こんぶねーしょん3

バーンよ、ばーーんって
お膳を・・・

悠太郎が帰ってきて夕飯となったとき
めいこは和枝のお膳をひっくり返した
ことや、床をなめたらといわれたこと、
お掃除ご苦労さんと言って笑っていたこと
など、報告となった。
根性が曲がっているわ。あれって塩わかめみたいに
曲がりくねっていて、でも塩わかめはおいしんだけど
あの人は食えないよね。

黙って聞いていた悠太郎は、座りなおして
めいこにむかってごめんと頭を下げた。

めいこはわかってきていることだし大丈夫だし
頭あげてよといった。
悠太郎はがまんしないで、そのたびに言ってほしい。
あなたのがまんの許容量はそんなに多くはないはずだし。

めいこは、そういわれると我慢しようかなと思うが。

籍を入れる件は明日役所でちゃっちゃとやってくると
悠太郎は言った。一年間、籍を入れないというのは
悠太郎は初めて聞いたようだった。和枝のいけずに
はまったらしい。

翌朝、お鍋にあったスープの素のフォンがない。

それで味噌汁になった。

静はスープではないの?と聞く。
実は・・・というと和枝が
また失敗したん?という。
無くなっていることをいうと
不思議やね~~としらをきる。
悠太郎が祝言の件ですがというと
しきたりどおりに来年盛大にあげます。
親戚縁者も楽しみにしているというてます。
しきたりて・・・
そこまで言うと和枝はあくびをした。

ごめんなさい、なんや昨日の晩大きな人らが
どたんばたんしてはったみたいで
ねられへんかったわ~~~それで
鍋がひっくり返ったんかいなぁ~~あはは。
(意味深ですね~~~何も言えない二人。
これはかなりの嫌がらせ)

希子が席を立った。

希子が学校へ行くのでお弁当は?と聞いても
知らぬ顔で出ていった。
みるとおみそ汁だけ残している。

うらのごみを埋める場所にあのスープが
捨てられた跡があった。
頑張って作ったこともあるけど、
食べ物をこんな風にされることが
めいこはつらかった。

おもいきって和枝に西門の味を教えてほしいと
申し出た。
その言葉を待っていたと和枝は言う。
まず、めいこの持ってきた味噌やら
醤油やら鰹節やらをほかしてほしいと
いった。嫁にはいるとはこのことだという。
そして、糠床もといったので、めいこは
あれは代々卯野家に伝わる糠床で、というが
それがいらぬことと和枝は譲らない。
こっちのものと混ぜたらおいしくなりますというが
きいてもらえない。

静に相談した。
西門の味は私は無理よ。
最初私もそうだった。
後妻の静も苦労したらしい。

そのころは娘もたくさんいたという。
あんたの作ったご飯はまずいわって
言われたわ・・・。
あ、そこのゆかたあろといて。
糊のつかり具合があんまり
ええことないし、もう一回洗って。

静もまた自分勝手なことをいうのだった。
浴衣をもって台所へいっためいこは
たしかここにあった糠床がないことに
気が付いた。

みると、うらのゴミ捨て場で
和枝が糠床を捨てている。

これがあるからあかんのや。
というが、めいこは糠床を
ひったくるように取り上げた。

あまりの怒りに出かける和枝に
くってかかった。

ご近所のいとはんが見ているというのに
しかも、和枝は亜貴子の名前を出して
あんたよりあのこの方がよかったんや。
うらちも悠太郎もな。という。
傷つけ合戦である。

めいこはでていきますといった。

めいこは糠床をもって出て行った。
市役所にいったが、仕事中だしと
おもって悠太郎にあわずに一日
外にいて家に帰った。

すると・・・・何か変????

部屋の中はがらん~~~~~~と
していた。

え???

私の荷物は???

静に言うとああ、和枝さんが
運送屋にいうて実家へ送り返したんと
ちがうかという。
私も同じ目にあったことがある。
ごみに捨てたものや
食べかけのおかしまで荷造りの中に
いれてはったわ。

めいこは運送屋を聞いて取りに行った。

悠太郎は職場で悪戦苦闘をしていたらしい。
学校の建築の線引きで大村という名前は
大きいが背の低い細かい男の下で
赤門出ても線も引けんのか。
と嫌味を言われていた。なぜなら、悠太郎は
柱のサイズを大きくしたからだった。そのサイズでは
ないと大村はいう。

夜、大八車に荷物を積んでめいこが
必死にひっぱっていた。

なぜ私はこんな場所でこんな時間に
大八車を引いているのか
あまりの理不尽さに涙さえ出ないめいこで
ございましたが・・・

悠太郎が声をかけた。

めいこ!

どうしたんや、これは。

めいこは、悲しくて悔しくて

もう・・・やだ・・・・

もう・・・・やだ・・・・わたし

泣き出した。

*******************

一度は大丈夫だといっためいこだった
けど、相手が相手だけに
一筋縄ではいかない和枝にうちのめされた
めいこでした。
出ていくといったら負けなんですよ。
また和枝に頭を下げなくてはならない。
できるか?めいこ。
申し訳ありませんでした。お許しください。
二度とこのようなことは致しません。
いえるか?めいこ。
糠床も捨てろと言われたら捨てなければ
なりません。何もかも捨てて嫁に入るので
ですから。

悠太郎でもこの家では何の権限もないし。

そうそう、お嫁にいくときは真っ白な
打掛を着ていきますよね。
あなた色に染まりますって。
実はあなたの家色に染まりますってことですが。
それまでに身に着けた
さまざまなお作法も料理も
みんな、チャラにするのですよ。

わたしはなにもできません、何も知りません
教えてください、というのが嫁なんですけど
黙っててもちゃちゃっと家事をしてしまうのも
嫁なんです。じっと様子を見ていちを聞いて
見て、百を知るぐらいの観察力を出して、
あれ?と言わせるぐらい自然にその家に
溶け込んでいくのが嫁さんです。

しかしです・・・その家の味はその家の人に
教わらないとわかりませんね。

和枝さんのいけずはすごいです。
嘘つきました。
料理はいまいちって言いながら・・・
自分だけが西門の家の味を知って
いるわけです。
一年間女中と言いました。
悠太郎はちゃちゃっと役所に届けました。

最初のぼたんのかけ違いがありました。

悠太郎より先に玄関からあがったこと。
和枝をお母さんと間違えたこと。
お出汁の取り方が今はまだめいこは気が付いて
いませんが、これがちがうこと。

味噌も西門代々の使う味噌、醤油があるはずです。
それも教えていないこと。
和枝が糠床を腐らそうとしたこと。
スープをほかしたことも素知らぬ顔。
そのうえに糠床やら
しかも、めいこの荷物まで・・・追い出しました。
めいこが出ていきますというからですけど。
そういわそうとしたわけで、みごとめいこは
はまりました。

人の荷物に手を出すとは非常識と思いますが。
彼女の言い分は人の荷物は我が家に
おけません、でしょうね。

理不尽と言えば理不尽ですが
和枝のやりかたがどうというより
和枝の言い分は筋が通っている
ということです。

ただそれをいちいち説明しないから
彼女の真意がわからない。
ただ、彼女に言わせれば

わけのわからない嫁が来て
わけのわからない料理を作って
自分たちがおいしいというと
悦に入っているなんて許せない
ということでしょう。

めいこ、早く大阪の味に慣れなければ。

めいこをみていたあの人・・・・めいこの
幼馴染では?
源太君。
肉屋の店員だったと思うけど。

あの日、めいこが
ピンチになったとき
イチゴをくれた男の子です。