祭りのハーモニー1

いよいよ暑さも本格的。
天神祭の季節となった。

めいこが魚屋の銀次のところへ行くと
はもを下ろして骨切りをしていた。

忙しそうですね。

もうすぐ天神祭やからな。
天神祭というたら鱧やで。

鱧??

めずらしそうに覗き込むめいこ。

そこに奥さんが配達行ってくるわ
というので、ああ、それめいちゃんに
みせたり、と銀次が声をかける。
鱧の湯引きであった。
おろした鱧を細かく骨切りするとき
短冊形に切るので
湯引きをすると花が咲いたようにまるくなって
花弁のように広がる。

わぁ~~きれい、とめいこは言った。

「鱧の湯引きを作って天神様のお渡りをまつんや。」
「お渡り?」
「獅子舞やなんや、祭りの行列や。
家族みんなでお獅子が回ってくるのを
まつんや。」
「家族みんなで???」
めいこは、ふと考えた。

その日仏壇に手を合わせるめいこ。
オムライスをお供えした。

「天満の天神祭です。
どうか、どうか・・・家族でお獅子が見られますように。
お願いします・・・。」

静は古い自分の写真をみて古い手紙を
読んでいた。

そして、三味線をもって階段を下りた。

すると台所でめいこと希子が話をしている。

「天神祭にお父さんを呼ぶ?
それ本気ですか?」

「お祭りだもの。一日だけみんな忘れて
おいしい鱧たべて・・・ね?」

「あの人のところへ行くん?」
静が声をかけた。

「はい」とめいこは答える。

「ふうーーん。しがらき?
持っていくん?
ふーーん???

あれほんま?
あの人家のこと気にしているって」

「本当です。
私の考えですが、きっと帰りたいのではと思います。」

「あのな、修羅場になってもええの??」

静のにらみにめいこはたじろいだ。
そして、静は出かけて行った。

「お静さんて芸者さんだったのよね?」

「そうです。千代菊っていってました。
すごく売れっ子だったとか。ブロマイドも
でたぐらい。」

「それをお父さんが入れあげてやめさせて、
挙句の果てにぽいか。」

「さすがにうらむなというほうが
無理やと思います。」

二人は正蔵の家に行くことになった。

正蔵は近所の人たちとほとんど女性だけど
楽しそうにしていた。

めいこは、あいさつした後、天神さんのときに
うちに来ませんかと聞く。

正蔵は考えていたが、ふと希子を見た。
そして、希子のほうへ近づいた。

希子は、正蔵に、お見合いの時はどうも
といった。

あんた・・・・正蔵は希子をみていった。

うちの娘によう似てる。
希子は、娘ですというが。

わかってるがな、といって
冷たいお茶でも飲まんか?と
いった。

いっぽう
芸者の女将に声をかけて帰ろうとする
静に女将はお茶を飲んで行けという。

幼い下働きのお美代を呼んで
「お茶だして」という。
しかも「ご不浄きたなかったで。
ちゃんとふき」と、支持する。

あんたがここに来たのもあの年頃やったなと
女将は静に言った。

はい・・・・

女将は正蔵のことを聞いた。
帰ってきたことは知っていたらしい。
いっぺん、顔見にいったらどうやと
きく。天神祭やし仲直りしやすいんと
ちがうか・・と。

真夏の暑さの中風鈴売りが涼しげな音を
たてながらとおりすぎた。

静はその昔、ここに来た頃正蔵に出会った
ことを思い出した。
下働きでつらい思いをしていたころ
泣かんとき、大丈夫か?と声をかけてくれた。

静は微笑みながら、天神祭やしな・・・と
納得した。

そのころ、正蔵の家では盛り上がっていた。

やっこさんのうたをお姉さんたちと一緒に
歌う希子だった。

めいこが正蔵に天神祭なのでうちに来ませんか
と声をかけても正蔵は知らぬ顔で
やっこさんの歌に合わせて踊っていた。

正蔵の愛人が今は何を言うてもあかん。
またにしとき、という。

こんちくしょうとばかりにしがらきを食べる
めいこだった。

正蔵はよっぱらってふらふらして
愛人のひざによりかかったりする。

それをじっと静は塀の向こうから見ていた。

市役所では暑いな~~~と悠太郎たちは仕事をして
いたが、大村がカウントダウンを始めた。

「5時や!!
何が始まるって・・・赤門、天神祭の手伝いにいくで!」と
職場あげて祭りの拠点に・・手伝いにでかけた。
荷物を運んだり大変だったが、毎年ですかと
きくと藤井は家にいるよりましやがな、という。

さて、和枝のほうはついてない顔をしていた。
「倉田さん、わてにいい縁談ありませんか?」
倉田は「え?」という。
「最近つきがなくて・・・」と愚痴ったが。
そこへ暴騰のニュースがはいった。
和枝は驚き、喜び
とりあえず顔を洗ってきますと
いって大慌てをした。

その夜、希子は正蔵は帰ってくる気はない
と思う、戻っても針のむしろやし・・
お父さんは帰る気がないと思うと
言った。

正蔵は往来を家族連れが楽しそうに
通るのを見てふとさみしく思った。

家ではちょっとしたことが起きた。

静が抱えられるようにして帰ってきた。
泥酔しているのか?
ハモニカ・・・とつぶやいた。

めいこは、どうしたのかと思った。

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鱧・・・祇園祭でも食べられてます。
あまり好きではありません。
あれって淡白な味がするので
夏向きかもしれませんが、甘辛く
醤油を塗って焼いたらおいしかなと
思いますが・・・。
そんなん鱧やないと言われるかもしれ
ません・・・。

しがらき・・・あまり知りません。
よく似たお菓子は知っています。
夏の暑いときに食べるにはちょうど
いいかもしれません。あまくなくて
冷やせば、しっとりとした
蒸しパンのような感じで。

しかし・・・
京都は水無月をたべます。
外郎のような土台にあずきや
緑の豆やら・・がのっています。

これは6月、夏バテ防止にと
食べる習慣があるそうです。

冷たく冷やしたら、これはこれで
おいしいお菓子です。

静の心の闇とは?
正蔵と何があったのか?
そしてハモニカとつぶやいたわけは?
ハモニカは食べ物です。

正蔵が希子をみてうちの娘によう似てると
いったのはどういうことなんでしょうか?
まだ、ぼけていないと思います。

なにか、希子にも秘密があるのでしょうか?

それ以上に和枝の株が暴騰して
大儲けをしました。

それをじっと見ている男・・・・。
あやしい・・・・・・・・。

あれは何者でしょうか?