祭りのハーモニー3
「あんた、おとこできたやろ!」
朝餉時、静は和枝に言ったのだった。
昨夜、和枝が男性と一緒のところを
目撃してショックをうけた悠太郎、
それを聞いてショックを受けためいこと
希子。
ごきげんな和枝。
その四人の複雑な心理状態に
グサッと一言、発したのは静だった。
驚く一同。
和枝は悠太郎に喋ったのかと聞くが
否定するのでめいこも希子も
素知らぬふりをしようと
顔を伏せた。
「あんたら知ってたん?」と静がきく。
僕は「たまたま見たんです」というが
和枝は「ふーん、ま、ええけど」。
と、いう。
和枝は、ややこしい関係ではない、
株式のことを教えてもらっている
だけだというが。
静は、ふーんといいながら
「ま、せいぜい騙されんようにな」と
一言いう。
「え?」
「金目当ての詐欺かもしれんから
気をつけなはれというてるんや」と静。
なんで金目当てなのかと
和枝は笑った。
静は「あんたにほかに何があるのか」という。
若くもなく、色気もなく、だったら
お金だというのだ。
和枝は静に「男っ気がないからと言って
ひがまんといておくれやす」という。
「男っ気?
ふーん、株式を教えてもらっているだけの
浄い関係ではなかったん?」
「わてはちゃんと人を見ますさかいに。
あまり言葉に騙されて
家族をほって逃げていくような男に騙され
ないから、安心しておくれやすといいかえす。」
「よういうわ。あんたらの父親やろ?」
希子も悠太郎もうんざりした顔をした。
「あんたを連れてきたときから父親とおもって
ないから」と和枝は言い返した。
「あの親にしてこの子ありやな。
こんな家関わらなかったらよかった」と
静。
「ほな出ていかはったら?
わては全くかまいまへんで。」
静は食べていたおわんをおいて
感情を高ぶらせていった。
「あんたらの父親に頼まれて
わざわざ芸子をやめたんやで。
いっぱしの芸子やったんを
あんたらの父親にわやにされたんや。
ようそんな口、きけれるな。」
「だからもう、もどりはったらどうですか」
と和枝。
「悪いけどわてらいっぺんもあんさんを
引き留めたことなどおまへんで。勝手に
居座りはったんはあんさんですやろ。」
そのきつさに静はたちあがって
座布団をもって和枝を攻撃しようと
したが、
悠太郎が静を止めた。
めいこもはらはらした。
静は怒りをどうすることもできず
二階の部屋に入って行った。
めいこは、おにぎりを作って
静の部屋に持って行った。
「あんたはどう思う?」
めいこはここにきて半年足らずですが
何度も出て行こうと思いましたと
話した。お静さんも思ったことでしょうね。
「お父さんはいなくなって継子は反抗する
ばかりで、芸者さんに戻ることは考え
なかったのですか?」
静はだまって食べていたが
ごちそうさんといった。
めいこの質問には答えなかった。
めいこは、どうしようもない怒りで
うま介の店でメレンゲを怒りの
エネルギーを使って作っていた。
ーわかんないね。お静さんどうしたのかね?
「わかったよ、めいちゃん、
ハモニカはお菓子だ!!」
室井が店に飛び込んできた。
「どんな?」
「白くて、ふわふわで
キューンとあまずっぱくて
それが湯引きした鱧ににていて
それで鱧に似た寒、ゴロが悪いんで
ハモニカと呼んでいた」という。
うん、うん、とうなずくめいこ。
さっそく師匠のところへ行って
ハモニカの作り方を教わろうとしたが
肝心の師匠はハモニカの作り方は
知らないという。
「お静さんが食べたがっているかもしれない
と思うのですが。
お静さんとハモニカの関係を教えてください。」
それでも正蔵はわからないという。
めいこは正蔵がお静のことをどう思っているのか
聞いた。
初めて会ったときは年はそこそこ言ってたけど
三味線はうまいし、話は面白いし
笑った時の顔は愛嬌があってかわいらしかったという。
そんなとき、静は芸子の置屋から出てきた。
昔の馴染みの旦那さんが声をかけた。
「千代菊やないか。」
そして戻ってこないのかと聞く。
静はこんなおばあさんが戻ってきたら
幽霊かと思われると茶化した。
旦那さんは今でもブロマイド持っていると
往年のファンであることを話した。
そんな仲間がたくさんいるらしい。
師匠は一目ぼれで静に嫁に来てほしいと
拝み倒したという。しかし静は奥さんが亡くなって
一年もたってないのに何を考えているのかと
怒ったらしい。
あきらめきれない正蔵は一計を案じた。
大枚はたいて一人でお静さんをあげて
一緒に飲んだという。
その時に少し眠り薬をいれたらしく、
寝てしまったお静さんの手をとって
「一緒になります」と筆を持たせて紙に書いたらしい。
策士やがな。和枝と親子やがな。
「これ見てみい、一緒になるって書いた」というたという。
「それで・・・」
あきれためいこは
「一緒になったらポイですか?」
「ポイはしてない、わしが出て行ったんやし。
反省はしてるで。」
「師匠、お静さんの笑顔はかわいらしかったと
いいましたよね。いま、お静さんはどんな顔を
していると思いますか?
