ごちそうさんへの日々3
避難所の食事の炊き出しをしているめいこ。
なんとかおいしいものを、力がでますようにと
気持ちがこもっているのか評判がいい。
おでんの時には
牛筋がはいっている。
これなに?と子供がきく。
牛筋というんや、やすくておいしいで。
また、年配のかたはこのおダイコン
丁寧に作ってますね。
ぬか漬けの好きなご主人もいた。
「うまいなこれ」といいながら
これ書いてみたとみんなが知っている限りの
東京の様子を聞いて描いた地図を見せた。
炊事場でそれをみためいこは、避難した人が
こうして、状況を教えてくれたことだけでも
うれしくて、ごはんがんばらないと、といった。
しかし、谷川ふみはそれでも食事をとらない。
そこへ源太と婦人会のリーダーが
やってきた。
源太はそこまでいわんでもと
いう。
それを振り切って
ふみが食事をとらないのはめいこがよけいなことを
したからやという、「ここで死んだらどうしてくれるの。
このまま死んだらお宅らのせいですからね。」
と、憎々しげに言って去って行った。
静は「誰かさんを思い出すなぁ」といった。
食事時にはふみはうずくまったままだった。
食べないとほおがこけてしまって・・
それともどこか悪くて食べられへんの?
と口々にお世話の女性たちは言うが
ふみは何も言わない。
ついに、でていこうとした。
手伝いをしていた源太は追いかけて
とめた。行くあてもないからだ。
それを炊事場のめいこに言うと
私が作っているからむきになっている
のかなという。
「もうお前が作っているとは思ってないと
おもうで。」
「そうかな・・・」
「思わず飛びつくようなものをつくらんと
あかんかな?」と炊事場の女性。
そういいながらもふみのことは誰も
知らない。
めいこは、考えた。
「東京の人ってのは確かですよね。
ってことは・・・うまくいくかどうか・・・」
と、アイディアを出した。
野菜のかき揚げを作った。
そして、新そばを注文した。
「江戸っ子の秋といえば新そばなんだけどね。」
すると大好評。こっちで新そばを食べられるとはと
みんな喜ぶ。かき揚げも上手にできてると
喜ぶ・・・、
しかし、ふみさんは食べない。
確か、生唾を飲み込んだみたいだったが。
死ぬつもりかなとみんな考えた。
死ぬつもりだったらここまで避難するかなという。
源太は夜、ひちりんを囲んで話をしている
男性たちの輪の中に入った。
そしてするめをみんなにわたした。
「おお、ありがてぇーと声が上がった。」
「勝田さん、地図を書いてくれましたよね。
その時谷川さんなにかいってましたか?」
「うん、悪いことしたって思っていたんじゃ
ないかな。ちゃんと話してくれたよ。」
「あの、あの人なんで食べヘンのですか?」
源太はそっと勝田に聞いた。
家に帰っためいこ。
玄関に手紙が挟まっていた。
留守の間に藤井が届けてくれたらしい。
メモがついていたのだった。
手紙は悠太郎が市役所にもどる職員に
届けてほしいと頼んだものらしい。
それを藤井が持ってきたのだった。
悠太郎の手紙をみるめいこ。
緊張している。
すると、『お父様、お母様、照生君、山本さん
クマさん、全員無事です。
詳細は戻ってから話をします。
とりいそぎ。悠太郎。』
の文面。希子、静ともども喜んだ。
しかし、ふみのことを思うと
これが逆だったら・・・・。
全員死亡とかだったら・・・。
そう思うとふみの言葉がよみがえった。
「今更力を出してどうしろというのよ」
ー想像するのも限界があるね・・・。
めいこは父母に手紙を書いた。そして考えこんだ。
ーこういう時に同じ気持ちになるのは
じつはじつは、難しいことでね・・。
正蔵の言葉も思い出した。
「こういう時に人の気持ちに寄り添うと
いうのは実に難しいこっちゃ。」
その頃正蔵は、夢を見てうなされていた。
人殺し、
人殺し・・
子供を返せ・・
多くの人が叫んでいる。
びっくりしてとび起きる正蔵。
正蔵に過去に何があったのだろうか。
翌日、避難所の炊事場で源太はめいこに
昨夜聞いた話をした。
「地震ひるやったろ、その時煮炊きしていた火で
ご家族がなくなりはったんやて。自分だけ生き残った
んちゃうかとみんなの話を擦り合わせて
わかったことや」、という。
どこまで本当かわからないけど
食事をしないのは自分を責めているので
はないかという話を聞いたらしい。
めいこはじっと聞いていた。
「じゃ、火の通ってないものだたら
食べてもらえるかな・・・さしみとか。」
「こういうことって理屈じゃない気がするんや。
もっとこう、体の奥から食いたいって思う
そんなもの・・・。」
「うーーん。。。」
そんなときふみが目を覚まさないと
みんなが大騒ぎになった。
意識が戻らないのか、呼んでも
叩いてもおきない。
医者を呼んだ。
「ずいぶんと弱っているから入院したほうがいい」と
いった。
そんなめいこに、希子はちいねーちゃんの
せいではないというが。
めいこは自分が人一倍食べるのに人を食べる気
にさせることができないことを悔やんだ。
そんな二人の落ち込んだ空気の中を
炊事場の女性がサツマイモが入った
箱をもってきて
「さぁ、芋を洗おう!!」と声をかけた。
元気のないめいこにもう一度
「洗お!!!」と声をかけた。
めいこは、うなずいた。
「はい」
源太はふみをだいて
病院へ運ぶために荷車にふみを乗せた。
そんな時だった。
いい匂いがした。
外のひちりんでさんまを焼いていた。
「さんまかぁ・・・・」と源太。
「秋やなぁ~」と静は言った。
すると、ふみが目を開けた。
意識が戻ったのだった。
静が驚いた。
源太も・・・びっくりした。
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人の気持ちに寄り添うということは
なかなか難しい。
東北大震災の時もよくきいた言葉だが
理屈は分かるが・・・現実難しいと思った。
そういえば、あの地震のあったときだった。
商店街を歩いていたらよく募金運動をしていた。
学生だった息子は、お財布からいくらかだして、
募金をした。
お金の管理のできる子で無駄使いはしない。
わずかだったが、自分の気持ちだったのだろう。
なにもできないけど、これで役に立つかなと
思ったのかもしれない。
そんな気持ちが集まって大きな募金の金額
になると思う。
しかし、なかなかそんな募金が現地に
届かないという話も聞いてがっかりした。
なぜかなと思う。
分け方がどうのこうのだったかな。
本当に難しい問題である。
これから、こんな大きな地震がないとは
いえない。
そんなとき、どうやって避難したひとの
気持ちに寄り添えるものなのかと
考える。
ふみさんは、どうやらさんまに反応したらしい。
そういえばひちりんと私はかいたが
七輪(しちりん)なんだよね・・・。
「ひ」と、「し」の発音って関西と関東は
違うらしい。
関西では「ひまでね・・」というのを関東は「しまでね・・」と
発音するらしい。
で、数字の7を「ひち」と呼んだり「しち」と呼んだりするが
どっちが正しいのかわからない。
しかたないから「なな」と呼ぶ。
あしたはふみさんは元気になるのかな???
