たいした始末6
腐るん?
鯛たちがくちぐちにつぶやき始めた。
腐っても鯛というのに
わてら腐るんですか?
おいしく食べてほしいのに・・
めいこは、もうぉ
もうぉおおおおおおおおおおお
と叫びながら飛び出していった。
行った先は師匠のところ。
なにやら、アルファベットを読んでいた師匠は
いきなりのめいこの来訪にびっくりした。
師匠・・・師匠ぉおおお
息を切らしながらめいこは師匠の家に入った。
鯛が・・・鯛がぁ・・・・・・・・・
鯛が?
鯛が大変なのです!!
事情を話すめいこだった。
いけずな姉のために40匹から鯛が
あふれかえっていると・・・いう。
「全部ほっぽってやりたいです。
でも、鯛の声が聞こえるんです。
わてら腐ってまうん?
おいしくたべてくれはらへんの?
って・・・。」
師匠は、驚いた顔をしていった。
「鯛って船場の言葉を使うんですか?」
「そうなんです。
鯛に罪はないんです。
全部おいしく食べてあげたいのです
どうしたらいいですか?」
「今日食べる分と
七日後に食べる分と
その後に食べる分と
わけたらよろしんや。
保存方法やな・・・。
これ、貸してあげよう。」
師匠渡してくれたのは
古い本で「鯛百珍・・・」と
書いてあった。
めいこは、さっそくよみながら
市場へいった。
ねぎください!!!
は、はい・・・
山だし昆布ください!!!
は、はい・・・
源ちゃんまだ余っている???
薬味!!!
お、おお・・!!
家に帰ると台所にあった鯛が減っていた。
静が帰ってきた。希子も一緒だった。
ふたりで、三味線を教えている置屋に
多少でも届けに行ったという。
「あまり力になれんで・・ごめんな。
でもまだこんなにあるし、どうしたらええんやろな。」
「まだ、もう少しお手伝いしていただけますか?」
ええ・・?
三人で鯛の料理に取り掛かった。
東京ではイクがめいこからの手紙を
読んでいた。
ーーおとうちゃん、おかあちゃん、
お元気ですか?
この間は食料品を送ってくださり
ありがとうございます。
わたしは、こちらの風習や慣習に
慣れない分もありますが
元気にやっています。
お義母さんのお静さんはあかるく
きさくでおしゃれでとっても素敵な方です。
妹の希子さんは繊細で優しい心根の
かわいい子です。
・・・・
・・・・
そのころ、和枝は喪服を着て川のそばに
座っていた。
「かあちゃーん」
こどもの声にハッとしてそっちを見た。
しかし、我に返ってまた川のそばに座った。
そしてあの絣の巾着をにぎりしめた。
ーーー姉の和枝さんは厳しい方ですが、
それは優しさの裏返しだと思います。
悠太郎さんが気配りしてくださるので
平穏にしています。けれども祝言は
少し待ってください。西門家には祝言は一年後
というしきたりがあるのです。
これは何か不都合があった場合嫁の籍
を汚さない知恵だそうです。
だから少しお待たせしますが、余計な
心配はしないよう
よろしくお願いします。-----
イクは心配した。
裏書は確かに西門めいこになっている。
その夜、悠太郎と和枝は同じ時間に家の前に
帰ってきた。
和枝は声をかけた。そして急に葬式が入って
といった。悠太郎は魚島の季節のごあいさつは
どうなったんやろ、と心配になった。
家に入った和枝は台所がにぎやかで
驚いた。
何をしているの?と詰問する和枝。
静が「鯛がぎょうさんあるのでなぁ、
てつどうてんねん」、と明るく言った。
めいこは、ちょうどよかった。これから
鯛の具仕上げを出しますから
お姉さんも悠太郎さんもすぐ着替えて
来てください。
和枝は希子に
なんでこんなところで食べて
いるのかと、きつく言った。
手伝どうてる時に食べ始めてなんとなく
このまま・・なぁ。
と静。
お膳出しましょか?と悠太郎。
お願いします。お姉さんはどんな食べ方が
お好きですか?いくらでもありますので
何でもおっしゃってください。
和枝は後ろを向いて
わて、いただいてきました
ので結構ですわといって行こうとした。
あ、おねえさん。
和枝は立ち止まった。
めいこはその後ろ姿に「ご愁傷様でした」
とおじきをした。
和枝はだまって部屋に入った。
鯛めしが出てきた。
すごいおいしそう~~~~~~~。
お汁も鯛と思いますよ。
鯛のやいたんもありましたよ。
食後はごちそうさんでした。と
悠太郎もお静もいった。
もうあかんわ、おなか一杯やわ。
希子はじっと鯛の身をつついていた。
そして鯛の鯛をほじくりだした。
悠太郎も静も同じくやりはじめた。
明るく笑顔のはじける夕餉となった。
そのあと、めいこは残った鯛の骨を
出汁にしてフォンをとった。
で、これがワタの塩漬け。
悠太郎は、きれいに始末したなぁという。
始末?
