たいした始末2
和枝が悠太郎に内緒で悠太郎の給料を
前借した。
しかも、めいこには食費として渡した金額は
わずか。
めいこと和枝がその話をしていると悠太郎が帰って
きて、こんな無茶なことないでしょう?
と、和枝に言う。
そして、めいこが持っている封筒を見てそれは?
と聞く。食費、というと中身を見た悠太郎はこんなに
食費を絞る必要はないというが。
和枝は悠太郎さんのお給料は75円
そこから学費の借金が10円、希子の学校が
月三円、悠太郎さん、お静さん、希子の
おこずかいおよそ10円株仲間のお付き合いは
10円、ご近所、親戚の冠婚葬祭、タニマチもありますし
・・
なんで食費を削ってまで相撲取りのタニマチを
する必要があるのですか?
宮城山のタニマチもできんようになったと
言われるのが問題なのです。
あんた二百年も続いた
西門の顔をつぶすきでっか?
悠太郎をにらんだ和枝は仏壇に向かって
リンをたたき手を合わせた。
悠太郎は人と家とどっちが大事かと聞く。
和枝はそのひと(めいこ)をどけて
何人いますか?
5人です。
東では面白い数の数え方をしますなぁ・・
西門の家は何軒?
一軒です。
だれがきいても4人とたった一つしかないもんを
どっちが大事か、あほでもわかりますやん、と和枝。
悠太郎は、僕が間違っていました。
といって、本家と分家を合わせると
西門は4軒です。同じです。と言い返した。
しかし、和枝はそっちのひと、いれんでもええの?
と、嫌がらせを言う。
田さくもあるでしょ?
あんなものあの人の付けを払ったら
終わりや。
悠太郎は、これ以上こんなことをすると
別居します・・・
と言いかけたとき、和枝は二言目には
別居、別居って自分さえよかったら
わてら女はおきざりでっか?
僕がこの家を守るって誓ったのは
もう反故でっか?
姉の口にはかなわない悠太郎は無言で
部屋に帰った。
後から入ってきためいこにごめんといった。
めいこは悠太郎に聞いた。
「この家は悠太郎さんが守るって言ったの?」
「親父がおらんようになったとき
自分だけが男だから、そういったという。」
この家はそんなに借金があるのかと
言いにくそうにめいこは聞く。
悠太郎は「学費やらなんやらで火の車だったのは
確か」という。
それを和枝が株で払っていったといえば
そうなる。
しかし、株仲間の旦那衆との付き合いも
交際費がすごくてという。
実際世話になっているから非難できない。
「とりあえずあの人にくぎを刺しに行ってきます」
といって、静の部屋に行った。
静は着道楽でつけで着物を何着も買う。
静は泣きながら、あかんと思っても
つい買ってしまう。ごめんな・・・と泣いて謝るが。
めいこが静を心配していると
「いっつもああやねん、みててみ、なおさへんし。」と
悠太郎が言った。
和枝は西門は支払いをしないと言われたくない
ので、必ず支払う。静はそこにつけこんで
付けで買うらしい。
めいこはほとほとこの家のややこしさに
まいった。
その日の夕食では、みんな押し黙ったまま
だった。
めいこは気を使って話しかけた。
「そうだ、春菊・・・こちらでは菊菜って
いうんですよね。ずいぶんやわらかいですよね。
東とは土が違うんでしょうかね?」
和枝は、「知りまヘンなぁ・・・」とそっけなくいう。
「あ、お静さん、その茶碗蒸しどうですか?
