祭りのハーモニー6

天神祭の夜は更けて行った。

静の部屋。

めいこは静と向き合っていた。

静はめいこに正蔵からふたりのことを
何か聞いたのかと聞く。

めいこは、正蔵が静をだまして一筆
結婚しますとかかせたことを話した。

静はひきだしから書き物を出してきた。
それには二人が結婚するとかいてあった
その書き物であった。

ところがこれは正蔵がいったようなことでは
なく、静が正蔵を酔わせてかかしたものだった。

驚くめいこだった。
下の食卓では悠太郎が帰ってきていた。
希子がご飯とかお茶を出していた。

なぜ、獅子舞をすることになったのかという
話をした。あのおむすびが原因で腹イタを
起こしたのではと悠太郎が言う。
それで、獅子舞をする羽目になったことを
はなすと希子はわらいながら、
大変やったんやという。
悠太郎は、それを見て笑った。

部屋へ行こうとしたら、静の部屋で話声が
聞こえてきた。
悠太郎は立ち止まった。

静は10歳の時に正蔵にあったという。

昔芸者の置き場で下働きをしていたころ
芸者のお姉さんの使いでハモニカをかいに
いった。ところがこけて、ハモニカを
落としてしまった。
どれほど、お姉さんに折檻されるかと思うと
恐くて、泣いていたら、正蔵が声をかけた。

泣いたらあかん、これあげるから、と
ハモニカをくれたという。

向こうでその人の名前を呼ぶ声がした。
「正蔵はぁーん」それにこたえて正蔵は
静に別れを告げて去って行った。

静はなんと優しい人だろうか、旦那さんに
するならあんな人がいいと思ったという。

初恋である。
それから何とか芸子になって
芸子稼業も潮時かなって思った頃
また、正蔵にあったという。

おねぇさん名前は?
千代菊言います。
ええ名前や。

静はこのひとは仏さんが暮れた
最後の旦那さんではないかと思った
という。一緒になってってあったその日に
しつこく付きまとった。
で、ある日、飲ませて酔わせて書かせた
一筆だった。
なぜあの嘘を・・・?
自分が欠かしたという嘘をついたのかと
きけば、和枝からだましたくせに、と
するどい攻撃をしてきたので、入れあげたのは
あんたの父親や、騙されたのはうちやって。

それをたまたま正蔵がきいていた。
それでじっと静の顔を見てほんまにごめんな
って悪かったなお静って・・・。
あの人はあの日からずっと嘘をついてくれてた。

弱い人やと思う
ずるい人やと思う

実のない人やと思う。
けど、あの人より優しい人をうちは知らんのや。
和枝ちゃんへの意地もある
芸子稼業へ戻りたくなかったのもある。
ここに居ついた一番の理由は・・・み・・・

と、いって止まった。

未練ですか?

めいこはずばりと言った。めいこも押しかけ女房みたいな
ものだというのだった。
悠太郎は最初は素敵な人に見えたけど、ここに来たら
全然かっこよくなくて、それでも好きで、前より好きで。

悠太郎、聞き耳を立てている。

そういう気持ちですか?
めいこは静に聞いた。
静は笑っていた。

めいこは、ちゃんとお静さんの気持ちが
わかりたいという。ちゃんとわかっていますか?

泣きながらいうと、静は涙を指で拭って
くれた。

あんたが娘でよかったわぁ・・・(涙)
二人は手を取り合って泣きながら
笑った。

正蔵の家では源太がハモニカを食べながら
話をしている。

説明する前にな、それなんやになったんや。
お静さん怒ってヘンかったんかいな?
意地はらんというたらええのに。
もどりたいんやろ?ほんねは。

正蔵はしばらく考えていった。
13の時から歯を食いしばって家長をやっている
おとこがおるんやで。戻らんのはせめてもの
筋や・・・。
正蔵はそういってお酒を口にした。

