ごちそうさんまでの日々5
女学校時代の恩師宮本先生が
亡くなったことを桜子から聞いためいこ。
先生の思い出を懐かしく思った。
桜子の情報は
ご遺体の確認が遅れたこと。
そばにあった包丁に名前があって
それでわかったこと。
調理実習の部屋で丁寧に
庖丁を研いでいた先生を
思い出した。
めいこはつぶやいた。
「納豆、食べたい・・・・・。」
翌日、市場に行った、めいこ。
源太に「納豆食べたいときどうしている?」
と聞く。源太はそういえば、こっちにきて
食べてないといった。
元気がないめいこに源太は
「どないしたん?」と聞く。
めいこは、ちょっと食べたくなっただけと
いって、去って行った。
源太は怪訝な顔で後姿を見た。
うま介の店に現れた希子。
めいこが帰ってこないのでこっちに
来ていると思ったらしい。
源太も一緒で、最後に見たのは
納豆を探しているめいこだったと
いった。
桜子ははっとした。
「私たちの先生が亡くなられたの。
めいこは、その先生に納豆の料理を
相談していたから納豆の料理を
作りたくなったのかな」といった。
だからそのうち戻ってくると桜子は
いった。
希子は「そうなんですか」とつぶやいた。
家に帰っためいこ。
「すみません、遅くなりました。」
そういって勝手口の戸を閉めた。
すると・・・見慣れない靴、下駄と草履が
ならんでいる。
「おかえりぃ~~」と静が出てきた。
ふみが結い上げた髪型を見て
いい感じと歓声をあげた。
「あの、これは?」
と、靴、下駄、草履をみていった。
「桜子ちゃんたちが関東だきをつくって
もってきてくれたんや」と静が言った。
お鍋にはいったおでん。
お皿に盛ったおでんのたこのくしを
もって、めいこは「こっちはおでんに
タコを入れるのよね」という。
「おでん?」希子が言うと
桜子は、こっちでは関東炊きというと
説明した。
東京ではおでんというというと
なんでそうなったのかなと静がきく。
うま介がもともと関東からおでんが来たとき
関東から来たから関東炊きというようになった
と説明した。
ほお~~~と納得する静。
「関東炊きはこっちに根づいたのに
納豆は根づかなかったのね」と
めいこはつぶやいた。
「やっぱりなかったの?」
と桜子は言う。
めいこは、なんのことやらと
聞くと、源太にめいこが納豆を探して
いると聞いたので桜子に言ったと
説明した。
めいこは、宮本先生を失った
悲しい気持ちをみんなが励ましてくれて
いることに感謝した。
桜子はめいこのためだけではないという。
「一緒に先生のお弔いをしたかったの」と
言った。
「食べることはすごく大切にしていたかた
だったね。それを教えてくれた先生だったね。
だからしっかり食べてしっかり生きていくのは
先生対する供養だと思うのね。
だからバクバク食べているところを見せると
先生一番喜んでくれると思うの」
「そうね・・・。」とめいこ。
桜子とめいこは納得した。
「ようしそういうことなら
いただきます!!!」
と二人は声をそろえていって
おいしいと涙をこらえて笑いながら
バクバクと食べた。
ーやがて夜も更けたころ、室井は震災後の
東京の出来事を語り始めたのです。
「おいつかないんだよ、なにもかも
生きている人が今日生きるのに
精いっぱいで、ご遺体をなんとかしたくても
捨てる余裕がなくて・・・・
物も人も余裕がなくて
そんなこといっぱい見てね・・・。
あ、向こうでもさ、おでん食べてた。
炊き出しを手伝いながら食いつないでいたのだよ
するとまた揺れが来て
おでんがひっくり返ったんだよ。
なべからなんもなくなってしまってさ。
ひっくりかえったなべのそこにひとつだけ
カビカビに焦げた大根が引っ付いていたんだ。
それを食べたらうまかったんだ、この大根が。
あたりまえだよね。
他の材料のうまさをぜんぶ吸い込んでいる
んだからね。
それで思ったんだよ。
なべ底大根は、だからうまい。
うまくなくてはならない。
ひっくり返った具たちのために全力で