お静さんはプルプルしたものがお好きですよね。」
「今日は食べたくなかった・・・・」とそっけなくいう。
「あ、悠太郎さん、おかわりは・・・」
「ごちそうさん。」とそっけなくいって立ち上がった。
せっかくみんなが揃った夕食だったのに
味気ないこと。めいこは一人で食事をしながら
なにかしら、怒っていた。
その夜、部屋で布団を出しているとき
悠太郎は、めいこに話しかけた。
めいこは悠太郎の前に座った。
悠太郎は残った給料を出して
食費の足しにしてくださいといった。
めいこは和枝からもらった分で何とかしますというが
悠太郎はめいこにおいしいものを食べさすと
大五と約束したことを言った。
めいこは和枝に認めてもらいたいから
という。こうでもしないと認めてもらえないからと。
悠太郎は無理はしないでください、体に良くない
からと言って机に向かったら
枕が飛んできた。
無理しないと・・・やっていけないじゃないですか。
悠太郎はめいこに、すみませんといった。
すみませんも嫌いですとまた枕を投げた。
悠太郎はすみません・・・とまたいった。
今度は・・・
ふとんが悠太郎のもとに投げられて
めいこがうつぶせになった。
そしてげんこつを出して布団をたたいた。
悠太郎はめいこの頭を撫でた・・・。
翌日職場で上司がどうだった?と聞くが
いいわけないでしょ、大変ですよという。
今日行く?飲みに??
遠慮します、家の中が非常事態です。
男はおらんほうがいいと上司は言うが
悠太郎は、自分が逃げたら家が終わると
つぶやいた。
源太の店の奥で食費の話をした。
ひと月二十円、大人五人・・・そうとう
がんばらないとやっていけないでしょ?
源太はできるってという。初鰹も食べなくても
死なへんでという。
めいこにとっては考えられない。
けちるってことをするの?
ケチるっていうのではなく
うまいことやるんやと源太は言う。
お出汁を取った昆布はどうしているかと
源太がきくと、めいこは捨てているというが。
捨てないでそれを糠床に使うんだよという。
そしてめいこが糠床にいれている昆布を見て
そうやって新しい昆布をいれているけど
本当はだしを取った後の昆布で充分や、というので
驚くめいこ。
むかいの昆布屋の定吉はだしを取った後の
昆布で塩こぶを作ったという。
味はわるくはないが・・・
めいこは納得がいかない。
定吉は残り物をうまいこと始末するのが
台所を預かったいる者の腕やといった。
始末?
材料を端から端までうまいこと料理して
腹に収める、大阪の料理は始末の料理やと
いう。
めいこはだしを取った後の昆布は
所詮だしを取った後の昆布だと思うというと
源太は何から何までうまなかってもええやん。
どこのおひいさんやねん・・・とあきれる。
めいこは食事は一日たったの三食。
おいしいものを食べたいし、悠太郎さんにも
おいしいものを食べさせるって約束したし・・・
どうにもならない。困り果てるめいこを源太は
ある家に連れて行く。
そこは、源太の師匠という料理の名人らしいが
細い路地を抜けた小さな長屋に行った。
そして、師匠に料理を食わしてやってくれという。
めいこは挨拶をしながらその師匠を見て
笑った。師匠も笑って返した。
この師匠、とてもよく知っている誰かに
笑顔が似ているというが・・・???
謎の登場人物が現れたのだった。
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ついに出ました。お金の問題。
この間から、この家のお金はどうなって
いるのかと不思議に思っていたのですが。
食事も始末して夕飯時に一日一回ご飯を炊くだけとか
いうてましたよね。
燃料代も高くつくからと、
始末していましたよね。
それに・・・確か、だし昆布は、だしを取った後
もったいないから、あっさりと塩こぶにしたり
細かく刻んで漬物に入れたり
野菜と一緒に炒め物にしたり。
捨てるものを少なくすることが賢い主婦の
要素だと聞いています。
昔は、家の前にゴミ箱があって
その箱にゴミを入れまして・・・すると
ゴミ回収が回収していくのですよね。
よそのゴミの量を見て多いと
やりくりが下手な奥さんやなと思われるらしくて
なるべく、ゴミを少なくするらしいです。
たとえば魚の食べた後や
野菜切れ端やらは土の中の埋めて
肥料にするとか。
源太、苦労したのですね。
始末することを知っているのでそう思います。
この師匠からめいこは大阪の料理の極意
を学ぶことになるのでしょうけど
どうなって行くのか楽しみです。