そのころ、悠太郎は自分の部屋で考え事を
していた。

空には花火が上がり、みんなが歓声を上げるころ
大村たちは神棚の前で手打ちをして
祭りを終えた。

夏の日差しがきつい昼間。
静は業者を呼んで自分の持っている着物を
高く買ってもらった・・・らしい。

希子はなぜですか?と台所をしながら
めいこに聞く。
「もういらないんだって。これからは前向きに
居座るんだって・・。ダメ亭主を持った女房として。」
「ふーん。(笑)」

「あ、それから、これからはお母さんて呼んでって。」
「呼んでええんですか?」
「うん(笑)」

そのころ、悠太郎の職場では懐かしい人が現れた。
竹元である。
東京帝国大学で講義をしていて、開明軒の
階段を作った人だ。
悠太郎はうれしくなって、あいさつをした。

ああ、あの無骨極まりないあの階段を作った
西門君か。
きけば京都帝国大学が竹元を教授として
呼んだらしい。「愚かな建築学会が
ようやく私に追いついたということだ。

わっはははは・・。」
相変わらずの毒舌である。
悠太郎は笑った。

その西門家ではこんどは呉服屋が来た。
今日はぎょうさんこうてくれはるということで
ええのをもってきました。

うふふふ・・・

めいこは、お母さん・・・なぜせっかく処分したのに
また買うのですかと聞いた。

あれは和枝ちゃん憎しで
好きでもないものを買ってしまったけど
こんどは自分が好きなのを買おうと
思ったといった。

それから、これから正蔵の家にいくめいこに
周りにいる女性を調べてくれという。
特に女房気取りの年増女、あれはっきりさせ
といて、といった。

それからな・・・・・。

正蔵の家へいっためいこは、鱧のちらしずしを
いれた重箱を正蔵に渡した。
重箱はハモニカが入っていたものだった。
いやぁ~~~~~きれいやなぁ~~
と正蔵は喜んだ。
それから・・・
めいこは、静の伝言をいった。
ハモニカごちそう様とのことでした。

ホンマ?おおきに・・・。
正蔵もうれしそうだった。

さて、安西の教授室の前では
和枝が安西に講義してもらった
お礼を言った。
そして、かばんからハンカチを出した。
それには安西のイニシァルが縫い付けられて
いた。

「差し上げます。こんなお礼しかできませんが」

その夜、めいこ、希子、静が台所に立っていた。
正蔵の女性関係の報告をした。
あの女性は親切で来てくださっているだけ見たい
ですよと言った。

年増だなんてばち当たりますよ~~
ふ~~~ん。
静はつまみぐいをしながら答えた。

そこへ、思いつめた顔をした和枝が帰って
来た。

三人を前に言った。

「先生が・・・先生が・・うちにあいさつに
来はるって・・」
ほぼ絶叫に近い話しっぷりだった。

三人は、驚いて和枝を見つめるばかりだった。

****************

一難去って、また一難でしょうか?
それとも、ええことでしょうか?

めいこの考え通りに西門家は変貌を
遂げつつあります。

悠太郎の食事のお給仕を希子がする
とは・・・

初めて見ましたね~~
希子と悠太郎が向き合って話をするって。

しかし、正蔵ってどこまで人がいいのでしょうか?
たいして、好きでもない、好きかもしれないけど
嫁さんにまで来てとはいえない相手のたくらみに
まんまと乗って、違うとも言わない。

優しいというのかな?と思いますが
自分が静にまいったと嘘を言って
自分が静をだましたと嘘を言って
それだったら、あっちこっちに女を作っても
仕方なかったのかもしれないし

最後のひとこと、13歳で家長になって
踏ん張っている悠太郎への心遣いを
言っていますが・・・

悠太郎はどう思っているので
しょうか。

安西とは何者でしょうか???
和枝は幸せになれるのでしょうか?

来週もめいこの活躍を期待しましょう。