ごめんなすって1

西門家にガスが来た。
その日の夕餉はガスで炊いたご飯だった。
静はおいしいという。
和枝は同じ味なら巻きで炊いたご飯のほうが
手間ひまかかっている分ありがたみがあります。
とつんとしていう。
手間暇かけても文句ばっかりゆうてるくせに。
文句やない、感想や。

西門家のガスは実演モデルとして導入したことで
無料だった。その分、ご近所で見学したい方に
披露しなければならないし、説明もしなければ
ならない。

「実際火が早くつくということのほか何か
ええことあるの?」
と静はめいこに聞いた。
「温めなおしが楽なのであたたかいものを
暖かく食べることができます。
火加減が楽なので失敗も少なくなります。」
静はなにかしら、はりきっている。
和枝は
「そりゃ、きれいなべべ着て人前に
立ちたいどすからな。」

と、嫌味を言った。

静はタンスの奥で出番を待っている子がようけ
おるからなぁ~~~とご機嫌だ。

和枝はつけでよくそんなに作ってもんだと
言い返すが、雰囲気が悪くなる。

めいこは実演に和枝の参加を促した。
和枝の料理はうまいと聞いているがめいこは
いまだにそれを見たことがない。

「見せもんみたいなことはごめんだす」
と言下に拒否された。

「あ、希子ちゃん・・・」といいかけると和枝は
「希子にそんな恥ずかしいことさせんとって!!」
と、厳しく言う。

静とめいこが二人でやることになった。

西門家の実演はみごとなもので、静が仕切った。

~古今東西、低すぎても高すぎても困るものとは?
と、静が客にコントを振る。
敷居?枕!鼻???
楽しくにぎやかに実演が始まる。

それは天ぷらの油の温度である。

低すぎるとべたべたになる。
高すぎると真っ黒になる。

その火加減が難しいが、ガスは簡単だと
の話。まきで天ぷらをあげる場合
温度調節のむつかしさも説明した。

で、実際に天ぷらを揚げると
そのおいしさと簡単さに、お客さんたちは納得して
帰って行った。

ガスの業者は西門から実演の話を受けたとき
半信半疑だったけど、説得力が違いますな
と、喜んで言った。

静は楽しそうにいくらでもご協力をしますからと
いうと、近いうちにまたおねがいしますので・・
などとにぎやかに玄関先で話をしていると
和枝が帰ってきた。

静は手招きをして和枝を呼んだ。

「和枝・・・ごあいさつ。」

「この度はお世話になりまして・・・」

にこやかにあいさつをする和枝だが
静と並ぶと娘のほうが年が上だと
明らかになる。
これは、ちょっと引く・・・。

愛想よく挨拶をした後、ひとり
家の中に入った和枝は
にこやかな表情から一転怖い顔になった。

めいこが、おかえりなさいというと
「塩まいとき!!」
と、命令する。

めいこはなんのことやらと、二階にそそくさと
上がって行く和枝にむかって
「あとでもったいないといいませんよね~~」と
念を押す。

さて、給料日、悠太郎の職場に差し入れをもって
現れた和枝だが、悠太郎の給料は悠太郎に全額
渡された後だった。

その夜、これが僕の今月の給料ですと一か月の
使い道をみんなの前で分けることとなった。

静は公平でいいというが。
和枝は黙っていた。
家長である悠太郎がさきにとった。

その中に食費が30円というと
和枝はそんなにいらないという。

悠太郎は365日おいしい食事をすることを
この家の最優先事項としたいといった。
それから、めいこも食事を一緒にするというと
和枝はおなごしが一緒に?聞いたことないと反論。

みんなの意見を聞きたいというが、めいこは
お金のことを先に決めましょうと言った。

和枝は25円、静は10円という。
和枝は静にはそんなにいらないはず、何も
していないのにといった。

しばらく、静は和枝の顔を見て自分はいらないと
いった。
一同びっくりした。

三味線を習う人も増えたし・・という。
悠太郎は黙って付けで着物を買わないでくださいというと
着道楽はやめますと静は思いもかけないことを言う。
何をたくらんでいるのかと和枝に言われて
「いややわ~~~和枝ちゃん
うちはめいこさんが一生懸命やっているのを
みて心をいれかえましたんや。」

「そもそも心なんかありましたんかいな?」

「とられんように、大事に隠しておりましたんや。」

そういって、静は部屋に戻って行った。

何も言えない、悠太郎。
ほんまにこいつは、リーダーシップゼロ。

その部屋では三味線を弾きながら・・・
静はひとり言を言った。

糸は三本・・・三味線の糸をキューっと巻いた。
四本は・・・いらん・・・。
不敵な笑みを浮かべた。

その翌日、いつもの源太の店で
そんな話をしていると、源太は
おかあはんはガスも付いたし、給料も
旦那さんがしきるから、お前らについたほうが
得やと思ったのではという。

