愛が手術をしてもう一か月
多恵子たちは神戸と東京に帰るという。

しかし、愛がこのままだと
ずっと病院においておけないらしく
退院を促されたという。

純は多恵子に明日うちに連れて帰って
いいでしょうかと聞いた。入院費も
もったいないしという。

多恵子はその点は心配しないでというが、
純はいままで散々お世話になって、
なりっぱなしなので
どうかできることをさせてほしいと
申し出た。

愛はホテルの一室に移された。

窓から海が見えて。気持ちいい風が入ってくる。
待田家は愛の様子を見て
それぞれに帰ることになった。

「愛君、お父さんたち帰るって」
と純が声をかけた

「愛、またすぐくるからな」
「愛ちゃん~~うちも神戸へ帰るわ
純さんのためにも早く目を覚ましてな。」

「・・・」
「ママもなんか言ったら?」

「改めて言うことはないし・・」と多恵子は言った。

「だったら、一つお願いがありますが」

「なに?」

純はねむり姫をもってきて
「これ、愛君に読んであげてくれませんか?」

多恵子はあの日のように読み聞かせを
始めた。
ー眠っているお姫様はあまりにきれいなので
王子様は、思わずキスをしました・・・

するとお姫様はぱっちりと目を覚まして
こういいました

私はあなたと会うために眠っていました
王子様はうれしくなってお姫様に言いました
僕はあなたのことが好きです

純はあの日、弟純のお墓の前で
愛に言われたことを思い出した

「僕はこれから自分のことよりも
あなたを愛します」

多恵子の読み聞かせは続いた。
ー僕の心と体は永遠にあなたのものです。

こうして結ばれた二人はいつまでも
ずっと一緒に幸せに暮らしましたとさ

読み終えた多恵子は寝ている愛の頭を撫でて
手も撫でた。
ふと
愛の手がうごいた・・・

「愛・・・・」
驚いて愛を見たが

多恵子は反応がそれだけだったので

愛のそばで泣いてしまった。
謙次も純も多恵子を気遣った。
誠は大きな声で言った。
「愛ちゃん聞いてるか?

うちな、医者になる。

医者になって絶対うちが治して見せる。

ママ、パパ・・・あほみたいかもしれへんけど
もう一回大学受けて医学部はいりたい。
医者になりたい。
死ぬ気で勉強するから
うちが愛ちゃんを絶対治すから。」
誠は悲しみの家族に希望を贈った。

「そのかわり、浪人は許さないからね。」
多恵子が厳しくいった。

「純さん
うちがもう、ここにいるみんなを絶対死なさへん。」

誠は笑顔で言った。

「ありがとう」

純はうれしくて誠と抱き合った。

愛のベッドのそばで
待田家はひとつになった。

「何かあったら連絡頂戴」

多恵子は純に言い残して去って行こうとした。

「誠ちゃん・・・」

剛が来たので、多恵子たちは先に言っているからと
いって出て行った。

「ありがとうございました。」

純は見送った。

誠は剛に言った

「ツヨキチ。うちな
やっとやりたいこと見つけた。」
「わかっている」
「なに?」
「悪いと思ったけどさっき、廊下で聞いてしまったから」
勉強せなあかんから当分、会えへんけど」

「うん・・・」

「ツヨキチ」

二人はちかづいた。

誠は剛にキスをして
走って出て行った。

呆然とする剛。

純は、「追いかけなくてもいいの?」

と剛に聞いた。

「いっちゃうよ、誠ちゃんが」

剛は我に返って

「うん、」といって

走り出した。

一生懸命タクシーを追いかけた。

「誠ちゃん~~~」

タクシーを走って追いかける剛に気が付いた
誠は車を止めて
降りた。

「誠ちゃん、これ・・・」

剛はバレリーナが鉄砲をもっている
絵を渡した。

「なにこれ???
意味わからん」

「ガンとバレエで

頑張れ~~~なんちゃって。」

「あほ」

「がんばれ~~~まこっとちゃん
俺は何年でも待っているから」

「ありがとう」

「もう一回チューして」

「あほ。無理や。」
タクシーに乗る誠は
笑顔で剛に挨拶をして

去って行った。

「がんばれ~~~~誠ちゃん
待っているよ~~~~~」

一部始終を多恵子と謙次は笑いながら見ていた。

「それでさ、誠ちゃんにチューされて
固まってさ剛は。そのあと追いかえて言ったけど
なんか青春って感じだったの。
なんか、私も愛君と初めてチューしたことを思い出したわ」

その夜純は愛に話しかけてながら
マッサージをしていた。

しかし、相変わらず反応はない。
純は待田家の弟純と一緒の写真のまえにある
ねむり姫の絵本を見た。

そして愛を見てキスをしようとしたが・・・

思い直してやめた。

「おやすみ」そういってあわてるように
明かりを消して隣の自分のベッドに入った。

純は頭から布団をかぶって
震えながら泣いた。
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明るい純も泣きたい気持ちでいっぱいです。
でも涙を見せたくないので
見られないように、電気を消して
お布団をかぶって泣いたのでした。

何を言っても反応がない。
目を覚ましてくれない。

これほど、悲しいことはありません。

明日は水曜日、大きな展開があると思います。