでいた・・。

一方、めいこは、夜になって悠太郎の帰りを
待ちながら
めいこの料理ノートにエンピツで
書き込みをしていた。

あまりにも集中していたので、悠太郎が帰ってきたことも
わからなかった。

「ただいま戻りました~~~~~~
あの・・・」

そういって、悠太郎はめいこのそばにちかずいて

「ただ今戻りましたけど・・・」といった。

めいこはハッと気が付いて
「あ、お帰りなさい」と言った。

「いま、えんぴつ・・食べていませんでした?」

「あ、あの・・・いえ・・今おせちを考えていて。」

「おせちってそんなに考えるものですか?」
「私なりのおせちに挑戦してみようと思って」

「料理っていいですね。
料理は人を傷つけないでは
ないですか。」

「ま、食べるものですからね・・」

翌日、めいこは早速おせち作りを始めた。

ーめいこのおせち作りは着々と進んでいましたが
最後の一つをまだ決めかねていました。

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正蔵は昔何の仕事をしていたのでしょうか?
実は誰も知りません。

不思議なことではあります。

和枝さんの怨念がこもった産着とおしめ。
仏さん用の縫い方というのが
ブラックユーモアで・・・怖いような、おかしいような。

『ひとはりひとはり、祈りを込めて縫いました・・・』

どんな祈りやぁ~~~~~~~

と思いました。

改めておせちの由来をおさらいしました。

幸せになりたいという願いです。
祈りです。日本中の人が一斉に願って一斉に祈るのです。

これがおせちです・・・・・。

で・・

それくらい

百貨店で買わんかて・・・と思いますが。

めいこのおせちが楽しみです。

年越しをする西門家、それをとりまく
大阪の人たち、

やがてやってくる新年とともに
懐かしい家族もやってくる・・・。

希望にわくわくするめいこなんだと
思いました。