めいこがきくと、何から何まで使い切って
こういうのを始末というねんといった。
めいこはいつぞや、和枝が
「こんなん始末違いまっせ。
これはただのドケチだす。」
といったことを思いだした。
これが本当の始末か・・・
おいしく食べる方法はきっとあるのよね。
骨もワタも。人もきっと一緒よね。
骨は食べられないけどいい出汁は出るし。
ワタは使いにくいけどその分珍味になるし。
嫌なとこやいいところって見方ひとつっていうか
扱い方ひとつっていうか。
きっとそういう風にすれば楽しいおうちになるのよね。
今日みたいにご飯食べられるのよね。
私、みんなの笑った顔もっと見たい。
本当に・・・
みんなのごちそうさんがききたい。
悠太郎はじっと聞いていた。
その後東京の父母のもとに悠太郎から手紙
が届いた。
ーーー父上様、母上さま、お元気でおられますか?
めいこさんからの手紙が届いたと思いますが
内容は全部ウソです。
西門家のしきたりというのも姉が付いた嘘です。
めいこさんは嘘だと承知の上で女中待遇に
甘んじてくれています。無理難題にもめげず
明るく過ごしています。
・・・・・・
・・・・・・
師匠のもとにめいこからありがとうのメッセージと
ともに、鯛で作ったせんべいが届いた。
一口食べた師匠・・・「うまい!」
ーーーひたすら料理の腕を磨き楽しい
食卓にするべく日々奮闘してくれています。
その背中はいつかいいかげんな
母に反省を促すと思います。
・・・・・静と台所をするめいこ。
笑顔だった・・希子も一緒に
下ごしらえをしている。
「希子ちゃん、休み休みでいいから
ね?」希子はにっこりと笑う。
ーーー意志の弱い妹には強さを植え付ける
ことと思います。
いこじな姉が頭を下げて祝言を上げてくれ
という日も遠くないと
信じています。
・・・・株の取引先で浮かぬ顔をしている
和枝だった。その手には
あの古い絣の巾着があった。
ーーーー私の態度を不甲斐なくお感じでしょうが
もうしばらく見守っていただきたく存じます。
・・・・悠太郎の職場にガス屋が来た。
悠太郎はある考えが
あった。
ーーーー私も精いっぱい努力します。
悠太郎の手紙はそれで終わった。
大五は無言だった。
イクは自分が様子を見に行くという。
・・・まぁ・・・・
仲良く頑張っているんだからいいんじゃないか?
その姿をみてイクは大五の心配な心を見た。
そして二通の二人の手紙の裏書に目をやった。
そうだね。二人が仲がいいんだったらいっか・・。
イクは笑いながら言った。
そのころ、西門家にガスが来た。
火がついた、ついたぁ~~~きれい~~
めいこは静によかったらつけて見ますか?