めいこはうちは大したお金もないのに
得も損もないと思うけど。

そうは思わんから、10年も嫌がらせをしている
のではないかという。
和枝がせっせとためたお金をぱぁ~~と
着道楽に使っているというが。

静が嫌がらせのためにわざと着道楽をしているとは
思えないとめいこは反論した。
そういうことも考えられるのではということや、と源太。

めいこは合点がいかない様子だった。

一方、寄席を楽しんだはずの和枝は浮かない顔をしていた。
一緒にいる株の旦那衆のひとりは
どないしたんやと心配する。
和枝は弟は給料を取るようになってから
家長きどりやし、後妻は尻馬に乗って
母親づらしよるし
なにもかもあの非常識な電信柱がきてから
私の調子はさんざんですわ・・・。

その非常識な電信柱がその近くにいた。
お店で買い物をしている。
旦那はそれをみて、おや?といった。

和枝は、めいこがいることに気が付いた。
そして、そこから去って行こうとした。
そのとき、
めいこ~~~~と呼ぶ声がした。

和枝が振り返ると、源太がめいこの
買い物かごをわすれものやと渡している。

旦那はなんや、源太や。
天満の商店街の肉屋のやんちゃ坊主やという。

親しそうな様子を見て和枝は興味を持った。
そして、その肉屋を訪問した。

すると、店の奥に見慣れた糠床の壺があった。
肉屋の女将は知り合いが預かってくれというので
預かっている、なんでもそこの小姑がうるさくて
捨ててしまえと言われて、預かっているといった。
そんな家出てしまったらええのにというと

女将はうちの源太と一緒になったらええのになと
いう。

源太さん?
もともと幼馴染で、二人でよく出かけるし
なかがええんよ~~~~。(おばちゃん、しゃべりすぎ)

そこへ源太が帰ってきた。

いらっしゃい!!

源太お帰りぃ~~~

和枝はなにかを思いついた様子だった。
へぇ~~~~そうでっかぁ・・・・

夕餉のとき悠太郎が一人で食事をしている。
めいこは悠太郎にお父さんと静さんの関係を
聞いた。

お静はもともと芸者だった。
西門氏はそのお静に入れあげて、
後妻にしたという。
和枝はそれが気に入らなかったのかな
という。

なにか仲良くなる糸口はないかなと
めいこは考えているが。
「世話かけますね~~」
「いいえ、ガスのおかげで時間ができましたので。」

その翌日、悠太郎の職場に和枝が来た。
「なんですか?話って。」
「あのな、信じるも信じヘンもあんたの勝手やけど
めいこさん、肉屋の男とええ仲らしいで~~?」

顔色が変わる悠太郎だった。

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和枝さん、最近のいけず、ヒットしませんね。
やることはすごいんだけど
どこかで失敗しているのですよね。

結局魚島の季節のご挨拶も
めいこの食い意地の本性が大量の鯛を
腐らせてたまるものかと頑張ることになり
それを見た静がめいこを応援することに
なったわけだ。

それこそ、めいこは腐っていられなかった。
自分が腐ったら鯛が腐るから。
鯛が腐ると食べれなくなる。
食べれなくなると鯛がかわいそうだとの発想で
ある。

だから、和枝を恨むのではなく食い意地のために
鯛をすべて調理する方向へと気持ちが動いた。
おかげでおいしい夕餉だった。

そしてガスが来た。
悠太郎とめいこの思惑通りに家が変わっていく様子
に、静は一計を案じたようである。

このひと、いい人なのか悪い人なのかわからない。
源太のいうとおり、西門に今でも居座っているのは
和枝に復讐をするつもりで和枝がためたお金を
ぱあーっと使うのはいやがらせなのかもしれない。

それが気になっためいこはなんとか仲良くと
思ったみたいだが。

源太のことが和枝にばれた。

あたかも不倫をしているような情報を
悠太郎にながす和枝。

和枝はおそらく夫婦の不仲を狙っている
のだろうが、ぼんぼんの悠太郎はどう
思ったのだろうか?

和枝のめいこ追い出し作戦は結果として
めいこにとってはいい方向へ向かっている
ので、おそらく大丈夫と思うが。

西門家のなぞの一つ、後妻の静が何を狙って
いるのか、わからない。

糸は三本・・・四本もいらん。

あれはどういうことだろうか?
めいこはずしか、それとも和枝
はずしか????