大嫌いっていわしたい1
和枝がある男とつきあっている・・
その情報は悠太郎が目撃したことで
家族に知られることとなった。
でも株の指南を受けていると
和枝が言うので、ああそうか・・・と
納得していたはずだが。
あるひ、和枝が思いつめた顔で帰ってきた。
安西が家族にあいさつにといっているという。
めいこ、静、希子は何事なのかと
いぶかしげな顔をする。
「家族に会いたいって・・・・・」と和枝。
つまり・・・
「えらいこっちゃ!!!!!」
西門家は大騒ぎとなった。
悠太郎が帰ってきたときその話をすると
悠太郎も、呑み込みがうまくできず
「つまり姉さんを移築していただくということですか?」
「めいこはあわてて、なんてことをいうのですか!」と
言葉が違うといった。
「すみません、動揺していて。」
(・・・動揺している風に見えない)
「十中八九結婚を前提としているのではないかと
お静さんが・・」
「あの、お静さんはなんて?」
「お姉さんにやっと来た幸せだから
家族みんなで一致団結しようって。」
「いっちだんけつですか?(不可解な表情)」
「一致団結です!みんなで。」
翌朝の食事タイムだった。
「ほな先生はうちは家族円満やと
おもてはるんですか?」と悠太郎がきく。
和枝は「いややわ~~~円満やないの。」
と、当然のように笑いながら言う。
朝からぽかんとする和枝以外の家族。
静は「まぁ、ええやないの、そういうことに
しとこうや」、という。
場は取り直したものの
「そうやなぁ、お母はん~~~~。」と和枝が
いったものだから
静は目を大きくして和枝を見た。
はじめて、お母さんと呼んだのだった。
そして、「そや、あんたらお静さんのことは
お母はんと呼んでな。」という。
一同あっけにとられていると
めいこには、「話がややこし成るからその
おなごしみたいな恰好はやめてな」という。
「え?」
ちゃんと悠太郎さんのお嫁さんらしくして。
悠太郎はあのひとのことは?
と聞く。
それは悩んでいるらしくどうしようと聞く。
めいこはこの際、正蔵に来てもらったらどうだろう
という。家族になったら隠し通せるものでも
ないので。嘘ついていたというよりは
正直に・・・ね?
と静に言うと静はそうやねと同感する。
行方不明で死んでいるとでいいのでは?
これが悠太郎の変わらない気持ちである。
希子はお父さんが家出したわけありの家
ということになるのでは?と聞く。
悠太郎は八年前に山に登ってそのまま行方不明に
なったということにしましょうと、語気も強く
言い切った。
めいこは、不満だった。
静は、当日の着物選びに希子を相手に
選んでいた。
「どっちがいい?」
「どっちもおきれいですよ。」
「でもこっちはちょっと砕けているかな?」
「お母さんがお嫁に行くのと違うんですよ。」
洗濯物を干しているめいこに声がかかった。
「めいこはん・・・・」、やさしげな声だった。
めいこは、ぎくっとして手が止まった。
声のほうを向くと和枝だった。
「なんなん?」
「いま、名前で呼ばれたから・・・なんでしょうか。」
驚くめいこはどきどきした。
「当日だすお料理をなににするか
一緒に考えてくれはる?」
「一緒にですか?」
「いやなん?」
「いいえ、考えます、頭が沸騰するぐらい
考えます。」めいこはうれしかった。
和枝の豹変ぶりにー(豹変というのかな?)
こわい豹がかわいい猫になるというのでは
間違っていない。ー
めいこは驚いた。
一緒に安西の経歴を書いた本を読みながら
この人にあった料理とはと考えた。
「せっかくやしちょっと珍しいものを
お出ししたいんや。」
「洋行帰りだし洋食は?」
「あんさん、ホンマに考えが浅おますな?」
「あえて関西の家庭料理とか・・・」
「ええな、あえてイワシ尽くしとかなぁ」
「ぎょぎょぎょ・・・・・。」
「なんやそれ?」
「イワシはやめたほうがいいのでは?
安いし・・・」
ーお忘れかもしれませんがめいこは
イワシが唯一苦手な食べ物なのでございます。
「あ、長崎県出身とあります。
長崎県の料理はどうでしょうか?