と促した。
和枝は驚いて悠太郎に言った。
これはどういうことですか?
ガスを引いたんです。
ガスを?
ガスを実際につこうているところを
見学できることを条件に
ただで引いてもろたんです。
知らん人がうちに???
姉さんのお力で西門200年の名前に
恥じぬ応対を。
そういって悠太郎は頭を下げた。
お願いします。
和枝は楽しそうな台所を見てふらっとした。
そして部屋へ帰って行った。
こうして少しづつ変化が見え始めた
西門家でしたが
この新たな住人の登場によって
ヨコシマな心に火をつけた
人物がいたのでございました・・・。
静は、ついたなぁ・・・とつぶやいた。
悠太郎はおいしいもの期待しますといった。
はい、がんばります!!!
めいこはうれしかった。
**************
やっとガスが来ましたか~~~~
静さんのヨコシマな心とはなんでしょうか?
キット静さんですよね。
なにか問題を起こそうとしているのでしょうか?
何があってもがんばれ、めいこ。
ということで
鯛のつぶやき「腐るん?」
これ・・・
すごくかわいい!!!
これが聞こえるなんてめいこは食材を
大事にしているのだと思います。
そして、もうぉおおおおおという雄叫び。
めいこの食べることへの情熱が
ままならない状況に何とかしなければと
吼える様子を表して
います。
始末とは・・・ケチるのではないのですね。
たとえばコメをとぎます。
とぎ汁って庭の草木にかけるといい栄養素に
なって植物が元気に育つらしいです。
あと、しみ抜きにもつかえたかな?
鯛は全部使えます。
それに葉っぱものの残り物は
めいこの自慢の糠床にいれると
漬物になります。
めいこは、わざわざいい野菜をつかって
漬物をしていますが
料理をした残り物もこの中に入れると
使えます。
ケチではなく、始末です。
大阪はケチの文化とかいわれますが
本当は始末の文化です。
(私は大阪府民10年選手)
つまり節約ではなく無駄を出さないということ
です。
無駄なごみを増やさないということです。
「わたし、みんなのごちそうさんがききたい」と
めいこは原点に戻った。
自分の原点。
みんなにおいしいものを作って
笑顔の食事をしたい。ごちそうさんを聞きたい。
それを思い出して原点に戻った。
大阪で違う文化の中で苦労はあれども
大阪でもおいしいという思いや
ごちそうさんという思いは東京と同じだと
めいこは思った。
むしろ、大阪はもっと奥が深いかもしれない。
和枝さんは今回かなりダメージを
受けました。和枝さんの策略はばれました。
葬式と偽って一日その辺でうろうろしていて
かえって大変だったと思います。
また、自分が手配した鯛も自分のお金で
賄ったということなので、その分の出費も
あったと思います。
泣いているはずの嫁は腕によりをかけて
鯛を裁いています。
義母も妹もそれを笑いながら手伝っています。
その中に自分は入れません。
おいしい鯛の料理も食べれませんでした。
どこまでさみしいのでしょうか。
嘘をつくと、人をだますと
こうなります。
めいこは始末の文化から鯛の骨は
鯛の骨、鯛のワタは鯛のワタ・・・それぞれ
いいところも悪いところもあるけど
料理のし方ひとつでおいしくなれるという哲学を
学びました。
いけずされてもめげない。
この明るさに悠太郎は救われた
ことと思います。
希子は和枝にめいこと口をきかないと
約束しました。たしかにそうかも
しれませんが、話ができない分、
一緒に料理をしました。
これは希子に笑顔をもたらしました。
二人の別々に届いた二通の手紙。
東京の大五とイクは
喜んだり、心配したり・・・。
悠太郎は出しっぱなしにしていためいこの
手紙を読んで全部ウソだと報告した手紙。
この思いはどう、進展していくでしょうか???
