大嫌いといわしたい6
めいこが和枝にイワシ料理を教えてほしいと
いったために、和枝は一緒に台所に立った。
めいこは和枝が大変料理が上手だということを
ほめちぎる。
無言で無表情だった和枝はふとつぶやいた。
「あかん・・・・
どうしても
あんたのこと
好きになんかなられヘンわ・・・。」
突然なことばにめいこは驚いた。
希子が台所にやってきた。
「あんたを見ていると虫唾が走る。
いびられても泣かされても私は好きですって
丸で仏さんやな
気持ちええやろ。」
「そんな・・・。」
「許されたほうはどんだけみじめか。
思いもつかんやろ!」
そういって、台所から出て行こうとするので
めいこは、待ってくださいといった。
「・・わたし、いびられたことも泣かされたことも
忘れていませんよ。いやですよ。思い出したら
腹立ちますよ。
だけど、いやなとこもいいとこも
一緒だと思うから、あれだけ舌を巻くような
意地悪ができるのは、お姉さんがこまやかで
人の気持ちがわかるからで・・。それがお料理に
向かうと優しいお料理になるからで。だから
腹は立つけど好きになるのではないですか。」
「どんだけおめでたいんや!」和枝は振り向いて
言った。
「あの料理に、なんか入っているとは思わヘンの?」
「え?」めいこの顔色が変わった。
和枝はめいこに近づいた。
「わてが好意だけでやってた、となんで思えるの?」
「お姉さんはそんなことはしません」
そのとたん、和枝はめいこを突き飛ばした。
めいこは後ろむきに土間に転びそうになった。
希子がそれを支え、静が飛んできた。
「和枝ちゃん!」
「それでもすきやなんて言えるんかっ。
一緒に暮らそうなんて思うんかっ!」
「・・・出て行って、
・・・・もう出て行ってください。」
「それでええんや。
わてを追い出すのはあんさんや。」
「どうしてですか?・・・・」
めいこは泣きながら言った。
「どうしてこんな風になってしまうんですか?」
めいこにはどうしてこうなるのかわからなかった。
夕方悠太郎が帰ってきた。
一部始終を聞いた悠太郎。
静は二人を離れさせないとどうにもならないと
いった。決して和枝を追い出したいわけではないと。
悠太郎はわかっていますと答えた。
その後和枝は倉田の別荘に移ることになった。
一週間して西門家に倉田が来た。
和枝の様子をつげた。元気になって
土いじりをしていたという。
そして、和枝のことをだれも知らないところへ
いったほうがいいと思うという。という。
悠太郎はいつまでもご厄介になるわけには
いかないというが、倉田はいつぞやいった
農家の嫁の話をするとそこへ見に行きたいという。
できたら、こんな自分でも必要だというのなら
嫁に行きたいといった。
「農家。和枝ちゃんが・・・」
静は御嬢さん育ちの和枝が農家の嫁などと
思った。
めいこは申し訳なさそうに倉田に聞いた。
「なぜ、あんなにも私は嫌われたのでしょうか」
倉田は和枝から聞いたことを説明した。
前に嫁に行った先でさんざんいびられたことを
めいこにもしたが、全然めげないし
そのうえ、めいこが和枝を好きだというので
自分がまるでくだらない人間に思えたというのだった。
「いけずは私のほうだったのですね。
・・・知らないうちに。」
和枝の部屋を整理していると、箱の中から
縫ったばかりのおむつが出てきた。
希子は「作ってくれてたのですね」という。
めいこは、西門に来た時のことを
思い出した。
床にひっくり返して落としたおかずを
「あんさん食べはったら?」
といった。え?というと「口だけでっか?」
といわれた。
大事な糠床も捨てられかけた。
「これだけは勘弁してくださいといったじゃないですか。」
「勘弁してほしいのはこっちやわ。」
「わてを追い出すのはあんさんや。」
「どうしてこんなふうになってしまうんですか」
そんな中でも和枝はおむつを縫っていた。
何を考えて縫っていたのか・・・。
それを思うとめいこはいたたまれない。
「おねえさん、イワシみたい。
嫌いになんかなれない・・・・。」
市役所では、新しい建物の
説明を大村がしていた。
このホールを通らないと
どこにも行けないようになっています。
けんかをしても、ここで会わないといけない
だから、仲直りが早いです。
ええですね・・・と悠太郎は言った。
それから、数日後
和枝の旅立ちの日だった。
倉田と歩いている和枝にめいこは会いに行った。
「なんで?」と和枝はめいこを見ていった。
「さあな。たまたまと違うか?」
と倉田はあっけらかんといった。
「言い忘れたことがあります。」と
めいこが言うと和枝は不愛想に
何?と聞く。
「ごちそうさんでした!!!