結婚しても故郷の料理を作って
くれると喜ぶのでは?」と
めいこは言った。
このさい、イワシは回避したいのだろう。
和枝はそれはいいと思ったのか、
これから長崎料理のお店へ行くといって
でかけた。
悠太郎の職場では和枝の結婚話が
広まっていた。
「しかし、あのお姉さんがねぇ~~~~」
と藤井はいった。
悠太郎は「どこまで分厚い猫をかぶりはったん
だか。」という。
大村は「今までがネコかぶっとったんと違うか?」
という。
「根はまじめで几帳面な人やろ?あのひと。
大事にされたらええ奥さんになるのと違うか?」
「・・・・・・・・・・・・
ようわかりますね・・。」
こんなこと言う人は珍しいと思うけど。
その夜、家に帰った悠太郎は
和枝とめいこがふたりで料理を作って
いるところを見た。
はじめてである。
希子に聞くと長崎の料理を試しに
つくっているという。
和枝は「錦糸卵っていうのは
細い糸なんやで・・・
これはタコ糸でしゃろ・・。」
めいこの切った卵は太かった。
そういって卵を切った。
「薄い・・・・・。」
和枝の切る卵は細くて薄くてきれいだった。
「ええから、ごぼうのささがきをやっといて。」
「はい・・・。」
「ささがきいうのは笹の葉のうすさでっせ
わかってはるな!!」
「は、はい。」
その夜、疲れ果てためいこは
布団の上に倒れこんだ。
「どうされたんですか?」
悠太郎がきくと蔵の中の
食器を当日の料理にあうのを
だしてみんな洗って磨いたという。
悠太郎はご苦労さんですといった。
ーこうして安西先生がやってくる日と
なりました。
冷たい玉露をだすとおいしいといった。
汗も引くし・・と安西は言う。
和枝はめいこに、お料理を用意してといった。
安西は株で儲けるというのはそれだけではなく
ロックフェラーのように石油で大金持ちに
なったというが石油を株にかえて発行する
ことで大金持ちになったという話をする。
「ほな、出ている株を買うより儲かりそうな
事業をしている人に出資したほうがいいという
話しですか?」と静はきく。
「そうですね。」
料理が並んだ。
「何の料理ですか?」
「お里長崎ですよね?」と和枝が言う。
悠太郎、静は不思議そうな顔をした。
安西は「あ!」といって、「長らく
帰ってないので懐かしいです。
子供のころ、まずしくてこのような
料理は食べたことがなくて」と・・・説明する。
東京である銀行家の馬番をしていた。
そこで盗むように株のことを覚えたそうだ。
それが主の目にかなって学校へ行かせて
もらった。和枝さんはいいおうちの御嬢さん
なんだろうと思うと言いあぐねてしまったそうだ。
悠太郎は・・・「その旦那さんのお名前は?」
と聞いたが、和枝がお口にあいますやろかと
重ねていったので聞こえなかったみたいだった。
「おいしいです。
無くなった親にも食べさせてやりたいです。」
「ほなぎょうさん召し上がってください。」
と和枝は言った。
めいこは、「そうですよ、足りなくなったら
市場に行きますから」といった。
「そういうことやおまへんやん。」
と和枝が言ったので爆笑となった。
夜も更けていった。
安西をそこまでといって送って行く
といって出かけた和枝だった。
「あのひとなんや怪しくないですか?」と悠太郎。
めいこは後かたずけをしていた。
「なにが?」と聞く。
「食べたことはなくても故郷の料理
ぐらい知っているのではありませんか?
世話になった旦那さんの名前も答えへんかったし」
「そんなはなしありましたか?」
めいこは残り物をかたずけながら言った。
「うちもちょっと変やなとおもったんやけどな。」
と静がいう。
「そうでしょ?」と悠太郎。
「金目当てかと思ったけどな
よう考えたらうち借金しかないがな。」
「そうですよね。」悠太郎は納得した。
めいこは笑った。
「なんですか?」
「心配しているのですね。お姉さんのこと。」
「今度は幸せになってほしいやないですか。」
その言葉にめいこ、静 希子は
微笑んだ。
帰る道々・・安西はお礼を言って
いきかけそして見送っている
和枝のところまで戻ってきた。
安西は帽子を脱いで和枝に言った。
「あの・・・
あの・・・
私と一緒になってくれますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
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うーーーん。
この男、怪しいぞ。
絶対怪しいぞ。
お金はあるのだ。
和枝がないしょにしているけど
和枝が買った株が暴騰したのだ。
そのとき、その驚きの場に
安西はいたのだ。
だから、お金はあるのだ。
それで結婚詐欺をやって
お金をむしり取ろうとしている
わけでは?と思うのだが。
しかし、和枝の豹変はすごい!!!
静をお母はん・・と呼ぶことに何の抵抗もないし。
めいこを嫁らしいカッコウにということに何の
抵抗もない。
台所に立って料理を作るさまなど、うまいもんだと
思う。
大村が根が真面目で几帳面な人といったが
言われてみれば、そうなんだ。
ただ、すごいいけずである。
一致団結した西門家であるが
正蔵だけは団結になっていない。
安西の本当の姿はいつになったら
わかるのか?
その時和枝は?
その時めいこは?
その時、悠太郎はどうする?
なんて・・・まだまだ
始まったばかりである。