うまくなければならない。
でないと死んだちくわやはんぺんに
申し訳ないじゃないか・・・
書かなくては・・・
僕もおいしい鍋底大根にならなくてはって・・・。
はい・・・
寝ます・・・・。」と室井は自分で話し続けて
寝てしまった。
みんなしーんとして聞いていた。
ーそうだね、そうならなければね。
残ったあんたらはみんなおいしいなべ底大根に。
翌朝、包丁をとぐめいこ。
「包丁というのは実はただの鉄の板なんですよ。」
宮本先生の声が聞こえてくるようだった。
「砥がなければ包丁にはなりません。それを
繰り返すうちにやっと自分の望む刃の角度が
見えてくるのです。」
宮本先生が身近にいるような気がした。
「夢というものもそういうものではないですかね。」
『食べ物には力があるさかいナ』と、避難所で
炊き出しをした女性。
『生きる力を与えてくれたのはあんたの
みそ汁だった・・。』・・と、ふみ。
めいこは、庖丁を砥ぎ続けた。
うま介の店では
のりにのった室井がパフォーマンスをしながら
思いついたら、文章を書くという
作業をしていた。
希子は不思議に見ていたが
桜子に声をかけないようにと
言われた。
そこへ源太がやってきた。
「希子ちゃん、久しぶりやな」
といって、「これ・・・」と藁で包んだ
物を二本さし出した。
希子は「?」と思った。
「納豆や、あいつに渡したって」
「あ、ありがとうございます」
とまどいながら受け取る希子。
うま介は「どこから探してきたのだろう。
あいつのああいうところはすごい」という。
じっとその後ろ姿を見送る希子。
「めいこはあのあとどうしているの?」と
桜子が聞いても、ボーっとしている。
うま介と桜子がじっと希子をのぞきこんだ。
気が付いた希子は、「あ、あの・・・」と
話をはじめた。
まだ、大きな避難所があるのでそっちへ
応援に行っているという。
「人の心に寄り添うのは難しいって」
希子はめいことおにぎりを作りながら
めいこが言ったことを話した。
「お姉さんの時もそうだった。でも
だれだっておなかはすくでしょ。
私がわかる唯一に真実って
それしかないの。」
食べ物の力を信じて行こうと思うとい
ったと希子は桜子たちに言った。
「変わったような、変わっていないような・・・」
と桜子が言ったので、うま介も
納得しながら一緒に笑った。
めいこは台所でようじをしていると
がらっと勝手口があいた。
お帰りなさいと声をかけたが
返事がない。
気になっためいこは勝手口にいった。
ー重い荷物を背負った悠太郎が帰ってきたので
ございました。
そこには、憔悴した疲れ果てた
悠太郎が、立っていた。
「ただいま戻りました・・・。」
****************
懐かしい宮本先生でした。
食べることが好きなめいこは
作ることの哲学を宮本先生から
学びました。
食べること、作ること、人の喜び
自分の幸せ・・・。
そして、みんな違う人間かもしれない
けど、お腹がすくと食べたくなるという
ことはみんな一緒だと。
懐かしくて納豆が食べたくなったらしい。
そういえば、めいこは納豆が大好きだった
はず。大阪では納豆は食べないのですよ。
ここ、何年もまえから納豆は健康食品として
人気が高くなったので大阪でも
売れるようになったのだった。
私も、納豆は興味がなくて、食べなかったのですが
妊娠した時、むやみに食べたくなりました。
納豆の細巻です。
寿司飯でまくと香ばしい海苔と一緒に
食べると、これはおいしい。
で、納豆をご飯と一緒に食べることに
挑戦して、食べることができました。
おでんは関東炊きというのですが、
赤塚不二夫先生の人気キャラで
ちび太という少年が出てきます。
そのちび太の大好きな食べ物が
おでんといいます。
おでんは串に刺されて、上が
さんかくのこんにゃく、二番目が
おいも、三番目がちくわだったと思います。
でも、たこの足も串に刺さっていたと
思います。
さて、悠太郎が帰ってきました。
どんな話が展開されるのでしょうね。