イワシ・・。」
和枝はじっとめいこを見た。
倉田は「なんやわざわざそんなことを
言いに来たんか」という。
「はい、私はお姉さんのことが大好きですから」
そういって、赤い風呂敷に包まれたものを
だして、「これ、お礼です」といった。
和枝は憮然としている。
「私の糠床です。好評なんですよ」
「いるわけないやろ、そんなもの・・」
「持って行ってくださいよ、私の忘れ形見と
して」
「あんさんのことなんか、これっぽっちも
覚えておきたくないんや。」
「これはいけずなんです」
和枝ははぁ?と驚いた。なんのことやら?
めいこは、自分が和枝を好きだと言って
和枝を怒らせるなら好きだと言い続けます。
それが私のいけずです。きちんといけずには
いけずで返したいと思います」
「えらいたいそうないけずやな。」
めいこは、糠床の壺を和枝に差し出した。
和枝は、「そりゃ~どうもおおきに」といって
膝を曲げてお礼を言った。
そして、日傘をたたんで荷物を道に置いた。
両手で糠床の壺を受けとった。
めいこの顔をじっとみて笑った感じだったけどね。
やるぞと思ったら、やっぱりやった。
壺を思いっきり
道に投げつけた。
壺は割れてしまった。
倉田は、ああ・・と声を上げた。
「あんさんのためにわったんやで。
なんぼでもいけずができるように・・・。」
和枝は日傘をさして荷物をもってめいこを
みすえて言った。
「いきまひょ、倉田はん」
「また・・・また送りますから」
めいこはうれしくなった。いつもの元気な和枝だ。
和枝はめいこの横を通り抜けそれに倉田が
ついていった。めいこの肩をポンとたたいて。
めいこは「ずっと、ずっといけずし続けますからぁ~~」
と叫んだ。
倉田はなんやえらい屁理屈やという。
汽車の汽笛が鳴った。
ほんまに、かないまへんわぁ~~
和枝は笑いながら言った。
そしてすたすたと歩いて行った。
めいこは、後姿を見送った。
「ああ、ごめんね・・・」と道端に捨てられた
糠床のに言った。
ーいいえ、役に立てたみたいで、おばあちゃん
うれしいよ。これでこれからも少しはつながって
いけそうだね。
めいこは糠床を拾い上げて
そして、また、和枝を見送った。
汽笛が、夏の青空に響いた。
ところがある日、大きな地震が起こった。それは関東大震災と呼ばれるものだった。****************
偉い屁理屈というより、和枝の人生は
あの結婚で大きく変わったみたいですね。
いけずに泣かされて、追い出されて
どんなに尽くしても報われなかった
結婚生活で、心が曲がってしまったのでしょうね。
めいこを快く受け入れなかったのも
そのせいで、なにしろ恋愛結婚なので
なにもしらずに来ているルンルン気分の
めいこに、どかんといけずをかまして
追い出そうとしたのでしょうが・・・。
なんと、めげないめいこに、自分はなんだったのか
と問いかけ続けて、ついに、矢が折れたと
いうのか・・・
「わてを追い出すのはあんさんです」
と、どんないけずをしてもお姉さんが好きですと
許すめいこに、自分の人生に対する敗北感を
感じていたのですよね。
いけずをするといけずされるとはこのことです。
で、一緒にいることはできないというの意味が
よくわかり、和枝は農家に嫁ぎます。
今度こそ幸せに・・・。
めいこは、いつでもつながっていようと
糠床をもって駅に現れてあの屁理屈談義です。
また、送りますから~~~
いけずしますから~~~
それを笑って、かないまへんなぁという和枝。
つながった絆はいつかきっと
笑って話ができるときが来ると
思います。
アップが遅れてすみませんでした。
やっと、一段落つきました。
次は年賀状か????
それとも、掃除か??????
忙しいね~~~師走って。