目がつりあがっていますよ。」
「え?」
「もとはといえば師匠のせいですからね!!」
めいこは怒って帰って行った。
ため息をつく正蔵。
「もう~~~~~~~~~~」
「いい加減で女たらしで・・・
お静さんの言った通り。」
めいこはうま介の店で起怒りながら
氷を削っていた。
うま介は聞いた。
「ハモニカは???」
「そうよ、師匠はハモニカもわからなかったのよ。」
じっと見るうま介。
「ほな、どうすんの?ハモニカは?」
「…作らない。」
うま介は大きな声でもう一度言った。
「どうすんの?????」
驚くめいこ。
室井、桜子、希子が見ている。
「しろーて、ふわふわで、キューンとあまずっぱくて・・・
鱧の湯引きにそっくりで、幻のおかしなんやで。
めいこちゃんは作りたくないの?食べたくないの?」
「それは・・・」
「お母さん喜ぶんじゃないかな?」
といったのは室井だった。「あの居酒屋で
ハーモニカが出てくるまで
子供がお菓子を待っているような顔をしていたよ。
食べたかったのでは?」
桜子は
「そのお菓子が天神祭に出てきたらお静さんきっと
喜ぶよね~~~」と室井に言う。
「けど・・・・」とめいこは静に言われたことを思いだした。
ー「こういうのやめてくれへんかな。」
「踏み込むなって言われて・・・・。」
希子はめいこに駆け寄った。
「やってみましょう!!天神祭やし。」
ハッとする一同。
めいこも、そうよね天神祭だもんねといって
やることとなった。
一方師匠の玄関先では近所の家族が
わいわいと出かけている。
なにをおもうか、正蔵。
そして何をしているのか静。
それを塀からじっと見ていた。
そこへ、愛人の女性がやってきた。
紅しょうがのてんぷらを持ってきたのだ。
うまそうやな、と食べる正蔵だった。
めいこは、えんぷつ片手に、ハモニカの
作り方を想像していた。
白くてふわふわ・・寒天・・・・。
みんなで食べたらおいしいだろうなぁ~~。
じっと見る希子だった。
さて、静は置屋の女将に芸子に戻ると
相談していた。
もう、潮時ですさかい・・・・。
何を決心したのだろうか?
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和枝と静のバトルはすごいですね。
っていうか、小姑ってのはこんなもので
しかも姑がいないからその分強くなりますね。
静さんの謎はなぜ、いままで西門にいたのかということ
だった。
正蔵が話す以上に何かあるのかもしれませんし。
年を取ったのになぜ、芸子に戻ると決心したのでしょうか。
めいこの家族みんなで天神祭という目標はどのように
達成できるのでしょうか。
和枝の有頂天も危ないのではないかと
思いますが・・・・。
ハモニカは本当にあったのですか?
大阪にはそういった隠れた名品がけっこう
あるようです。電気ブランとか、ミルクケーキとか。
ようわかりません。
駄菓子の部類だったらあるかもしれません。
地方によって駄菓子の文化が違います。
しかし、そういった駄菓子というよりハモニカは
もっと違った雰囲気のお菓子らしいですね。
それがなぜ、一般化しなかったのか?
不思議ですが・・・。
